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漢方をもっと身近に

西洋薬と東洋薬のハイブリットにより、
より効果的で安全な治療を。

胃腸薬の作用考察

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胃腸疾患には多種多様の薬が使用されます。

それぞれに特徴があるのですが、個々に説明を聞いても、他の薬とどこが違うのかイメージしにくいと思います。

各論に入る前に、およその位置づけを紹介しておきます。

胃腸疾患の誘発原因としてよく取り上げられるのが、攻撃因子と防御因子です。

攻撃因子とは胃酸やペプシンのことで、強い酸と消化酵素によって食物を消化する役割を担っています。(胃を経由して侵入してくる病原体の殺菌という働きもあります)

ここで問題になるのが、胃という臓器も肉だということです。

牛や豚の肉は消化するけれども人間の肉は消化しない、ということはありえませんので、胃の組織も胃酸やペプシンによってダメージを受けます。

そのダメージを軽減するための機構が防御因子で、具体的には粘膜抵抗・粘液分泌・粘膜微小循環などが関係しています。

簡単に言えば、ダメージは粘膜組織で引き受けて、下の筋層などへはダメージが及ばないようにしているわけです。

十二指腸ブレーキという反射機能を防御因子とするには少し疑問もありますが、そのように解説している書も少なくありません。(消化物が十二指腸に到達すると低いphが刺激となって胃運動が弱まる現象)

攻撃因子が必要以上に強くなる場合や、防御因子が弱くなる場合は、胃に炎症性の病変が起こる可能性が高まります。

攻撃因子が弱くなると、消化機能が低下することになり、消化不良などが起こります。

防御因子が強くなってあまり問題になることはないのですが、十二指腸ブレーキを防御因子とすると、過度に機能することが胃もたれと関係すると言えなくもありません。(胃もたれは胃腸運動との関連の方が強い症状です)

攻撃因子・防御因子の他に注意すべき要因は、胃腸の運動機能です。

胃腸運動はアセチルコリン・セロトニン・ドパミンなどの伝達物質によって調節されており、ストレスなどの精神的要因でも大きな影響を受けます。

胃腸運動と攻撃因子・防御因子の関係を考えますと、イコールではないものの、胃腸運動を高めることは攻撃因子や防御因子を強めることになります。

以上より、攻撃因子に対する作用・防御因子に対する作用・胃腸運動に対する作用の3種の力によって、その薬の性質が決まり、どのような状態に使用するのかが違ってきます。

薬の区分の前に、病因による変化を見てみましょう。

攻撃因子・防御因子・胃腸運動の順に、作用の強さを+3~-3で示します。(+は強める・-は弱めるという意味で、数値は相対的なものです)

●ストレス   :+3・ー1・+3~-3

●ピロリ菌感染 :+1・-3・-1

●ステロイド薬等: 0・-3・-1

これらの病因に対応するためには、逆となる作用の薬を使用すれば良いわけです。(単独でなく複数でもかまいません)

◎プロトンポンプ阻害薬   :-3  ・ 0・-1

◎ヒスタミンH2受容体拮抗薬:ー2  ・ 0・ー1

◎抗ガストリン薬      :ー1  ・ 0・ー1

◎抗コリン薬        :ー2  ・-2・ー3

◎制酸薬          :-1  ・ 0・+1~-1

◎プロスタグランジン系   : 0  ・+2・+2

◎粘膜修復薬        :0~-1・+2・ 0

◎ドパミンD2受容体遮断薬 :+1  ・+1・+2

◎セロトニン受容体遮断薬  :+1  ・+1・+2

◎コリン作動薬       :+1  ・+1・+3

◎健胃・消化薬       :+1  ・ 0・+1

胃酸分泌抑制薬・胃酸中和薬

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胃酸分泌は、ヒスタミンH2受容体・ガストリン受容体・ムスカリン受容体を介した刺激がプロトンポンプを活性化することで起こります。

プロトンポンブとはH+K+ATPaseのことで、ATPのエネルギーを使って細胞内のH+と胃内のK+を交換するトランスポーターです。

つまり胃酸分泌とは、胃壁細胞が酸性の液を分泌するのではなく、酸の主成分であるH+を胃内に増やすことです。

この過程のいずれかを阻害すれば、H+が増えることを抑制でき、胃酸分泌が抑制されることになります。

胃酸は攻撃因子そのものであり、炎症性の胃疾患と強く関係しています。

治療にも症状緩和にも非常に有効な薬ですが、胃酸は消化・殺菌・ミネラル吸収に不可欠の成分でもあります。

必要以上に抑制することも問題があることに留意しなければなりません。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)

