作用機序と問題点
通常使用される痛み止めの大部分は、非ステロイド系抗炎症薬に分類されます。
(略して非ス薬やエヌセイズとも呼ばれます)
作用は、シクロオキシゲナーゼ(COX)という炎症に関連する酵素を阻害することで、炎症反応(アラキドン酸カスケード)を途中段階でブロックします。
つまり、プロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX)の産生が抑制されますので、それらの成分が引き起こす炎症症状を軽減することになります。
しかし、PGやTXは不利益な作用だけではなく有益な作用も持っていますので、産生抑制が好ましくない影響を及ぼすこともあります。
PGには、胃粘膜の防御因子を強化する働きや、腎血流量を維持する働きがあり、産生抑制によって胃腸障害や腎障害を起こす可能性が高まります。
TXには血液凝固を促進する働きがあり、産生抑制によって出血を起こしやすくなります。
また、アラキドン酸がロイコトリエン(LT)に変換される割合が増え、この成分が持つ気管支収縮作用によって、喘息発作を誘発する可能性も高まります。(アスピリン喘息と呼ばれる副作用です)
オータコイドに関連しない問題点もあります。
胎児の動脈管が早期に閉鎖したり、子宮中の羊水が減少を起こす場合がありますので、妊娠末期には禁忌とされます。
ライ症候群という一種の脳症を誘発する場合があり、その発症例は小児に集中していることから、15歳未満には使用注意とされます。(現実には、特別な場合以外は小児に使用しません)
改良・副作用防止対策
上記の問題点を少しでも軽減するために、製剤学的な工夫が成されてきました。
胃腸障害の軽減を図って、プロドラックにしたり、坐薬や経皮投与薬にして胃腸を経由しない剤形にしたものがあります。
服用回数を減らし、血中濃度の急激な上昇を抑えるために、徐放性製剤にしたものもあります。
半減期が長く効果が持続する成分の開発も、同じ理由です。
しかし、これらの対策は胃腸を通過する時の直接的な傷害を軽減するだけで、PGの産生抑制による胃腸障害を防ぐことはできません。
COXの研究から、COX1とCOX2が存在していることが判明しました。(COX3も脳に存在しています)
COX1は生体機能維持のために常時発現している酵素で、COX2は炎症の刺激を受けた時に発現する酵素です。
COX1を阻害せずにCOX2だけを阻害する薬があれば、有害作用が少ない抗炎症薬になると予想され、COX2選択阻害薬の開発が進みました。
COX2の阻害効果はPGに強く・TXに弱いことから、想定されていたような理想的な抗炎症薬にはなっていませんが、新しい選択肢にはなっています。
主な薬剤
NSAIDsには非常に多くの種類があり、全てを紹介することは不可能でありあまり意味がありませんので、代表的な薬を紹介します。
アスピリン
サリチル酸系で、最初に合成された薬としても有名です。市販薬のバファリンAは胃粘膜保護成分のダイアルミネートと結合させたもので、鎮痛・解熱に使用されます。医療用でのアスピリンは主に血漿板凝集抑制による血流促進の目的で使用されます。他のNSAIDsとは違い、COXを非可逆的に阻害します。血小板は核を持たない組織であるために、一度阻害されるとCOXの再生ができずに最後まで効果が続きます。ただし、高用量(鎮痛・解熱に使用する量)では、血管内皮細胞のCOXまで阻害されて、PGの産生が減少します。PGにも血小板凝集を抑制する作用があり、その作用が弱まることで効果が減弱してしまいます。量を増やすと効果が減弱するので、この現象をアスピリンジレンマと呼びます。この理由により、血小板凝集抑制では少量を継続的に使用します。
ロキソプロフェン
プロピオン酸系で、解熱・鎮痛・抗炎症の作用を平均して持ち、胃腸障害は比較的少ない系統です。プロドラックであり、吸収後に代謝を受けて効果を発揮します。現在、最も使われている鎮痛薬です。(イブプロフェンやケトプロフェンなど、この系統の薬は非常に種類が多いです)
メフェナム酸
