打ち合わせがあるからと、Tさんは行き、しばらくすると、真っ赤なバラの花束がえりかに届いた。
“婚約おめでとう Tより”とカードが付いていた。
えりかは、花束を持って、店の前を歩いていくTさんに「Tさーん」と声をかけた。
Tさんは、後ろ向きのまま、タバコを持った手を上げた。
えりかは、Tさんの後を追い、前に回って花束を差し出した。
「Tさん、カードだけで“おめでとう”は駄目よ。ちゃんと口で言って」
「婚約、おめでとう」そう言って、改めて花束を渡した。
「ありがとう」花束を受け取り、彼女は駆け出した。
「走ったらあかん!」ここはゆるいが坂道になっている。
「シン!止めて!」聞き終わる前に俺は飛び出していた。
「シン!」そう言いながら、まるで映画のワンシーンの様にえりかが、胸に飛び込んできた。
「不思議な人ね。社長が変わったのも解かるような気がするわ。あの歳で、無防備で危なっかしくて、私でも守ってあげなきゃと思うかも。でも何故か、母に守られてた子供の時のように、落ち着くというか。きっと社長は、心を守ってもらってるんでしょうね」二人を見ていた、ライターの先生までが、そう言って笑っていた。
「まったく。俺がいなかったら又病院へ逆戻りじゃないか、気をつけてよ。本当にもう!」
怒っているのか、喜んでいるのか・・・。
「僕も、お祝あげなきゃね。何がいい?」
「じゃあ、心にサインを頂けますか?」
「またそれ?」
「だって、Luijiさんにサインをもらう度に幸せになれるんだもの。二人の名前でお願いします」
「じゃあ、並んで。兄貴、えりかさん、婚約おめでとう。Luiji」
まだ撮影があるからと、仁希達は移動して行った。