
胃腸疾患には多種多様の薬が使用されます。
それぞれに特徴があるのですが、個々に説明を聞いても、他の薬とどこが違うのかイメージしにくいと思います。
各論に入る前に、およその位置づけを紹介しておきます。
胃腸疾患の誘発原因としてよく取り上げられるのが、攻撃因子と防御因子です。
攻撃因子とは胃酸やペプシンのことで、強い酸と消化酵素によって食物を消化する役割を担っています。(胃を経由して侵入してくる病原体の殺菌という働きもあります)
ここで問題になるのが、胃という臓器も肉だということです。
牛や豚の肉は消化するけれども人間の肉は消化しない、ということはありえませんので、胃の組織も胃酸やペプシンによってダメージを受けます。
そのダメージを軽減するための機構が防御因子で、具体的には粘膜抵抗・粘液分泌・粘膜微小循環などが関係しています。
簡単に言えば、ダメージは粘膜組織で引き受けて、下の筋層などへはダメージが及ばないようにしているわけです。
十二指腸ブレーキという反射機能を防御因子とするには少し疑問もありますが、そのように解説している書も少なくありません。(消化物が十二指腸に到達すると低いphが刺激となって胃運動が弱まる現象)
攻撃因子が必要以上に強くなる場合や、防御因子が弱くなる場合は、胃に炎症性の病変が起こる可能性が高まります。
攻撃因子が弱くなると、消化機能が低下することになり、消化不良などが起こります。
防御因子が強くなってあまり問題になることはないのですが、十二指腸ブレーキを防御因子とすると、過度に機能することが胃もたれと関係すると言えなくもありません。(胃もたれは胃腸運動との関連の方が強い症状です)
攻撃因子・防御因子の他に注意すべき要因は、胃腸の運動機能です。
胃腸運動はアセチルコリン・セロトニン・ドパミンなどの伝達物質によって調節されており、ストレスなどの精神的要因でも大きな影響を受けます。
胃腸運動と攻撃因子・防御因子の関係を考えますと、イコールではないものの、胃腸運動を高めることは攻撃因子や防御因子を強めることになります。
以上より、攻撃因子に対する作用・防御因子に対する作用・胃腸運動に対する作用の3種の力によって、その薬の性質が決まり、どのような状態に使用するのかが違ってきます。
薬の区分の前に、病因による変化を見てみましょう。
攻撃因子・防御因子・胃腸運動の順に、作用の強さを+3~-3で示します。(+は強める・-は弱めるという意味で、数値は相対的なものです)
●ストレス :+3・ー1・+3~-3
●ピロリ菌感染 :+1・-3・-1
●ステロイド薬等: 0・-3・-1
これらの病因に対応するためには、逆となる作用の薬を使用すれば良いわけです。(単独でなく複数でもかまいません)
◎プロトンポンプ阻害薬 :-3 ・ 0・-1
◎ヒスタミンH2受容体拮抗薬:ー2 ・ 0・ー1
◎抗ガストリン薬 :ー1 ・ 0・ー1
◎抗コリン薬 :ー2 ・-2・ー3
◎制酸薬 :-1 ・ 0・+1~-1
◎プロスタグランジン系 : 0 ・+2・+2
◎粘膜修復薬 :0~-1・+2・ 0
◎ドパミンD2受容体遮断薬 :+1 ・+1・+2
◎セロトニン受容体遮断薬 :+1 ・+1・+2
◎コリン作動薬 :+1 ・+1・+3
◎健胃・消化薬 :+1 ・ 0・+1