アントラニル酢酸系で、比較的強い鎮痛作用を持ち、昭和後期には最も汎用されていた薬です。インフルエンザ脳症との関連が疑われてから使用量が激減しました。
インドメタシン
インドール酢酸系で、解熱・鎮痛・抗炎症作用が強いですが、胃腸障害も強い薬です。今では内服薬として使用するよりも、主に坐薬や外用薬として使用されます。市販薬のバンテリンがこの成分です。
ジクロフェナク
フェニル酢酸系で、インドメタシンと同程度の作用を持ちながら胃腸傷害は比較的少ない薬です。ロキソプロフェンの登場前には最も使われていた薬です。スイッチOTC薬として、市販薬でも配合している薬があります。
エトドラク
ピラノ酢酸系で、COX2選択性があり、解熱・鎮痛・抗炎症のバランスが良い薬です。COX2選択性がある薬に共通して、胃腸に対する悪影響は少ないのですが、TXへの阻害作用が弱いために鎮痛や抗炎症作用は穏やかになります。
メロキシカム
オキシカム系で、解熱・鎮痛・抗炎症作用が強く、作用時間が長いので1日1回服用です。COX1よりCOX2を3倍以上強く阻害し、弱いながらCOX2選択性があります。胃腸や腎への有害作用は少ないですが、蓄積に注意が必要です。整形外科領域の慢性疼痛疾患に対してよく使われる薬です。
セレコキシブ
コキシブ系で、COX2選択性が高く、COX2選択阻害薬です。ロキソプロフェンと同程度の鎮痛・抗炎症作用をもち、胃腸障害は極めて少ない薬です。ただし、血液凝固を抑制するPGを減らし、血液凝固を促進するTXをあまり抑制しないので、血液凝固を促進することになり、血栓塞栓のリスクがあると警告が出されました。
塩基性抗炎症薬
チアラミドはNSAIDsではないのですが、鎮痛・抗炎症作用を持つ薬です。
NSAIDsは大部分が酸性の薬剤(セレコキシブのみ中性)なので、それと対比して塩基性抗炎症薬と呼ばれます。
COXの阻害作用はほとんどなく、詳しい作用機序は分かっていません。
作用・有害作用とも弱く、NSAIDsが使用できない場合に選択されます。(消化性潰瘍・血液障害・肝障害・腎障害・アスピリン喘息には同じく禁忌です)
解熱・鎮痛薬
解熱・鎮痛作用はあるが抗炎症作用がない薬で、こちらもNSAIDsには分類されません。
体温中枢に作用して熱放散を促進させる+痛覚感受性を低下させることで効果を発現すると考えられています。
(一時期、脳内のCOX3を阻害すると説明されていましたが、作用が合致しないために否定されました)
アセトアミノフェン
アスピリンと同等の解熱・鎮痛作用を持つ薬で、小児に対する安全性が比較的高いために、15歳未満への第一選択薬となっています。ただし、代謝物によって肝障害を起こす可能性があり、飲酒をする者に影響が大きいとされますので、大人に継続使用する場合には注意が必要です。小児によく使う薬が安全な薬とは限らないという典型的な例です。
ピラゾロン系(ピリン系)
作用は強力なのですが、ピリン疹と呼ばれる特有の皮膚アレルギー症状や、造血障害を起こす場合があり、広く使われることはありません。アミノピリンは内服すると胃内でニトロソ化合物を生成し、発癌性を発現するために注射でのみ使用します。内服ではイソプロピルアンチピリンのみが使用されます。(なお、アスピリンは名前が似ていますがピリン系ではありません)
疼痛における鎮痛薬選択順序
疼痛は侵害受容体性疼痛と神経障害性疼痛に区分されます。
神経障害性疼痛は通常の解熱鎮痛剤が効かない痛みで、鎮痛補助薬を第一選択にします。
麻薬性鎮痛薬で紹介済なので、そちらを参照してください。
他の炎症関連薬
炎症性のオータコイドが関係する薬が他にもあります。
トロンボキサンA2合成酵素阻害薬
気管支平滑筋の収縮を抑制しますので、内服で気管支喘息に使用します。また、血小板の凝集を抑制しますので、注射で脳血管疾患に使用します。
トロンボキサンA2受容体拮抗薬
気道過敏性亢進・血管透過性亢進・炎症細胞浸潤などに働くTXの作用を阻害しますので、気管支喘息やアレルギー性鼻炎に使用します。
ロイコトリエン受容体拮抗薬
気管支収縮・気道過敏性亢進・血管透過性亢進・白血球遊走に関与するロイコトリエンの作用を阻害する薬で、気管支喘息やアレルギー性鼻炎に使用します。