胃酸分泌の中核となるトランスポーターそのものを阻害する薬で、強力に胃酸分泌を抑制します。

非可逆的な阻害であり、作用には持続性がありますので、1日1回の服用です。

漫然と使用する薬ではありませんので、適応や使用日数には制限が設けられています。

効能取得は薬によって若干の違いがありますが、十二指腸潰瘍で6週間、胃潰瘍や逆流性食道炎で8週間が一応の上限とされています。

最近の報告では、長期服用によって骨折や認知症発症のリスクが上昇することが指摘されています。

H2受容体拮抗薬

胃潰瘍が手術しなくても治療できるようになったと言われ、医療を変えた薬の一つです。

H2受容体が阻害されると二次的にプロトンポンプの働きが抑制され、胃酸の分泌が減少します。

ガストリン受容体やムスカリン受容体を介する経路は阻害しませんので、プロトンポンブ阻害薬程の抑制力はありませんが、他の経路よりは強力で、十分な治療効果を発揮します。

プロトンポンプ阻害薬の登場前まで、非常に汎用されていた薬で、現在では市販薬としてもガスター10などとして使用されています。

プロトンポンプ阻害薬を必要とする炎症性胃疾患はそれ程多くなく、大部分はH2受容体拮抗薬で治療可能なのですが、病院で使用されるのはプロトンポンプ阻害薬の方が多くなっています。

なお、本剤でもせん妄や認知機能低下のリスクが上昇するとの報告があります。

抗ガストリン薬

ガストリンは消化管ホルモンの一種で、胃酸分泌や胃粘膜増強・ペプシノゲン分泌などに関与しています。

抗ガストリン薬はガストリン受容体を阻害する薬で、二次的にプロトンポンプを阻害します。

原理はH2受容体拮抗薬と同じですが、作用はもっと穏やかです。

セクレチンやウロガストロンは販売中止となり、現存しているのはプログルミドとオキセサゼインのみで、使用される頻度は減っています。(オキセサゼインは抗ガストリン薬よりも、胃表面の麻痺に使用する局麻に分類されます)

抗コリン薬

ムスカリン受容体を阻害することでプロトンポンプの働きを抑制し、胃酸分泌を減少させます。

平滑筋弛緩作用があり、鎮痙や胃腸運動抑制にも使用します。

むしろ後者の方が主たる作用で、胃酸分泌抑制を目的に使用するケースは現在ではほとんどないと思います。

H2受容体拮抗薬が登場する以前は、本剤くらいしか胃酸分泌を抑制する薬がなく、よく使われていました。(パンシロンやキャベジンなどの市販胃腸薬に抗コリン薬であるロートエキスが使用されているのは、その名残です)

しっかりと胃酸分泌を抑えるためにはかなりの量を必要としますが、他部位への抗コリン作用が発現してしまうために十分量を使用することができません。

胃腸への選択性を高めたピレンゼピンなどが開発されていますが、緑内障や前立腺肥大症にはやはり注意が必要です。

制酸薬

胃酸を中和する薬で、胃酸が胃粘膜に与えている刺激を軽減します。

胃に到達した時点で効果を発揮しますが、体は胃酸が弱まったことを察知すると胃酸分泌を増やして補充しようとしますので、二次的に胃酸分泌を亢進する可能性があります。(幽門部のpH上昇でガストリン分泌が亢進し、胃酸分泌を促進します)

連用していると、二次的な胃酸分泌亢進によって使用量を増やさないと効果が得られなくなります。

他の薬と併用することが多く、単独で使用するケースはほとんどありません。

酸化マグネシウムなどのMg系の薬は下痢を、ケイ酸アルミニウムや水酸化アルミニウムなどのAl系の薬は便秘を起こしやすく、一部の薬を除いて透析中には禁忌とされています。

防御因子強化薬

胃の防御因子を高める薬で、プロスタグランジン系と粘膜保護・組織修復促進薬に分類されます。(両方の作用を持つ薬も多く、どちらが強い作用かで分類されています)

この薬はメインの治療薬として使用されるケースは少なく、胃酸分泌抑制薬などの補助として使用されるケースが大部分です。

プロスタグランジン系

PG-E誘導体と、PG産生促進薬に細分されます。

ミソプロストールがPG-E誘導体で、微小循環血流量を増加させ胃粘膜分泌を促進することで、胃粘膜保護作用を発揮します。PGはNSAIDsの使用で産生が抑制されます。そのために、この薬の適応は極めて限定的で、「非ステロイド性消炎鎮痛剤の長期投与時にみられる胃潰瘍・十二指腸潰瘍」です。(長期とは3カ月以上です)腸管分泌も促進しますので下痢を起こしやすく、血圧を低下させる可能性がありますので循環障害がある者には注意が必要です。また、PG誘導体には共通事項ですが、子宮収縮作用があることから妊娠中は禁忌です。

