
心筋への酸素供給が不足することで狭心症発作が誘発されますので、酸素消費量を減らすか、酸素供給量を増やす薬を使用します。
また、血栓やアテローム病変が関与している場合も多いので、血小板凝集抑制薬やコレステロール合成阻害薬も併用されるケースが少なくありません。
すでに紹介した薬では、β遮断薬が心機能抑制による心筋酸素消費量減少の目的で使用されます。
また、Ca拮抗薬が冠状動脈拡張による酸素供給増加と、末梢血管拡張による心臓後負荷の軽減を目的として使用されます。
詳しくは、心疾患に使用される交感神経遮断薬および血管拡張薬を参照してください。
硝酸薬
ニトログリセリンや硝酸イソソルビドなどのNO(一酸化窒素)を遊離する薬で、NOにはc-GMPの産生を促進して強力な血管拡張作用があることから汎用されます。
冠状動脈拡張による心筋への酸素供給増加と、体静脈拡張による心臓前負荷軽減から心筋酸素消費量の減少が、狭心症の治療に有益に働きます。
Ca拮抗薬と似た作用ですが、Ca拮抗薬は動脈を拡張しやすく、硝酸薬は静脈を拡張しやすい点で違いがあります。
狭心症発作時には、舌下錠または口腔用スプレーによって、口腔粘膜から吸収させます。
初回通過効果を受けず速効性もあり、数分で効果を発揮しますが、30分程度しか持続しません。(ニトログリセリンの初回通過効果は90%もあり、内服するには不適です)
また、血圧が一気に20程下がる場合があり、注意が必要です。
発作時の頓用ではなく予防を目的に使用する場合は、貼付薬あるいは徐放錠を使用します。
NOによる血管拡張作用は、連用によって耐性化が起こりますので、必要に応じて一時休薬を行います。
低血圧以外で注意する副作用は、血管拡張に起因する動悸・頭痛・眼圧上昇です。
c-GMPを増やす作用を持つPDE-5阻害薬やグアニル酸シクラーゼ刺激薬と併用すると、危険な程に血圧が下がることがあるために併用禁忌です。
他の冠拡張薬
いずれも発作時の頓用薬ではなく、予防を目的に使用する薬です。
ニコランジル
NO遊離による冠拡張作用と、Kチャンネル開口や冠状血管攣縮の抑制による虚血心筋保護作用を持つと考えられている薬です。NOを介した作用を持つために、亜硝酸薬と同じ注意が必要です。
ジピリダモール
アデノシンの赤血球・血管壁への再取込を抑制し、血液中アデノシン濃度を高めることで冠状血管を拡張させる薬です。血小板の機能を抑制して凝集を抑制する作用や、尿蛋白を減少させる作用もあります。(心臓とは無関係に、尿蛋白減少を目的に使用される場合もあります)多彩な作用を持っていますが、それほど強い作用ではありません。
トラピジル
直接的な血管拡張作用・血小板凝集抑制作用・前負荷および後負荷軽減作用・脂質代謝改善作用などが報告されていますが、委細はよく分かっていません。β遮断薬の標準薬(プロプラノロール)と比較して、同等以上の効果があるとされています。