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呼吸に関する基礎知識

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調整の仕組み

延髄の呼吸中枢における自律的調整が最も重要な役割を担い、これに大脳皮質における随意調節が加わることで、多少の融通性があります。

麻酔薬や睡眠薬などで延髄まで麻痺が及ぶと、呼吸のリズムも麻痺することになり、命に関わります。

随意調節も生きていく上では重要で、短時間といえども意識的に呼吸を止めることができなければ、泳ぐことができませんし、有害な煙を吸い込むことだってあります。

血液中の酸素や二酸化炭素の濃度も調整を担っており、延髄や頸動脈小体・大動脈体などの化学受容器を介して、呼吸の促進や抑制に働きます。

メインシステムは、二酸化炭素濃度の上昇で呼吸促進・二酸化炭素濃度の低下で呼吸抑制を起こします。

酸素濃度はサブシステムで、濃度の上昇で呼吸抑制・濃度低下で呼吸促進が起こります。(救急救命の際くらいしか100%酸素の吸入を行わないのは、呼吸抑制を起こす可能性があるからです)

慢性の呼吸器疾患ではメインシステムの感度が鈍くなり、二酸化炭素の感受性が低下します。

重度では、CO2ナルコーシスと呼ばれる呼吸促進が起こらない状態になり、酸素欠乏から意識消失を起こすケースもあります。

この状態で高濃度酸素を吸入させると、サブシステムによって更に呼吸抑制を悪化させる危険があります。

末梢神経の支配から見れば、肺(気管支平滑筋)は特異な組織で、副交感神経はありますが交感神経はありません。

しかし、β受容体は多数存在しており、β作動薬やβ遮断薬に鋭敏な組織です。

(副交感神経はありますので、コリン作動薬や抗コリン薬にも影響を受けます)

気道浄化作用

肺は外気を吸い込みますので、小さな異物が侵入しやすく、免疫機構が鋭敏です。

薬によって間質性肺炎という重篤な副作用が起きやすいのも、免疫が敏感な状況が無関係ではありません。

有害か無害かに関わらず、気管支には侵入した異物を排除するための機能が備わっています。

気道粘液を分泌して異物を捕獲し、気道繊毛運動で上に送り、食道に落とすか痰として喀出します。

サーファクタント分泌も、痰の粘度を低下させて出しやすくすることに役立ちます。

気管支炎と気管支喘息

肺の疾患には様々あり、圧倒的に多いのは風邪です。

しかし、風邪は正式な病名ではなく、喉が腫れて痛む段階であれば急性上気道炎・咳が主症状になる段階では急性気管支炎と診断されることが多いと思います。

炎症が慢性になれば慢性気管支炎で、俗に言う肺炎です。(ただし、急性と慢性には明確な境界がありません)

気管支喘息は、慢性炎症があることは肺炎と同じなのですが、弱い刺激でも気管支が収縮する気道過敏性が加わった疾患です。

免疫系が関与しており、IgE抗体が関与する典型的なⅠ型アレルギーの疾患です。

最近の研究で、リンパ球やT細胞表面に出現するGITRという蛋白質が、発症に関与しているらしいと報告されています。

気管支拡張薬

その名前のとおり、気管支平滑筋を弛緩させて気管支を拡げる作用を持つ薬です。

気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの、気管支収縮が顕著な疾患に使用されます。

昔は、咳を伴う風邪でも使用されていたケースがありましたが、安全性に問題があると報道されてから、気軽には使用されなくなりました。

β2刺激薬

気管支平滑筋にはβ受容体が多数存在し、β受容体作動薬には鋭敏に反応します。

サルブタモール・プロカテロールなどの短時間作用型の吸入薬は、強力かつ速効で気管支を拡張させ、発作治療薬(リリーバー)として使用されます。

サルメトロール・モルモテロールなどの持続性吸入薬や、ツロブテロールなどの皮膚貼付薬は、長時間作用させることで発作を起こし難くする長期管理薬(コントローラー)として使用されます。

(皮膚貼付薬は、小児や高齢者などで上手く吸入できないケースに選択されますが、効果としては吸入薬よりも劣ります)

この薬の問題点は、連用により気道過敏状態を亢進させ、気管支喘息の状態を重度な方向へ進める可能性があります。(よって、気管支喘息では、本剤で呼吸機能が改善したとしてもステロイド薬の併用は必須とされています)

また、弱いながらβ1刺激作用を発現しますので、動悸・不整脈・耐糖能の低下などを起こす可能性があります。

いくつかの問題点はあるものの、優れた効果から気管支拡張薬の中核とされています。

キサンチン系薬

この系統は大脳皮質刺激薬にも分類される薬ですが、テオフィリンやアミノフィリンは気管支の拡張作用が強いので、気管支拡張薬として使用されます。

有効血中濃度域が狭く、かつ個人差が大きいことから、TDM(薬物血中濃度モニタリング)の対象薬とされます。

過量になると中枢刺激作用が発現し、吐気・痙攣や死亡例も報告されています。

特に、乳幼児には痙攣が起きやすく、2歳未満には原則として使用しません。

薬物相互作用が問題となる薬が多く、喫煙の有無でも効果が大きく変動します。

抗コリン薬

副交感神経を阻害することで気管支を拡張する薬です。

主に吸入薬として使用されますが、内服薬と同じ注意が必要で、緑内障や前立腺肥大症には禁忌です。

発作治療薬(リリーバー)としても使用されますが、β2刺激薬よりは作用が緩和なので、主にβ2刺激薬が使用できないケースに選択されます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、本剤と持続性β2刺激薬の併用が第一選択とされます。

