イラスト1

漢方をもっと身近に

西洋薬と東洋薬のハイブリットにより、
より効果的で安全な治療を。

血圧関連項目

イラスト2

血圧の基準値

高血圧症の診断基準は今まで何度も変更されてきました。

現在の基準で高血圧症とは、収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上の場合を言います。

ただし、この値は医師が正式な手法で計測した場合の基準であって、家庭において電子血圧計を用いて計測した場合は、5を減じて収縮期135mmHgまたは拡張期85mmHgが基準値になります。

「または」が付いていますので、仮に収縮期が130mmHgであったとしても、拡張期が90mmHgであれば、高血圧症に該当します。

正常血圧とは、収縮期120mmHg未満かつ拡張期80mmHg未満です。(こちらは「かつ」が付いていますので、両方が基準値内である必要があります)

高血圧の基準値と正常血圧の間の場合は、正常高値血圧と呼び、俗に言う境界領域にあたります。

心臓や腎臓の負担を考えれば、血圧は低い程よいのですが、あまりに低いと血液が十分に循環しません。

特に後期高齢者では、過度に血圧を下げることで認知機能の低下につながる恐れもあり、収縮期150mmHg未満でも可とされます。

尚、血圧は一般的に上腕で計測しますが、左右で若干違い、右腕では正常血圧・左腕では高血圧というケースもあります。

上腕ではなく、手首や指で計測する測定器もありますが、心臓から離れる程に精度は低下します。

特殊な高血圧

収縮期高血圧:拡張期は90mmHg未満であるのに収縮期が150mmHg以上

早朝高血圧:昼間は正常域だが、朝だけ高い

夜間高血圧:夜に血圧が下がらない(120mmHg以上/90mmHg以上)

白衣高血圧:診察時のみ高値となる

仮面高血圧:日常は高いのに診察時に高値を示さない

妊娠高血圧:妊娠20週~分娩後12週に高値を示す

血圧は運動や緊張などの要因を除外すれば、朝に上がり夜に下がるという周期があります。

朝に高くなる現象をモーニングサージと言い、これがないと目覚めが悪くなります。

逆に、夜に下がらないと寝つきが悪くなり、睡眠障害の原因にもなります。


妊娠高血圧症候群

妊娠20週から出産後12週に高血圧を起こす病態で、蛋白尿を併発することも少なくありません。

昔、妊娠中毒症という表現をされていた病態がありました。

こちらは、妊娠20週から出産後6週の期間で、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかがある場合の診断名です。

