彼女が帰って、一週間程たった頃、突然連絡が途絶えた。
何かあったのか?気をもんでいたら彼女から電話が入った。
彼女の方から電話が掛かる事は滅多になかったので、嬉しい反面、不安もあった。
「心配した?PCの調子が悪くて連絡出来なかったのよ」と変な言い訳をした。
「携帯だってあるじゃないか」
急に音量が落ちた。
携帯を隠したような気がしたが、今の携帯は感度がいい。
「点滴替えますね」声を拾っていた。
しばらくして彼女が出た。
「ごめん、ちょっと人が来たから」
「点滴ってどういう事?どこか悪いの?」
「聞こえちゃった?大丈夫、たいした事じゃないわ、盲腸。無事手術も終ったし、すぐ退院できるから」
「どうして言ってくれなかった?すぐ行くから病院の名前と場所を言って」
「来なくていい。心配しないで。すぐ退院だから」
「心配に決まってるだろ?すぐ行くから」
「本当に心配しないで。来たら怒るよ」
俺はしばらく考えて、
「解かった、行かないから。でも、花ぐらい贈ってもいいだろ?名前教えて」
「いいよ、お花なんて。すぐ退院なんだし」
「いいから」と住所と名前を聞き、毎日、俺の代わりにと花を手配した。
実は以前、仕事で近くまで行ったとき、足を伸ばして、内緒で彼女の職場を訪ねたことがあった。
驚く彼女の顔が見たかったと言う単純な理由だったが、こっぴどく説教された。
俺は変な趣味があるのかと思ったが、説教されながらも何だか嬉しかった。
だが、そのあと一週間余り彼女は、メールにも電話にも出てくれなかった。
だから、飛んで行きたいが我慢する事にした。
“もったいないから”と言いながらも、彼女は毎日届く花を写メールで送ってきた。
「明日退院だからお花贈らなくていいよ。毎日ありがとう」と連絡が来たのは十日目位だった。
後日解かった事だが、腹膜炎を起こしかけていて、それで長引いたそうだ。
(何故?なぜ本当の事を言ってくれなかったんだ?俺に心配されるのは迷惑なのか?)
俺は、この気持ちをどうすればいいのか、どこにぶつければいいのか解からなかった。