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分布と代謝

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分布に影響する要因

分布とは、薬が吸収されてから臓器や組織に移動する過程のことです。

体内での薬の形でも紹介しましたが、血液中では血漿蛋白と結合して循環する結合型と、結合しない形で循環する遊離型があります。

結合型は大きな血漿蛋白に保護されたような状態で、生体膜を通過できないために代謝や排泄を受けず、遊離型にならないと臓器や組織にも移動できません。

よって、血漿蛋白との結合率は、薬の効果に大きな影響を与えます。

血漿蛋白との結合は先着順ではなく、親和性の高いものが優先されます。

後から親和性の高い薬がやってくると、先に結合していた薬は結合を外されて遊離型になってしまいます。

薬効を発揮しない結合型が薬効を発揮する遊離型に変換されることで、治療効果や安全性に影響を与える場合がありますので、薬を併用する時には薬物相互作用として注意しなければなりません。

特に、血小板凝集抑制剤のワルファリン・SU系血糖降下剤・免疫抑制剤のメソトレキセート・抗てんかん薬のフェニトインを使用中に、NSAIDs・フィブラート系薬・サルファ剤を追加投与した場合に、前者の遊離型が著しく増加する場合があります。

(程度の大小はありますが、例示した薬だけでなく全ての薬で起こりうる相互作用です)

栄養不良が長く続いたり広範囲熱傷を受傷した場合には、血漿蛋白そのものが減少してしまいます。

この状態では結合する相手が少ないわけですから、遊離型の割合が通常よりも増えて、薬効が増大する可能性があります。

ちなみに、薬と結合する血漿蛋白は、アルブミンが代表的なものですが、他にリポ蛋白質・α1酸性糖蛋白質・グロブリンなどがあります。

大部分の薬は血液を介して運搬されますので、血流が多い部位には移動しやすく、少ない部位には移動しにくいことになり、血流も分布に影響を与える要因です。

ある種の成分を取り込むトランスポーターを持つ組織では、それに類似する薬が移動しやすくなります。

血液脳関門や血液胎盤関門のように、物質の通過を制限する組織では、全く移動できない薬があります。

また、脂溶性が高い薬では、脂肪組織に取込まれる率が高く、循環血液の中からかなりの量が消えてしまう場合があります。

薬の代謝

代謝とは、主に肝臓において、毒性の低減や排泄の促進を目的に行う加工のことです。

酸化・還元・加水分解・抱合などで、多くの場合は水溶性を高めて尿から排泄させるための加工です。

多種の酵素が関与しており、この酵素の量や活性に人種差・性差や個人差があるために、代謝効率にも差が生まれ、ひいては薬の効果が個々人で違う要因にもなっています。(酵素によっては、遺伝子多型によって処理能力が大きく違う場合があります)

