イラスト1

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抗菌薬の基礎

イラスト2

病原体とは、他の生物に対して感染症を引き起こす微生物の総称です。

増殖能力を持っていますので、影響が時間の経過とともに大きくなることが多く、感染を拡散させる可能性がある点も厄介です。

なお、感染と呼ぶのは寄生された側(宿主)に不利益がある場合だけで、腸内細菌や皮膚常在菌などのように共存共栄の関係にある場合には、体内で増殖していても感染とは言いません。

病原体の区分

病原体に分類されるものにも様々な種類があり、その特徴によって対応方法が違います。

まず、大きな区分としては、真核生物と原核生物の区分があります。

真核生物には核やミトコンドリアなどの細胞小器官を持っていますが、原核生物には有膜の小器官はありません。

宿主依存性(生育のために宿主から取り込む必要がある物質の多寡)も重要な区分項目で、依存性が高いものは独立して生きていくことが難しく、依存性が低いものは宿主に感染しなくても生存が可能です。

ウイルスは宿主の遺伝子に間借りして増殖を行う病原体で、極めて宿主依存性が高い微生物です。

ただし、感染状態にない時には、ほぼRNAやDNAだけの物質で、微生物とさえも呼べません。(ウイルスが生物と無生物の中間と言われるのは、この形態によります)

原核生物は宿主依存性が高く、真核生物は宿主依存性が低い傾向があります。

細胞壁という組織の有無も重要な区分項目です。

小学校の理科で、植物は細胞壁を持ち・動物には細胞壁がないと教わったと思いますが、病原体の持つ細胞壁は植物のものと構造が違いますので、別物だと思ってください。

病原体を顕微鏡で観察する場合に、見やすくするように染色をする場合があります。

グラム染色という手法で染まる(陽性)・染まらない(陰性)という区分もよく使われ、抗生物質の効力に関係します。

真核か原核か・宿主依存性の程度・細胞壁の有無・グラム染色による区分で、病原体を分類してみます。

  • ウイルス  :原核・依存性強 ・細胞壁無・グラム陰性
  • マイコプラズマ  :原核・依存性やや強・細胞壁無・グラム陰性
  • クラミジア・リケッチア:原核・依存性やや強・細胞壁有・グラム陰性
  • グラム陰性細菌  :原核・依存性中 ・細胞壁有・グラム陰性
  • グラム陽性細菌  :原核・依存性中 ・細胞壁有・グラム陽性
  • 真 菌  :真核・依存性弱 ・細胞壁有・グラム陽性
  • 原虫・蟯虫  :真核・依存性弱 ・細胞壁無・グラム陰性

ちなみに、人間は真核・依存性弱・細胞壁無・グラム陰性で、原虫や蟯虫と同じ区分になります。

補足

スピロヘータはグラム陰性細菌の一種で、胃腸疾患で登場したヘリコバクター・ピロリは螺旋菌に分類され、同じグループです。

嫌気性菌とは、酸素を嫌う細菌で、多くはグラム陽性細菌の一種です。酸素濃度の低い土中や、血流が活発でない体内組織で増殖します。

抗酸菌もグラム陽性細菌の一種ですが、細胞壁の構造が特殊なので別分類されます。

選択毒性

病原体を撃退しようとする場合、人間の細胞にはなく病原体に特有の組織や機能があれば、そこを攻撃すれば人間への影響を軽くできます。

違いが大きい程、人間よりも病原体へのダメージが大きくなり、選択毒性が高いと表現します。

逆に、違いが小さい部分を攻撃する薬では、人間の細胞にもダメージが及ぶことがあり、選択毒性が低くなります。

主な抗菌薬の攻撃ポイントを紹介します。

◎細胞壁の合成阻害:人間の細胞には細胞壁が存在しませんので、非常に高い選択毒性になります。ただし、細胞壁が存在する病原体にしか効果がありません。

◎細胞膜の透過性亢進:人間の細胞膜と異なる組成部位を攻撃します。真菌細胞膜のエルゴコレステロールなどですが、細胞壁を攻撃するよりは選択性が低いです。異なる組成部位がない病原体には無効です。

◎蛋白質合成の阻害:蛋白質合成酵素であるリボソームは、細菌類では沈降係数(遠心分離した場合の層の位置≒重さ)30S・50Sですが、人間では40S・60Sです。30Sあるいは50Sのリボソームを攻撃することで、人細胞の蛋白質合成は阻害せずに病原体の蛋白質合成を阻害します。ただし、人間のミトコンドリアには30S・50Sのリボソームがあり、多少の影響を受けます。

