
アンチエイジング
アンチエイジングとは広い意味で「抗老化」という意味ですが、一般には若く見える体形や肌を目指すという美容業界の用語として使われています。
インターネットでアンチエイジングを検索しても、大部分は美容に関する情報です。
このベーシでは、美容ではなく医学分野での抗老化について紹介します。
老化の仕組みはまだ十分に解明されてはいませんが、「成長ホルモン」・「酸化・糖化」および「テロメア」が関係しているのではないかと注目されています。
成長ホルモンと抗老化
成長ホルモンは名前のとおり成長期に多く分泌されるホルモンですが、大人になっても分泌されています。
大人における役割は身体的な成長ではなく、疲労回復や傷の修復です。
このホルモンの分泌量と体力や気力に相関があるとの報告があり、注射などで投与すると一時的な体力向上の効果が確認されています。
体内での分泌量を高い状態に維持することができれば、抗老化が可能かもしれません。
しかし、ホルモンは体の機能を正常に保つための伝達物質であり、様々な仕組みで分泌量を調整しています。
副腎ホルモンを外から投与し続ければ、体はその分を分泌する必要がなくなりますので、本来の分泌量を減らしてしまいます。
成長ホルモンにおいても、同様な現象が起こると考えられます。
仮に、成長ホルモンだけを増やすことができたとしても、相互に調整し合っている他のホルモンとのバランスに問題が起きないか気になります。
長期になれば、成長ホルモンの過剰分泌で起こる末端肥大や血糖上昇などの好ましくない影響にも注意する必要があります。
アルギニンというアミノ酸を点滴すると、成長ホルモンの分泌が促進します。
成長ホルモンが正常に分泌されているかの確認に使われる検査方法です。
これを「アルギニンを摂取すれば成長ホルモンが増える」と拡大解釈して、アルギニンを配合したサプリメントが売られています。
経口摂取する程度の量で、成長ホルモンの分泌量が増加するとは思えません。
酸化・糖化は生物の宿命か?
酸素と糖質は、どちらも生命維持に不可欠な物質です。
酸素を使う過程で過酸化物が発生し、この過酸化物によって細胞や組織が酸化されます。
体には修復する仕組みもありますが、修復能力を超える酸化があると障害が残ります。
酸化とはサビると同じ現象ですので、機械が時間の経過とともにサビて動きが鈍くなるように、酸化のダメージが積み重なると、人間の体も機能が低下すると考えられます。
血糖は血液中の糖質のことで、各組織へのエネルギー供給のために必要としています。
糖尿病に関係しますので多過ぎることも良くないのですが、少な過ぎると昏睡から死に至る場合もある重要物質です。
血液を舐めても甘くは感じませんが、通常では血液1リットル中に10g程度含まれており、食後では一時的に倍近い量にもなります。
余分な糖と蛋白質が結合すると糖化物質が作られ、血管内皮細胞の傷害や認知症の誘因になると考えられています。
酸化と関連が深い動脈硬化・糖化と関連が深い糖尿病においては、それらがない人と比べて身体機能の低下が速いとの報告があります。
しかし、酸化や糖化が老化を引き起こしているのではなく、老化によって酸化や糖化によるダメージを修復できなくなっているとも考えられ、原因なのか結果なのかは確定していません。
ビタミンE・ポリフェノール・セサミンには過酸化物を消去する作用があり、酸化を抑制してくれます。
ただし、すでに酸化したものを戻す力まではありませんので、治療の目的で使用してもあまり意味がありません。
不調を感じる前から使用すれば、ある程度の予防効果は期待できるかもしれません。
テロメアと細胞寿命
体を構成する細胞は、ずっと生き続けているのではなく、新しい細胞を生んで古い細胞を分解することで維持しています。
この仕組みによって、小さなダメージは修復されます。
細胞の新生と分解を永遠に繰り返すことが可能ならば不老不死になるわけですが、遺伝子に付随するテロメアと呼ばれる部分が新生のたびに短くなります。
限界まで短くなると、それ以上の新生ができなくなってしまいます。
つまり、細胞には寿命があるわけで、新生不能の細胞が増えることが老化の原因だと想像できます。
理論上では、テロメアを伸長できれば細胞寿命を伸ばすことが可能です。
テロメアーゼと言うテロメアを伸長する酵素が発見された時に、夢の不老不死が実現するのではないかと話題になりました。
細胞レベルの実験では、寿命延長に成功したようです。
しかし、その後の研究で、癌細胞の異常な増殖にテロメアーゼが関係していることが判明し、テロメアーゼの投与は癌の進行を早めることになると考えられています。
