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がん(悪性腫瘍)関連事項

「がん」の治療には、外科療法・放射線療法・化学療法・免疫療法があり、この単元では化学療法と免疫療法について紹介していきます。

「がん」を漢字で表記すると癌ですが、専門的な分類では少し意味が異なります。

癌は上皮性細胞から発生するもので、神経や骨などの非上皮性細胞から発生する場合は肉腫と呼びます。

他にも血液細胞から発生する白血病や悪性リンパ種があり、これらを総括したものを「がん」あるいは悪性腫瘍と言います。(悪性新生物という呼び名もありますが、これは医学用語ではありません)

悪性腫瘍と対比する良性腫瘍は「がん」ではなく、最も代表的なものがポリープやイボと呼ばれるデキモノです。

それでは、腫瘍とは何かから考えましょう。

正常な細胞を培養した場合、ある程度まで増殖すると細胞分裂を停止する仕組みが作動します。

この細胞分裂の制御システムのおかげで、胃の大きさや心臓の大きさが一定に保たれ、他の臓器を圧迫する程に大きくなることはありません。

腫瘍とはこの制御システムが不調になった組織のことで、余分に細胞分裂をすることによって飛び出したり盛り上がったりします。

良性腫瘍は、余分な細胞分裂をするものの、増殖のスピードは緩徐で、浸潤や転移はしません。

悪性腫瘍は、増殖のスピードが速く、浸潤や転移をする可能性があるものです。

時々、ポリープを放置しておくと癌になると説明する医師がおられますが、両者の成り立ちは違いますので、正しい表現ではありません。

まとめますと、「がん」は増殖速度が速くて他へ拡散する性質があり、あたかも病原体のように振る舞うものです。

厄介なことに、元は自分の細胞ですから、構造的な違いが極めて少なく、抗生物質で細菌を撃退するように、がん細胞だけを攻撃することは極めて難しいのです。

がん細胞と正常細胞の明確な違いは増殖スピードくらいしかなく、長い間、抗癌剤としては細胞増殖を阻害する薬くらいしかありませんでした。

当然ながら正常細胞にも影響が及びますので、必然的に副作用が多くなります。

と言うよりも、抗癌剤は副作用が出ることをほぼ当然として使用する薬で、医薬品副作用被害救済制度の対象外になっているのはこのためです。

最近になって、モノクロナール抗体などのがん細胞の特異的部位を攻撃する薬も登場していますが、遺伝子変異を起こしたような特定のがん種にしか効きませんし、非常に高価です。

健康情報の「抗癌剤の実態」も参照してください。

抗がん剤総論

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細胞周期

モノクロナール抗体などの分子標的薬・性ホルモン製剤・免疫療法薬は、細胞分裂と直接関連していませんが、旧来から使用されている抗がん剤の多くは細胞分裂を阻害することで効果を発揮します。

細胞が分裂するためには、細胞周期と呼ばれる過程を経なければなりません。

G0期:休止期

G1期:DNA合成前期

S 期:DNA合成期

G2期:DNA合成後期

M 期:有糸分裂期

抗がん剤は種類によって、特定の時期を阻害する細胞周期特異的阻害薬と、時期に関係なく阻害する細胞周期非特異的阻害薬に分類されます。

この分類に大きな意味はないのですが、複数の薬を併用する場合には、同じ時期を阻害するよりも異なる時期を阻害する薬を組み合わせた方が細胞分裂を止める可能性が高まりますので、併用する場合の参考になります。

細胞周期特異的阻害薬には、次のような薬が該当します。

  • G1期=サリドマイド誘導体
  • S 期=トポイソメラーゼ阻害薬、核酸代謝拮抗薬
  • G2期=ブレオマシン(抗腫瘍性抗生物質)
  • M 期=微小管機能阻害薬