◎遺伝子形成の阻害:遺伝子合成酵素のポリメラーゼや二重螺旋構造のねじれに対応するDNAジャイレース(トポイソメラーゼⅡ)は、細菌類と人間では種類が違います。細菌のDNAを維持する酵素を攻撃する薬も選択毒性を発揮します。

◎葉酸合成の阻害:葉酸は核酸合成に不可欠のビタミンであり、人には合成能力がありません。つまり、葉酸合成経路の阻害は細菌類には大ダメージですが、人間には影響しません。ただし、人間が葉酸を補給するのは、食品からが大部分ですが腸内細菌が産生するものも含まれます。この腸内細菌の産生分には影響が及ぶ可能性はあります。

抗菌薬の作用特性と使用方法

抗菌薬には、殺菌作用(病原体を殺す作用)を持つものと、静菌作用(病原体の増殖を抑える作用)を持つものがあります。

殺菌作用の強さはMBC(最小殺菌濃度)で表示され、数字が小さい程に強い殺菌作用を持ちます。

静菌作用の強さはMIC(最小発育阻止濃度)で表示され、こちらも数字が小さい程に静菌作用が強いことを意味します。

ただ、殺菌作用を持つ薬は、より低い濃度で静菌作用を発揮しますが、静菌作用しかない薬では、いくら濃度を上げても殺菌作用は現れません。

よって、抗菌剤の効力を比較するには、共通するMICを使用します。

一般論から言えば、静菌作用を持つ薬よりも殺菌作用を持つ薬の方が強力です。

静菌作用の薬は病原体の増殖を抑えているだけですから、病原体を撃退するには自分の免疫の力が必要になります。

強い殺菌作用が災いとなる場合もあり、菌体を破壊してしまうような薬を腸管出血性大腸菌や赤痢菌などの強毒菌感染症に使用すると、菌内の毒素が大量に放出されて大きなダメージを及ぼします。

殺菌と静菌の違いとは別に、濃度依存性薬と時間依存性薬という作用特性もあります。

濃度依存性薬は、有効性がCmax/MICまたはAUC/MICと相関する薬で、病原体と接する濃度が高い程効果が高くなる薬です。

アミノグリコシド系やニューキノロン系がこの特性を持ち、分割して投与するよりも最高血中濃度が高くなる単回投与が効果的です。(最小中毒濃度を超えない注意が必要です)

時間依存性薬は、有効性がMICを超えている時間と相関する薬で、病原体と薬が接する時間が長い程効果が高くなる薬です。

βラクタム系やマクロライド系がこの特性を持ち、血中濃度を長く維持するために分割投与が効果的です。

また、薬によって組織への移行性がかなり異なります。

いくら作用が強い薬でも病巣へ届かなければ効きませんので、移行性も効果を大きく左右する要因となります。

耐性菌

薬を連用していると薬物耐性が起こることは、薬の連用による変化で紹介しました。

この時の耐性は、人間の体における変化によって発生するものでしたが、病原体においても薬に対応する変化によって耐性化が起こります。

ただし、英語で表記すると、人間に起こる耐性はtoleranceであり、病原体で起こる耐性はresistanceですので、厳格には同一ではありません。

耐性獲得機序

病原体が耐性となる変化としては、次の5つが主なものです。

  • 薬物分解酵素の産生
  • 薬親和性の低下
  • 細胞膜構造の変化=薬の通過阻害
  • 標的作用点の構造変化や代替機能の獲得
  • 耐性遺伝子の移動

上の4つは突然変異によって起こるもので、それほど高頻度ではありませんし、数も少数です。

しかし、抗菌剤と接する環境下で発生すると、変異前の病原体が大きなダメージを受ける中で生き残り、勢力を伸ばすことになります。

最後の機序は病原体に特有のもので、プラスミドと呼ばれる遺伝子外のDNAを受け渡しすることで耐性の情報が伝播します。(バクテリオファージと呼ばれるウイルスを介して伝播する場合もあります)

つまり、耐性を獲得した病原体の近くにいる病原体も、耐性を獲得する可能性があるわけです。

耐性獲得によって、全く効果がなくなってしまう場合もありますが、効果が多少低下する程度の影響に留まる場合もあります。

交叉耐性

ある系の抗生物質に耐性を獲得した病原体が、同じ系および類似した系の抗生物質にも耐性となる現象です。

ペニシリン系に耐性となった病原体は、セフェム系にも耐性となります。(ペニシリン系とセフェム系は、βラクタム系という大きな区分では同族です)

