
発症の機序
糖尿病は尿に糖が出る疾患だと思っている人が多いようですが、正常な人でも一度に大量の糖を摂取した場合には、尿中に糖が出ることはあります。
食餌性尿糖と言うこの現象は、尿中排泄の仕組みを思い出せば理解できると思います。
尿糖はグルコース(ブドウ糖)で、分子量は180と小さいので、糸球体濾過によって大部分は尿中へ移動します。
しかし、糖は体に有益な物質ですので、尿細管再吸収によって回収されます。
尿細管再吸収が無限に処理できるのあれば尿中に糖は残りませんが、再吸収できる量にも限界があり、それ以上に尿中に出てしまった量は回収しきれないわけです。
糖尿病では血糖値が高い状態が続きますので、必然的に尿中への排泄量が増え、再吸収しきれない分が尿糖として排泄されます。
尿糖の排泄という現象は同じですが、糖尿病の根底には高血糖という状態があり、それを引き起こすのは血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌不足あるいは作用の減弱です。
インスリンは膵臓から分泌されて糖のコントロールを担うホルモンなので、糖尿病は腎臓の疾患ではなく膵臓の疾患です。
体内には、血糖を上げる作用を持つホルモンや伝達物質は多く存在するのですが、血糖を下げる作用を持つものはインスリンだけです。
これは、進化の途上において飢餓状態が常であったことによると考えられています。
糖尿病を引き起こすインスリンの異常には大きく分けて2種あり、Ⅰ型糖尿病・Ⅱ型糖尿病に区分されます。
Ⅰ型糖尿病は、膵臓β細胞の障害によってインスリン分泌が正常に機能しなくなって起こります。
遺伝的な素因によるケースが多く、小児期から発症しますので若年型糖尿病と呼ばれていた時期もありました。
しかし、薬が膵臓に障害を与えるて発症する場合や、成人型潜伏型自己免疫性糖尿病(LADA)は自己免疫がβ細胞を破壊して発症するもので、成人になってから発症するケースもあります。
Ⅱ型糖尿病は、インスリンの分泌量の不足や作用の減弱によって起こります。
Ⅰ型のようにインスリンの分泌過程に不調があるのではなく、糖の過剰摂取や運動不足によってインスリンの必要量が増え、通常の分泌量では足りなくなった状態です。
インスリン作用の減弱はインスリン抵抗性とも言い、組織においてインスリンに対する耐性化が起こった状態です。
Ⅰ型と比べて時間をかけて発症することが多いⅡ型は、若年型に対して成人型糖尿病と呼ばれていました。
今の日本は飽食ですので、Ⅱ型糖尿病が子供に発症するケースも増えつつあります。
症状
病名の由来ともなっている尿糖が出ることは上でも紹介しました。
糖が出る時には水も一緒に出ますので、尿量が増えて多尿や頻尿となりますし、その状態が継続すれば体内水分が減少して口渇を起こします。
糖の利用効率が低下して倦怠感が起こりますし、蛋白質や脂肪を利用してエネルギー不足を補う結果、ケトン体と呼ばれる物質が体内で増加します。
その状態が進行すれば、昏睡やケトアシドーシスを誘発します。
微小循環の障害も起こり、3大合併症と言われる網膜症・腎症・神経障害を引き起こします。
また、動脈硬化も進行しますので、狭心症などの虚血性心疾患や脳梗塞・閉塞性動脈硬化症を誘発するケースも多々あります。
傷の修復が遅くなることも有名です。
糖尿病が怖いのは、血糖値が高くても痛みや痒みがあるわけではないために悪化に気付き難く、全身的に難治性の疾患を引き起こすためです。
血糖コントロール目標と治療法
昔は血糖値を指標にしていましたが、食事によって1日の中でもかなり変動する値ですので、今ではHbA1cという値が指標にされます。
HbA1cとは、赤血球のヘモグロビンが糖と結合している割合を示す値で、1~2カ月間の血液中の糖の量を反映した数値です。
血糖正常化を目指す際の目標は6.0%未満で、合併症予防のための目標は7.0%未満とされています。
治療の基本は、摂取カロリーを減らす食事療法と、消費カロリーを増やす運動療法です。
それを実施しても目標に達しない場合は、薬物療法を加えることになります。
薬物療法では強制的に血糖を下げる薬を使用するケースが多く、低血糖というリスクが付きまといます。
低血糖は回復不能の障害を起こす場合や、死亡に至るケースもある重篤なもので、薬を強くすることはリスクの増加にもつながり、どこまでも強くすることはできません。
低血糖の危険性を考慮して、治療強化が困難な場合の目標は8.0%未満に設定されます。
また、高齢者においては、認知機能やADL(日常生活動作)の低下に応じて目標値を緩和します。
これも、服薬コンプライアンスの低下やインスリン注射の失敗などによる、低血糖の発生を避けるための対応です。
危険回避のための目標値緩和は、病状の軽快とは全く関係していませんので、アドヒアランスが重要です。