細胞周期非特異的阻害薬には、DNA鎖を開裂させないようにするアルキル化薬や白金製剤が該当します。

多剤併用療法

抗がん剤を使用する場合は、単剤を大量に使用することはせずに、多剤を少量ずつ併用することが一般的です。

これは、単剤で確実な効果が得られる薬がない、大量使用では重大な副作用を誘発する危険がある、がん細胞が耐性を獲得しやすくなる、という理由からです。

多方面から攻撃して効果を高め、重篤な副作用の誘発を避け、耐性化を遅延するための手法です。

一例として、CAF療法=フルオロウラシル+ドキソルビジン+シクロホスファミド、CHOP療法=エンドキサン+アドリアシン+オンコビン+プレドニゾロン、などがあります。

様々な併用療法が報告されており、同種のがんでも施設によって選択する療法が違うというケースも少なくありませんが、多剤を併用する目的は同じです。

薬剤耐性

抗生物質に対して細菌類が耐性を獲得して効果が低下することは先に紹介しました。

機序は少し異なりますが、抗がん剤においても効果が低下する現象が起こります。

薬物取込低下・標的部位の変化・細胞内解毒機能の亢進などは細菌の耐性化と似ています。(分解酵素産生や耐性遺伝子伝達は、がん細胞には起こりません)

がん細胞の耐性における中心的な役割は、P糖蛋白質(ABCトランスポーター)が関与する細胞外汲み出し機構の亢進です。

細胞内に入ってきた抗がん剤を、素早く外に排出してダメージを少なくするわけです。

臓器障害の指標

正常細胞の中でも活発に細胞増殖を行っているのが骨髄で、抗がん剤の副作用が起こりやすい組織です。

抗がん剤の減量や中止は総合的な判断の下に行われますが、一応の指標として、白血球数3000以下・好中球数1000以下・血小板数70000以下になると、要注意レベルとされます。

また、代謝や排泄に関与する肝臓や腎臓にも影響は起こりやすく、こちらの検査値も参考にされます。

AST200以上・ALT200以上・フィブリノゲン120以下・BUN30以上・クレアチニン3.0以上・蛋白尿1.0以上などが指標とされることが多いです。


遺伝子に作用して効果を発現する抗がん剤は、可能性は低いものの、正常な細胞に影響を及ぼして新たながんを誘発する危険性を持っています。

特に、トポイソメラーゼに作用する薬には、その危険性が高いと言われています。

サリドマイド誘導体・トポイソメラーゼ阻害薬

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サリドマイド誘導体

サリドマイドとは催眠作用を持つ物質で、昭和中期に催眠薬や神経性胃炎の薬として使用された成分です。(つわりの治療にも使用されたことから、多くの妊婦が服用しました)

発売数年後に、この成分による死産と催奇形(四肢変形)が問題となり、姿を消しました。

サリドマリド渦とも呼ばれ、全世界で5000人くらいの人に実害があったとされています。

その後40年近く経過して、有効な治療法が無かった「らい性結節性紅斑」や「多発性骨髄腫」へ効果があることが判明し、誕生した時とは全く違った目的で使用されることになりました。

細胞周期ではG1期を阻害、つまり休止期であるG0期から細胞分裂を開始するG1期への移行を阻害することで、細胞周期そのものを止めると考えられています。

ただし、委細な機序は未だに不明で、造血器腫瘍細胞の増殖抑制の他に、TNFαなどのサイトカイン産生を調節する作用や血管新生を阻害する作用も確認されており、本命の作用は未発見なのかもしれません。

サリドマイドの他に、レナリドミド・ポマリドミドがあり、いずれの薬においても胎児毒性があります。

妊娠中に服用禁忌というだけでなく、男性でも精液に移行することから確実な避妊処置をとることや、取り扱う可能性がある介護者や薬剤師・看護師に至るまで、素手で触れないなどの適正管理手順を遵守するように求められています。

他には、深部静脈血栓症や肺塞栓症を誘発する可能性があると報告されています。

トポイソメラーゼ阻害薬

遺伝子は、DNAの二重鎖がさらに巻かれた超螺旋構造をしています。

開裂して複製をする際に、超螺旋構造による歪があると、その部分以後の作業は進行しません。(DNA修復時にも歪が生じます)