マクロライド系とリンコマイシン系にも交叉耐性があります。

耐性化対策

ペニシリン系やセフェム系における耐性化には、βラクタマーゼという分解酵素が関係しています。

この分解酵素の作用を阻害すれば耐性化の影響は受けなくて済みますので、βラクタマーゼ阻害薬を併用したり合剤にして対応します。

ただし、このような対応が可能なケースは少なく、耐性化が病原体内の組織や機能の変化による場合には対処の方法がありません。

今までとは違う系統の抗菌剤を開発すればよいのですが、開発もすでに限界に近づいているようです。

2017年に久々の新規成分であるシュードウリジマイシンが発見されましたが、製品化には10年近くかかると言われており、臨床で使用できるのはなかり先のことです。

そして、登場しても数年以内に耐性菌が登場すると予想され、人間に分の悪いイタチごっこが続きます。

技術的な解決が難しいので、耐性化を遅らせる使用方法が推奨されています。

抗菌剤は使用頻度が高い程、耐性化が進みます。

昔は、細菌が関与していない風邪でも抗生物質が使用されていましたし、家畜や魚の養殖において餌に抗生物質が大量に配合されていました。

そのような乱用が耐性菌を増やす要因になっていましたので、必要性のないケースには使用しない方向に進みつつあります。

代表的な耐性菌

  • MRSA :メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
  • VRSA :バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌
  • VRE :バンコマイシン耐性腸球菌
  • MDRP :多剤耐性緑膿菌
  • MDR-TB :多剤耐性結核菌
  • PRSP :ペニシリン耐性肺炎球菌
  • MRAB :多剤耐性アシネトバクター
  • タミフル耐性インフルエンザウイルス

いずれも治療に難渋する病原体ばかりで、マスコミでも取り上げられることが多いものです。

ちなみに、多剤耐性菌とは、3種以上の抗生物質に耐性を獲得した菌のことです。

スーパー耐性菌とは、最後の切り札とされるカルバペネム系・コリスチンに耐性を持つ多剤耐性菌のことで、結果的に全抗生物質に耐性を持ちます。

これらの菌は、市中で確認されるよりも、ほとんどが病院内で確認されます。

感染症を起こしている人が多い・抗菌剤を使用している人が多い・免疫能が低下している人が多いなどの背景があり、ひとたび感染が起こると、院内感染で大きな問題となります。

菌交代現象

抗菌剤を使用することによって、効果が及ぶ病原体は減少するけれども、効果が及ばない病原体が増加する現象です。

効果が及ばない菌に病原性がなければ問題にはなりませんが、病原性を持つ場合には、元の感染症は治ったけれども新たな感染症が起こることになります。

この例として有名なのが偽膜性腸炎で、クロストリジウム・ディフィシルという菌が増殖することで発症する疾患です。

日和見感染

抗菌剤の使用によって、細菌叢の勢力分布が変化し、本来無害の弱小な常在菌種が増殖する現象です。(菌交代現象の一種です)

常在菌は共存共栄の関係にある菌なのですが、免疫能が低下している場合や免疫抑制剤を使用している場合には、あまりに増えると病原性を発揮することがあります。

βラクタム系抗生物質

イラスト3

βラクタム系とは、図のようにβラクタム環と呼ばれる4員環を持つ物質の総称です。

構造が微妙に違いますが、全て細胞壁の合成を阻害することで抗菌力を発揮します。

ペニシリン結合蛋白(PBP)と呼ばれる構造がある細胞壁に作用しますので、効力を発揮するのは主にグラム陽性細菌と一部のグラム陰性細菌です。(真菌やクラミジアにも細胞壁はありますが、PBPがないので効きません)

人間にはない組織を攻撃対象としていますので、非常に高い選択毒性があります。

また、細胞壁の傷害によって菌体を破壊しますので、殺菌作用があります。

人類が初めて手にした抗生物質であり、改良型が作りやすいこともあって、昭和時代には抗菌剤の中核として汎用されました。

長い間、耐性化と改良型の開発がせめぎあっていましたが、今ではこの系の開発は限界に達していると言われています。

4員環が抗菌作用を発現するために必須の構造で、細菌が産生するβラクタマーゼと呼ばれる酵素によって開裂してしまうと抗菌力を失います。(この系の耐性化は、これが重要な要因となっています)

