出張から帰ると、「おかえり」と、えりかが飛びついて迎えてくれた。
それからの毎日は、初めての経験ばかりだった。
部屋に明かりが点いている。
出迎えてくれる人がいる。
食事をするのも、テレビを見るのも、眠るのも一人じゃない。
いつも側にえりかがいてくれる。
仁希を呼んで、三人で食事をしたり、飲んだりもした。
仁希も、俺と二人で飲むよりもずっと楽しいと喜んでくれていた。
(そう思っていた)
そんな夢の様な時がゆっくり流れていた頃、仁希のマネージャーから
「休暇中のLuijiに急用が出来たが連絡が取れない。心当たりはないですか?」と電話が入った。
心配になり、二人で部屋を訪ねた。
ちょうど、マネージャーも合鍵を持ってやって来た。
荒れた部屋の中に仁希が倒れていた。
「仁希!大丈夫か?」
酒を飲み続けていたらしい事は、泥酔状態で、想像できた。
ベッドに寝かせ、友人の医師、I に電話を入れ、症状を伝えた。
“ちょうど帰るところだから寄る”と言ってくれたので、住所を教え彼の来るのを待った。
処置をして「大丈夫だろう」と彼は帰っていった。
「付いているから」とマネージャーも帰した。
しばらくして薬が効いたのか、仁希が目を開け水を欲しがった。
えりかが差し出した水をうまそうに飲んだ。
コップを受け取ろうと出した手を、仁希は引き寄せ、えりかを抱きしめた。
「こらこら仁希さん、誰と間違えてるの?」
「誰とも間違えてなんかいない。僕じゃ駄目?兄貴だけのものにならないで」
えりかは仁希の腕を振り解き、俺の胸に飛び込んできた。
俺は、今起きていることを理解できず、力いっぱい抱きしめる事が出来なかった。
次の日、目を覚ました仁希は、夕べの事を覚えてないらしく、
「なぜ二人がここにいるんだ?僕は何か言ったか?何かしたか?」
「飲み過ぎて倒れてたんだ。ずっと眠ってて心配したよ」
“何か食べないと”とおかゆを持ってきたえりかにも
「兄貴はずっと寝てたって言ったけど、本当?正直に言って」と聞いた。
「酔っ払って大変だったのよ。“兄貴を頼むよ”って何度も絡むし。でも、“おめでとう”って言ってくれたわ。覚えてないの?ちょっとショック」と、仁希と俺のために、笑いながら嘘をついた。