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不整脈

(この文書は、2018年6月に会員様へ送付した内容を一部改訂したものです)

脈を作りだす仕組み

心臓の役割は血液を全身に巡らせることです。

拳くらいの大きさしかない臓器で、頭から足先までドロリとした血液を送るのは大変なことです。

心臓はほぼ筋肉からできた組織で、心筋の収縮力によって血液を押し出しますが、心臓全体が一斉に収縮しているわけではありません。

部位によって収縮のタイミングを変え、流れが効率的になるように動いています。

具体的には、心房収縮→心室収縮→休止→というサイクルを1:3:4の割合となるように0.1秒単位の正確さで繰り返しています。

この順序と比率が狂わないように指揮しているのが、刺激伝達系と呼ばれる心臓特有の神経です。

また、運動時などで循環血液量を増やす必要がある場合は、心筋の収縮力を強める+収縮回数を増やすことで対応しますが、この調整は自律神経が担当しています。

刺激伝達系や自律神経は、自分で心室を収縮させようとか心拍を増やそうとか意識しなくても、状況に応じて自動的に調整してくれる優れものです。

ただし、自律神経は心臓以外の内臓機能や脳とも関連していますので、不安や緊張などの心臓とは無関係の要因によって心拍が変化してしまう場合があります。

脈の乱れ

安静時における成人の心拍数は、1分間に60~100くらいです。

これより多い場合を頻脈、少ない場合を徐脈と言います。

収縮サイクルが乱れる不整脈とは直接関係しませんが、どちらのタイプかで治療法が全く違いますので、区別して扱われます。

心拍のリズムが狂う主な要因は、刺激伝達系や自律神経が発する電気信号の不調、あるいは信号を受け取る心筋の感受性に異常がある場合です。

神経が短絡などの原因によって早くに信号を発した場合や、心筋の感受性が異常に亢進して無関係の刺激を刺激伝達系の信号と勘違いした場合は、脈の数が増える頻脈性不整脈が起こります。

神経が信号を欠落した場合や、心筋の感受性が低下して信号を正しく受け取れなかった場合は、脈の数が少なくなる徐脈性不整脈となります。


頻脈は運動や神経緊張などでも起こる症状で、多くは不整脈と無関係です。

一方、徐脈が起きる他の原因はあまりなく、多くは不整脈が原因です。

他に、リズムが変わるけれども心拍数に大きな変化がない、期外収縮と呼ばれる不整脈もあります。

心拍=脈拍とは限らず、細動は心筋の痙攣した状態で、心拍数は非常に増えますが、脈として蝕知できません。

細動では、血液がほとんど循環しませんので、放置できない危険な状態です。


経過観察が多い理由

病院では、脈の乱れがどの程度の頻度で起こり、頻脈性か徐脈性かの検査がされます。

乱れの頻度が非常に多く、救急搬送や意識消失などの重篤な場合は、直ちに治療に入りますが、多くの場合は血栓を防ぐ薬を処方する程度で、経過観察とされます。

これは、軽度の不整脈ならば命に関わる事態になることが少ないこと、頻脈性不整脈の治療が徐脈を誘発する可能性があること、そして、徐脈性不整脈には簡単な治療法がないためです。

頻脈性不整脈の治療薬

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少し専門的になりますが、医療用の不整脈治療薬について紹介します。