アナフィラキシーショックを起こす可能性があり、これは初期のペニシリンを青カビ培養液から分離製造していたことに関連しています。

当時の精製技術が未熟であったことから、不純物が混入するケースがあり、その薬の投与を受けた者が感作を起こしてアレルギー反応を起こすようになったのです。

昭和の後半には合成によって製造されるようになり、このような副作用は激減していますが、過去に感作を受けた者には、今でもアナフィラキシーを起こす可能性はあります。

他には、菌交代現象による偽膜性大腸炎も可能性がある副作用です。


細胞壁を破壊してしまう抗菌剤は、内部に毒素を持つ強毒菌に使用すると、毒素を拡散してしまう場合があり注意が必要です。

βラクタム系に限ったことではありませんが、ここで代表的な強毒菌を紹介しておきます。

連鎖球菌・肺炎球菌・ブドウ球菌・炭疽菌・破傷風菌・ガス壊疽菌・結核菌・ジフテリア菌・放線菌・大腸菌・サルモネラ菌・ペスト菌・コレラ菌・百日咳菌・腸炎ビブリオ菌・軟性下疳菌・インフルエンザ菌・淋菌


ペニシリン系

世界で初めての抗生物質であるペニシリンGを出発点とする系統で、幾度かの改良が加えられ、今でも重要な位置にある抗菌剤です。(化学的な名称では、ペナム系とも呼びます)

ペニシリンGは天然ペニシリンとも呼び、胃酸で分解されるために注射薬として使用します。抗菌スペクトルは狭いのですが、耐性菌でなければ同系の中でも強い抗菌力を持ち、現在でも梅毒スピロヘータや髄膜炎菌に対して使用します。

耐酸性ペニシリンは胃酸で分解されないように改良をしたもので、内服投与が可能になりました。耐性菌には弱く、現在使用されているものはありません。

次に登場したのが耐性菌に対抗したペニシリナーゼ抵抗性ペニシリンです。メチシリンやクロキサシリンで、これらも現在では使用されていません。MRSAはこの薬にすら耐性を持つ菌です。


βラクタム環を開裂する分解酵素には4種あり、βラクタマーゼはそれらの総称です。

  • ペニシリナーゼ
  • セファロスポリナーゼ
  • カルバペネナーゼ
  • オキサシリナーゼ

広域ペニシリンは、ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリンの抗菌スペクトルを拡げたもので、効果を発揮するグラム陰性菌の範囲が広がりました。グラム陽性菌への効力は若干低下しましたが、なお十分な抗菌力があり、現在でも使用されています。内服薬のアモキシシリン・注射薬のピペラシリンは、今でも主流薬です。

広域ペニシリンにβラクタマーゼ阻害薬を併用したものが、βラクタマーゼ阻害薬合剤です。分解酵素産生による耐性の影響を受けませんので、よく使用されます。アモキシシリン+クラブラン酸やピペラシリン+タゾバクタムで、特に後者は世界中で最も使用されている抗生物質です。(耐性菌でない場合の使用は推奨されません)

セフェム系

4員環に6員環が結合した構造の薬で、セファロスポリン系・セファマイシン系・オキサセフェム系に細分されます。

開発段階に応じて、第一世代から第四世代に区分されます。

改変が可能な部位が、ペニシリン系では1カ所しかないのに対して、セフェム系には2カ所あり、数多くの薬が開発されました。

ただし、腸球菌やリステリア菌には無効で、菌体を破壊する力はペニシリン系よりもやや劣るとされます。(抗菌力という点では劣りません)

第一世代は、ペニシリン系での耐性菌が問題となり始めた頃に登場し、ペニシリナーゼによる影響を受けにくく、比較的酸に強くて内服薬にしやすいことから使用が拡大しました。抗菌スペクトルはグラム陽性菌が中心で、あまり広くはありません。代表薬は、注射のセファゾリンと内服のセファクロルです。

第二世代は、βラクタマーゼ(セファロスポリナーゼ)への抵抗性高め、グラム陰性菌への適応を広めたものです。代表薬は、注射のセフォチアムとセフメタゾールです。

第三世代はさらにグラム陰性菌への効力を高めたものですが、グラム陽性菌(特にブドウ球菌)にはかなり減弱することになりました。代表薬は注射のセフタジジムと内服のセフジトレンです。