随伴症状の中で、高血圧が母体・胎児の傷害に強く関係していることが判明したために、妊娠中毒症から妊娠高血圧(症候群)に変更となりました。

子癇・HELLP症候群(溶血性貧血・肝逸脱酵素上昇・血小板減少)や胎盤剥離などの危険性があり、重症になると妊娠の中断が検討される場合があります。

多くの降圧剤は妊娠中に使用することができませんので、治療に難渋するケースも多いようです。

日本産婦人科学会が発表している妊娠中に推奨する降圧剤は次の4種のみです。

ヒドララジン・メチルドパ・ラベタロール:この3種は時期を問いません

ニフェジピン徐放錠:妊娠20週以後のみ

この中で正式な適応を有しているものはヒドララジンのみで、動物では催奇形性・人では新生児血小板減少の報告があり、100%安全とは言い難い部分があります。

緊急降圧には、ニカルジピンやニトログリセリンの静注も使用されます。


非薬物療法

高血圧症と診断されれば直ちに降圧剤を使用するわけではなく、まずは非薬物療法を実施します。

具体的には、以下の事項を組み合わせることで、血圧が正常域に戻るかを確認します。

  • 食塩制限:1日6g以下
  • 食事療法:カロリー量や栄養バランスの改善、アルコール制限
  • 運動療法:適度な運動で適正体重の維持
  • 禁煙

これらを実施しても血圧が高い場合に、薬物療法をすることになります。

血圧に影響する要因

血圧は心拍出量と末梢血管抵抗によって変動します。

心拍出量に影響を与えている要因は、血液量・心拍数・心収縮力です。

末梢血管抵抗に影響を与えている要因は、アンギオテンシンⅡ濃度・血管平滑筋緊張度です。

よって、これらの要因に作用する薬は、血圧を変動させることになります。

利尿薬=血液量を減らす

β遮断薬=心拍数・心収縮力を下げる

ACE阻害薬・AⅡ阻害薬=アンギオテンシン濃度を下げる

α遮断薬・Ca拮抗薬=血管平滑筋緊張度を下げる

また、体内には血圧が下がった場合に戻そうとする血圧調節機構もあります。

動脈圧受容器反射:交感神経が緊張してノルアドレナリンの放出を増やす

腎圧受容器反射:レニン分泌→アンギオテンシン増加→アルドステロン分泌

降圧剤で血圧を下げても、これらの血圧調整機構で戻そうとするため、安定するまでには少し時間が必要になります。

高血圧症の大部分は、原因が明確ではない本態性高血圧と呼ばれるもので、降圧剤が根本治療になるわけではありません。

あくまで、高すぎる血圧を下げることによって、悪影響が他に及ばないようにしている治療です。

高血圧以外の心疾患

狭心症

心筋の機能維持に必要な栄養や酸素を送る冠状動脈が、狭窄や攣縮することで心筋への酸素供給が不足して起こる疾患です。

主症状は、狭心症発作と呼ばれる胸骨下や上腹部に圧迫感を伴う痛みです。

運動時のみに発作を起こす労作性狭心症や、安静時にも発作が起こる安静狭心症に分類されます。

また、原因別に、器質性狭心症(動脈硬化やアテロームなどによる狭窄)・異形狭心症(冠状動脈の攣縮)・冠血栓性狭心症(冠状動脈での血栓形成)という分類もあります。

進行すると心筋梗塞や心室細動を誘発するケースが少なくありません。

狭心症は分類によるタイプが違っても使用する薬はほぼ同じです。

心不全

心臓のポンプ機能が低下して、必要な血液量を駆出できなくなる疾患です。

血液の送り出しが遅れるので、静脈圧が高くなり、血液内の水分などが組織間隙に滲み出していきます。

これによって起こるむくみが、血圧調節機構を刺激することになって、更に病変を進めます。

うっ血性心不全は、アルドステロンの分泌によってナトリウム・水の貯留が起こり、それが心負担を増大させることで浮腫を増悪させます。

肺にまで浮腫が及ぶと呼吸困難も併発することになります。

慢性心不全は、心筋の疲弊から心室リモデリング(心室肥大や心筋の繊維化)が起こった状態です。

心不全では重症度によって使用する薬が違います。

不整脈

脈は心筋が順序通りに正しいリズムで収縮することで形成されています。

この動きを調節しているのが刺激伝達系と呼ばれる心臓独特の神経系です。

脈の開始となる刺激を生む部位は洞房結節なのですが、それ以外の部位で心筋が異常な興奮を起こすと、その刺激が別の脈を生むことになります。

また、刺激伝導経路の途中で短絡や遅れが起こると、調整が狂って脈のペースが乱れます。

不整脈は脈が少なくなる徐脈性と脈が多くなる頻脈性に分けられ、どちらのタイプかによって治療法が全く違います。

徐脈性は薬物療法をするケースは少なく、重症ではペースメーカ埋込が一般的な治療法になります。

頻脈性も軽症では薬を使用せずに経過観察をすることが多く、薬を使う場合でも分類によって使用する薬が違います

利尿薬

イラスト2

利尿薬は尿の排泄を促進する薬で、循環水分量を減少させることから、心拍出量が減少して降圧の方向に作用します。

ただし、血液中の水分量は体内水分量の10%にも満たず、減少しても組織間液や細胞内液から補充されますので、あまり大きな変化はありません。

むしろ、補充元の水分を減らすことは浮腫の改善につながり、二次的に心負担を軽減する作用の方が重要です。

心疾患以外にも広く使用される薬ですが、まとめて紹介しておきます。

利尿薬の作用部位

尿を作りだす経路を細分すると、次のような順になります。

糸球体→①近位尿細管→②ヘンレループ→③遠位尿細管→④集合管

  • ①で作用=炭酸脱水酵素阻害薬
  • ①-②間で作用=浸透圧型利尿薬
  • ②で作用=ループ系利尿薬
  • ③で作用=サイアザイド系利尿薬
  • ④で作用=アルドステロン拮抗薬、K保持型利尿薬、抗利尿ホルモン拮抗薬