PG産生促進薬にはテプレノン・レバピミド・ソファルコンなどがあり、作用は緩和ですが有害な作用はほとんどなく、胃腸障害を予防する目的で汎用される薬です。PGが関係しているのですが、薬に子宮収縮作用がありませんので、これらの薬は妊娠中でも禁忌ではありません。

粘膜保護・組織修復促進薬

胃粘膜再生・粘膜血流増加・保護層形成・血管新生・活性酸素産生抑制などの作用を持つ薬で、炎症で損傷を受けた胃粘膜を修復したり保護する目的で使用されます。

スクラルファートやアルジオキサは、アルミニウムを含む薬で、制酸作用やペプシンの活性化を抑制する作用もあります。透析中には禁忌で、キレートを形成する薬と併用する場合は時間を空ける必要があります。

ポラプレジンクは亜鉛を含む薬で、亜鉛補給薬がない頃には、亜鉛欠乏症の治療にも使用されていた薬です。(効能は胃潰瘍のみですから、適応外使用です)

他にも、アズレン・グルタミンやトロキシピド・イルソグラジンなどもよく使用される薬です。

胃腸機能調整薬

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調整薬という名称ですが、大部分の薬は直接的あるいは二次的にアセチルコリン受容体を刺激する薬で、胃腸運動を促進します。

健胃薬と言われる種類にも胃腸運動促進の働きがありますので、合わせて紹介します。

ドパミン受容体遮断薬

末梢のドパミンD2受容体を遮断する薬で、二次的にアセチルコリン分泌を促進することから胃腸の運動を促進します。

また、ドパミンD2受容体遮断によって末梢性の制吐作用があります。(この目的で使用するケースの方が多いです)

メトクロプラミド・スルピリドは脳関門を通過しますので、錐体外路症状が起こる可能性があり、ドンペリドンは脳関門を通過しませんが、催奇性があるために妊娠中に使用禁忌です。

セロトニン受容体作動薬

モサプリドは5HT4受容体を刺激する薬で、こちらも二次的にアセチルコリンの分泌を促進して胃腸の運動を促進させます。

慢性胃炎や機能性ディスペプシア(胃もたれ)に使用され、下部消化管にも作用しますので下痢を起こすことがあります。

逆にこの作用を応用して「経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助」という適応もあります。

コリン作動薬・コリンエステラーゼ阻害薬

アセチルコリン受容体を刺激する薬で、機能性ディスペプシアや術後腸管麻痺などに使用されます。

コリン作動薬としてアクトラニウム、コリンエステラーゼ阻害薬としてイトプリド・アコチアミド・ネオスチグミンなどがあります。(イトプリドはドパミンD2受容体を阻害する作用も有しています)

コリン作動薬の禁忌疾患や注意事項には留意する必要があります。

その他の機能調整薬

ジノプロストは陣痛促進に用いられるPG-F2製剤ですが、強力な腸管蠕動促進作用があるために、他剤で無効の腸管麻痺にも使用されます。(名前は似ていますがジノプロストンはPG-E2製剤で、腸管麻痺には使用しません)

トリメブチンは胃腸のオピオイド受容体作動薬です。低用量ではノルアドレナリン抑制・アセチルコリン増強に作用し、胃腸運動を促進することから慢性胃炎の治療に使用され、高用量ではアセチルコリンの分泌が抑制されて胃腸運動が抑制されますので、過敏性腸症候群の治療に使用されます。アセチルコリン受容体の部分作動薬のような作用を発現するユニークな薬です。

ジメチコンは界面活性作用によって腸内ガスを消泡する薬です。胃腸運動には関係しませんが、腹部膨満を解消します。

健胃薬

苦味健胃薬と芳香性健胃薬があり、味覚あるいは嗅覚を刺激することで食欲を増したり胃腸運動を促進する薬です。

単剤で使用することはほとんどなく、大部分は配合薬として使用されます。

錠剤やカプセル剤では味覚や嗅覚を刺激しませんので、散剤や湯剤にしないと本来の効果は得られません。

消化酵素製剤

炭水化物・蛋白質・脂肪などを分解する酵素を配合した薬で、消化不良に使用します。

胃酸によって失活してしまう場合や、腸でのみ効かせたい成分もありますので、制酸薬と併用したり腸溶製剤にするなどの工夫が必要です。

また、空腹時に服用しても意味がありません。


市販の総合胃腸薬とは

昔からあるパンシロン・キャベジン・太田胃散などの総合胃腸薬は、制酸薬・抗コリン薬(ロートエキス)・健胃薬・消化酵素を配合して作られています。

バランスが良く、広い範囲の胃腸疾患に有効ですが、継続服用する場合には少なくない注意が必要です。

ピロリ菌除菌薬、逆流性食道炎・十二指腸潰瘍治療薬

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ピロリ菌の除菌

ヘリコバクター・ピロリはグラム陰性の螺旋菌の一種で、アルカリ性のアンモニアを分泌することから、通常では細菌類の生育が不可能な強酸環境を中和して、胃の中でも生育します。

