<真珠の場合>
 俺は、子供の頃から負けず嫌いだった。
 親がいないことで馬鹿にされたくないと、常に思っていたせいか、勉強も運動も、精一杯努力し頑張った。
 時には喧嘩もしたが、それすら負けるのは嫌だった。
 アルバイトを掛け持ちしながら、大学にも通った。

 その頃、遅い初恋をした。
 彼女は俺と違って、なに不自由なく育ち、眩しい位に輝いて見えた。
 そんな人と俺が・・と思ったが、その頃はまだ若かったせいか、運命の人なんだと思っていた。
 毎日が楽しくて、卒業したら、彼女にプロポーズをし、結婚をして幸せな家庭を築こうとまで考えていた。
 彼女も同じ気持ちでいてくれた。

 卒業後しばらくして、俺は今の会社を始めた。
 彼女も応援してくれ、手伝いもしてくれた。
 贅沢は出来なかったが、毎日が充実し、少しずつ仕事も取れるようになった頃、プロポーズした。
 「Yes」と当然、答えてくれると確信していたが、
 「今までの生活を変えるのは嫌、お金の苦労はしたくない」と言って、資産家の息子と結婚した。

 俺は、愛だの運命だのと言う言葉を信じなくなった。

 そんな俺が、あの春の日から、自分でも信じられない位変わっていった。
 何故、こんなにも彼女が気になるのか?
 出会った時に会っただけで、メールや、電話で話をしただけなのに。
 青臭いと言われようが,あの時の感情はやはり、一目ぼれだったのかもしれない。

 歳は上だが気になったことはない。
 むしろ、力になってやりたい、守ってやりたいと感じている。
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