浸透圧型利尿薬と抗利尿ホルモン拮抗薬には当てはまりませんが、水はナトリウム(Na)と一緒に動きますので、利尿薬はNaを尿中に移動させる薬でもあります。

炭酸脱水酵素阻害薬

炭酸脱水酵素とは、炭酸(H2CO3)から水(H2O)を抜く反応を進める酵素で、その働きを化学式で表記すればH2CO3→CO2+H2Oとなります。

ただし、この矢印方向だけを促進するのではなく、反対の方向も促進します。

炭酸は体内でイオン化していますので、それも含めて表記すれば、H++HCO3-⇔H2CO3⇔CO2+H2Oという反応を促進する酵素だと言えます。

尿細管細胞で生じるH+が、尿中のNa+と入れ替わることで再吸収が起こりますが、この酵素が阻害されるとH+の量が減りますので、Na+と入れ替わることができずに再吸収が抑制されます。

また、尿中のHCO3-はCO2に変換されず、尿細管細胞内に移動できないために、HCO3-の排泄も増えることになります。

尿中のNaが動かないので水も動かず、尿中に留まるのが利尿の機序ですが、それ程強い作用ではないために、利尿薬としての使用は多くありません。

尿中のH+減少HCO3-増加は尿のアルカリ化をもたらし、この目的での使用の方が多いかもしれません。

尿のアルカリ化によって体内は酸性(代謝性アシドーシス)となり、体は酸性を是正するために呼吸によってCO2放出をしようと呼吸を促進させます。

この作用を利用して、睡眠時無呼吸症候群の治療や高山病の予防に使用します。(高山病への使用は適応外使用です)

炭酸脱水酵素は眼の房水産生にも関与しており、阻害薬は房水産生を抑制して眼圧を下げますので、緑内障の治療にも使用します。

脳のCO2を局所的に増加させて異常興奮を抑制する目的でてんかん治療へ、内耳リンパの流れを促進することでメニエル病にも使用される場合があります。

内服薬の代表はアセタゾラミドで、緑内障用の点眼薬ではドルゾラミド・ブリンゾラミドなどがあります。

浸透圧型利尿薬

半透膜を介して水は低張から高張へ移動するという浸透圧効果を利用した薬で、尿細管腔を高張にすることで血液中の水を尿細管へ移動させる薬です。

ただし、高張液は組織に負担をかけますので、利尿目的よりも脳圧や眼圧を下げる時に使用されます。

D-マンニトールやイソソルビドがこの分類の薬です。

ループ系利尿薬

純粋な利尿目的で使用されるのはループ系利尿薬が最多です。

ヘンレループにおいてNa+・Cl-の再吸収の抑制およびK+が分泌され、利尿作用を発現します。

利尿作用は強力で、浮腫の改善や心臓の前負荷軽減によく使用されます。

血圧も降下させますが、それ程顕著な作用ではないために、高血圧症に使用するケースは多くありません。

強い利尿作用は良い点ばかりでなく悪い点もあり、尿酸値や血糖値の上昇・脱水・電解質異常(特にNa・Kの減少)を起こしやすいので注意が必要です。

腎血流量を低下させないので腎臓への負担が少なく、糸球体濾過量が減少しないので腎機能障害時でも使用できる点も、汎用される大きな理由です。

代表薬はフロセミドです。

サイアザイド系利尿薬

サイアザイドはドイツ語みで、英語読みでチアジドとも呼ばれます。

遠位尿細管においてNa+とCl-の再吸収を抑制することで利尿作用を発揮します。(利尿作用はループ系よりも穏やかですが、電解質異常には同様の注意が必要です)

この系には血管平滑筋弛緩作用があり、循環水分量の減少とダブルで血圧降下に作用しますので、降圧を目的として使用されることが多い薬です。(他の血圧降下薬に少量配合して使用されるケースが多いです)

特に、食塩制限が遵守できない高血圧患者には、Naの排泄を促進させる意味を含めて適した薬です。

また、尿中へのCa排泄を抑制させる作用がありますので、尿路結石の予防や低Ca血症の治療にも使用します。

ただし、腎機能に障害がある場合には効果が弱くなるばかりでなく、腎血流量が減少して腎への負担が増す可能性があります。

ヒドロクロロチアジドやトリクロルメチアジドがこの分類薬です。

K保持型利尿薬

NaとKの交感系を抑制することで、Naの再吸収を抑制してKの排泄を抑制する薬です。

利尿作用は強くありませんが、Kの排泄を抑制することが大きな特徴で、Kが減少する可能性のある薬と併用するケースが多いです。(高K血症には注意が必要になります)