生育しているだけであれば問題なのですが、この菌の保菌者は胃潰瘍や胃癌の発症および再発頻度が高く、悪影響を及ぼします。

反復性の胃潰瘍を起こす患者に感染者が多く、除菌によって治癒した症例が多数報告され、今では積極的に除菌を行うことが一般的になっています。

まず、感染の有無を確認する検査から始まり、ピロリ菌感染が確認されたら薬物投与を開始します。

相手が細菌ですので抗生物質を使用しますが、単剤で有効な薬はなく、複数の抗生物質を使用します。

この場合の抗生物質は、吸収後に血液を介して胃に到達させるよりも、服用直後の胃内で効かせる方が効果的です。

抗生物質の多くは塩基性物質であり、酸性環境ではイオン化して効力を十分に発揮できませんし、胃酸によって分解されてしまうものもあります。

この防御策として、胃酸分泌を強力に抑制するプロトンポンプ阻害薬を併用します。

保険適応で認められている薬の組合せは2通りあり、最初は一次除菌と呼ばれるプロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンを使用します。(アモキシシリンはペニシリン系、クラリスロマイシンはマクロライド系の抗生物質です)

この組合せを1週間服用した後に、除菌が完了したかを検査します。

この段階での除菌率は75%程度と報告されています。

一次除菌で成功しなかった場合は、二次除菌のプロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+メトロニダゾールを使用することになります。(メトロニダゾールは抗原虫薬に分類される薬ですが、細菌にも効果を発揮する薬です)

二次除菌も服用期間は1週間で、一次と二次を合わせた除菌率は約95%と報告されています。

三次除菌というものもありますが、保険の適応はなく、使用する薬は医療機関によって種々様々です。

いずれの除菌方法も1週間という期間を限定したものですが、腸内細菌も抗生物質によってダメージを被り、下痢がかなり高頻度で発現します。(下痢を予防するためにビフィズス菌製剤を併用するケースも少なくありません)

なお、プロトンポンプ阻害薬はどの種類でも選択可能ですが、ボノプラザンを使用した場合に除菌成績が良いとの報告があります。

逆流性食道炎・十二指腸潰瘍治療薬

食道は食べ物が通過する通路であり、ここで消化や代謝を行うなどの機能は持っていません。

よって、胃のように、表面が厚い粘膜で保護されているわけではありません。

胃は消化を行う時に、上部の噴門と下部の幽門と呼ばれる出入り口を筋肉で栓をするように塞ぎ、濃い酸が漏れないようにしています。

しかし、筋肉による栓は完全なものではなく、加齢による筋力低下などの要因によって漏れを起こすことがあります。

下部の幽門から漏れれば、十二指腸に炎症を起こして十二指腸潰瘍などを起こすケースはありますが、食道に比べれば粘膜は厚く、多少は酸に対する対応力はあります。

十二指腸潰瘍の治療法は、ほぼ胃潰瘍と同じで、胃酸分泌抑制薬と防御因子強化薬を併用するケースが大部分です。(ピロリ菌感染があれば除菌します)

上部の噴門から漏れれば、食道には薄い粘膜しかありませんので、たちまち酸によるただれを起こし、胸焼けを訴えます。

治療には胃酸分泌抑制薬を使用し、粘膜修復や粘液分泌を行う組織がほとんどありませんので防御因子強化薬はあまり効果がありません。

併用する場合は、消化物を早く腸に送るために胃腸機能調節薬や、膵液を不活化するために蛋白分解酵素阻害薬を使用します。

胃腸運動調整薬は、弱いながら胃酸分泌を促進する作用を持つものが多く、その影響を消すには胃酸分泌抑制薬として作用が強力なプロトンポンプ阻害薬を使う必要があります。

ただし、これらの薬は酸による悪影響を緩和しているだけであり、噴門部の機能を回復させるわけではありませんので、薬を中止すれば再発する可能性があります。

食後にすぐに横にならないとか、甘い物や水分の過剰摂取は胃酸分泌を増やすことなりますので、口にするものへの注意も大切です。

下剤(瀉下薬)

