色々な事があったその年も終わり、新しい年も穏やかに、と願っていた頃、仁希の誕生パーティがあった。
スタッフのM君と一緒に出席していた。
「仁希おめでとう!」とプレゼントを渡していると携帯がなった。
「何だ、何だ、彼女からか?」と冷やかしながら仁希は笑っていた。
彼女からだったが、キャラクターになっている。
嫌な予感がした。
「お風呂でーす」とやけに明るい彼女の声がよけい不安だった。
「お母さん!事故って!何度入院・・・」
「又電話する」
切れた。
かけ直したが、つながらない。
<真珠の場合>
事故?入院?何の事だ?
お母さんって言ってたな?と言う事は、さっきの声は娘さんと言う事になる。
事故にあって入院したって事か?
いったい何があった?
落ち着け。
大丈夫だ。
俺は、携帯を握り締めたまま、不安で胸が押しつぶされそうになっている時、M君の携帯がなっていた。
「あれ?えりかさんだ。なぜ僕に?もしもし、えりかさん?」
「Mさん?社長も一緒でしょ?社長怒ってる?」
「何か変ですけど、怒らせるような事したんですか?」
「Mさんから伝えてほしいんですけど」
「いいですけど、いったい何ですか?え?事故?」
「私からぶつかって行った訳じゃないのよ。当てられただけ」
「ちょっと待って、そんな事言えませんよ。自分で言ってください」
「社長、えりかさんからですよ」
「もしもし・・」
「もしもし・・・あのね、信号待ちしてたらね、ちょっと当てられちゃって・・車は壊れたけど、悪運が強いって言うか、かすり傷で済んだし、心配ばかりかけてきたのに、ごめんなさいね。でも本当に大丈夫だから。心配しないで」
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫。だから心配しないで」
横で聞いていた仁希が、携帯を取り上げた。
「えりかさん、それはないだろ?“心配するな”なんてひどいよ。兄貴はこれまでだって、どれだけ側で支えてやりたかったか、解かる?それなのに“心配もするな”なんて。兄貴が倒れても、えりかさんは心配しないの?するでしょ?心配くらいさせてやってよ。今だってすぐにでも飛んで行きたいんだよ。それを言わない兄貴にも腹が立つけど」
「ごめんなさい。ちゃんと話すから代わってもらえる?」
「ごめんなさい。ずっと心配ばかりかけてきたから・・。本当に、お医者さんもびっくりしてたくらい。こんな軽症で済んだなって。肩のあたりを何針か縫っただけで、後は擦り傷と打撲」
「画面に写して」
「それは駄目。おいわさんみたいだから」
「おいわさんって。それじゃ大丈夫じゃないじゃないか」
「お医者さんも、腫れはすぐ治るって。抜糸が終ったら退院出来るって」
「そっちに行く」
「お願いだから来ないで。見られたくない。退院したら必ずそっちに行くから。本当に必ず行くから」
<仁希の場合>
兄貴からえりかさんとの事はいつも聞かされていたし、えりかさんと話したこともあるけど、やっぱそれはひどいよ。
心配くらいしか出来ないんだから・・・。
<真珠の場合>
冷静な仁希があんなに怒るなんて。
俺の代弁をしてくれて、ありがとう。
優柔不断な態度にも怒っているんだろ。
でももう大丈夫だ。
今度彼女が来たら、俺は告白するつもりだ。
断られても、あきらめない。
胸の内をすべてさらけ出す。