このような局所的な歪を解消するための酵素がトポイソメラーゼで、この酵素が働かないとDNAの複製が不可能になってしまいます。

トポイソメラーゼは大きく分けてⅠ型とⅡ型に分類され、Ⅰ型を阻害する薬としてイリノテカンやノギテカンがあり、Ⅱ型を阻害する薬がエトポシドです。

本剤に特有と言うわけではありませんが、骨髄抑制・催奇形性には注意が必要で、副作用を軽減するために休薬期間を設ける投与方法をします。

イリノテカンは下痢を誘発することが多く、早期はコリン作動性の下痢を、遅発は代謝物の刺激による下痢が起こります。

トポイソメラーゼⅡを阻害する薬は、二次性がんを誘発する可能性が他の薬よりも高いので注意が必要です。

ちなみに、キノロン系抗菌薬の作用機序で登場したDNAジャイレースは、トポイソメラーゼの一種です。(分類はⅡ型ですが、真核生物のものとサブタイプが違い、抗がん作用はありません)

代謝拮抗薬

核酸の合成を阻害したり、構造的に核酸に似た成分を投与してDNAやRNAの合成を阻害する薬を、核酸代謝拮抗薬と言います。

また、ある種のがん細胞に必須の成分(核酸ではないもの)を減少させて、増殖を抑制する薬を含めて代謝拮抗薬と呼びます。

代謝過程における薬物相互作用で登場した「代謝拮抗」とは無関係ですので、混同しないようにしてください。

メトトレキサート

リウマチ治療薬としても登場した薬ですが、元は抗がん剤として使用されていた成分です。葉酸の作用を阻害する作用があり、葉酸はプリン体の合成に必要な成分であるために、結果的にDNA合成を阻害してがん細胞の増殖を抑制します。骨髄抑制や免疫抑制を起こすために、数日間使用して休薬期間を設ける使用方法にして副作用を軽減します。副作用発現時には、拮抗薬であるホリナートを投与します。(リウマチ治療用とがん治療用では用量が違いますので、取り違えてはいけません)

フルオロウラシル(5FU)

核酸のウラシルにフッ素を結合させた成分で、RNA合成時に取込まれるとともに、チミジン酸合成酵素を阻害する作用もあります。核酸代謝拮抗薬の代表のような薬で、ユーエフティ(UFT)やティーエスワン(TS-1)などの改良型を含めてよく使用されます。副作用としては、骨髄抑制・下痢・出血性腸炎・間質性肺炎などが報告されています。

UFT

5FUのプロドラックであるテガフールと、5FU分解酵素を阻害する作用を持つウラシルの合剤です。効力は増強していますが、劇症肝炎などの肝障害に注意が必要です。

TS-1

更なる改良型で、テガフールと5FU分解酵素阻害薬のオテラシルに、リン酸化酵素阻害薬のギメラシルを加えた3種の合剤です。消化管内でのリン酸化を抑制することで、消化器毒性が軽減されます。5FU系の薬からの切り替えでは、ギメラシルによって5FUの代謝が阻害されて血中濃度が上がりますので、最低でも7日間の休薬期間を設ける必要があります。

なお、上で紹介したホリナートには、5FU系の薬との併用で抗がん作用を増強する効果があり、メトトレキサートの副作用対応よりも、こちらの目的で使用される方が多いです。しかし、増強されるのは効果だけでなく、副作用も強くなる可能性があり、より注意が必要です。

メルカプトプリン

プリン体の類似構造を持つ成分で、プリン体合成酵素を阻害します。他の薬に比べて副作用は少ないものの、骨髄抑制には注意が必要です。

クロファラビン

第二世代のプリン拮抗薬と呼ばれている薬で、DNAポリメラーゼおよびリボヌクレオチドレダクターゼを阻害することでDNAの合成を阻害します。また、ミトコンドリアに作用してアポトーシスを誘導する作用も持ちます。効果に比例するように副作用も多く、骨髄抑制・易感染・毛細血管漏出症候群・腫瘍崩壊症候群などが報告されており、肝機能障害はほぼ必発です。

L-アスパラギナーゼ

L-アスパラギンの分解酵素で、白血病細胞の蛋白質合成において不足しがちなアスパラギンを欠乏状態にします。遺伝子に関与しないので、他の代謝拮抗薬よりも副作用は少ないようですが、ショック・急性膵炎・糖尿病・血液凝固異常などが70%弱の患者で報告されています。

