「少し時間いいですか?」とTさんを誘った。
 「ええよ。オフでぶらっと来てみただけやから、時間はたっぷりある」
 Tさんは、無精ひげが生えているせいか、少し疲れている感じがした。
 僕は、兄貴とえりかさんの出会いから今日までの事をTさんに話し始めた。

<仁希とTの場合>
 Luiji君は森村社長と彼女のことを話し始めた。

 彼女に出会ってからの社長の事。
 女の人をエスコートして来なくなった事。
 何があったのか解からなかったが、毎日が楽しそうで目がどんどん穏やかになっていった事。
 それが彼女のせいだと解かった時の事。

 彼女が病気や怪我で入院した時、心配で飛んで行きたかったのに出来なくて辛かった事。
 愛しているのに、怖くて告白出来ずにいた事。
 やっと告白出来て、娘さん達の許しも得て、幸せになれるはずだったのに、自分のせいで二人が別れてしまった事。

 「酔っていて覚えてないんだけど、“おめでとうと言ってくれた”とえりかさんは言っていたけど、そんなはずは無い。とても辛かったんだから、きっと反対の事を言ったんだと思う」

 社長は生きる気力もなくし入院し、彼女はフラフラだったのに、社長が入院したと聞き、飛んで来て倒れてしまった事。

 そこで二人がどれほど愛し合っているか、見せ付けられた事。

 退院して、療養を兼ねてここに来ていた二人と、偶然出会った時の事。

 「その時はTさんも一緒でしたね。二人が婚約した時」

 その後何度も部屋に遊びに行き、浴衣を着てテラスで食事をしたり、ナイトドレス姿にびっくりさせられた事。

 「僕の部屋のバルコニーから花火が見えるからと二人が来た時、僕の浴衣も用意してくれて“近くまで見に行こうよ。ただしオーラは消してね”と出かけ、かき氷を食べながら、誰にも気付かれずに普通に花火大会を楽しめたりした事もありました」

 そして今日、二人に子供ができ、結婚式の立会いと、名付け親を引き受けた事。

 「そうか。そんな事があったんや、あの二人には。けど君は、何で僕にこんな事を?」

 「なんとなく、Tさんも兄貴たちの事を知っといた方がいいかな?と思って」
 
「俺もな・・何でここへ来たんやろ?・・・。忘れたいんか、また会えるかも知れへんと、期待して来たんか解からんかったけど、聞かせてもろて良かった。なんか霧が晴れたみたいや。俺が彼女に初めて会ったんは、きっと娘さん達に許してもろて、社長を見送った帰りやな。関西人同士いう事もあったんかも知れんけど、何かスーっと俺の中に入ってきた不思議な人やった。二度と会うことも無いはずやったのに、この前ここで偶然会って、婚約したと聞かされたけど、心から“おめでとう”と言えなんだ。それから何かモヤモヤしててな。君も辛かったんやな」
 「Tさんも・・?」
 「ははは・・俺等、あの二人の親衛隊やな。こんなすごい親衛隊員はおらへんで。二人には幸せになってもらわな。けど、俺等もちゃんと生きな。無精ひげ生やしてる場合と違う」
 「そうですね。親衛隊員がちゃんとしてないとね」
 「俺等はええ事でも、悪い事でも目立つから。君は名付け親になるんやし、その子が後ろ指差されんように、ちゃんと生きなあかんで」
 「はい!もちろん!」がっちりと握手した。
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