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下剤あるいは瀉下剤と呼ばれる薬は、大便の排泄を促進する薬で、便秘治療薬のことです。

便秘に関する概要は健康情報の「便秘」で紹介していますので、先にそちらを読んでください。

下剤を分類すると、腸の内容物を増加させて排泄を促進する機械的下剤と、腸を刺激して蠕動運動を亢進させる刺激性下剤と、いずれにも該当しないその他の3種に大別されます。

機械的下剤は安全性が高いのですが作用が緩和で、刺激性下剤は作用が強いのですが連用によって耐性が起こる場合があります。

その他には、腸管分泌を促進する薬や、ある特定の原因に対応する薬などがあります。

機械的下剤

塩類下剤・膨張下剤・湿潤下剤・糖類下剤に細分されます。

塩類下剤は、腸内の浸透圧を高めて腸管に水分を貯留させる薬で、便を軟らかくすることで排出しやすくします。酸化Mg・水酸化Mg・硫酸Mg・硫酸Naなどがあり、いずれもほとんど吸収されずに腸の浸透圧を高めます。とは言いましても、全く吸収されないわけではなく、高齢者や腎障害がある者が長期大量に使用していると高Mg血症などを発症する可能性はあります。また、Mgを含む製剤はキレートを形成する薬と併用する場合には、服用間隔を空けることが必要です。

大腸検査や手術前処置に使用される腸管洗浄薬は、塩類下剤の応用です。一時に大量に使用することで腸内を洗浄します。当然ですが、腸管穿孔や腸閉塞がある場合は禁忌です。また、脱水や電解質異常にも注意が必要です。

カルメロースNaは膨張下剤で、腸管内で水分を吸収してコロイド液となり、便塊に浸透して容積を増大させて排便を即します。服用量が多く効果発現に少し時間がかかることが欠点ですが、安全性の高い薬です。

ジオクチルソジウムは湿潤下剤で、界面活性作用にて便を軟化して排泄しやすくします。単剤で使用されるわけではなく、排便効果を高めるために併用される成分です。

二糖類のラクツロースは糖類下剤に分類される薬です。人にはラクツロースを単糖類に分解する酵素がないために、吸収されることなく下部消化管に達して浸透圧効果を発揮します。また、腸内細菌によって分解されて生じる有機酸が腸管を刺激して運動を亢進させます。(産生される有機酸によって腸内のアンモニアの吸収が抑制されることから、高アンモニア血症の治療にも使用されます)甘いシロップ剤もあるので、小児の便秘に使用されることが多い薬です。

刺激性下剤

刺激する部位によって、小腸刺激性と大腸刺激性に細分されます。

市販されている便秘薬の大部分は大腸刺激性下剤です。

ヒマシ油は小腸内でリパーゼによって分解され、グリセリンとリシノール酸となり、リシノール酸が小腸を刺激することで効果を発揮します。強制排泄と呼べる程の強い作用があり、小腸の消化吸収を妨げますので連用する薬ではなく、食中毒における腸管内容物の排除を行うケースくらいしか使用されません。ただし、脂溶性成分の吸収を促進しますので、毒素や有害物質の吸収が進む可能性があって使用は限定的です。

センナという植物の葉や根、そこから抽出されるセンノサイド・センノシド、漢方便秘薬に含まれる大黄などにはアントラキノンと呼ばれる成分を含んでいます。この成分は大腸の腸内細菌によって活性化され、大腸を刺激する作用を発揮します。骨盤内充血を起こすために妊娠中や生理中には不適とされ、連用で耐性化や大腸黒皮症を起こす場合があります。また、尿がアルカリ性になると赤色を帯びます。

ピコスルファートもアントラキノンと同様に腸内細菌で活性体となる成分で、腸管蠕動運動の亢進に加えて水分吸収阻害作用もあります。大腸刺激性下剤と塩類下剤の特徴を併せ持つ薬です。錠剤・カプセル剤・ドライシロップ剤や、滴下する内用液もあり、状態に応じて選択することが可能です。

ビサコジルはピコスルファートと同じような作用を持つ薬で、腸内細菌による活性化を必要としません。医療用としては坐薬で使用し、市販薬のコーラックはこの成分の薬です。

その他の下剤

物理的な刺激によって早く排便させるには、浣腸を行うことが多いです。一般的には50%グリセリン液を体温程度に温めて使用します。通常では、グリセリンはほとんど吸収されませんが、炎症や傷がある場合は出血を促して吸収され、溶血や腎不全を起こす場合があります。また、挿入管を深く入れ過ぎて腸壁を傷つける場合もありますので、注意が必要です。

