秋風が吹く頃、俺は彼女に「一度出て来ないか?」と新幹線のチケットを送った。
 毎月、その月に誕生日を迎えるスタッフのささやかな誕生会を事務所でやっていたので、それを口実に彼女を誘い出した。

 誕生会では、全員に同じプレゼントを渡すのが恒例で、皆それを楽しみにしていてくれる。
 彼女へのプレゼントは別の物を用意した。
 彼女は、Luijiの大ファンで、写真集を欲しがっていたが高くて買えないと言っていたので。

 仁希に電話した。
 「仁希、今夜あいているか?20〜30分でいいから、事務所に来てくれないか?今夜、事務所で誕生会なんだが、プレゼントを渡してやってほしい人がいるんだ。頼めないか?驚かせたいから、静かに入ってきてくれ」

 彼女は、少し緊張して事務所に入った。
 だが、天性の人なつっこさで、すぐに打ち解け、スタッフの名前と顔写真を携帯に登録したり、Luijiの大ファンだと待ち受け画面を見せたりして、賑やかに誕生会も終わり、スタッフにプレゼントを渡した。
 彼女の分は急だったので間に合わなかったとごまかした。

 グッドタイミングで仁希が来た。
 感のいいスタッフ達は、彼女に気付かれないように、うまく仁希を隠し、これから起こる事への期待に胸躍らせていた。
 「Luijiのどんなところが好き?」
 「うーん、目かな?」
 「クールな目がいいよね」
 「うーん、冷たそうだけど暖かそうで、笑っていてもどこか淋しそうな感じの目」

 サービス精神旺盛の仁希は

 「こんな感じの目?」と彼女を抱きしめ
 「おめでとう」と写真集を差し出した。
 彼女は、気絶するんじゃないかというくらい驚き、期待通りだったスタッフ達は、笑いながらも拍手して喜んだ。
「これは、僕のファンだと言う貴女に、社長からのプレゼント。僕も何かあげなきゃね。何がいい?」
 まだ状況が飲み込めない彼女は、しばらく考えてからこう言った。
 「あつかましいけど、サインを下さい。何も持って来てないから、心にサインして頂けませんか?」

 今度は、仁希の方が驚いた。
 しかし、すぐに
 「じゃあ、こっちを見て」と言って、彼女を見つめ、サインをした。

 「えりかさん、誕生日おめでとう。Luiji」

 俺は、少し嫉妬した。

<仁希の場合>
 兄貴が、変わっていったのはこの人のせいか・・。
 最初見た時は「おいおい、兄貴、まさか・・だろ?」と思ったけど、なるほどね。
 でも、この人のどこに、あの兄貴をこんな風に変えてしまうほどの魅力があるんだ?まだ信じられないんだけど・・。
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