小児では代謝機能が未発達であるために、成人と比べて代謝効率が悪く、高齢者では代謝機能の低下によって、やはり代謝効率が悪くなる傾向があります。

疾患によって肝臓の機能が低下している場合も、代謝効率が悪くなりますので、薬の作用が長く続くことになります。

薬によって同じ酵素で代謝を受けるものや、酵素の働きに影響を与える薬もありますので、薬を併用した場合の代謝における影響は複雑なものになります。

酵素誘導と呼ばれる現象は、代謝酵素を増やすことで他薬の効果を減弱させる相互作用で、飲酒を継続していると麻酔薬が効きにくくなるのが典型例です。

酵素阻害と呼ばれる現象は、代謝酵素を阻害することで他薬の効果を増大させる相互作用で、グレープフルーツジュースによってCa拮抗薬の作用が強くなるのがこの例です。

代謝拮抗は同じ代謝酵素である薬を併用した場合に起こる現象で、酵素の持つ能力以上に処理ができないために、代謝が遅延してしまいます。

このような、代謝酵素を介在した薬物相互作用は非常に多く、特にシトクロムP450という代謝酵素において顕著です。

シトクロムP450はチトクロームP450やCYP(シップ)とも呼ばれ、酸化を行う代表的な酵素です。

いくつかのサブタイプが存在し、薬によってサブタイプとの相性があります

排泄経路

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尿中排泄

腎臓において水溶性の薬を尿中に移動させ、尿として体外に排泄する経路で、他の経路よりも大量に排泄できます。

尿中排泄には、糸球体濾過・尿細管分泌・尿細管再吸収という3段階の行程があります。

最初の糸球体濾過は、名前が示すとおり糸球体という腎臓内の組織において原尿を作りだす行程で、水と分子量2万以下の物質が透過します。

血漿蛋白と結合している結合型の薬は、もっと分子量が大きいので透過できず、遊離型の大部分がここで原尿中へ移動します。

次の尿細管分泌は、近位尿細管と呼ばれる部位で、ATPポンプ(トランスポーターの一種)によって残存する薬を原尿中へ移動させます。

ただし、ATPポンプは大量には移動できませんし、選択性が高くありません。

よって、同じATPポンプを経由して排泄される薬を併用した場合は、競合が起こって排泄効率がさらに悪くなります。

最後の尿細管再吸収は、原尿中へ移動した水や栄養素を体内に戻す行程で、遠位尿細管にて行われます。

もともとは、有益な成分を排泄させずに再利用するための行程なのですが、非解離型をした薬も一部が再吸収されます。

尿中には通常では血漿蛋白が存在しませんので、結合型はなく全て遊離型です。

復習になりますが、遊離型の中でイオン化したものが解離型・イオン化していないものが非解離型で、解離型は生体膜を通過できません。

つまり、尿中でイオン化すれば尿細管再吸収を受けることがなく、尿中に残った状態になりますので、結果的に排泄量が増えることになります。

具体的には、酸性薬の排泄を促進したいのであれば尿をアルカリ性にし、塩基性薬の排泄を促進したいのであれば尿を酸性にすればよいわけです。(尿を酸性にすることは体に対する負担が大きいので、通常では行いません)

イオントラッピングと言われる方法で、バルビツール酸系薬の過剰摂取時や、痛風における尿酸の排泄促進に、尿をアルカリ化する薬を使用します。

また、尿中排泄は腎臓の働きによって大きな影響を受けますので、この経路で排泄される薬は、腎機能の低下によって排泄量が少なくなります。

排泄量が少なくなることで作用が強く・長くなる可能性があり、蓄積も起こりやすくなりますので、使用量を調節する必要があります。

腎機能の指標とされるものが糸球体濾過量(GFR)で、糸球体によって1分間に濾過できる血液の量を示したものです。

しかし、GFRを直接計測する方法がありません。

糸球体濾過を受けるが尿細管分泌や尿細管再吸収を受けない物質があれば、その排泄量(クリアランス)からGFRを推測することができます。

イヌリンという物質がこの性質を持っているのですが、投与は静注で行い排泄量計測にはカテーテルで蓄尿をする必要があり、このクリアランスを計測することもかなり大変です。

代わって、検査薬剤を投与せずに血清クレアチニン値から算出できるクレアチニンクリアランス(CCr)という値を使用します。

クレアチニンは筋肉から出る老廃物で、厳密には尿細管分泌を若干受けるのですが、イヌリンクリアランスと非常に近似する検査値が得られます。

よって、「CCrが30以下であれば投与量を半分にする(例)」などの使用量調整の指標として、よく登場します。

胆汁中排泄

肝臓において胆汁中へ移動させ、小腸・大腸を経由して糞便として排泄する経路で、脂溶性薬の主な排泄経路です。

コレステロールなどの水に溶けにくいために尿中排泄されない物質を体外に出すための経路で、薬においても事情は同じです。

この経路は小腸を経由するために、一部が再吸収されてしまう可能性があります。

この現象を腸肝循環と言い、グルクロン酸抱合された薬が腸内細菌によって加水分解されて抱合が外れたり、最初から未変化体で排泄された場合に起こります。

排泄されたものが再吸収されて作用を発揮しますので、効果の持続と体内蓄積に注意しなければなりません。

また、排泄経路が長いので、代謝を受けて排泄された薬が活性を有している場合は、消化管の機能に影響を及ぼすことがあります。

一例として、イリノテカンという抗癌剤は、活性体のまま胆汁中に排泄され、下痢を起こすことが多いです。

その他の排泄経路

乳汁中排泄:程度の大小はありますが、ほとんど全ての薬は乳汁中に移行します。特に、分子量が小さい薬や脂溶性の高い薬は、移行しやすい性質があります。(乳汁phは弱酸性なので、イオン化による影響から酸性薬よりも塩基性薬の方が排泄されやすくなります)乳汁分泌が活発な授乳中の女性では、微量であっても乳児に影響を与える場合がありますので、注意する必要があります。

