以前のような毎日が訪れ、俺の気持ちも落ち着き始めた。
 紅葉が綺麗だとニュースで流れ始めた頃、彼女から電話が入った。
 嫌な予感がした。

 「後で解かったら又心配するだろうから、先に言っとくね。ちょっと階段から落ちて、足首の靭帯を痛めて入院したけど、すぐ退院出来るから心配しないでね」
 「何やってるんだよ!この前退院したばかりじゃないか!」
 思わず怒鳴ってしまった。

 娘が、“休みだから帰る”と言うので、二階の掃除をしようとして足を踏み外したらしい。
 一瞬のことでよくは覚えていないらしいが、転落した訳ではなく、4〜5段目位からバランスを崩したらしく、落ちた時に靭帯を痛めたらしい。

 「娘が帰っているし、今は足首を固定しているから、家にいるより病院にいるほうが楽だから入院してるだけ。 固定もすぐ外れるし、心配しないで。本当に大丈夫だから」
 娘さんが来たのか電話を切ってしまった。
 俺は、言いようのない苛立ちを覚えた。

<真珠の場合>
 何故だ?なぜ心配するなと言う?
 俺は、君の支えにはなってやれないのか?
 俺では駄目なのか?
 俺はいったいどうすればいい?
 そばで手を差し出して支えてやる事も、守ってやる事も出来ない。
 遠くで力になってやることも、心配する事すらするなと言う。
 あんまりだ。
 この気持ちをどうすればいい?
 “二度と女性に愛など感じることはない”
 そう誓った俺の心に、いとも簡単に入り込み、そしてそんな君を愛してしまった俺はどうすればいい?

 彼女の言ったとおり今度はすぐに退院した。
 幸いな事に左足だったので、車も運転出来ると喜んでいた。

 “もう我慢できない”俺は飛んで行った。
 だが、彼女の顔を見ると何も言えなかった。

 その足で携帯ショップに彼女を連れて行き、嫌がる彼女を説得。
 無理矢理、俺と同じTV電話機能の付いた機種と替えさせた。
 そんな事をしたところで、何の意味もない事だとは解かっていたが、何かせずにはいられない心境だった。
 少なくとも病気で寝込んでいたり、怪我をしたりしていたら、ごまかせないだろうという、子供じみた考えからだった。

 それからは、“今日は、風邪を引いて熱っぽい”だの“指を切った”だの、小さなことも報告してくれるようになり、安心と言う訳ではないが、少し気が楽になった。
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