アルドステロン拮抗薬も同様の作用を持っていますが、トリアムテレンは副腎を切除した例にも利尿作用を発現することから、分類上は別に扱われます。

腎結石に禁忌で、腎血流量を減少させますので腎障害にも注意が必要です。

アルドステロン拮抗薬

副腎から分泌される鉱質ホルモンのアルドステロンに拮抗作用がある薬で、利尿作用はK保持型と同様の機序で発現します。(よって、高K血症に注意を要します)

スピロノラクトンには女性ホルモン様作用もありましたので、女性化乳房や生理不順を誘発するケースがありましたが、エプレレノン・エサキセレノンはアルドステロン受容体への選択性が高く、ホルモン作用は少なくなっています。

肝硬変やネフローゼ症候群ではアルドステロンが増加することが多く、それらの疾患で利尿を要する場合には適しています。

抗利尿ホルモン拮抗薬

バソプレシン受容体拮抗薬とも呼ばれます。

尿管からの水再吸収のみを抑制する薬で、Na・Kなどの電解質の再吸収や分泌には影響しません。

非常に強力な利尿作用があり、脱水や高Na血症に注意が必要です。

新しい薬で薬価も高いことから、適応症は心不全や肝硬変による浮腫などに限定されています。

トルバプタン・モザバプタンがあります。

心疾患に使用する交感神経抑制薬

β遮断薬

β受容体に結合して刺激伝達を抑制する薬で、心収縮力や心拍数を低下させます。

交感神経の過剰緊張によって上がっていた血圧が下降しますので、頻脈を伴う高血圧症に使用します。(脈を遅くしますので、徐脈の場合は使用しません)

心臓の仕事量が減少しますので、心筋の酸素消費量も減少することになり、労作性狭心症の発作予防にも有効です。

また、β受容体の抑制は、心筋細胞の過敏状態を緩和しますので、異常興奮によって誘発される不整脈の治療にも使用されます。

薬理学から見た適応は広いのですが、単独で治療が完結する程の効果はなく、どちらかと言うと補助的な使用の方が多いようです。

心臓の機能を抑えるように作用するわけですから、心不全には禁忌に近い薬なのですが、治療ではなく心負担を軽減して少しでも機能を維持させるために少量を使用するケースもあります。(用量設定が難しいので、専門医の判断が必要です)

β遮断薬には気管支収縮・末梢循環障害・脂質代謝異常・耐糖能低下などを誘発する可能性がありますので、これらの作用が増悪要因となる喘息や糖尿病などの基礎疾患がある者には使用を控えます。

注意する事項の大部分はβ2受容体遮断によるもので、β1受容体に選択性が高い場合は発現の可能性は低いです。

しかし、β1選択性がありましても発現の可能性は0ではありませんので、他に選択する薬がある場合は一般に使用しません。

代表薬として、プロプラノロール・アテノロール・ビソプロロールなどがあります。

α1遮断薬

α1受容体に結合して刺激伝達を抑制する薬で、末梢血管が拡張しますので、高血圧症の治療に使用します。

血管拡張により各臓器への血流が低下する心配がありませんので、基礎疾患がある者にも使いやすい薬です。

しかし、起立性低血圧や転倒(めまい・ふらつき)を起こす可能性があり、尿路平滑筋を弛緩する作用も持ちますので、力んだ場合に尿漏れを起こす場合があります。(前立腺肥大などによる排尿障害がある場合には利点になります)

