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高血圧

イラスト2 (この文書は、2019年11月に会員様へ送付した内容を一部改訂したものです)

血圧に影響する要因

血圧に直接影響を与える生理学的な要因は、心拍出量(心臓が送り出す血液量)と末梢血管抵抗(血管の柔軟性)です。

つまり、心臓が一定時間に送り出す血液量が多くなるか、血管が硬くなるほど、血圧は高くなります。

もう少し細かく紹介しますと、心拍出量は、体内の血液量および心拍数・心収縮力という心臓の機能で決まります。

末梢血管抵抗は、血管平滑筋緊張度とアンギオテンジンⅡという体内物質の量で決まります。

なお、心拍数・心収縮力を調整しているのは交感神経で、アンギオテンシンⅡは腎臓機能に関係している物質です。

血管平滑筋緊張度には、交感神経も関与していますが、脂肪過多におけるアテローム沈着や、糖尿病における糖化などが強く関係しています。

これらは少しずつ蓄積していく変化で、加齢とともに血圧が上がる要因にもなっています。

上で紹介した要因の中で、血液量はほぼ一定に保たれており、余程の大出血や浮腫でも起こさない限りは大きく変動しません。

よって、血圧を左右しているのは、心臓機能・腎臓機能・交感神経機能と、血管の硬さです。

たったこれだけの要因なのですが、原因が特定される高血圧症は10%程度で、残りの90%は本態性高血圧症と呼ばれ、特定の原因が不明の疾患です。

正常値の意味

今は、収縮期血圧(上の血圧)が120未満であり、かつ拡張期血圧(下の血圧)が80未満を正常血圧としています。

「今は」と付けたのは、かなり頻繁に基準が変更されているからです。

収縮期血圧では、古くは年齢に90を足すと言われていた時代もありますが、この数値に医学的な根拠はありません。

その後、大規模な調査によって140という値が長く基準とされていました。

しかし、合併症との関連から、それでは高いとされて次第に低い値へ移っています。

あまり厳しくすると脳血流量が減って認知症が増えるとの報告があり、一時緩和されましたが、再び厳しい方向に向かっています。

しかし、血圧は全身に血液を巡らせるための力で、個々人の体の状態に合わせた高さになっています。

もちろん、脳出血の危険がある場合や、心臓・腎臓などに負担が大きい場合には下げるべきですが、機械的に下げることは別の不調を生む可能性があります。

血圧管理は合併症を防ぐために行うもので、個々人の体質に合わせて実施されるべきものです。

健康診断などで、数値だけが独り歩きして、一喜一憂している方が多いような印象です。


基準値の補足

臓器が受ける負担は、血圧が高いほど大きくなり低いほど小さくなります。

つまり、血圧と合併症の関係を調査すれば、当然、低いほど合併症が減るという結果になります。

最近の基準値の変更を見ていると、医者は病人を増やそうとしているようにも思えてしまいます。

高脂血症においても、総コレステロール220mg/dlという基準値があります。

この数値は再検査を行うためのスクリーニング用の指標であったのですが、今では診断のための数値にされています。

アメリカでの基準値は300mg/dlで、アメリカで診察を受けて正常と診断された人でも、日本で診察を受ければ高コレステロール血症と診断されるケースが起こります。


治療の流れと注意点

正常血圧(120/80)を超えれば直ちに薬を開始するわけではありません。

その上に正常高値血圧や高値血圧(昔で言う境界領域)があり、高血圧症と病名が付くのは140/90以上の段階です。(なお、家庭用の血圧測定器で計測する場合は、5を減らした135/85が診断ラインとされます)

最初は、運動療法および減塩を含めた食事療法と、喫煙者には禁煙の指導がされます。

これらの自己管理が不可能な場合や、実施しても効果が出ない場合に薬を使用することになります。

高血圧症に使用する薬は、高血圧症治療薬とは言わずに血圧降下薬と呼びます。

これは、治す目的ではなく、単純に血圧を下げることを目的にしているからです。

最初は単剤を少量から開始し、様子を見る期間が2~3週間あります。

体が必要としている血圧を無理に下げた場合、少なからず違和感を起こしますし、継続できない副作用が起こらないかの確認もされます。

問題がなければ治療量に増やして、本格的な薬物療法の開始となります。

単剤で効果が十分に得られない場合は、更に増量をするのではなく、他の種類と併用するのが一般的です。

これは、違う作用の薬を組み合わせて効果を高める目的と、有害な作用を分散させて副作用を起こさないためです。

意外と気付かないのは、継続することで起こる副作用です。

男性の勃起不全や疲労感、女性の冷えは比較的頻度が高い症状です。

服用開始時点で起これば気付くのでしょうが、徐々に進行しますので、薬が原因とは思わない人が少なくありません。

また、耳鳴りの素因がある人では、血圧降下薬の継続で症状が強くなる場合もあります。

血圧は全身に影響を及ぼしていますので、違和感を自覚したら、因果関係が不明であっても医師に伝えるようにしましょう。

個々の薬に特有の副作用は次で紹介します。

病院で処方される薬

大きく分ければ、次の4種に分類されます。

①利尿薬:血液中の水分を減少させて降圧する薬です。体には血液量を一定に保とうとする調整機構がありますので、大きく減らすことは不可能で、血圧を下げる効果は弱いです。しかし、食塩摂取が多い人ではナトリウムを排泄させる効果や、浮腫による心臓の負担を軽減する効果もあります。欠点としては、排尿回数の増加が筆頭で、効き過ぎた場合には脱水や電解質異常を起こす場合もあります。

