
血圧の基準値
高血圧症の診断基準は今まで何度も変更されてきました。
現在の基準で高血圧症とは、収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上の場合を言います。
ただし、この値は医師が正式な手法で計測した場合の基準であって、家庭において電子血圧計を用いて計測した場合は、5を減じて収縮期135mmHgまたは拡張期85mmHgが基準値になります。
「または」が付いていますので、仮に収縮期が130mmHgであったとしても、拡張期が90mmHgであれば、高血圧症に該当します。
正常血圧とは、収縮期120mmHg未満かつ拡張期80mmHg未満です。(こちらは「かつ」が付いていますので、両方が基準値内である必要があります)
高血圧の基準値と正常血圧の間の場合は、正常高値血圧と呼び、俗に言う境界領域にあたります。
心臓や腎臓の負担を考えれば、血圧は低い程よいのですが、あまりに低いと血液が十分に循環しません。
特に後期高齢者では、過度に血圧を下げることで認知機能の低下につながる恐れもあり、収縮期150mmHg未満でも可とされます。
尚、血圧は一般的に上腕で計測しますが、左右で若干違い、右腕では正常血圧・左腕では高血圧というケースもあります。
上腕ではなく、手首や指で計測する測定器もありますが、心臓から離れる程に精度は低下します。
特殊な高血圧
収縮期高血圧:拡張期は90mmHg未満であるのに収縮期が150mmHg以上
早朝高血圧:昼間は正常域だが、朝だけ高い
夜間高血圧:夜に血圧が下がらない(120mmHg以上/90mmHg以上)
白衣高血圧:診察時のみ高値となる
仮面高血圧:日常は高いのに診察時に高値を示さない
妊娠高血圧:妊娠20週~分娩後12週に高値を示す
血圧は運動や緊張などの要因を除外すれば、朝に上がり夜に下がるという周期があります。
朝に高くなる現象をモーニングサージと言い、これがないと目覚めが悪くなります。
逆に、夜に下がらないと寝つきが悪くなり、睡眠障害の原因にもなります。
妊娠高血圧症候群
妊娠20週から出産後12週に高血圧を起こす病態で、蛋白尿を併発することも少なくありません。
昔、妊娠中毒症という表現をされていた病態がありました。
こちらは、妊娠20週から出産後6週の期間で、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかがある場合の診断名です。
随伴症状の中で、高血圧が母体・胎児の傷害に強く関係していることが判明したために、妊娠中毒症から妊娠高血圧(症候群)に変更となりました。
子癇・HELLP症候群(溶血性貧血・肝逸脱酵素上昇・血小板減少)や胎盤剥離などの危険性があり、重症になると妊娠の中断が検討される場合があります。
多くの降圧剤は妊娠中に使用することができませんので、治療に難渋するケースも多いようです。
日本産婦人科学会が発表している妊娠中に推奨する降圧剤は次の4種のみです。
ヒドララジン・メチルドパ・ラベタロール:この3種は時期を問いません
ニフェジピン徐放錠:妊娠20週以後のみ
この中で正式な適応を有しているものはヒドララジンのみで、動物では催奇形性・人では新生児血小板減少の報告があり、100%安全とは言い難い部分があります。
緊急降圧には、ニカルジピンやニトログリセリンの静注も使用されます。
非薬物療法
高血圧症と診断されれば直ちに降圧剤を使用するわけではなく、まずは非薬物療法を実施します。
具体的には、以下の事項を組み合わせることで、血圧が正常域に戻るかを確認します。
- 食塩制限:1日6g以下
- 食事療法:カロリー量や栄養バランスの改善、アルコール制限
- 運動療法:適度な運動で適正体重の維持
- 禁煙
これらを実施しても血圧が高い場合に、薬物療法をすることになります。
血圧に影響する要因
血圧は心拍出量と末梢血管抵抗によって変動します。
心拍出量に影響を与えている要因は、血液量・心拍数・心収縮力です。
末梢血管抵抗に影響を与えている要因は、アンギオテンシンⅡ濃度・血管平滑筋緊張度です。
よって、これらの要因に作用する薬は、血圧を変動させることになります。
利尿薬=血液量を減らす
β遮断薬=心拍数・心収縮力を下げる
ACE阻害薬・AⅡ阻害薬=アンギオテンシン濃度を下げる
α遮断薬・Ca拮抗薬=血管平滑筋緊張度を下げる
また、体内には血圧が下がった場合に戻そうとする血圧調節機構もあります。
動脈圧受容器反射:交感神経が緊張してノルアドレナリンの放出を増やす
腎圧受容器反射:レニン分泌→アンギオテンシン増加→アルドステロン分泌
降圧剤で血圧を下げても、これらの血圧調整機構で戻そうとするため、安定するまでには少し時間が必要になります。
高血圧症の大部分は、原因が明確ではない本態性高血圧と呼ばれるもので、降圧剤が根本治療になるわけではありません。
あくまで、高すぎる血圧を下げることによって、悪影響が他に及ばないようにしている治療です。