第四世代は、第一世代+第三世代の抗菌力と抗菌スペクトルを持つ薬です。最強のセフェム系ですが、他世代が無効な場合に使用するとされ、第一選択されることはあまりありません。代表薬は注射のセフェピムです。

また、ペニシリン系と同様に、βラクタマーゼ阻害薬合剤も登場しています。(セフォペラゾン+スルバクタム)

ペネム系

グラム陽性菌から陰性菌まで広い抗菌スペクトルがあります。

腸球菌に適応を有していますが緑膿菌には無効で、セフェム系で例えると3.5世代に相当する薬です。

ファロペネムという内服薬しかありません。

カルバペネム系

ペネム系の広い抗菌スペクトルに加えて、緑膿菌までカバーする薬です。

ESBL産生菌(カルバペネナーゼ以外の3種のβラクタマーゼを産生する菌)に唯一有効なβラクタム系です。

中枢移行しやすいので痙攣誘発には注意が必要です。

メロペネムが代表薬で、耐性菌への切り札的な薬ですので、第一選択にはしません。

モノバクタム系

シンプルな構造をした薬で、他のβラクタム系と交叉アレルギーがありません。

グラム陰性菌には有効なのですが、グラム陽性菌や嫌気性菌には効果がなく、他のβラクタム系とは抗菌スペクトルがかなり異なります。

アズトレオナムは、腎障害などによってアミノグリコシド系が使用できない場合の代用薬として使用されます。

アミノグルコシド系抗生物質

イラスト4

例示した構造式はストレプトマイシンで、ペニシリンに次いで2番目に発見された抗生物質です。(放線菌から発見されました)

アミノグリコシドという名前が示すとおり、糖質の骨格にアミノ基がいくつも結合したような構造をしています。

内服しても腸管から吸収されませんので、主に注射薬や外用薬として使用します。(赤痢や腸炎ビブリオなどの腸管内感染症に対しては、例外的に内服でも使用します)

作用機序は、リボソーム30Sに結合して蛋白質合成を阻害することで、殺菌作用を発現します。

組織移行性は良くなく・脳関門も通過しないので、感染部位によっては使用できないケースもあるのですが、切れ味の良い効果があることから好んで使用する医師もいます。

他の抗生物質との併用で相乗効果があることも、よく使われる理由になっています。

抗菌スペクトルは、嫌気性菌を除く細菌類および原虫です。

ただし、適応を取得している対象病原体は、次の区分によって違いますので、無作為に使用できるわけではありません。

①ストレプトマイシンおよびカナマイシンは最初に登場したアミノグリコシド系で、ペニシリン系が効かない結核菌にも効果を発揮することから、結核の治療に多用されました。第八脳神経障害という聴覚障害が問題となり、「ストマイつんぼ」という言葉が作られる程でしたが、それまで効果的な治療法が無かった結核を治療可能とした功績は非常に大きいです。今でも結核治療に使用されますが、中核薬からは外れています。この区分の薬は、嫌気性菌を除き結核菌を含むグラム陽性菌・陰性菌に効能を持っています。

②ゲンタマイシン・ジベカシン・アミカシンなどのグループです。ペニシリン系やセフェム系の登場で、グラム陽性菌は撃退が可能となりましたが、代わってグラム陰性菌による感染症が問題になってきました。特に、厚い莢膜を持つ緑膿菌は、βラクタム系抗生物質が効きにくいグラム陰性菌で、その菌に有効な薬として活躍します。この区分の薬は、グラム陰性菌にしか効能を持っていません。(外用薬ではグラム陽性菌まで効能を有していますので、効果がないわけではありません)なお、アミカシンは他のアミノグリコシド系と交叉耐性がない薬で、今でもよく使われています。

③アルベカシンはMRSA感染に特化した薬で、他の病原体には効能を持っていません。パロモマイシンも腸管アメーバにのみ効能を持つアミノグリコシド系です。これらの薬も、他の区分と同じようにグラム陽性菌や陰性菌に有効なのですが、やたらと使用して耐性菌を増やさないように適応を制限しています。

