
メタボリックシンドロームとは?
生活習慣病の話題と関連して、新聞やテレビでもよく耳にする言葉です。
定義は、「内臓脂肪型肥満に高血圧症・高脂血症・糖尿病の2つ以上を合併した状態」です。
歴史をたどれば、1988年にインスリン(血糖を下げるホルモン)が働きにくくなる病態が、高血圧・脂質代謝異常・糖代謝異常の三大生活習慣病と密接に関係しているという報告より始まります。
その後、インスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」が研究され、1998年にWHOが「メタボリック症候群」という名前と、診断基準を発表してから世界中に広まりました。
大まかな原理は、脂肪細胞からアンギオテンシノーゲン・TNF-α・PAI-1などの物質が多量に分泌され、逆にアディポネクチンの分泌が減ることで引き起こるとされています。
難しそうな名前がたくさん出てきましたので、簡単に補足説明をしておきます。
アンギオテンシノーゲンは代謝を受けてアンギオテンシンとなり、血圧を上げるように働く物質です。
TNF-αは腫瘍壊死因子とも呼ばれる物質で、炎症に関係するとともに、インスリンを働きにくくして糖質代謝異常(糖尿病など)を引き起こします。
PAI-1はプラスミノーゲンアクチベータインヒビター-1の略で、血液を凝固させる作用があり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高める物質です。
アディポネクチンは「やせホルモン」「長寿ホルモン」とも呼ばれる物質で、高血圧や高脂血症・血栓症を抑制する作用を持っています。
つまり、悪玉物質が増え・善玉物質が減ることで、内臓脂肪が多い人ほどインスリンが働きにくく、高血圧や高脂血症・糖尿病を発症する可能性が高まります。
更に、それら疾患によって動脈硬化を起こしやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓性疾患も引き起こしやすくなります。
予防と治療
上で紹介した原理によりますと、諸悪の根源は内臓脂肪ということになります。
高血圧や糖尿病の原因は他にもありますが、内臓脂肪を減らすことによって、少なくとも増悪要因の一つはなくすことができます。
実際、継続的で適度な運動によって、高血圧や糖尿病の薬を使用する必要がなくなった人もおられます。
エネルギーの蓄えを預金に例えれば、皮下脂肪は定期預金で、内臓脂肪は普通預金に相当します。
皮下脂肪に比べれば、内臓脂肪は出し入れが頻繁で、食事の調整と継続的な運動によって減らしやすい脂肪ではあります。
予防および治療のためには、アルコールは極めて高カロリーの嗜好品ですから、できるだけ控えましょう。
タバコは脂肪の燃焼効率を悪くする最たる物ですし、毛細血管を収縮させることで血圧を上げます。
喫煙をされている人は、是非とも禁煙を目指してください。
糖質制限はある程度は必要で、効果もあると思います。
しかし、糖質ダイエットのように極端に制限すると、別の健康被害が起こる可能性が無とは言えません。(これの医学的な結論はもっと時間をかけた検証が必要です)
診断基準
内臓脂肪型肥満の指標はへそ周りの長さで、男性は85cm以上・女性は90cm以上の場合を該当とします。
血圧は収縮期が130mmHg以上、または拡張期が85mmHg以上を該当とします。
脂質では、中性脂肪(トリグリセライド・TG)で150mg/dl以上、またはHDLコレステロール(HDL-C)で40mg/dl未満が該当です。
血糖は、空腹時血糖で110mg/dl以上が該当です。
内臓脂肪型肥満に該当しており、かつ血圧・脂質・血糖の2項目以上に該当している人が、メタボリックシンドロームと診断されます。
特定健診
メタボリックシンドロームの概念を背景として、「糖尿病等の生活習慣病に関する健康診査」、通称「特定健診」が2008年より開始されました。
この検診で該当となった者および予備軍と診断された者へは、特定保健指導が行われます。
この特定健診と特定保健指導は、保険者(健康保険料を徴収している会社や市町村)の義務となっています。
推計で2000万人の該当者・予備軍を、5年後には10%減らし、8年後には25%減らすことを目標にしていました。
そして、この効果によって、国民医療費を2兆円削減する目論見でした。
開始から10年が経過し、予定とおりには進んでいないばかりか、この事業に要する費用によって医療費が増えているとの意見もあります。
世界基準とは違う?
日本の基準では内臓脂肪型肥満が前提となっていますが、世界認識ではインスリン抵抗性を前提とする病態とされています。
原理から考えれば、鶏が先か卵が先かという違いですが、肥満を前提とした診断は不適切との報告もあります。
また、診断基準の元となった資料を読むと、内臓脂肪型肥満の診断は「へそ位置の内臓脂肪断面積が100cm2を超える場合」とあります。
この計測にはCT検査が必要なのですが、簡単には実施できないためにウエスト周囲の長さを指標にしたわけです。
男性85cm・女性90cmという基準値にしても、男性90cm・女性80cmの方が実態を反映しているとの意見もあります。
個人の健康管理に関して、国がどこまで関与するのが適切なのか、難しい問題ではあります。