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1.神獣鏡の図像学 (8)神獣鏡様式論

近年、三角縁神獣鏡の様式の研究がすすみ、おおよそ下図のような様式の変遷が考えられています。(*1)
この鏡作神社の三神二獣鏡の様式を赤色で着色して示しました。


▲岸本直文氏 三角縁神獣鏡の系統図(赤色部が三神二獣鏡)

この系統図は、自然科学的な物証を背景に持つものではなく、単に様式の継承関係から、年代順を推定しているものです。したがって、いわゆる「踏み返し」により、古い様式の鏡が後に複製された可能性もあり、各個体については、年代の前後がありえます。しかし、様式自体の継承関係だけから考えると、多様なものが簡略化、様式化していくという法則が適用されており、ほぼ妥当なものだと考えます。
ここで、三神二獣鏡の様式に注目してみると、けっして古いものではない、むしろ新しいものであることがわかります。

三角縁神獣鏡を舶載鏡とする、岸本直文氏や福永伸哉氏の立場では、ぼう製鏡の開始をこの三神二獣鏡の後続鏡に見ており、この時点がひとつの画期ととらえられています。

▲福永伸哉氏 仿製1期鏡

注目すべきは、これまでに述べてきたように、この三神二獣鏡の図像が崑崙山というテーマに忠実に制作されているのにくらべ、他の三角縁神獣鏡の図像は、いわば、かなりいいかげんに作られていることです。

しかし、他の三角縁神獣鏡の図像は、必ずしも神仙思想を忠実にトレースしているわけではありません。たとえば、出土鏡の中で多くの比率を占める四神四獣鏡式(130枚/510枚)や三神三獣鏡式(172枚/510枚)の鏡は、本来各1体であるべき、西王母や東王父の像を複数描いており、これらは本来の思想が形骸化したものといわざるをえないでしょう。

京都府 椿井大塚山古墳出土
 三角縁獣帯四神四獣鏡(M12)
愛知県 東之宮古墳出土
 三角縁複波文帯三神三獣鏡(M4)

中国鏡のデザインを継承した三角縁神獣鏡ですが、それは、全般に神仙思想を理解して作られたものではなかったようです。鏡作神社の神宝として伝えられる三神二獣鏡が東之宮古墳鏡のデザインと同じものであると想定すると、中期以降に、この崑崙山テーマに忠実にデザインされた鏡が制作されたことがわかりますが、それはむしろ異例のものであり、なおかつ継続する鏡群を見ると、図像の意図は正確に継承されなかった。

と、いうことができるでしょう。ここから、

三角縁神獣鏡の示す神仙思想は、制作の際の
第一義的な要求仕様ではなかった
むしろ、あとから体系的に整備しようとしたように見えるが、
その意図は十分には浸透しなかった

と考えられるのではないでしょうか。


(*1)岸本直文 「三角縁神獣鏡製作の工人群」 『史林』 72巻5号 1989年

1.神獣鏡の図像学 (8)神獣鏡様式論

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