L-アスパラギンアミド加水分解酵素であるクリサンタスパーゼも製造承認が下りていますが、まだ発売されていません。

抗腫瘍ホルモン製剤

女性の乳房・卵巣・子宮や、男性の前立腺・精巣は、性ホルモンによってコントロールされている組織です。

増殖にも性ホルモンが関与していますので、その作用を阻害することで増殖を抑制できる可能性があります。

ホルモンが抑制されることで悪影響はありえますが、遺伝子の機能を抑制する他の抗がん剤と比べれば、副作用は軽微です。

ただし、がん細胞を直接殺傷する作用はなく、増殖を抑制することで効果を発現しますので、長期に使用することになります。

ホルモン剤の項でも紹介した薬が多いので、そちらも参照してください。

タモキシフェン

乳癌細胞のエストロゲン受容体に拮抗作用を有する薬です。他組織では作動薬として作用しますので、乳癌のみに使用されます。更年期障害のような症状が出ることが多く、視力障害や血栓症などにも注意が必要です。また、長期服用で子宮体癌や子宮内膜症の発現率が高くなるとの報告があります。(類薬のトレミフェンは、胎児毒性があるために閉経後乳癌に使用されます)

アロマターゼ阻害薬

閉経後のエストロゲン合成に関与する酵素を阻害する薬で、閉経後の乳癌に使用される薬です。閉経後の乳癌に対しては、タモキシフェンよりも成績が良く、こちらが第一選択されます。閉経前には別経路でエストロゲン合成を行っており、使用してもほとんど効果がありません。副作用としては、骨粗鬆症・脂質代謝異常・性器出血・肝障害・男性化などが報告されています。

フルタミド・ビカルタミド・エンザルタミド

前立腺組織におけるアンドロゲン受容体に拮抗作用を持つ薬で、前立腺癌に使用されます。フルタミド・ビカルタミドは劇症肝炎・エンザルタミドは痙攣に注意が必要です。

アビラテロン

アンドロゲンの合成を阻害する薬で、受容体拮抗薬よりも強力に男性ホルモンの作用を抑制し、前立腺癌に使用されます。男性ホルモンの減少により勃起不全や女性化乳房が起こります。低K血症や浮腫が起こりやすいので、プレドニゾロンと併用して副作用を低減します。肝機能障害にも注意が必要です。

リュープロレリン・ゴセレリン

GnRHアゴニスト、つまりゴナドトロピン放出ホルモン作動薬です。最初は、性腺刺激ホルモンを介して性ホルモンの分泌を促進させますが、持続的に刺激することでダウンレギュレーションが起こり、最終的には性ホルモンの分泌を低下させます。この作用により、性ホルモンに依存性のある前立腺癌や閉経前乳癌に使用されます。欠点は、一時的ではありますが性ホルモンの分泌が増えて刺激作用が起こることです。どちらも皮下注射で投与します。(同効薬のブセレリンには点鼻薬がありますが、こちらは子宮内膜症に使用します)

デガレリクス

GnRHアンタゴニスト、つまりゴナドトロピン放出ホルモン阻害薬です。GnRHアゴニストのような一時的な刺激作用を経ずに、最上位の脳下垂体から性ホルモンの分泌を抑制します。前立腺癌に使用しますが、女性にはホルモン抑制の影響が大きいので使用しません。(同効薬のレルゴリクスは子宮筋腫に伴う症状緩和に使用されます)


前立腺癌の治療には去勢処置を行うことが一般的です。去勢は外科的に行うだけでなく、内科的に行う方法もあります。

GnRHアゴニストおよびGnRHアンタゴニストは、内科的去勢に使用される薬でもあります。


クロルマジノン

黄体ホルモン製剤で、男性ホルモンを阻害することから、前立腺癌や前立腺肥大症に使用されます。勃起不全や女性化乳房などが報告されていますが、発症率を含めて軽微で、前立腺癌に第一選択されることが多い薬です。