浣腸よりも緩和ですが、炭酸水素Na・リン酸二水素Naを含む坐薬は、腸内で炭酸ガスを発生させることで刺激して排便を促します。

パントテン酸・パンテチンはビタミンBの一種で、欠乏によって腸管運動が低下する弛緩性便秘が起こります。通常の便秘には効果がありませんが、弛緩性便秘には原因療法となります。

ナルデメジンは腸管のオピオイド受容体を阻害する薬で、麻薬系鎮痛薬によって誘発された便秘に使用します。脳関門が正常に機能している場合は脳内にほとんど移行しませんが、障害がある場合は移行して麻薬の効果を減じたりオピオイド離脱症候群を起こす可能性があります。その他の便秘に使用しても効果はありません。

エロビキシバットは回腸の胆汁酸トランスポーターを阻害する薬で、大腸内に流入する胆汁酸の量を増加させます。これにより、大腸内に水分・電解質の分泌が促進され、消化管運動も亢進させます。腹痛・下痢を起こす頻度が高いと報告されています。

クラロイドチャンネル作動薬のルビプロストンと、グアニル酸シクラーゼ作動薬のリナクロチドは、上皮機能変容薬に分類される薬です。ともに腸液分泌を増加することで排便を促します。リビプロストンは動物で胎児喪失の報告があり、妊娠中に禁忌となっています。リナクロチドには大腸痛覚過敏を抑制する作用もあり、便秘型の過敏性腸症候群にも使用されます。

止瀉薬(下痢止め)

下痢のことを瀉下と言い、それを止める薬が止瀉薬です。

腸管出血性大腸炎(O-157等)や赤痢菌などの細菌性下痢では、腸内で細菌が増えてしまうことになりますので、大部分の薬で禁忌になっています。

収斂薬

蛋白質と結合して被膜を形成し、腸粘膜を保護する薬です。

タンニン酸アルブミンが代表的な薬で、腸管内で膵液によりタンニン酸となり効果を発揮します。

牛乳に由来する成分を含むために、牛乳アレルギーがある者には使用できません。

また、鉄剤はタンニン酸と結合して効果が減じますので、併用は禁忌とされています。

次硝酸ビスマスや没食子酸ビスマスのビスマス製剤は、連用で精神症状が出現するために週に5日以下という使用制限があります。今では使用されるケースは減っています。

吸着薬

薬用炭や天然ケイ酸アルミニウムは、毒物などを吸着して排泄する薬で、過剰な水分や粘液も吸着することから止瀉作用を発揮します。

これらの薬は併用した薬も吸着してしまう可能性がありますので、時間を空けるなどの注意が必要です。

また、天然ケイ酸アルミニウムはキレート形成する薬との併用にも注意が必要です。

オピオイド受容体作動薬

ロペラミドは腸のオピオイド受容体を刺激する薬で、腸管運動を抑制することで強力に下痢を止めます。

中枢に移行しませんので麻薬指定はありませんが、大量を長期に使用すると中枢系の副作用を誘発するケースがあります。

コデインも下痢を止める目的で使用される場合があります。

その他の止瀉薬

ベルベリンは腸内発酵や腸管運動を抑制する作用があり、下痢を抑えます。胆汁分泌を促進する作用もあり、腸内細菌叢を整えることで病原菌の増殖を抑える効果もあります。ただし、細菌性の下痢には使用しません。

クレオソートは腸内でフェノールを遊離し、防腐殺菌の作用を発現します。市販薬の正露丸の主成分です。医療用では歯科領域の適応しかなく、下痢には使用されません。

チラクターゼはβガラクトシダーゼという乳糖を分解する酵素製剤で、乳糖不耐症による下痢に使用します。湯で溶く等の50℃以上の高温環境に置くと、効力が大きく低下します。

ビフィズス菌製剤は、腸内で乳酸・酢酸を産生することで腸内のpHを低下させ、悪玉菌の増殖を抑制します。下痢を抑制する効果も確認されていますが、止瀉薬と言うより整腸薬です。各種抗生物質に耐性を持つビフィズス菌を使用した製剤もあります。

過敏性腸症候群治療薬

過敏性腸症候群とは、ストレスなどの精神的要因によって副交感神経が過度に緊張し、腸に症状をきたす疾患です。(昔は過敏性大腸炎と呼ばれていました)

便秘・下痢と腹痛が主症状ですが、便秘が主となる便秘型と下痢が主となる下痢型、便秘と下痢を繰り返す交替型に分けられます。

治療薬としては、瀉下作用や止瀉作用のあるものが選択されることが多いのですが、神経性疾患ですので、そちらの対応を含めて行わないと根本治療にはなりません。

抗コリン薬

副交感神経の作用を阻害する薬で、腸管運動を抑制することから下痢型に使用します。抗コリン作用による禁忌や注意事項が多く、使用される頻度は高くありません。適応を有している薬は、今ではメペンゾラートくらいしかなく、単味剤とフェノバルビタールとの配合剤があります。(フェノバルビタール配合剤は精神系への対応を考慮したものですが、注意事項がさらに増えて使い難い薬になっています)

