
発症機序と症状
統合失調症やうつ病とは違い、パーキンソン症候群の発症機序は解明されています。
脳内の黒質および線条体と呼ばれる部位のドパミン作動神経が変性し、ドパミンの放出量が減少することが直接の原因です。
黒質のドパミン作動神経が線条体のアセチルコリン作動神経を抑制するという調節関係があることから、ドパミンの減少はアセチルコリン作動神経の亢進をもたらします。
コリン作動薬がパーキンソン症候群に禁忌とされているのは、この二次的亢進を更に増強してしまうからです。
統合失調症でもドパミンが登場しましたが、統合失調症が関係するドパミン作動神経は中脳の辺縁系と皮質系だと考えられており、疾患自体に関連性はないようです。
しかし、統合失調症の治療などでドパミンの働きを阻害する薬を使用すると、その影響でパーキンソン症候群を誘発してしまう場合があります。
このように、薬に起因して発症したものを薬剤性パーキンソン病と言います。
また、高齢になると脳内伝達物質が減少してパーキンソン病に似た症状を起こすことがありますが、これを老年性パーキンソニズムと言い、これと対比する意味で、遺伝的要因で発症する場合を、若年性パーキンソン病と言います。
症状としては、錐体外路の機能異常に伴うものが主で、振戦・筋固縮・無動・仮面性顔貌が4大症状とされます。
他にも、特徴的な突進現象(1歩目が出にくく、一旦歩き始めると止まることができない)も起こります。
錐体外路症状という文言が今後も出てきますので、代表的な症状を紹介しておきます。
ジスキネジア:意志に関係なく手足や口・舌が勝手に動く
アカシジア:足がムズムズして正座しておれない
カタレプシー:不自然な姿勢でも自分の意志で変えられない
パーキンソニズム:手の震えや強張り
治療薬
ドパミンの分泌が不足することで起こる疾患ですから、理論的にはドパミンを補充すれば症状は消えます。
しかし、ドパミンは脳関門を通過できない物質であるために、内服や静注によって脳に到達させることができません。
レボドバ
脳関門を通過できるドパミンの前駆物質で、通過後にドパミンに変換されて効果を発揮します。治療薬の中では最も効果に優れるのですが、脳内に移行できるのは服用の数%程度しかなく、通過前に変換されたものは副作用誘発の原因になります。また、長期使用で効果持続時間の短縮(wearing off現象)や効果の変動(on-off現象)が起こり、過量ではジスキネジア誘発もあります。他には、眼圧が上昇するために閉塞隅角緑内障には禁忌、汗や尿が黒っぽくなります。
レボドパは脳内のドパミン分泌を回復させるわけではありませんので、永久に服用しなければならず、徐々に増量が必要となるケースが大部分です。
いかに少量でコントロールするかが重要になり、そのために併用される薬も多種あります。
レボドバ代謝阻害薬
レボドパと併用する薬で、脳関門通過前にドパミンに変換されることを阻害して、中枢への移行量を少しでも増やすことと、末梢でのドパミン刺激を抑制する目的があります。(末梢でのドパミンは、NA放出・Ach抑制に作用します)ドパミンカルボキシラーゼインヒビター(DCI)であるカルビドパはレボドパとの合剤として使用され、末梢性COMT阻害薬のエンタカポンは別剤として併用されます。
MAO-B阻害薬
MAO阻害薬にはAとBの二種のサブタイプがあり、Aは主にノルアドレナリンとセロトニンに作用し、Bは主にドパミンに作用します。MAO-B阻害薬はシナプス間隙におけるドパミンの分解を抑制することで、ドパミンの作用を強めます。ただし、他のモノアミン類に作用しないわけではなく、悪性症候群やセロトニン症候群を誘発する可能性がありますので注意が必要です。(特に、高用量になると選択性がなくなると報告されています)
最近まで国内で使用可能な薬はセレギリンだけでしたが、2018年にラサギリンが登場しました。
セレギリンは覚醒剤原料の指定を受けており、取締法による制約がありますが、ラサギリンはアンフェタミン骨格を有していないため覚醒剤原料の指定はありません。
最近発売されたサフィナミドも同分類の薬で、レボドパと併用して可逆的なMAO-B阻害によってwearing off現象を改善します。
ドパミン放出促進薬
アマンタジンは神経終末からドパミン分泌を促進する作用を持っています。しかし、単独で使用して効果がある程の強さではなく、補助的に使用します。妊娠中および授乳中の使用は禁忌です。
ドパミン受容体作動薬
中枢のドパミン受容体に直接結合して刺激を与える薬です。作用はドパミンより穏やかで、主にレボドバの使用量を減らす目的で使用します。麦角系と非麦角系に大別され、麦角系は下垂体や消化器への有害作用が多いので、一般的には非麦角系を先に試します。(麦角系の代表薬はブロモクリプチン・非麦角系の代表薬はプラミペキソール)ただし、稀ですが、非麦角系は予兆がない突然の眠気を起こす場合があり、車の運転や危険な作業をする者には使用しないことになっています。
中枢性抗コリン薬
相対的に亢進状態になっているアセチルコリン作動神経を抑制する薬で、軽症例には第一選択薬とされます。(代表薬はトリヘキシフェニジル)中枢性と付いているのは脳に移行しやすい種類という意味で、末梢でも抗コリン作用は発現しますので、禁忌などの注意事項は他の抗コリン薬と同じです。中枢におけるアセチルコリンはアルツハイマー型認知症にも関係し、抑制によって認知機能の低下が進む可能性もあります。
アドレナリン補充薬
ドロキシドパはノルアドレナリンの前駆物質で、NA作動性神経の障害によってパーキンソン症候群に随伴するすくみ足や立ちくらみを緩和します。
ドパミン合成促進薬
ゾニサミドはチロシン水酸化酵素を増強する作用があり、チロシンからドパミンの合成を促進します。神経終末の貯蔵ドパミンが不足している場合には有効ですが、充足している場合には効果がありません。
ゾニサミドは抗てんかん薬としても使用される薬で、使用量が大きく違います。