副作用として問題となるのは、上で紹介しました聴覚障害の他に腎障害があります。

また、弱いながら筋弛緩作用がありますので、末梢性筋弛緩薬と併用する場合には、呼吸抑制の発現に注意しなければなりません。

テトラサイクリン系抗生物質

イラスト5

構造式を見れば分かるように、テトラ=4・サイクリン=環から成る抗生物質です。

リボソーム30Sに結合して蛋白質合成を阻害する機序は、アミノグリコシド系と同じです。

結合する部位が違うので、この系は殺菌作用はなく静菌作用しかありません。

しかし、抗菌スペクトルは極めて広く、原核生物(ウイルスを除く)から原虫までカバーします。

組織移行性も極めて優れており、骨や歯などの他の抗生物質では到達しない部位にまで移行します。

登場した当初は、有効菌種の多さと移行性の良さから夢の抗生物質とまで言われました。

ただ、耐性菌の増加は避けて通れず、一時期汎用された薬の多くは姿を消しました。

移行性の良さが災いして、胎盤関門を通過して胎児にも移行することから妊娠中は禁忌になっていますし、歯に移行して変色する歯牙着色も敬遠される理由になっています。

日光過敏を比較的起こしやすく、キレート形成しやすいためにミネラル成分を含む薬と同時服用はできませんし、半減期が長いので連用による蓄積にも注意が必要です。

それでも、抗菌スペクトルの広さと移行性の良さから、他の抗菌剤では対応できない感染症に使用され、今でも存在意義はあります。

代表薬はミノサイクリンで、耐性菌を除いて幅広い菌種に良好な抗菌力を持っています。一時的なめまい・耳鳴り・運動障害を誘発する可能性がありますが、多めの水で服用すると起きにくくなります。(男性より女性で起きやすい副作用です)

チゲサイクリンは2012年に登場した薬で、正確にはグリシルサイクリン系なので少し性質が異なります。リボソーム30Sへの結合部位が違うので、今までのテトラサイクリン系に耐性となっている菌にも有効です。有効な菌種はグラム陰性菌だけですが、多剤耐性アシネトバクターなど他の抗生物質では効果がない菌にも有効です。(緑膿菌には無効です)耐性菌用の抗生物質とされていますので、本剤の使用は、βラクタム系・ニューキノロン系・アミノグリコシド系のうち2種以上に耐性を示す場合に限定されています。悪心・嘔吐の発現率が高く、開発段階での死亡率がプラセボよりもやや高かったと報告されています。

マクロライド系抗生物質

イラスト6

マクロライド系は14員環・15員環・16員環などの大型の環状構造を持つ抗生物質です。

リボソーム50Sに結合して蛋白合成を阻害し、静菌作用を発現します。

マイコプラズマ・クラミジア・リケッチア・細菌などの原核生物に対して抗菌作用を持ち、組織移行も比較的良好です。(ただし、ウイルスには無効で、グラム陰性菌にも一部にしか効きません)

まれに、心臓の活動を抑制するQT延長や肝機能障害を起こすことがありますが、重篤な有害作用は少なく、テトラサイクリン系の歯牙沈着のように後に残る影響もないため、小児にもよく使用される抗生物質です。

マイコプラズマは周期的に流行して肺炎を誘発する病原体で、ペニシリン系やセフェム系などのβラクタム系では効果が及ばないために、本系が呼吸器感染症に好んで使用されます。

マクロライド系の最大の問題は、耐性菌の多さです。

長い間、家畜や養殖の餌に同系の抗生物質を混合していたために、自然界に耐性菌が大幅に増えました。

初期に汎用されていたエリスロマイシンは、今では耐性菌が増え過ぎて抗菌を目的に使用されなくなっています。(抗炎症作用があるので、びまん性汎細気管支炎に少量を継続投与します)

クラリスロマイシンは、耐性菌にもある程度の抵抗性を持ち、グラム陰性菌への抗菌スペクトルを拡大した薬で、マクロライド系の主流薬になっています。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌や、エイズに伴う日和見感染症にも使用される薬です。

アジスロマイシンは、抗菌力や抗菌スペクトルはクラリスロマイシンと同等で、極めて長い持続性を持つ薬です。1回の服用で一週間効果が持続する剤形もあります。(剤形によって使用方法が違います)服用し難い背景がある人や、服用を忘れる認知機能障害がある人には便利ではありますが、もしも副作用が出た場合は長期間苦しむ可能性もあります。

ジョサマイシンは古いタイプのマクロライド系ですが、比較的味が良くシロップ剤を小児に使用することがあります。

マクロライド系は基本的に苦味が強い薬で、小児用としてクラリスロマイシンのドライシロップやアジスロマイシン小児用細粒はありますが、味を調えるコーティング剤が取れると苦味が出ます。

