<真珠の場合>
その夜、目を覚ますと、俺の腕の中にいるはずのえりかがいなかった。
ベッドの脇に、短い手紙があった。
“社長の為でも仁希さんの為でもありません。私のわがままです。許してください”
指輪が残されていた。
何がどうなっているのか、何をどうしたらいいのか、理解出来ない俺は、うろたえ、ただウロウロ部屋中を歩き回っていた。
“そうだ!電話・・”つながるはずがなかった。
(なぜあの時えりかの気持ちに答えてやれなかった?仁希がどう思っていようと、俺はえりかを愛している。誰にも渡さない。それなのに何故?)
後悔と、えりかがいない寂しさと、このままえりかを失ったらという怖さと、連絡が取れない苛立ちと、俺は自分でも表現しようのない感情に捕らわれ、仕事も「しばらく休む。任せるから頼む」と酒に溺れるようになり、日に日に荒れていった。
スタッフから事情を聞き、心配した仁希が、部屋を訪ねてきた時には、俺は意識が無く、すぐに救急車で、I 先生のいる病院へ運ばれた。
「この前は君で、今度は真珠か。どういう生活をしているんだ?君達は」 とあきれながら、処置をしてくれた。
生きる気力のない兄貴は、何度も点滴を外すので、眠らされた状態で点滴を受けていた。
そんな状態が一週間も続いた頃
「このままでは駄目だ。生きる気力を持たせないと。誰でもいいんだ、励みになる人なら。そうだ、この前一緒にいた彼女はどうした?付き合ってるのか?連絡出来ないのか?まさか、彼女が原因か?」
僕はうなずいた。
「どうにかして連絡取れないか?」と頼んで出て行った。
携帯はつながらない。
思い切って、えりかさんの家に電話をしてみた。
「社長がちょっと過労で倒れました。検査では異常はないのですが、携帯がつながらないので、もしそちらに連絡があれば伝えてください」