毎日メールのやり取りをして、彼女はだいぶ打ち解けてきた。
 (携帯メールは時間がかかるし、PCのアドレス教えてよ)
 (インターネットはつないでないの)
 (えー!嘘でしょ。今時インターネットをつないでないなんて)
 (ほんと。前につないでた時にちょっと怖い目にあって、すぐ止めた。お金も掛かるし、つないでなくても不自由はないし)
 メールのやり取りの中で、俺は彼女の感性が気になってきていた。
 それを確かめたくてPCを利用したかった。
 (何か詩とか文章とかそんなものは書いた事ない?)
 (詩なんてものじゃないけど、女の子なら誰でもちょこちょこ書いた経験あるんじゃない?つたない文章っていうか、気持ちを書きとめるっていうか。でもどうして?)
 (いや、書きためてるなら見てみたいなと思って)
 (そんなの人に見せるものじゃないでしょ)
 (変な意味じゃなくて、ちょっと気になって。見せてもらえない?)
 (嫌よ)
 (ひとつだけ、短いのでいいからメールして)
 やはり俺の感は間違ってなかった。
 恥かしいからと言いながらも送ってくれたメールを見て、俺は嬉しくなった。
 彼女の力になってやれるかもしれない。
 (僕が経費はいっさい持つから、インターネットを接続して。それで書きためた文を僕の所に送って)
 (何故?なぜそんなことを?)
 電話を掛けた。

 「君が書いた文章を、僕がホームページにしてネットで流そう」
 「嫌よ、そんな事」
 「大丈夫、任せて」

 そんな押し問答を繰りかえし、とうとう彼女はおれた。
 いっさい自分の事が解からない様にすると言う条件で。

 インターネットを接続したと連絡が入った。

 それからの毎日は、今まで以上に充実した日々になっていった。
 他愛のないおしゃべりのようなメールも楽しかったが、それにプラス、彼女の手助けをしているという充実感があった。

 いずれは小さな本にして出してやりたかった。
 彼女の言う、つたない文章だが、彼女の心の証として。

 別にネットで流す必要などないのかも知れないが、反応を見たいという気持ちもあった。
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