大人でも敬遠する苦味ですので、ヨーグルトやアイスクリームに混ぜたり、ジュースに溶いて時間を置くと、コーティング剤が取れやすくなりますので注意が必要です。

また、この系はシトクロームの阻害による薬物相互作用が多い点にも注意が必要です。

なお、近年、マクロライド耐性マイコプラズマの増加が問題になっています。

他抗生物質

リンコマイシン系抗生物質

リボソーム50Sに結合して蛋白合成を阻害し、静菌作用を発現します。

マクロライド系と同じ作用機序であり、両者の間には交叉耐性が出現します。

グラム陽性菌・嫌気性菌・マイコプラズマに有効ですが、内服薬にはグラム陽性菌にしか効能はありません。

注射薬は上記全てに効能を持っていますが、主に使用されるのは他剤が効きにくい嫌気性菌に対してです。

肺への移行は良好で、白血球の貪食能亢進作用もあります。

リンコマイシン・クリンダマイシンがあり、ともに胆汁排泄型なので偽膜性腸炎を起こしやすく、筋弛緩作用がありますので重症筋無力症などの疾患では注意が必要です。

ホスホマイシン系抗生物質

ホスホマイシンのみのグループで、カルシウム塩が内服薬として、ナトリウム塩が注射薬・外用薬として使用されます。

細胞壁の合成阻害によって殺菌作用を発現しますが、βラクタム系とは作用部位が違い、交叉耐性は起こしません。

グラム陽性菌およびグラム陰性菌の一部に有効で、緑膿菌にも効能を持っています。(MICから判断すると、それほど強力な抗菌力ではありません)

特異な3員環構造をしており、分子量は200に満たない最も小さな抗生物質です。

蛋白質とは結合しないためにアレルゲンになりにくい特徴があります。

救命救急などのアレルギー歴を確認できない場合に使用されるケースが多いのですが、本剤のアレルギーが皆無というわけではありません。

ポリペプチド系抗生物質

コリスチン・ポリミキシンBとバシトラシンがこの系の薬なのですが、作用機序が共通していません。

コリスチンとポリミキシンBは界面活性作用による細胞質膜の傷害、バシトラシンは脱リン酸化反応の抑制で細胞壁の合成阻害で殺菌作用を発現します。

抗菌スペクトルにも違いがあり、コリスチン・ポリミキシンBはグラム陰性の桿菌、バシトラシンはグラム陽性菌のみです。

経口では吸収されず、腎障害や神経障害などの毒性が強い薬ですので、あまり使用されません。(特に、バシトラシンは外用でしか使用されません)

また、アミノグリコシド系と同じように筋弛緩作用もあります。

感染性腸炎には内服薬として使用されますが、その他には注射用蒸留水や生理食塩液に溶解したものを注入・噴霧・散布して使用します。

耐性が獲得されにくく他系の耐性菌にも有効であるため、コリスチンは多剤耐性緑膿菌やカルバペネム耐性腸球菌などの耐性菌に対する最終選択薬とされています。(正式な効能ではありません)

グリコペプチド系抗生物質

リン脂質に結合して細胞壁合成を阻害する薬で、殺菌作用があります。

MRSAに対して抗菌力を発揮することから、一時は「MRSAの特効薬」と称されていた薬です。(現在では、この系にさえ耐性を獲得した菌が増え、特効薬とは呼べない状況になっています)

抗菌スペクトルは、グラム陽性菌のみで、グラム陰性菌には効果がありません。

また、抗菌力は決して強い方ではなく、耐性を獲得していない菌であれば、ペニシリン系の方が抗菌力で勝ります。

アミノグリコシド系と同様に、腎障害・聴覚障害を起こす可能性があり、経口投与しても消化管から吸収されません。

安全域が狭い点や、様々な適応制限がある点にも注意が必要です。

バンコマイシンは最初はMRSA感染症にしか効能を有していませんでしたが、その後少し拡大され、メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)・ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やクロストリジウム・ディフィシルによる感染症に使用されるようになっています。