気管支喘息治療薬

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気管支喘息は、気道の慢性炎症と気道の過敏性亢進が根底にある疾患で、これに対応する作用を持つ薬が必須になります。

最も苦しむ症状は呼吸困難なので、気管支を拡張して呼吸を楽にする薬も使用しますが、気管支拡張薬が根本治療につながるわけではありません。

ステロイド薬

免疫の作用を抑えて炎症を鎮める薬で、長期管理薬としてはシクレソニドやフルチカゾンなどの吸入薬を使用し、発作治療薬としてはプレドニゾロンなどの内服薬や注射薬を使用します。

吸入薬は気管支拡張薬と併用するケースが多く、吸入する順序は、できるだけ気管支の奥にまで到達するように、気管支拡張作用の強いものから開始します。

すなわち、β2刺激薬→抗コリン薬→ステロイド薬の順です。(合剤となっている場合でも、気管支拡張作用が強いものを先に吸入します)

吸入ステロイド薬は、全量が肺に到達するわけではなく、微量でも口腔内に残留する可能性がありますので、吸入後のうがいは必須です。

口腔の残留を放置すると、口内炎や口腔内感染症の誘因となったり、唾液とともに飲み込んで全身性の有害作用を起こす危険性があります。

なお、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、通常では炎症が関与しませんので、ステロイド薬を使用することはありません。(炎症性疾患を併発した場合には、使用されるケースもあります)

抗アレルギー薬

サイトカインを介して気管支の収縮を抑えたり気道の過敏状態を緩和する薬を、予防目的の長期管理薬として使用します。

ロイコトリエン拮抗薬は、ロイコトリエンによって起こる気管支収縮・気道過敏亢進・粘膜浮腫・粘液過分泌などを抑えます。効果が発現するまでに時間が必要ですが、広範な作用を有し、重篤な副作用がないことから、非常に汎用される薬です。

抗トロンボキサン薬は、気管支収縮を抑制する作用があり、単独では効果が弱いので、補助的に併用される薬です。

Th2サイトカイン阻害薬は、IgE抗体の産生や好酸球の浸潤を抑制することで免疫反応を緩和する薬です。この薬も単独では効果が弱いので、補助的に併用されます。

抗ヒスタミン薬は、炎症の初期から関与して気道過敏にも関係があるヒスタミンの作用を抑制する薬です。ヒスタミン以外の化学伝達物質の遊離を抑制する作用も持つ、第二世代薬がよく使われます。

グロモクリク酸は、肥満細胞からのヒスタミン等の化学伝達物質遊離を抑制する薬です。効果は弱いものの、有害作用が少ないことより、主に小児の喘息発作予防に吸入薬として汎用されていました。今では、ロイコトリエン拮抗薬の小児用製剤が登場しましたので、使用頻度は減っています。

モノクロナール抗体製剤

上で紹介した薬でも効果が得られない場合に使用される薬です。

オマリズマブは抗IgEモノクロナール抗体・メポリズマブは抗インターロイキン5モノクロナール抗体で、免疫の働きを抑制します。

オマリズマブは高IgE型の気管支喘息に、メポリズマブは高好酸球型に著効を示します。

ただし、非常に高価な薬で、オマリズマブを最高用量使用すると月に30万円近くの薬剤費が必要です。(1回の使用で治る薬ではなく、継続的に使用しますので、経済的な負担が大変です)

鎮咳薬・去痰薬

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鎮咳薬は咳を鎮める薬で、延髄の咳中枢に作用して効果を発現する中枢性鎮咳薬と、咳中枢とは無関係に効果を発現する末梢性鎮咳薬に区分されます。

中枢性鎮咳薬は、成分によって麻薬性と非麻薬性に細分されます。

中枢性の鎮咳薬を使用しますと、痰の喀出を妨げることになりますので、一般には去痰薬を併用して使用します。

去痰薬は痰を出しやすくする薬で、痰の生成を抑制するわけではありません。

痰を構成する成分を分解して細かくして出しやすくする気道粘液溶解薬と、サーファクタント分泌を亢進して薄めて出しやすくする気道粘膜潤滑薬があります。

補足:迷走神経の耳介枝や心嚢枝の刺激伝達によって、咳中枢が刺激される場合があります。つまり、肺にトラブルがなくても、耳や心臓のトラブルで咳を発する場合がありますので、留意しておかなくてはいけません。

