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島根県 神原神社古墳 三角縁景初三年 同向式神獣鏡 |
兵庫県 権現山51号墳 三角縁複波文帯 四神二獣鏡 |
奈良県 椿井大塚山古墳 三角縁獣帯 四神四獣鏡 |
滋賀県 大岩山古墳 三角縁銘帯 二神二獣車馬鏡 |
三角縁神獣鏡は、『魏志倭人伝』に記録されている、卑弥呼の鏡だという説があり、「邪馬台国」大和説の有力な論拠になっています。 最も完成度の高い図像をもつ三角縁神獣鏡はどれでしょうか。
私は、もっとも完成度の高い図像をもつ三角縁神獣鏡として、奈良県田原本町の鏡作神社の鏡を挙げたいと思います。
鏡作神社三神二獣鏡
三角縁神獣鏡には、製作技術自体が未熟だと判断される鏡群が多く含まれ、国産の「仿製鏡」と考えられています。これらの「仿製鏡」を除外したなかで、「同向式」の形式のものや、年号をもつものが、古く、技術的に高度だと考えられているようです。しかし、これらのなかにも「完成度の高い図像」を持つ鏡はそう多くはないように思います。「同向式」の形式のものには、ひとまわり小さな画文帯神獣鏡に同様の図像のものがあり、それらの図像は、もともと画文帯神獣鏡のサイズにあわせて作られたように思われるアンバランスささえ感じます。それ以外のものにも、モデルが存在しそれを模倣しているような、拙さを感じます。しかし、この鏡にはそういう印象はうすく、内区だけしか残されていないにもかかわらず、この図像自体で完結している、はっきり意図されて作られたような完成度の高さを感じるのです。
この鏡のテーマはなんでしょうか?
三神ニ獣鏡という形式のこの鏡に描かれた三神の図像は独特です。上部にある一体の大きな神像には、神座と呼ばれる文様があるのに、下部2体の神像にはそれがありません。小林行雄氏はこの図像を評して「ニ像併置の神像は、他方の神像区の主像にたいして、副像としての意味をもつものであり、神像区自身に主副の区別があることになる。」(*1)と述べておられます。もっと言えばこの2体の副像は「神」ではないかもしれません。
この2体の副像は、鏡には類例が無い独特な形態です。しかし、中国本土から発掘された遺物のなかに似た形態の絵があります。それは中国湖南長沙にある馬王堆1号墓から出土した帛画(絹の上に図像を描いたもの)です。
この帛画に描かれた2人の人物の形が、この2像によく似ています。(下図右下)
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鏡作神社副像 | |
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馬王堆1号墓帛画 | 馬王堆1号墓帛画模本(部分) |
この馬王堆1号墓は、被葬者の「軑侯夫人」の遺体が皮膚に弾力が感じられた状態で発掘されたことで大きく報道された、前漢初期の墓です。この帛画は、中段に描かれた被葬者の夫人の昇天が主題であるとされています。またこの帛画は被葬者の棺の上にかけられた状態で発掘され、その呼称と思われる「非衣」(飛衣)という名称とあわせ、昇仙儀式の中核になっていた遺物だと考えられます。
この鏡の整合感の由来は、なによりも、崑崙山の神仙世界を明確に表現していることによるのではないかと思います。
奈良県田原本町 鏡作神社
(*1)小林行雄 「三角縁神獣鏡」 (『古墳文化論考』所収) 平凡社 1976年