メドロキシプロゲステロン

こちらも黄体ホルモン製剤ですが、こちらは抗エストロゲン作用を活用して乳癌や子宮体癌に使用されます。重篤な血栓症を起こす可能性があります。最初に使用する薬ではなく、エストロゲン受容体拮抗薬が無効の場合に使用します。

抗腫瘍抗生物質・微小管機能阻害薬

抗腫瘍抗生物質

このグループは作用によって分類されたものではなく、抗生物質の定義「微生物等の生物によって作られる物質で、生物の生理活性に影響を与える物」という出所による区分です。

よって、様々な作用を持つ薬が含まれますが、多くはDNAの合成抑制やDNA鎖切断を主作用にしています。

アクチノマイシンD

最初に発見された抗腫瘍抗生物質で、DNAと結合することでRNAポリメラーゼによるDNAの複写反応を抑制します。細胞毒性が強いので、今では特殊なケースにしか使用されなくなりました。

ブレオマイシン・ペプレオマイシン

DNA合成抑制と産生フリーラジカルによるDNA鎖切断作用を持ち、抗腫瘍性抗生物質の代表のような薬です。間質性肺炎や肺繊維症などの呼吸器系副作用が比較的多く、投与総量に上限が設けられています。ブレオマイシンは皮膚の硬化や色素沈着を伴うブレオ疹と呼ばれる特有の皮膚炎が半数近くに出現します。

マイトマイシンC

DNAの2本鎖の間に入って架橋(アルキル化)することで複製を阻害するとともに、産生フリーラジカルがDNA鎖を切断して抗腫瘍作用を発現します。他剤と交叉耐性がなく、相乗効果があることから、併用療法に組み入れられることが多い薬です。濃度依存性がありますので、大量間欠投与をする場合もあります。副作用は骨髄抑制・溶血性尿毒症・間質性肺炎などが報告されています。

ドキソルビシン・ダウノルビシン・エピルビシン

アントラサイクリン系抗生物質で、トポイソメラーゼⅡやDNAポリメラーゼ・RNAポリメラーゼを阻害することで抗腫瘍作用を発現します。蓄積性の心毒性があり、投与量に注意が必要です。(エピルビシンは心毒性低減を目的に開発された薬ですが、無くなってはいません)ドキソルビシンはエイズ関連カポジ肉腫にも効能を持つ薬で、ダウノルビシンは急性骨髄性白血病の第一選択薬とされます。

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微小管機能阻害薬

中期~後期にかけて形成される紡錘体に作用して、有糸分裂を阻害する薬が微小管機能阻害薬です。

微小管は神経線維の軸索輸送にも関係していますので、神経細胞が障害を受ける可能性があり、刺激伝達の阻害などに注意する必要があります。

ビンクリスチン

微小管に結合して伸長を抑制し、紡錘体の形成を阻害することで細胞分裂を停止すると考えられています。脳関門は通過せず、髄腔内投与は禁忌とされています。

パクリタキセル・ドセタキセル

微小管の蛋白重合を促進させて微小管の過度の安定化や過剰形成を引き起こし、細胞分裂を阻害します。パクリタキセルには、脂溶性を高めたDHA結合型や、腫瘍移行性を高めたポリグルタミン酸結合型・モノクロナール抗体結合型などの種類があります。