水分吸収・保持薬

ポリカルボフィルは保水性の樹脂製剤で、水分過剰時は吸収・水分不足時は供給しますので、便秘型にでも下痢型にでも使用することができます。成分そのものに強い薬理作用はありませんが、胃内でCaを遊離して吸水性を発揮する機序であるために、高Ca血症や結石に注意が必要です。また、喉や食道で痞えた場合は、そこで膨潤して閉塞を起こす可能性がありますので、十分量の水で服用する必要があります。排便の不調にのみしか対応しません。

セロトニン(5HT3)受容体阻害薬

ラモセトロンはセロトニンによる腸管運動亢進や大腸痛覚伝達を抑制する薬で、下痢型に使用されます。女性は便秘を誘発しやすいために男性のみに使用されてきましたが、2015年から女性にも適応を取得しています。(ただし、女性への使用量は男性の半分です)抗癌剤使用に伴う吐気止めとしても使用される成分ですが、使用量は20倍以上多いので、取り違えてはいけません。

グアニル酸シクラーゼ作動薬

リナクロチドは、腸管分泌や運動を促進する作用と、大腸痛覚過敏を抑制する作用があり、便秘型に使用されます。2018年に慢性便秘にも適応が拡大された薬で、下痢を起こす可能性があるために下痢型には使用しません。

潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬

潰瘍性大腸炎とクローン病はどちらも難病指定疾患で、消化管粘膜および粘膜下層に糜爛や潰瘍を形成する慢性炎症性腸疾患です。

潰瘍性大腸炎は主に直腸に病変が発現しますが、クローン病はもっと広範囲に病変が発生します。

病因には自己免疫説や腸内細菌説などがありますが、今でも確定していません。

サラゾスルファピリジン

大腸の腸内細菌によって5アミノサリチル酸とスルファピリジンに分解し、5アミノサリチル酸が抗炎症・免疫抑制作用を、スルファピリジンが抗菌作用を発現します。(この作用機序も未確定です)大腸でしか作用しませんので、適応は潰瘍性大腸炎のみで、クローン病には使用しません。サリチル酸製剤およびサルファ剤を使用するのと同じ注意が必要です。発生頻度は低いものの、発現する可能性がある重篤な副作用が多岐に及び、常に注意が必要です。皮膚や体液がオレンジ色を帯びます。内服薬の他に坐薬があります。

メサラジン

5アミノサリチル酸のみの薬で、上部消化管でも作用しますし、スルファピリジンによる有害作用や注意事項を心配しなくてもよい利点があります。内服薬にはクローン病の適応がありますが、坐薬・注腸薬や大腸で作用して他への影響を抑えた製剤では、潰瘍性大腸炎の適応しかないものもあります。常識的に考えるとサラソスルファピリジンよりも効果が劣るように思えますが、サラソスルファピリジンが無効でメサラジンが有効というケースも少なからずあります。

メトロニダゾール・シプロフロキサシン

メトロニダゾールは抗原虫薬・シプロフロキサシンはキノロン系抗菌剤で、腸内細菌の異常増殖を抑える目的で併用されることがある薬です。潰瘍性大腸炎やクローン病だけの診断名では適応外使用になります。

免疫抑制剤

ステロイド薬は強力な抗炎症作用や免疫抑制作用を持ち、炎症性疾患に多用される薬です。昔は長期大量投与もされましたが、有害作用が少なくなく、今では補助的な使用をする程度です。

代わって使用されるのが、タクロリムスやアザチオプリンです。

メルカプトプリンやシクロスポリンを使用するケースもあるようですが、こちらは適応外使用になります。

インフリキシマブやアダリムマブは抗ヒトTNFαモノクロナール抗体で、他剤で効果がない場合に使用されます。アナフィラキシーや、肺炎・結核などの重症感染症に注意が必要です。

トファシチニブはヤヌスキナーゼ阻害薬で、2018年5月に適応拡大されて潰瘍性大腸炎にも使用できるようになりました。炎症性サイトカインの細胞内刺激伝達を抑制し、炎症反応が起こらないようにします。感染症や肝機能障害がある場合は使用できず、発癌リスクが上昇する可能性が懸念されています。