汗中排泄:汗腺から汗に溶けて排泄させる経路です。微量ではありますが、薬に特有の臭いや色が付いている場合は、薬臭がしたり下着が着色することがあります。

唾液中排泄:唾液腺から唾液を介して排泄される経路です。問題になることは少ないですが、睡眠導入剤を服用した翌朝に口に苦味を感じるという場合があります。

涙液中排泄:涙腺から涙液を介して排泄される経路です。こちらも微量ですが、ソフトコンタクトレンズに影響する可能性があります。

呼気排泄:肺から吐く息とともに排泄される経路です。気化しやすい成分がこの経路で排泄されます。大部分の薬では無関係ですが、吸入麻酔薬の排泄では重要です。

毛髪排泄:他の経路では排泄されにくい重金属などが、この経路で体外に出ます。また、極々微量ですが多くの薬もこの経路で排泄され、毛髪の伸長速度が遅いために、毛髪から過去の使用歴が調べられます。違法薬物の使用時期特定に活用されます。

相互作用

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薬を併用した場合に、効果や安全性に影響を与える関係を薬物相互作用と言います。

大きく分類すると、薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用に分けられます。

薬物動態学的相互作用

薬物動態である吸収・分布・代謝・排泄の過程で起こる相互作用のことで、主に薬物濃度に変化を与えるものです。

今までに紹介済のものですが、各過程において相互作用を起こす可能性がある薬を列記します。

●吸収過程

  • 結合や吸着する薬
  • 胃腸運動に影響を与える薬
  • 肝機能に影響を与える薬
  • 消化管内のphを変える薬
  • トランスポーターに影響を与える薬

●分布過程

  • 血漿蛋白結合率が高い薬
  • 組織血流に影響を与える薬

●代謝過程

  • 薬物代謝酵素を増減する薬
  • 薬物代謝酵素を阻害する薬
  • 薬物代謝酵素が競合する薬

●排泄過程

  • 尿細管分泌で競合する薬
  • 尿細管再吸収を阻害する薬
  • 腎機能に影響を与える薬
  • 尿のphを変化させる薬
  • 胆汁分泌を増減する薬

これらの影響によって、薬物濃度が上がれば作用が強くなりますし、濃度が下がれば作用が弱くなります。

薬力学的相互作用

作用部位における薬物濃度に変化がないのに、効果の増強や減弱が起こる相互作用です。

最も分かりやすい例は、同じ作用の薬を併用した場合や、逆作用の薬を併用した場合です。

血小板凝集抑制薬のワルファリンはビタミンKの働きを阻害することで効果を発揮しますが、細菌を撃退する抗生物質の併用によって効果が増強される場合があります。

抗生物質が血小板凝集を阻害するのではなく、ビタミンKを産生する腸内細菌がダメージを受けることで、結果的にビタミンKの吸収量が減少することで発生する影響です。

このように、薬が効果を発揮する過程に影響を与える場合にも、薬力学的相互作用が起こる可能性があります。


Aという作用の薬とBという作用の薬を併用した場合、常識的に考えればA+Bという作用になりそうです。

しかし、現実には薬物相互作用の影響によって、単純な足し算にならない場合が少なくありません。

A+Bという作用となる場合を相加作用と言い、A+B以上の作用になる場合を相乗作用と言います。

逆に、A+B以下の作用になる場合は拮抗作用と言います。(ほぼ無効になる場合は阻害とも言います)

薬物相互作用は悪いことばかりではなく、うまく活用すれば、主作用を強く・副作用を弱くすることが可能です。

ただし、非常にデリケートな領域になりますので、素人判断での調節は危険です。

参考までに、お薬基礎知識の「薬の併用」も読んでください

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