パクリタキセルとドキタキセルは薬の取り違えで問題となった薬です。

パクリタキセルの先発品商品名が「タキソール」、ドキタセキルの先発品商品名が「タキソテール」で、非常に似ています。

系統としては同じ薬なのですが、使用する量は大きく違い、取り違えると重大事故の可能性があります。

薬の名前は覚えにくい上に似たようなものが多いので、しっかりと確認してください。

白金製剤・アルキル化薬

白金製剤

名前が示すとおり、構造中に錯体として白金を含む薬で、DNA鎖と結合して複製を阻害します。

毒性が強く、腎(尿細管)障害・嘔吐中枢刺激・骨髄抑制・末梢神経障害・聴力低下・視覚障害・劇症肝炎・急性膵炎・間質性肺炎などが報告されています。

副作用を低減させるために、水負荷(輸液などで水分の強制補給)と利尿薬によって尿量を多くしたり、5HT3受容体遮断薬で吐気を抑えたりします。

副作用が多いにも関わらずよく使用されているのは、他剤よりも優れた効果があることと、抗腫瘍スペクトルが広く多種のがんに有効なためです。

シスプラチン

代表薬です。塩素濃度が低い液に溶くと効力が低下しますので生理食塩液で溶解し、アルミニウムと反応して沈殿を形成することからアルミニウムを含む医療器具を用いないなどの注意が必要です。また、光で分解してしまうので、点滴に長時間かかる場合は輸液を遮光する必要があります。細胞毒性があることから、血管外漏出に注意するとともに、薬液に触れる可能性がある者にも手袋などの防護が望ましいとされています。

カルボプラチン・ネダプラチン・オキサリプラチン

シスプラチンの誘導体で、毒性を少しでも低減しようとして開発された薬です。腎毒性はやや低減していますが、他の毒性には大差がないようです。生理食塩液以外でも溶解できますが、オキサルプラチンにおいては、塩化物で分解するために生理食塩液での溶解はできません。

アルキル化薬

DNA鎖に架橋を形成して開裂を不能にする薬で、1本鎖にならないことから複製をできなくします。

先に紹介した、マイトマイシンCや白金製剤もアルキル化薬の一種です。

細胞周期に関係せずに作用します。

濃度依存性がありますので、大量間欠投与されることが多いです。

シクロホスファミド

代表的なアルキル化薬で、体内でシトクロームにより代謝を受けて活性体になるプロドラックです。比較的低毒性であるために汎用されますが、骨髄抑制・出血性膀胱炎・間質性肺炎・心筋障害などを起こす可能性があります。がん以外に、膠原病やネフローゼ症候群にも適応を持っています。

ブスルファン

慢性骨髄性白血病や真性多血症に効能を持つ薬です。比較的強い作用を持ち、骨髄抑制・色素沈着(黒皮症)・間質性肺炎に注意が必要です。注射剤は、リンパ球を減少させて拒絶反応を抑える目的で、造血幹細胞移植の前処置にも使用されます。

テモゾロミド・ニムスチン

比較的分子量が小さく、脳関門を通過するので脳腫瘍に使用されます。骨髄抑制・間質性肺炎・吐気などに注意が必要です。

メルファラン

多発性骨髄腫の第一選択薬です。有害作用は少ない方ですが、骨髄抑制は必発で、間質性肺炎や溶血性貧血にも注意が必要です。

分子標的薬

がん細胞において特異的に活性化する部位を阻害する薬で、モノクロナール抗体や選択的結合低分子化合物があります。

いずれもピンポイントに阻害することで、正常細胞への影響を少なくしようとして開発された薬です。

特に、遺伝子変異があるがん細胞においては、正常細胞にはない特徴を有している場合があり、そこを攻撃する薬であれば選択毒性は高くなります。(変異部位が細胞の活動に重要な役割を果たしていることが必要です)

多くの製薬メーカーが競って開発をしている分野であり、月に1~2種くらいのペースで新しい薬が登場しています。

問題は、極めて限定したがんにしか効果がなく、感受性にも大きな差があることです。(使用前に感受性を調べる検査方法が実用化されつつあります)

また、単独での効果は十分とは言えず、多くの薬は旧来の抗がん剤を併用する必要があり、低毒性の利点を損なっています。

対象患者数が多くないことから、薬価が非常に高い点も問題です。

高薬価ゆえに他剤無効の場合にしか適応できない薬も多く、初発の段階から使用できる薬はかなり少ないです。

モノクロナール抗体

特定の抗原に対する単一の抗体製剤で、対象とする抗原にしか結合(作用)しない薬です。(獲得免疫で産生される抗体はポリクロナール抗体です)

異種蛋白を含みますので、アレルギーの一種であるInfusion reaction(アナフィラキシー・悪寒発熱・悪心嘔吐・疼痛・頭痛・咳・めまい・発疹など)を起こす可能性が高いので注意が必要です。