②交感神経抑制薬:交感神経にはα受容体とβ受容体があり、どちらを抑制するのかで性質が異なります。α受容体抑制薬は血管収縮を抑制することで降圧し、β受容体抑制薬は心臓の過剰な動きを抑制することで降圧します。β受容体抑制薬は、頻脈(脈拍が多い)傾向の人に適しますが、心機能が過剰に抑制されると心疾患を悪化させる場合があります。また、高脂血症や糖尿病などの合併症があると使用できない種類が多いです。

③血管拡張薬:血管に直接作用して拡げる薬で、強い降圧作用があります。胸焼け・顔面紅潮・頭痛・歯肉の腫れ・下肢浮腫などを起こす場合がありますが、組織の血流を阻害しませんので、臓器障害がある人や高齢者に適しています。大部分は妊娠中に使用できません。

④レニン・アンギオテンシン系薬:アンギオテンシンⅡの作用を阻害することで降圧する薬です。作用は中等度で、心臓の負担軽減や血管の肥厚を抑制する作用もあります。最も注意する副作用は低カリウム血症で、他に空咳を誘発する種類がありますが、副作用は比較的少ない薬です。この系も妊娠中には使用できません。

以上の大分類の内にも十数種の小分類があり、合併症の有無や副作用の可能性などを考慮して選択されます。

使用頻度の高い薬は③または④で、併用する場合でも③+④という組合せが多いです。

塩分の減少で④の効き目がアップしますので、①+④という組合せもよく使用されます。

最近は2~3種の成分を合体させた合剤が増えており、何種類もの薬を服用しなくても1種類の服用で済むケースが多くなっています。

いずれの血圧降下薬を使用するにしても、本態性高血圧症の場合は原因に合わせた選択をしているわけではありません。

一時的に血圧を下げているだけですから、継続服用で治るわけではなく、血圧を上げている根本原因が改善されない限りは、中止をすれば高い状態に戻ります。

「血圧の薬を飲み始めたら、一生飲み続けなければならない」と言われるのはこのためです。

実際には、環境や体質の変化によって、知らないうちに原因が解消されて下がるケースも少ないながらあります。

漢方による対応

漢方薬は、体内の気・血・水などの流れを改善することで効果を発揮する薬です。

強制的に血圧を下げるような作用はありませんので、200近くにもなる高血圧には対応できません。

しかし、血圧を上げている要因が気・血・水に関係している場合には、治す効果を期待できます。

ただ、漢方薬は体質によって適合する処方が違います。

詳しく説明するには紙面が足りませんので、ご自分で判断される時の目安を紹介しておきます。

最初は「気」の関与の強さを確認します。

具体的には、のぼせやすい・感情の変化が大きい・寝つきが悪いなどの有無です。

毎回同じ条件で血圧を測っても20近く変動がある場合や、病院で測る時だけ高くなる白衣高血圧症でも、気が関与している可能性が大です。

このタイプで足の冷えを伴う場合は、便秘傾向があれば桃核承気湯・便秘がなければ逍遥散を試します。

足の冷えがない場合は、疲労感や四肢に痺れ感があれば還元清血飲、脇腹やみぞおちに痞えと腹部に動悸を感じれば柴胡加竜骨牡蛎湯・柴胡桂枝乾姜湯などの柴胡剤、いずれもなければ黄連解毒湯が第一候補になります。

気の関与が大きくなければ、次は血の関与を確認します。

頭痛やめまいを起こしやすく、家系に脳や心臓系の病気に罹患した人がおられる場合は、補陽還五湯か続命湯です。

頭痛やめまいを起こしやすいけれども遺伝的な素因がない場合は、尿の出があまり良くなければ苓桂朮甘湯(喉の渇きが強ければ五苓散)、排尿に問題がなければ釣藤散です。

特に、釣藤散は朝の血圧が高い人に適した処方です。

頭痛やめまいには縁がないけれども、寒くなると血圧が上がるという人は五積散が候補になります。

ここまでに該当しない方は、最後に肥満の有無で区分します。

肥満傾向でむくみがある場合は、朝は顔が夜は足がむくむ人は九味檳榔湯、部分的なむくみがない人は分消湯です。

肥満傾向だけれども水の流れに不調がなくむくみがない場合は、通導散や防風通聖散です。

肥満にも縁がなく、自覚がないままに気が付いたら血圧が高くなっていたという人は、七物降下湯を選択します。

例示した処方は代表的なもので、他にも派生処方や類似処方が多数ありますのでご留意ください。

適合する処方が見つかれば、約3カ月を目安として継続服用します。

その後、血圧が安定してきたことを確認しながら少しずつ減量していき、最後に0となれば治療は完了です。(当然ながら、全ての人が0にできるわけではありません)

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