アドレナリンとの併用は、αの遮断でβ優位となって低血圧を誘発するために禁忌です。

プラゾシン・ブナゾシンなどがありますが、血管拡張を目的とする場合はCa拮抗薬を選択することが多く、メインとして使用するケースはあまりありません。

αβ遮断薬

α受容体の遮断作用も持つβ遮断薬で、末梢血管拡張+心抑制のダブル効果と、β遮断による代償的α作用亢進を抑制しますので、降圧には効果的です。

脂質代謝や末梢循環に及ぼす悪影響は少ないのですが、α遮断薬・β遮断薬の両方の欠点に注意が必要です。

ラベタロール・アロチノロールは高血圧症に使用され、カルベジロールは慢性心不全における心負担軽減に使用されます。

中枢性交感神経抑制薬

血管運動中枢のα2受容体を刺激することで、ノルアドレナリンの分泌を抑制して血圧を降下させます。

臓器や代謝系への悪影響は少ないのですが、眠気などの中枢神経症状を起こす場合があります。

また、腎系の血圧調節機構が刺激されて、水やNaの貯留を起こす可能性があります。

クロニジンやメチルドパは、妊娠高血圧症などの他剤が使用できない場合に選択されます。

末梢性交感神経抑制薬

神経終末の貯蔵カテコールアミンを枯渇させる薬で、交感神経機能が全般的に抑制されます。

降圧効果は良いのですが、うつやパーキンソン症候群などを誘発・増悪させる可能性があり、他に使用できる薬がある場合は使用しません。

レセルピンやグアネチジンがあります。

血管拡張薬

イラスト4

カルシウム拮抗薬

血管平滑筋および心筋のCaチャンネルを遮断する薬で、血管収縮や房室伝導を抑制します。

名前からのイメージで、カルシウムを含む食品などと併用できないと勘違いしている人も多いようですが、物質としてのカルシウムとは関係ありません。

血管拡張によって強力な降圧作用がありますので、高血圧症によく使用される薬です。

カルシウム拮抗薬はジヒドロピリジン(DHP)系と非DHP系に大別されますが、高血圧症には血管選択性が高いDHP系が使用されます。

冠状動脈も拡張しますので、心筋への酸素供給量が増えますし、末梢血管拡張によって血管抵抗が下がることで心臓の後負荷が軽減しますので、狭心症治療にもよく使われます。

冠状動脈の攣縮を抑制する作用もあり、異形狭心症にも有効です。

心筋のCaチャンネル抑制は、上室性(心室以外)の期外収縮や頻拍を抑制しますので、不整脈の治療にも使用されます。

ただし、DHP系は代償性の交感神経刺激を起こしますので不整脈には適さず、非DHP系を使用します。

現在、日本で流通している非DHP系はジルチアゼム・ベラパミル・ベプリジンの3種のみで、これ以外は全てDHP系です。

組織血流や代謝系に悪影響がないために、臓器障害や基礎疾患がある場合にも使いやすく、高齢者にも適していますので、心疾患の治療には中核的な位置にあります。

ただし、欠点がないわけではなく、血管拡張によって顔面の紅潮・血管性頭痛の誘発・下肢浮腫・頻尿などを起こす可能性があり、胸焼けや歯肉肥厚なども報告されています。

心原性ショック・急性心筋梗塞・房室ブロックには禁忌です。

妊婦・授乳婦にも禁忌なのですが、ニフェジピン徐放錠は妊娠20週以後の妊娠高血圧症に使用が可能になりました。(適応取得ではなく、産婦人科学会の推奨です)

末梢血管拡張薬

血管拡張に働く末梢部位を刺激したり、血管収縮を起こす体内物質を阻害して、血管を拡張させる薬です。

主に、肺高血圧症や末梢循環障害などに使用されます。

肺高血圧症とは、肺動脈の内径が狭くなって圧が高まる疾患で、右心室に負担がかかり全身の血液循環が低下します。

プロスタグランジン製剤

プロスタグランジンには多くのサブタイプがあり、PG-E1やPG-E2には血管拡張作用と血小板凝集抑制作用があります。血流改善の効果に優れますので、肺高血圧症や慢性動脈閉塞疾患などに使用されます。子宮収縮作用がありますので、妊娠中には禁忌です。

エンドセリン受容体拮抗薬

エンドセリンには強力な血管収縮作用があり、その作用を阻害することで血管を拡張します。肺高血圧症に使用され、動物において催奇形性が報告されていますのでこの薬も妊娠中は禁忌です。

ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE-5阻害薬)

NO作動性神経を刺激することで、血管や膀胱の平滑筋を弛緩させます。血管平滑筋の弛緩作用により、肺高血圧症だけでなく勃起不全(ED)にも使用されます。(膀胱平滑筋の弛緩作用は、前立腺肥大による排尿障害の改善に使用します)ニトログリセリンなどの硝酸製剤と併用すると、血管が著しく拡張して低血圧から死亡に至る場合もあり、併用は禁忌です。

グアニル酸シクラーゼ刺激薬

血管拡張作用があるc-GMPの産生を促進する薬で、肺高血圧症に使用します。作用機序は少し異なるのですが、PDE-5阻害薬もc-GMPに関与していますので、併用は禁忌です。