トラスツズマブはHER2(上皮増殖因子受容体)が過剰発現した乳癌や胃癌に使用される抗体製剤です。HER2に特異的に結合し、最終的にNK細胞などによる抗体依存性細胞障害作用によって抗腫瘍効果を発揮します。Infusion reactionの他に、心不全などの心障害に注意が必要です。

セツキシマブ・パニツムマブはEGFR(上皮増殖因子受容体)に結合する抗体製剤で、大腸癌や頭頸部癌に使用されます。

リツキシマブはBリンパ球のみに発現するCD20に結合する薬で、B細胞性非ホジキンリンパ腫に使用されます。結果的に免疫抑制を起こしますので、ネフローゼ症候群や臓器移植による拒絶反応抑制にも使用されます。

ベバシズマブはVGEF(血管内皮増殖因子)に結合して阻害する薬で、がんで亢進している血管新生が抑制され、酸素や栄養が不足することになります。この作用だけでがん細胞が死滅するわけではないので、他の抗がん剤を併用しなければなりません。

デノスマブはRANKLに結合して破骨細胞の活性化を抑制し、がんによる骨病変の進展を抑制する薬です。骨粗鬆症の治療にも使用されることがあります。低Ca血症を起こす可能性が高く、予防のためにカルシウム剤およびビタミンD剤を併用します。

免疫療法に使用されるニボルマブもモノクロナール抗体です。

選択的結合低分子化合物(分子標的薬)

抗体製剤ではなく、化学的に合成された特定蛋白質の阻害薬です。

ピンポイント攻撃という点ではモノクロナール抗体よりも劣りますが、異種蛋白によるアレルギー誘発の問題はありません。

阻害する部位は様々ありますが、細胞内外の情報伝達に重要なチロシンキナーゼと呼ばれる酵素を阻害する薬が多いです。

イマチニブは異常染色体(フィラデルフィア染色体)によって形成されるBcr-Ablチロシンキナーゼを阻害する薬で、遺伝子変異のある慢性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病に使用される薬です。また、KITチロシンキナーゼにも阻害効果を発揮することから、消化管間質腫瘍にも使用されます。浮腫(体液貯留)や吐気が起こりやすい薬です。

ゲフィチニブはEGFRチロシンキナーゼを阻害する薬で、EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺癌に使用されます。世界に先駆けて日本で初承認された薬でしたが、間質性肺炎による死亡例が散発して訴訟事件になりました。欧米の臨床試験ではあまり良い結果が出ず、その後の追試験で非喫煙・東洋人・女性・腺癌の条件が揃うと効果が高いことが判明したという経緯があります。副作用発現率は低い薬なのですが、肺障害では死亡例が出ていますので注意は欠かせません。

スニチニブは血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)・血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)・幹細胞因子受容体(KIT)・コロニー刺激因子1受容体(CSF-1R)などのチロシンキナーゼを阻害する薬で、マルチキナーゼ阻害薬とも呼ばれます。主作用は腫瘍細胞増殖抑制と血管新生阻害で、腎細胞癌の第一選択薬とされます。骨髄抑制や心機能障害などの副作用に注意が必要です。

アキシチニブは血管内皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼを阻害する薬で、腎細胞癌に使用されます。スニチニブで起こる骨髄抑制は起こりませんが、高血圧を起こしやすく、血栓や出血などの循環系の副作用に注意が必要です。

ボルテゾミブは細胞内の不要となった蛋白質を分解するプロテアソームを阻害する薬で、不要蛋白の蓄積によってがん細胞をアポトーシスさせます。多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫に使用します。血球減少が高率に起こり、肺障害・心障害や感覚障害なども報告されており、多方面の注意が必要です。

オラパリブはDNAの修復に関与するポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)を阻害する薬で、DNAの損傷が集積されてアポトーシスを起こします。がん抑制遺伝子であるBRCAに変異があるがんに感受性が高く、卵巣癌や乳癌に使用します。ただし、本薬によって染色体異常を誘発する可能性がありますので、進行癌以外への使用には注意が必要です。

免疫療法薬については、健康情報の「癌の免疫療法」を参照してください。

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