
抗酸菌とはグラム陽性桿菌の一種で、細胞壁の構造が他の細菌と少し異なり、塩酸酸性アルコールによって脱色されにくいことからその名が付けられました。
最も有名な菌は結核菌で、他にライ菌や非結核性抗酸菌があり、総数で100種程度のグループです。
人に病原性を持つものは20種程で、結核は感染力が強いですが、ライ菌によるハンセン病や非結核性抗酸菌によるMAC(マイコバクテリウム・アビウムコンプレッスク)症などには弱い感染力しかなく、人から人への感染はほとんどないと言われています。
治療には抗菌剤を使用しますが、休眠型の菌がいるために根治が難しい菌で、かなりの長期間継続する必要があります。
先に紹介した、細胞壁の合成を阻害して抗菌力を発揮するβラクタム系・ホスホマイシン系・グリコペプチド系は無効で、アミノグリコシド系・キノロン系と抗酸菌に特有の抗菌剤を併用します。(理論上は、テトラサイクリン系やリンコマイシン系も有効なのですが、効能を取得していません)
結核とMAC症は同様の治療をすることが多く、ここでは結核の治療を中心に紹介します。(MAC症の治療法は未確立で、同族の菌なので結核に準じる治療が行われます)
結核の初回標準治療
感染力が強いので、起炎菌が結核菌と確定しましたら直ちに薬物療法を開始します。
次の5種が重要な薬です。
①リファンピシン:RNAポリメラーゼに作用してRNAの合成を阻害する薬で、イソニアジドに匹敵する抗菌力があります。効果は濃度依存性で、食後服用では吸収が低下することから、朝食前に服用します。涙や汗などの体液がオレンジ色に呈色します。併用禁忌や併用注意の薬が非常に多く、薬物相互作用に注意が必要です。
リファブチンはリファンピシリンの改良型で、リファンピシリン耐性菌の30%に効果を示し、組織移行性が良く、食事による影響を受けません。薬物相互作用もリファンピシンよりは少ない薬です。(それでも多いですが)リファンピシンが使用できない場合という使用条件が付いています。
②イソニアジド:細胞壁成分のミコモール酸の合成を阻害する薬です。MAO阻害作用があり、セロトニンやヒスタミン等のモノアミン類を介する副作用や、ビタミンB6の代謝拮抗による末梢神経炎を起こす可能性があります。また、肝障害にも注意が必要です。
③ピラジナミド:脂肪酸合成酵素の阻害により効果を発現すると思われていますが、未だに確定はしていません。抗菌力は弱いのですが、他剤との併用で相乗効果があり、耐性を遅延する効果も確認されています。肝障害や痛風などの関節痛を起こす可能性があります。
④エタンブトール:核酸合成阻害により細胞分裂を抑制する薬です。視力障害や肝障害を起こす可能性があります。
⑤ストレプトマイシン:アミノグリコシド系抗生物質で、リボソームに作用して蛋白合成を阻害します。内服では吸収されず無効なので、注射にて投与します。聴覚障害(第8脳神経障害)や腎障害に注意が必要です。
基本的には、①+②+③+④または①+②+③+⑤の4剤併用療法を2カ月間行い、その後は①+②を4カ月間継続します。
③のピラジナミドが使用できない場合は、①+②+④または①+②+⑤の3剤併用療法を2か月間行い、その後は①+②を7カ月間継続します。
なお、使用期間は目安であり、菌の陰性化が遅くなればもっと長くなります。
初期の治療において、2カ月間の菌陰性化率がピラジナミドの有無によって20%程度違うと報告されています。
多剤耐性結核菌の標準治療
多剤耐性結核菌とは、リファンピシンおよびイソニアジドに耐性を獲得した結核菌です。(最低でもこの2剤という意味で、他の薬にも耐性を示すケースは多いです)
この治療は、耐性化や有害作用によって使用可能な薬が減少するのに従って、3段階に分けられています。
1.ピラジナミド・エタンブトール・ストレプトマイシン・レボフロキサシン・エチオナミドの5剤併用療法を行います。
2.5剤中に耐性化や有害作用で使用できない薬がある場合、1剤目はパラアミノサリチル酸で代替し、2剤目はサイクロセリンで代替します。(ストレプトマイシンは使用できないがアミノグリコシド系が使用できる場合は、カナマイシン→エンビオマイシンの順で代替します)
3.使用可能薬が4剤以下となる場合、多剤耐性結核菌用薬を併用します。
アミノグリコシド系抗生物質は6カ月間で終了しますが、他の薬は菌陰性化後18カ月間継続します。
多剤耐性結核菌用薬
デラマニド:ミコモール酸合成阻害で効果を発揮する薬です。催奇形性があるので妊娠中は禁忌で、QT延長を起こしやすいので徐脈性の心疾患がある人には注意が必要です。他剤と交叉耐性はありませんが、この薬そのものの耐性化は比較的早いと言われています。空腹時の服用は吸収が悪くなります。
ベダキリン:結核菌のATP合成酵素を阻害して抗菌力を発揮します。この薬もQT延長を起こしやすので、心疾患がある人には注意が必要です。
ライ菌感染によるハンセン病の治療は少し異なり、一般的にはジアフェニルスルホン・クロファジミン・リファンピシン・オフロキサシンの4剤併用療法が行われます。