
小児の体内環境は成人とかなり異なり、この影響によって薬の動態にも違いが生じます。
吸収過程
消化能力はまだ低いので、食事の胃内滞留時間は長くなりがちですが、母乳やミルクなどの流動食が主体であれば短くなります。この胃内滞留時間の長短によって、薬の吸収量や効果発現時間が若干違ってきます。また、胃酸分泌が少ないので胃内のphが高く、酸性の薬ではイオン化される割合が増えて吸収が低下する可能性があります。
分布過程
体重あたりの体内水分量が多く、水溶性薬の血中濃度がその分だけ低くなります。また、血漿蛋白の量がまだ少ないので、薬は遊離型の割合が高めになります。血液脳関門の機能が不十分で、成人では脳に移行しない薬が移行してしまうこともあります。
代謝過程
薬物代謝酵素の活性や量が少なく、代謝が遅くなるために作用が長く続きます。体内で代謝を受けてから効果を発揮するプロドラックでは、効きにくくなる場合があります。(プロドラックは通常は小児に使用しません)
排泄過程
腎臓の機能もまだ発育途上で、尿中排泄速度が遅いですし、胆汁中排泄におきましても、代謝能とも関連して十分に機能しません。排泄の遅延による蓄積や、中毒量を超えてしまう過量に注意が必要です。
これらの体内動態における影響は、幼いほど大きく・成長に伴って小さくなっていく傾向があります。
薬の多くは15歳を小児と成人の境界にしており、一部の例外的な薬を除いて、15歳以上は成人と同じ量を使用します。
これは、身長や体重が大人並になったという理由ではなく、代謝や排泄などの能力が向上して体内動態が成人とほぼ等しくなり、特別扱いする必要がなくなったからです。
逆に、14歳以下では、身長や体重が大人に匹敵していても、特別扱いしなければならない理由が体内にあることを意味します。
内科と小児科の区切りの目安も15歳とされるのは、同じ理由によります。
体内動態の違いだけでなく、薬そのものに対する感受性が異なるものもあります。
麻薬への感受性は成人よりも高く、少量でも呼吸抑制を起こす場合があります。(出産時の疼痛緩和に麻薬系鎮痛薬を使用しないのは、新生児に呼吸抑制が起こりやすいためです)
麻黄や附子という生薬を配合した漢方薬でも、成人より小児の方が感受性が高いです。麻黄配合薬では良い方の作用が出やすいので小児に使いやすいのですが、附子配合薬は悪い方の作用が出やすく、通常は小児に使用しません。
鎮静薬のバルビツール系や強心薬のジギタリス系では、小児の感受性は成人よりも低いと言われています。
男性ホルモン・女性ホルモン・ステロイド(副腎皮質ホルモン)は、成長期に大きな影響があり、身長抑制や性成熟遅延などの小児特有の問題を起こします。
テトラサイクリン系抗生物質やキノロン系合成抗菌薬は組織移行性が良い薬なのですが、それが災いして骨に移行し、骨発育を抑制する可能性があります。この2種は、小児には禁忌とされています。
ウイルス感染症において解熱鎮痛剤を使用した時に、まれにライ症候群と呼ばれる一種の脳症を誘発することがあります。この副作用の報告例はほとんどが小児です。
クロラムフェニコールを胎児・新生児に使用すると、代謝機能の未熟によって抱合ができないために排泄ができず、グレイ症候群という副作用が起こります。
薬による影響ではありませんが、小児に筋肉内注射を繰り返し行うと、成人よりも筋拘縮症を起こしやすいです。
小児用量の計算
薬の使用量は添付文書に記載されていますので、その記載とおりに算定します。
しかし、小児に対する使用量が記載されていない薬も多くあります。
記載がないということは、小児への使用を正式に認めていない薬ですので、できれば使用しない方が望ましいのですが、そんなことを言っておれないケースも少なくありません。
そのような場合に換算式を使用します。
代謝能は体表面積との相関が高いとされていますが、身長や体重のように体表面積を直接計測する方法がありません。
(近似値として 体表面積=√身長×√体重÷60 を使用することがあります)
換算式として様々なものが公表されており、どれにも一長一短があります。
あれこれと覚えても仕方がないので、年齢から計算するAugsbergerの式を覚えておきましょう。
小児用量=成人用量×(年齢×4+20)÷100