秋風が吹き始めた頃、仁希が
「今度の映画が完成したから見に来てくれない?」と言ってきた。
場所は、あの海辺のホテルのある街の、小さなホールだった。
(何故そんな所で?)と思ったが、秋の夕焼けも見たくなって出かけて行った。
ホールには俺達の他に、仁希しかいなかった。
「いいんだ。今日は、二人の為の試写会だから」そう言って映画が始まった。
「仁希、これって」仁希は、にっと笑った。
設定やストーリーは変えてあったが、俺達には出会ってからの事を思い出さずにはいられない内容だった。
情けないやら、恥かしいやら・・・。
エンディングで仁希のナレーションが入った。
「兄貴、おめでとう。幸せになれよ」
嬉しかった。
えりかも涙ぐんでいた。
ライトが点き、監督や先生が「どうでした?」と入ってきた。
「何か、恥かしいですね。でも、ありがとうございます。こんなに素敵な話にして頂いて」
「僕達からのお祝だよ」
「こんなにすごいお祝なんて。本当にありがとうございます」
「ところで社長。お願いがあるんですけど」
「何でしょう?」
「この映画、まだ題名が付いてないのね。彼女にお願い出来ないかしら?」
「え?私に?無理です。そんな事」
「社長、いいでしょう?」俺はしばらく考えてから
「えりか、こんなにすごいお祝を頂いたんだから、お礼に考えてみたら?素人の付ける題名だから却下されるよ。そしたらプロに付けてもらえばいいんだから。それでいいですよね、先生?」
「ええ」