検査を終え、えりかが帰って来た。

 「この前は君、次は真珠、今度は彼女。どうなっているんだ?まったく」
 I先生は、しばらく点滴で様子を見ること、眠ってないみたいだから軽い薬を使っている事、水分を充分摂らせることを告げ“病室は○号室だから”と行こうとした。

 「駄目だ。ここに置いて。目が覚めた時、俺がいないと不安がるから。ベッドも要らない、俺の横でいい」
 「あのなぁ、いくら個室とはいえここは病院。ホテルじゃないんだぞ。信じられないが、さっきまでお前も生きる気力もない病人だったんだから。彼女の看病は駄目だ」
 「俺はもう大丈夫だから。彼女を連れて行ったら又、点滴抜くぞ。本当にそうしてくれ、頼む」

 話し声で目を覚ましたのか、えりかは動こうとして“痛い”と点滴を外そうとした。

 「えりか外しちゃ駄目だ」目は閉じたままだったが、
 「そっちに行く」とまた動こうとした。
 「今、ちゃんとしてあげるから・・」
 I先生も「治療を有効に進める為に特別に許可する」と許してくれた。

 「仁希、頼めるか?」
 僕はえりかさんを抱き上げた。
 「誰?」
 「僕だよ、お姫様」
 「Luijiさん?」
 「はい、姫の指定席」そう言って、兄貴の腕に寝かせた。

 「お水飲む?」と看護士さんが飲ませた。
 一口飲んだが、後は“要らない”と首を振った。

 「飲まなきゃ駄目だ」と飲ませようとしたが、飲まなかった。
 俺は水を口に含み飲ませてみた。
 「おい!」と皆が驚いたが、構わなかった。
 「もう一杯どう?」うなずいた。
 呆気にとられる皆を尻目に何度か飲ませた。 
 「抱いてたのは、俺じゃないって解かったの?」
 「もちろん」
 「Luijiに抱かれた気分はどう?」
 「うーん、女優さんになったみたい」
 「女優さんか、幸せだった?」
 「うん、とっても。でも、ここの方がいい」そう言うとすぐ、軽い寝息が聞こえた。

 「あらあら、本当に安心できる指定席みたいね」
 看護士さん達に冷やかされたが、俺にとってもここは指定席だ。

 皆が病室を出、仁希も“仕事があるから”と帰って行った。
 俺は、眠っているえりかに何度も、何度も水を飲ませた。

 だが、夕暮れ時、目を覚ましたえりかは、すべての事を覚えていなかった。

 「何故、ここに寝てるの?満室?ベッドも足りないの?」
 俺はすべて話して聞かせた。
 途中何度も「嘘!もう聞きたくない」を繰りかえし、「先生や看護士さん達と顔を合わせられない」と言ったが、話して聞かせた。

 俺は嬉しかったから。

 「でもね。覚えていなくても、私の指定席は社長の腕の中。社長のそばでないと、私は何も出来ない」そう言って笑った。

<真珠の場合>
 もう何も迷わない。
 えりかがいないと俺は生きる気力も出ない。
 えりかも同じだと良く解かった。
 もう何があっても離したりしない。

 次の日から俺は、少しずつ食事も出来るようになり、点滴も外れ、やがて退院、仕事にも復帰した。
 えりかはまだしばらく入院しなくてはならないので、夜は病院で泊まる事にした。

 部屋もハウスクリーニングを頼み綺麗にしたし、後は退院を待つだけだ。
 「そろそろいいか。退院して、療養を兼ねて、週末に旅行でもしてきたらどうだ?あまり遠くは無理だろうけど」と I 先生が言ってくれたので、そうする事にした。
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