朝、ほんの悪戯心で、カーテンに身を隠した。
子供の頃よくやった、かくれんぼ位の軽い気持ちで。
目を覚まし、俺がいないと思ったえりかは、そこらじゅうを探し回り、パニックになり動けなくなった。
あわてて飛び出し“こんな事はしないで!”と泣きじゃくるえりかを抱きしめて謝り、二度としないと誓った。
天気がいいので、海の方へ下りてみることにした。人だかりがしていた。
景色がいいのでよく撮影に使われたりしているが、誰か来ているようだ。
「あれ?仁希さんだ。撮影してるみたい」
カットがかかり、少し離れた所で見ていた俺達に気付いた仁希が
「休憩だから食事でもどう?」と言ってきたので、近くのレストランで食事する事にした。
しばらくして、ファンサービスを終えた仁希が監督やスタッフ達とやって来た。
「体調は?もう大丈夫なの?」
「ああ。本当に世話になったな、ありがとう。お前も元気か?」
「この通り。今日は?旅行?」
「I 先生が、“療養がてらゆっくりしてこい”って退院させてくれたから」
「えりかさん、良かったね」
「ありがとう、本当にお世話かけました。そうだ仁希さん、これ見て」と自分と兄貴の左手を見せた。
リングが光っていた。
「真珠さんが作り替えてくれたの」
(そうだ、確か前は、誕生石だと言って、サファイアのリングをしていたし、兄貴は確かルビーが誕生石のはずだ)
「あのね、仁希さんにも解かっちゃっただろうけど、私達、二人とも弱いから、お互いそばにいないと駄目なのね。だから、真珠さんがいつも私を守ってくれて、私が真珠さんを守ってあげるって。それで私がルビー、真珠さんがサファイア」
そう言いながら笑っているえりかさんを、嬉しそうに兄貴が見ていた。
<仁希の場合>
かなわないと思った。
僕は今まで、愛した女の人を守ってあげたいと思ったことはあるが、女の人に守って欲しいと思ったことはない。
そんな弱さを見せたくないし認めたくない。
兄貴はそれを認め、そんな弱さもすべて、えりかさんは愛しているんだ。
食事中も、レバーは嫌いだの、食べなきゃ駄目だの、仁希さん代わりに食べてだの、一つでいいから食べろだの、周りのことなどお構いなし、という状態だった。