
おくすり基礎知識で、くすりと医薬品の違いや医薬品の法的な区分などを紹介していますので、先にそちらを読んでください。
そこで紹介していない少し専門的な分野を、補足して紹介します。
薬事法は、長年にわたり医薬品・医薬部外品・化粧品を規定する法律でした。
この三種を「薬事3品」という名で呼んでいたのは、薬事法と関係しています。
科学技術の進歩によって、i-PS細胞などによる再生医療が臨床で使われる日は数年以内に訪れるでしょうし、体内植込み型除細動器などの高度な医療機器はすでに実用されています。
時代の流れに合うように、薬事3品に医療機器と再生医療等製品を含めて規定する法律として、「医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が施行されました。
名称はお役人が考えそうな長ったらしいもので、使い勝手から「医薬品医療機器等法」や「薬機法」と略して呼ばれます。
「麻薬および向精神薬取締法」も医薬品に関連する法律の一つです。
ただし、この法律は犯罪を防ぐことを目的に制定されたものですので、医療現場であっても目こぼしはなく、様々な制限が課せられます。
麻薬を取り扱うには、医師免許や歯科医師免許とは別に麻薬施用者免許を取得する必要があり、医師・歯科医師であれば誰でも麻薬の使用や処方ができるわけではありません。
麻薬施用者免許は知事が発行するもので、使用できるのはその都道府県のみであり、しかも免許申請の際に申告のあった医療施設だけです。
もしも、複数の都道府県で麻薬を取り扱う場合には、それぞれで免許を受ける必要があります。
複数の麻薬施用者がいる医療施設においては、麻薬管理者も置かねばなりません。
麻薬管理者にも免許が必要で、こちらは薬剤師でも受けられるために、病院では薬剤部長(薬局長)が免許を取得していることが多いようです。(医師が麻薬管理者になることもできますが、この場合は麻薬施用者と麻薬管理者の2つの免許を受けることになります)
院外の薬局で麻薬を扱う場合は、麻薬小売業者の免許が必要です。
麻薬施用者および麻薬小売業者が一人の医療施設では、管理はその者が担うものとされ、麻薬管理者免許は申請する必要がありません。
これらの麻薬に関する免許には有効期限があり、現在は最長で3年間です。(免許の発行日から、翌々年の12月31日まで)
麻薬の保管には、盗難を避けるために麻薬金庫と呼ばれる鍵がかかって動かせない保管庫が必要ですし、麻薬台帳と呼ばれる専用の記録簿も必要です。
少し余ったとか計量ミスをしたからといって勝手に処分することは厳禁で、仮に廃棄処分をする場合でも、麻薬管理者が取締法で定められている立会人を置いて再製できない方法で実施しなければなりません。
これは、在宅医療で使わなくなった麻薬を預かった場合も同様で、勝手に処分をすると取締法違反を問われる可能性がありますので、注意が必要です。
向精神薬は麻薬と比べれば規制は緩やかで、医師・歯科医師および薬局開設者である薬剤師であれば、取扱い免許の申請をしなくても、免許を取得している者とみなして扱う「みなし指定」によって取り扱うことができます。
麻薬や向精神薬を処方する場合は、大量に入手することができないように、処方日数に14日間や30日間などの上限があります。
一般の医薬品では90日などの長期処方がされることが多くなっており、患者さんにとっては不満を感じる乖離になっています。
規制緩和と安全性確保が両立できないという典型的な例です。
メタンフェタミンという医薬品が覚醒剤に分類されますので、「覚醒剤取締法」も医薬品に関係する法律になります。
こちらの保管や管理も、麻薬と同じく厳しい制約がありますが、取扱いの免許は個人ではなく医療施設ごとに与えられます。
薬局に覚醒剤取り扱い施設としての免許はおりませんので、メタンフェタミンは特定の病院内でしか使用されない薬です。
エフェドリン・セレギリン・リスデキサンフェタミンは、化学的な加工をすると覚醒剤を作りだすことができる成分で、覚醒剤原料という指定を受け、覚醒剤取締法の対象になっています。
ただし、覚醒剤原料は、覚醒剤取扱いの免許がない医療施設でも使用することが可能です。
他に、大麻取締法もありますが、日本では大麻およびその成分を医療に使いませんので、医薬品とは無関係な法律です。
毒薬・劇薬という区分は成分とは関係なく、その薬にどの程度の危険性があるかで指定されるものです。
投与した動物の半数が死亡する量を50%致死量(LD50)と言い、具体的には、マウスに対する50%致死量で判定します。
皮下注射で投与した場合は、20mg/kg以下は毒薬、200mg/kg以下は劇薬に指定されます。
経口投与の場合は、毒薬で30mg/kg以下・劇薬で300mg/kg以下で、静脈注射の場合は、毒薬で10mg/kg以下・劇薬で100mg/kg以下が指標です。
つまり、少量でも命に関わる作用を持つ医薬品であり、使用量には特に注意しなければなりません。
保管にも制約があり、毒薬は専用の鍵かかかる保管庫で保管し、劇薬は一般薬と区別して保管することになっています。
もちろん、出入りを記録する専用の台帳も備えなければなりません。
麻薬や向精神薬は成分によって指定され、毒劇薬とは区分の意味が違いますので、麻薬と劇薬の両方の指定を受けるような医薬品も少なからずあります。
(これらは処方箋に記載がないと販売や譲渡ができない医薬品でもありますので、処方箋医薬品の指定も受けています)