同系のテイコプラニンは、未だにMRSA感染症のみです。

クロラムフェニコール

ペニシリン・ストレプトマイシンに次ぎ、3番目に発見された抗生物質です。

リボソーム50Sに結合して蛋白合成を阻害し、静菌作用を発現します。

グラム陽性菌・陰性菌に有効ですが、骨髄障害による再生不良性貧血を起こす等の毒性が強く、ほとんど使われなくなりました。

新生児では薬を代謝できず、循環不全によって皮膚が灰色になるグレイ症候群を起こしますので、禁忌になっています。

コレラ菌などのビブリオ菌属にも有効なのですが、上記の問題があるために、致死的な状況にある場合にしか使用されません。

合成抗菌薬

今まで紹介してきた抗生物質は、微生物などの生物によって作られ、他の生物の生理活性に影響を与える物質でした。

合成抗菌薬とは、化学的に合成した物質の中で抗菌作用を持つものです。

サルファ剤

1932年、初の人工的な抗菌剤としてプロントジルが登場し、その後に様々な改良が加えられ、多くの薬が登場しました。

パラアミノ安息香酸と構造的に類似しており、その物質が葉酸の合成に関与しているために、葉酸合成を競合的に阻害することになります。

葉酸は核酸合成に必須な成分であるため、二次的にDNAやRNAの合成が阻害され、最終的に病原体の生育を抑制します。

人間は体内で葉酸合成することができませんので、薬の影響を直接受けることはありません。(厳密には、腸内細菌が産生する葉酸を少量ですが吸収していますので、食事からの摂取量が少ない場合には、影響することもあります)

作用は静菌的ですが、葉酸合成系がある全病原体に有効で、細菌・クラミジア・真菌・原虫にまで抗菌スペクトルがあります。

非常に汎用されたことにより耐性菌が増え、今では抗菌剤として使用されているのはST合剤しかありません。

ST合剤は、葉酸合成を阻害するスルファメトキサゾールと葉酸の活性化を抑制するトリメトプリムの合剤で、相乗作用で効果を高めた薬です。エイズなどで随伴する日和見感染症のニューモシスチス肺炎には第一選択される薬で、多剤耐性菌に対して有効な場合もあります。血液障害や発疹などを起こす場合があり、催奇形性があるために妊娠中には禁忌です。蛋白結合率が高いために、結合型となっている薬を遊離型にして作用を増強するケースや、CYPや尿細管分泌を介した相互作用を起こすケースが多く、併用薬の体内動態に注意が必要です。

リウマチおよびクローン病で登場したサラゾスルファピリジンもサルファ剤の一種ですが、抗菌作用とは無関係の抗炎症作用で使用されています。

ジアフェニルスルホンも広い意味ではサルファ剤の仲間で、ハンセン病の治療に使用されます。

キノロン系抗菌薬

ピリドンカルボン酸系とも呼ばれる合成抗菌剤です。

マラリアの治療に使用されていたクロロキンという薬を出発点とし、オールドキノロンと呼ばれるナリジクス酸やピペミド酸が合成されました。

グラム陰性桿菌には有効ですがグラム陽性菌には効果がない薬でしたが、サルファ剤のような使い難さが無かったために、市販薬としても使用されていた時代があります。

これらも耐性菌の増加で使用されなくなり、ピペミド酸が医療用として残っていますが、あまり使われてはいません。

オールドキノロンにフッ素を導入して作られたものがニューキノロンで、抗菌力が格段に強くなり抗菌スペクトルが広くなりました。(フッ素を導入したのでフルオロキノロンとも呼ばれます)

DNAジャイレースという二重螺旋を形成するのに必要な酵素を阻害し、殺菌作用を発現します。

原核生物のDNAジャイレースと真核生物のDNAジャイレースは種類が異なり、人間のDNAには作用しません。

抗菌スペクトルは、ウイルスを除く原核生物全般にまで広がり、オールドキノロンとは別種の薬になっています。

初期のニューキノロンは肺炎球菌に対する抗菌力が弱かったのですが、今ではその欠点も克服されています。

AUCは90以上で、内服薬でも注射薬に匹敵する吸収率の良さがあり、組織移行性も良好です。

抗菌力が強い・抗菌スペクトルが広い・他剤と交叉耐性がない、等の利点があるため、抗菌剤の中で最も使用されている薬になっています。

ただし、問題がないわけではなく、軟骨毒性があるために妊婦や小児には禁忌ですし、痙攣・低血糖・日光過敏・QT延長などの副作用が報告されています。

また、キレートを形成しやすい薬ですので、ミネラル成分を含む薬と併用する場合は、服用間隔を空ける必要があります。

濃度依存性薬なので、分割投与よりも単回投与が推奨されますが、以前に認可された薬では分割投与の効能しかないものもあります。

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