ニコチン酸誘導体

弱い血管拡張作用を持つ薬で、安全性が高く使用上の注意もないので、しもやけなどの末梢循環障害に使用されます。

直接作用型血管拡張薬

血管平滑筋に直接作用して拡張する薬で、高血圧症に使用します。

反射性の心拍数増加や代償性の水・Na貯留により、心臓負担が増大する可能性があるために、使用頻度は多くありません。

ヒドララジンは妊娠高血圧症に唯一適応を持つ薬ですが、動物での催奇形性や人での新生児血小板減少の報告があります。

レニン・アンギオテンシン系阻害薬

イラスト4

レニン・アンジオテンシン系(RA系)とは

海で生活していた生物が陸に上がり、Naや水を再利用することで無駄にしないように発達したシステムと考えられています。

生理学的な役割で言えば、Naおよび水分の喪失によって循環血液量が減少し、その影響で臓器が機能不全に陥るのを防ぐための機能です。

この働きを担う体内物質がアンジオテンシンⅡで、次の順で活性化されます。

アンジオテンシノゲン→アンジオテンシンⅠ→アンジオテンシンⅡ

最初の変換に関与する酵素がレニンで、2番目の変換に関与する酵素がACE(アンジオテンシン変換酵素)です。

なお、アンジオテンシノゲンとアンジオテンシンⅠは、ほとんど薬理作用をもっていません。

アンジオテンシンⅡは、血管の緊張度を上げる+交感神経系を刺激して心拍出量を増加することで血圧を維持(上昇)させます。

また、脳下垂体から抗利尿ホルモンの分泌を促進し、副腎からアルドステロンの分泌を促進しますので、尿細管における水・Naの再吸収を促進し、Kの再吸収を抑制します。

よって、アルドステロンまでを含めてレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)とも呼ばれます。

心筋や血管細胞の増殖を促進する作用もあります。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

アンジオテンシンⅠからⅡへの変換を阻害する薬で、結果的に血管収縮・水分貯留・血管肥厚などを抑制することになります。

降圧作用で高血圧症に、心臓の前・後負荷軽減と心筋リモデリングの抑制で心不全に重要な治療薬です。

また、インスリン抵抗性改善作用があるとされ、糖尿病がある人に選択されることが多いです。

糸球体内圧を低下させることで腎保護作用があるとされていましたが、最近の報告では懐疑的です。

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB、AⅡ阻害薬)

アンジオテンシンⅡを競合拮抗する薬で、作用や用途はACE阻害薬とほぼ同じです。

最大の違いは、ACEを阻害することの悪影響がないことです。

腎保護作用はACE阻害薬よりも弱いとされています。(この作用はAⅡ阻害薬でも懐疑的になっています)

国際的には安価なACE阻害薬の使用が多いのですが、日本ではこちらの使用量の方が圧倒的に多いです。

レニン阻害薬

ACE阻害薬やAⅡ阻害薬を長期使用しているとレニンの産生量が上がり、降圧効果が低下してくることから開発された薬です。

最初の変換に関与する酵素のレニンを阻害する薬で、血中アンギオテンシンの濃度を上げないことが特徴ですが、効果の上での違いはほとんどありません。

適応症は高血圧症のみで、脳梗塞・腎障害・低血圧などの副作用報告が多く、使用を推奨されない薬になっています。

この系統薬の共通点

レニン・アンギオテンシン系そのものがNaを無駄にしないためのシステムで、少ない食塩摂取に対応したものです。

よって、食塩摂取が多い状況では十分に機能しませんので、この系を阻害しても効果が得にくくなります。

食塩制限が不十分な人に使用する場合は、サイアザイド系利尿薬を併用するなどの対応が必要になります。

他の重要事項としては、胎児死亡例が報告されており、妊娠中に禁忌とされています。

また、アルドステロンの作用を抑制することでKの排泄が少なくなり、高K血症に注意が必要です。


キニン・カリクレイン系との関係

キニン・カリクレイン系は、ブラジキニンという炎症や痛みに関係する体内物質を活性・不活化する機構です。

キニノーゲン→ブラジキニン→不活化蛋白 の前部の活性化に関与する酵素がカリクレインで、後部の不活化に関与する酵素がキニナーゼです。

キニナーゼにはⅠとⅡが存在し、キニナーゼⅡはACEと同一酵素です。

よって、ACE阻害薬はキニナーゼⅡも阻害していることになり、ブラジキニンの不活化を抑制するために、空咳や血管浮腫を誘発する可能性があります。(化学構造によって誘発のしやすさに差があります)

この空咳を、誤嚥性肺炎の防止に応用するケースがあります。

Copyright(c) 2024 tahara kanpou. All Rights Reserved. Design by http://f-tpl.com