細胞寿命が延びたとしても癌細胞が増殖しては意味がなく、テロメアーゼによる不老不死は夢物語のようです。
現在、テロメアーゼの作用を抑制することで癌の増殖を抑える研究が進められています。
近い将来、テロメアーゼ抑制作用を持つ抗癌剤が登場すると思われます。
西洋医学での現状
西洋医学領域における「老化」を紹介しましたが、まだ研究を始めたばかりという印象で、治療や予防に活用されているものはありません。
個々の症状においても、目のかすみにはビタミン配合の点眼薬、膝の痛みには湿布という具合で、若い人と同じように症状別に対応しているだけです。
耳の老化現象である難聴や耳鳴りにおいては、効果的な対症療法すらないのが現実です。
抗老化では、医療よりもサプリメントの方が活況を呈している感があります。
しかし、前述しましたように、根拠に不確かなものが多くありますので注意が必要です。
長寿願望が漢方発展の原動力
漢方薬は西洋医学と全く違う発想で構築されています。
自然界に存在して薬効を有するものを原料とし、望む作用を強く・望まない作用を弱くする組み合わせて作られています。
体内のバランスを整えたり、体が持つ治癒力を効果的に発揮することで、不調を回復させます。
歯痛などのピンポイントの症状には不向きですが、全身的な不調には西洋薬にはない優れた点が多くあります。
古代中国の皇帝達は強い長寿願望を持っており、寿命が延びる物を遠くにまで探索させたと記録されています。
この探索によって、多くの生薬が都に集められることになり、新しい漢方薬が創作されていきました。
つまり、昔の皇帝達の長寿(=老化防止)願望が、漢方を発展させたと言っても過言ではありません。
老化 ≒ 腎虚
老化の研究に関しては、西洋よりも東洋医学の方が長い歴史を持っています。
東洋医学では、加齢によって起こる体調不良は腎虚によるものとされます。
腎とは、腎臓だけではなく陰陽五行で分類される「腎」のことで、「精」や「陰」という西洋医学にはない概念を含んでいます。
詳しい説明はされおき、重要なのは、腎虚は体内バランスの崩れで起こる現象で、崩れたバランスを整えることができれば、回復させることが可能だということです。
漢方でも寿命を伸ばすことは不可能ですが、腎虚によって起こっている症状は、その状態を回復させることによって、軽減や解消ができると考えられています。
腎虚による症状と対応処方
腎虚に対応する漢方処方は数多く存在し、昔から老化に伴う不調は重要関心事であったと思われます。
腎虚で誘発される症状は全身に及びますので多数ありますが、元々弱い部位や負担をかけている部分から症状が出始めます。
次に代表的な症状と、それに対応する代表処方を列記します。
☆目のかすみ・老眼:滋腎明目湯・杞菊地黄丸
目に膜がかかったように見える白内障、手元に焦点が合わない老眼は腎虚による症状です。夕方に目の疲れが強くなる場合も、腎虚の関与が考えられます。
☆聴力低下・耳鳴り:滋腎通耳湯
高温や低音が聞き取り難くなる、昔よりもテレビの音量を上げないと聞こえない、大きくなったり小さくなったする耳鳴り、これらは腎虚による症状です。苓桂朮甘湯も耳鳴りに使われる処方ですが、こちらは水滞による場合に適合し、腎虚には効果がありません。
☆排尿不調・頻尿:八味地黄丸・清心蓮子飲
排尿の勢いが弱く1回量が少なくなり、代わりに排尿の回数が増えます。陽虚では夜間の、気虚では昼間のトイレが増える傾向があります。
☆疲労・精力減退:参茸大補丸
休養をとっても抜けない疲れや持久力の低下には腎虚が関与していることが多いです。
☆空咳・口の渇き:味麦地黄丸・滋陰降火湯
陰虚によって熱がこもると、空咳や口の渇きが起こります。(咽の渇きではありません)強い症状ではありませんが、いつまでもすっきりしません。
☆足腰の痛み・痺れ:独活寄生丸・牛車腎気丸
筋力の低下と関節部の摩耗によって、重だるい痛みや痺れを起こします。冷えや湿気によって症状が強くなる場合は、腎虚の可能性が大です。
☆四肢のほてり:三物黄ゴン湯
腎虚で手のひらや足裏に不快なほてりを感じます。昼間よりも寝床で感じることが多い症状です。
☆乾燥肌・痒み:当帰飲子・味麦地黄丸
皮膚が乾燥して痒みを感じます。発疹や発赤はなく、夜に痒みが増す場合は、腎虚の関与があります。
腎虚には大きく分けて腎陽虚と腎陰虚があります。
陽虚は活動に必要な熱量が少なく、冷えを感じます。
陰虚は熱がこもって手足にほてりがあります。
この陽虚と陰虚さえ間違えなければ、類似処方でも症状の緩和は可能です。