療養がてらの旅行も終わり、以前の幸せな日々を過ごしていた。

 変わったことと言えば、仁希がしょっちゅう「部屋に寄っていいか?」と電話してきて、遊びに来ては、俺達の事をじっと見ていることだろうか?
 えりかも時々「なあに?どうしたの?」と聞いている。

 食事はダイニングのこともあるが“京都の床もどき”とテラスの時もあるし、“ゆかた祭りだから”と浴衣を着て“屋台もどき”というのもあった。

 仁希が一緒の時は、電話でその事を伝えるのだけれど、「今日は僕が一緒だと言わないで。反対に驚かせようよ」と言うので、(大丈夫かな?)と思いつつも「今から帰るよ」と電話を入れ、少しワクワクしながら、部屋に着いた。

 チャイムを鳴らしたが応答が無い。
 鍵を開けて入った。
 真っ暗だ。
 (何かあったのか?)不安になって、電気をつけた。

 「おかえりー」と、飛び込んで来たえりかは、セクシーなナイトドレスだった。
 「キャー」という声と、俺がえりかを隠すのと、仁希が背を向けるのと、同時だったような気がする。

 えりかさんは、バスローブをはおり
 「先に食べてて。その間に着替えるから」と食事の支度をしながら
 「どうして言ってくれなかったの?何か疲れてる声だったから」と散々怒っていたが、兄貴はというと・・・ニヤニヤしていた。

 「えりかさん、僕が支度するから、先に着替えてきたら?ここで兄貴が襲ったら大変だから」と冷やかした。

<仁希の場合>
 まいっちゃうなぁ。
 いい歳して、まったく。
 ここに来るのは、もちろん楽しいからだけど、役作りの為でもあったのに、僕の知らない兄貴が次々に出てくる。
 もうクランクアップだというのに、僕は役作りに失敗しちゃったかなぁ?

P33へ  トップへ P35へ
前へ  トップ  次へ