右の図が心臓の拍動を起こす仕組みを表したものです。

神経からの信号を受け取ると、ナトリウムイオン(Na+)が心筋細胞内に入って細胞内電位がマイナスから0付近まで変化します。

これを活動電位といい、電気的な変化を合図にして収縮が開始します。

しばらくは電位0の状態が続き、この間はどんな刺激を受けても反応しないので、絶対不応期と呼ばれます。

やがてカリウムイオン(K+)が細胞の外に出て、電位がマイナスに戻っていきます。

これに伴って収縮力が弱まり、強い刺激であれば反応してしまうので、相対不応期と呼ばれます。

活動電位が元のレベルまで戻ると、次の信号を待つ休止期になります。

上図右のように、相対不応期に余分な刺激を受けると、休止期に至らずに次の収縮が始まり、頻脈性不整脈となるわけです。

ナトリウムイオンの心筋細胞内への流入を抑制すれば、相対不応期に受ける余分な刺激を減らすことができます。

この目的で使用する薬がNaチャンネル阻害薬です。

また、カリウムイオンの細胞外への流出を抑制すれば、絶対不応期が長くなりますので、余分な刺激を受け取る頻度が少なくなります

この薬がKチャンネル阻害薬です。

その他として、自律神経の緊張を緩和するβ遮断薬や、心筋の過剰な感受性を鎮めるCa拮抗薬が使用されます。

この4種が中核的な薬となります。

これらは全て脈を減らす方向に作用する薬ですので、頻脈性不整脈にしか使用できません。

徐脈に使用すると症状が悪化し、効き過ぎた場合は徐脈性不整脈を引き起こす危険を持っています。

徐脈性不整脈の治療薬

頻脈性とは逆の現象ですから、単純に考えれば脈を増やす薬が効きそうです。

しかし、脈を増やす薬は心臓の仕事量を増やすことになり、心臓に負担をかけることになります。

徐脈を起こしている心臓は、多くの場合が疲弊していますので、慎重に使用しなければ心不全を誘発する危険があります。

脈を増やす薬としては、自律神経を介して心機能を刺激するβ作動薬や、心筋の収縮力を高めるジギタリス製剤が候補になります。

ただ、外国で心不全に対する大規模調査が行われ、これらの薬を使用しても余命延長の効果がないと判定されました。

日本でも、心臓に余力が残っている場合を除いて、使用されるケースはほとんどなくなったと思います。

他には、迷走神経を抑制して心臓の自動能を亢進させる目的で、抗コリン剤を使う場合がありますが、こちらの効果も懐疑的です。

外科的治療

頻脈性の不整脈で、心筋の特定部位が異常な信号を発している場合は、カテーテルアプレーション術と呼ばれる処置で治療します。

太ももの血管からカテーテルを挿入して、心臓の異常信号発生部位を高周波電流で焼き切る処置です。

もちろん、全ての頻脈性不整脈で実施できる処置ではありません。

徐脈性不整脈に対する最も確実な治療法は、ペースメーカー埋込です。

心臓に一定のリズムで電気信号を送る機械を埋め込むことで、脈の乱れを防止します。

徐脈の心配はなくなりますが、体の活動に応じて脈を増減してくれるわけではありません。

一般には、安静時に合わせたペースに設定されますので、激しい運動はできなくなります。

また、電池で稼働しますので、5~6年くらいで電池交換が必要になります。

他にも、電磁波を出す機器(高周波治療器・低周波治療器・体脂肪計・無線機・IH調理器・MRI・X線検査機・金属探知器など)や、磁気を帯びたものは使わない方がよく、携帯電話は15cm以上離すなどの細かな注意が必要となります。

心室細動は危険性の高い不整脈で、これに対応する処置としてはICP(植込み型除細動器)治療があります。

簡単に言えば、学校や公民館に置かれている除細動器を超小型化したものを体内に埋め込む治療です。

埋め込んだ装置が異常な脈を検知し、必要に応じて自動的に電気刺激を施します。

また、徐脈の場合は、ペースメーカーとしても働く機能も持っています。

注意事項はペースメーカー埋込とほぼ同じですが、車の運転は原則として禁止されます。

漢方での対応

先に述べました不整脈治療に使用される新薬は、微妙な調整を要する薬ばかりです。

更に、状況によっては悪化させる危険を持っています。

医師でなくとも、「使わないで済めば使いたくない」と考える薬だと思います。

外科的処置を必要とする重症例には無理ですが、軽症の治療には漢方薬を選択する医師も増えています。

漢方は、気・血・水のバランスの崩れを是正することで体内環境を整える薬で、脈を整えることも得意分野です。

市販薬として有名な「救心」や「六神丸」も漢方系の薬です。

ただし、こちらは継続服用する薬ではなく、調子の悪い時に頓服で使用する薬で、ジギタリス製剤に似た強心作用があります。

月に1~2回程度、動悸や息切れを感じる人には便利かもしれません。

もっと頻度が高い場合には、継続服用して体内環境を整える漢方薬を使います。

動悸を主訴とする頻脈性には、神経緊張が強くて実際に心拍動が強い実証タイプと、拍動は強くないのに神経過敏によって動悸を感じる虚証タイプに大別されます。

各々に10種以上の処方があり、代表的な処方を紹介します。

  • 気が関与する実証:柴胡加竜骨牡蠣湯
  • 気が関与する虚証:桂枝加竜骨牡蠣湯
  • 血が関与する実証:桃核承気湯・加味逍遥散
  • 血が関与する虚証:当帰芍薬散
  • 水が関与する実証:木防已湯
  • 水が関与する虚証:苓桂朮甘湯

特徴的な処方としては、虚証で臍付近に動悸を感じる場合は柴胡桂枝乾姜湯、昼間はあまり感じないのに床につくと感じる動悸には半夏厚朴湯、突然にみぞおち付近に突き上げるような強い動悸を感じる場合は苓桂甘棗湯、などがあります。

徐脈性は脈がとぶように感じる人が多いですが、動悸と感じる人もあります。

こちらは、心臓が丈夫な実証タイプはなく、大部分が虚証です。

心臓に元気を出しなさいと賦活する真武湯、血圧を下げて血栓の予防にも働く還元清血飲、息切れや疲労感を回復する炙甘草湯や生脈散などが使われます。(炙甘草湯は胃や肺が弱いと使えないので、生脈散の方が汎用されます)

以上、頻脈性と徐脈性に分けて紹介しましたが、漢方は体内環境を整える薬ですので、特に区別せずに使うことができます。

ただし、証が適合していないと効果がありませんので、漢方療法の知識がある医師や薬剤師のアドバイスを参考にしてください。

例示しました処方以外にも、使用される処方が数多くあります。

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