麻薬性鎮咳薬

コデインやジヒドロコデインには強力な鎮咳作用があり、激しい咳に使用されます。

しかし、気道分泌を抑制する作用や、気管支を収縮させる作用がありますので、喘息発作時には禁忌とされます。

麻薬系の成分ですので、過量で呼吸抑制を起こす可能性があり、長期連用で依存性を起こす場合もあります。

濃度が1%以下の散剤においては麻薬指定から除外されていますので、1%の散剤を使用することが多く、やや服用量が多いです。

小児での危険性が高いことから12歳未満には使用禁忌となりました。(肥満や重篤な肺疾患がある場合は18歳未満でも使用禁忌です)

非麻薬性鎮咳薬

咳中枢には作用しますが麻薬系よりは弱く、呼吸抑制や依存性などの要注意事項がない薬です。(ノスカピンやデキストロメトルファンが代表薬です)

チペピジンのように去痰作用を持つものや、ペントキシベリンのように気管支拡張作用を持つ薬もあります。

麻薬性鎮咳薬よりも使いやすいので、選択されることが多いです。

末梢性鎮咳薬

新薬にはこの区分に入る薬はなく、麦門冬湯や滋陰降火湯などの漢方処方が該当します。(漢方でも麻杏甘石湯などの麻黄剤はエフェドリンの作用で、気管支拡張+中枢性鎮咳です)

ACE阻害薬によって誘発される空咳や、気道分泌低下によって痰の粘度が上がり、なかなか喀出できずにせき込む場合に使用されます。

気道粘液溶解薬

システイン系は、粘液ムコ蛋白質のシステインが形成するS-S(ジスルフィド)結合を開裂することで、痰の粘度を低下させます。

ドルナーゼアルファはDNA分解酵素製剤で、DNAを大量に含む膿性分泌物の粘度を低下させることから、嚢胞性肺繊維症における肺機能の改善に使用されます。

蛋白質分解酵素や多糖類分解酵素も痰の粘度を低下させる目的で使用されたこともありますが、効果再評価で有効性なしと判定されて姿を消しました。

気道粘膜潤滑薬

ブロムヘキシンは、気道の漿液性分泌および肺サーファクタント分泌を亢進する薬で、痰を薄めて出しやすくします。繊毛運動促進作用もあり、これも喀出を手助けします。ただ、分泌亢進によって痰の量が増えますので、患者さんにとっては悪化したように感じる場合があります。

アンブロキソールはブロムヘキシンの活性代謝物で、効果としては上です。

ヨウ化カリウムにも気管支粘液分泌を促進する作用がありますが、刺激が強い薬であり、今ではこの目的でほとんど使われません。

セネガ・車前草・桜皮エキス製剤も気管支分泌を促進します。植物由来成分であり比較的安全性は高いですが、エタノールを含み独特の味がします

呼吸促進薬・禁煙補助薬

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代表的な呼吸促進薬は、延髄中枢刺激薬でも紹介しましたドキサプラムとジモルホラミンです。

ドキサプラムは末梢化学受容体を介して延髄の呼吸中枢を刺激する薬で、効果発現は早いのですが持続時間が短いのが欠点です。交感神経の刺激作用もあるために、血圧上昇や不整脈を誘発することがあります。麻酔薬や麻薬による呼吸抑制の回復に使用されるケースが多いです。

ジモルホラミンは延髄呼吸中枢を直接刺激する薬で、作用する時間は比較的長いです。血管運動中枢にも刺激を与えますので、血圧が上昇します。ショック状態や仮死状態に使用され、新生児仮死には臍帯静脈内注射されます。

ナロキソン・レバロルファンはオピオイド受容体拮抗薬で、麻薬による呼吸抑制に使用されます。

フルマゼニルはベンゾジアゼピン受容体拮抗薬で、ベンゾジアゼピン系薬の過剰投与で起こった呼吸抑制に使用します。

ただし、これらの拮抗薬は、他の原因で起こった呼吸抑制を回復する作用はありません。

シベレスタットは、肺に集積した好中球より遊離される蛋白分解酵素のエラスターゼを阻害する薬で、呼吸促進というわけではありませんが、全身性炎症反応症候群に伴う急性肺障害の改善に使用されます。


昔から使われている禁煙補助薬としては、ニコチン徐放薬があります。

ガムあるいはテープ剤にニコチンを含有させ、ゆっくりと吸収させることで喫煙願望を低下させます。

低濃度とは言え、ニコチンを摂取することに変わりはなく、禁煙にまで至るケースは多くありませんでした。

テープ剤では発赤や掻痒などの皮膚症状が起こる場合もあります。

バレニクリンは、脳内ニコチン受容体の部分作動薬として登場した禁煙補助薬です。

部分作動の特徴として、喫煙時には拮抗薬として作用しますので、喫煙の満足感が得られなくなります。

非喫煙時には弱い作動薬として作用しますので、喫煙願望が低下します。

この両作用によって、禁煙にまで導きます。

二次的なドパミン分泌による精神症状(異常夢・不眠症・頭痛など)や、突発的な眠気を起こすことがあり、注意が必要です。

また、便秘・吐気・鼓腸などの消化器症状も比較的多い薬です。

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