使用される免疫系の薬は、関節リウマチの治療薬より適応を拡大したものばかりです。

認可は潰瘍性大腸炎が先で、クローン病が適応可能になるのは後になることが多く、適応の確認を要します。

制吐薬

イラスト2

制吐薬とは、吐気を制する、つまり吐気を止める薬です。

吐気を誘発する原因には、大きく分けて3つあるとされています。

①末梢臓器への刺激が延髄毛様体嘔吐中枢を興奮させる機序で、5HT3受容体が関与しています。

②内耳からの興奮あるいは異常刺激によるもので、H1受容体が関与しています。

③第4脳室CZT(化学受容器引き金帯)への刺激によるもので、D2受容体が関与しています。

つまり、この経路(関与する受容体)を遮断すれば、吐気は治まることになります。

なお、吐気には急性・遅発性・予測性の区分があります。

急性は、原因となる刺激の24時間以内に発するもので、①②③のどの機序でも起こる場合があります。

遅発性は、刺激の24時間~数日後に発するもので、①の機序によりますがセロトニンよりもサブスタンスPの関与が強いとされています。

予測性は、刺激の結果を想像して誘発されるもので、心因性のものですから①②③とは無関係です。

5HT3受容体選択的拮抗薬

第一世代のオンダンセトロンやグラニセトロンなど・第二世代のパロノセトロンがあり、抗癌剤や放射線療法によって誘発される吐気に使用されます。

強力な制吐作用で、急性には優れた効果を発揮しますが、遅発性にはあまり効果がありません。(第二世代薬は遅発性にも多少は有効です)

5HT受容体との関連から、便秘や頭痛を誘発するケースが多く、オンダンセトロンには心リスクがあるとの理由で発売を中止したメーカーがあります。

高薬価であることを含めて安直に使用する薬ではなく、急性に対して必要最小限の使用をします。

H1受容体拮抗薬

アレルギー疾患に多用される薬ですが、メニエール病や動揺病による吐気やめまいに使用されます。

医療用としてジメンヒドリナートやジフェンヒドラミンが上記の適応で、市販用ではメクリジンやクロルフェニラミンが乗り物酔い止めとして使われます。

眠気を催すことはありますが重篤な副作用は少ない薬です。

制吐作用は穏やかで、強い吐気には効果がないケースも少なくありません。

D2受容体遮断薬

統合失調症治療薬や胃腸機能調整薬でも登場した薬です。

中枢性としてはクロルプロマジンやスルピリドが使用され、末梢性としてはメトクロプラミドやドンペリドンが使用されます。

中枢性の方が強力ですが、様々な副作用に注意をする必要がありますので、通常の吐気に対しては末梢性の薬を使用することが多いです。

ステロイド薬

抗炎症薬の代表とされる薬で、様々な薬理作用を持っており、機序は不明ですが急性および遅発性の嘔吐にも効果を発揮します。

デキサメタゾンは抗癌剤による吐気の適応を持っており、制吐のベース薬として使用されます。(長期に使用すると有害作用が問題となりますので、短期間に必要十分量を使用します)通常の吐気には使用されません。

選択的NK1受容体拮抗薬

ニューロキノン1はサブスタンスPが結合する受容体で、CTZや嘔吐中枢に存在して、遅発性の吐気はこの受容体の刺激が誘因になっているのではないかと考えられています。

適応は抗癌剤による吐気であり、単独使用する薬ではなく、急性では5HT3拮抗薬と、遅発性ではステロイド薬と併用して使用します。(酵素阻害によってステロイドの代謝を遅くしますので、併用時の使用量に注意が必要です)

通常は3日間に限って使用する薬です。(MAXは5日間)

マルチ受容体拮抗薬

オランザピンは統合失調症やうつ病に使用される薬ですが、5HT3・H1・D2の全ての受容体に拮抗作用を有する薬で、他剤で無効の吐気に使用します。

つまり、5HT3拮抗薬+NK1拮抗薬+ステロイド薬でも無効な場合に、追加して使用されます。

その他

オキセサゼインは局所麻酔作用を持つ胃薬で、胃粘膜の刺激による吐気に使用されます。

抗コリン薬は、消化管刺激による反射性嘔吐へ使用される場合があります。


参照:催吐薬

トコン(吐根)には、胃粘膜およびCZTを刺激して嘔吐を誘発する作用があります。

異物や薬品などの誤飲時の応急処置に使用されていましたが、2012年に発売中止となりました。

アルカロイドのエメチンには心不全を誘発する可能性があり、誤飲した薬品によっては使用できないなどの注意が必要で、使い難さはありましたが貴重な作用の薬でした。

ドパミン受容体を刺激するアポモルヒネやブロモクリプチンにも催吐作用はありますが、いずれも適応は有していません。

現在の日本には、適応として認められている催吐薬はありません。

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