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輸液の目的と注意点

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輸液の目的

輸液には次の4つの目的があります。

1.体内の水分・電解質・pHの是正と維持

2.循環血液量の維持

3.栄養補給

4.血管確保

1の体内水分の維持と2の血液量の維持は似たような目的のように思えますが、輸液の浸透圧によって違いがあり、詳しくは後頁で紹介します。

電解質に関しましては、今までにNa+・K+・Ca2+・HCO3-などが随所に登場していましたので、これらの量やバランスが崩れると様々な不調を起こすことは理解いただけると思います。

pHは酸性・アルカリ性を示すもので、「薬理学を学ぶ前に」で紹介していますので再読してください。

pHが1違うことはH+(またはOH-)の濃度が10倍違うことを意味しますので、電解質や薬の解離(イオン化)にも大きな影響があります。

血管確保とは、身体状態が悪化すると血管が細くなり、針を刺すことが困難になりますので、輸液投与のルートを早めに確保しておくことです。

補給水分量の計算

輸液量=水分欠乏量×安全係数+1日必要量ー経口摂取量

体にメーターが付いているわけではありませんので、水分欠乏量は患者さんの状態から類推するしかありません。

一例ですが、口渇を訴えるが具体的な脱水症状がない場合は2%、数日間の絶食があって尿がほとんど出ていない場合は5%、全身脱力や精神異常が現れている場合は7~10%として欠乏量を算定します。

不足分を急激に補給すると体内環境の変化が大き過ぎて別の問題を起こす場合がありますので、2日あるいは3日をかけて補充するために、安全係数として1/2~1/3を掛けます。

1日必要量=尿量+不感蒸泄量+糞便中水分量ー代謝量

不感蒸泄量とは、体温調節のために発汗している量です。

正確に計量することが難しい項目もありますので、通常の状態であれば1日必要量≒35ml/kgとして計算することが多いです。

輸液の注意点

低栄養状態において大量の水分補給を行うと、血液中のアルブミン量が減少しているために低アルブミン血症が顕在化することがあります。

血漿アルブミンは血液の浸透圧を左右している成分ですので、浸透圧効果によって水分が移動し、組織の浮腫を起こす場合があります。

また、中心静脈圧が高い状態に急速注入を行うと、肺組織に水分が浸潤して肺水腫を誘発する危険性があります。

輸液流量が10ml/時以下の遅い速度では、血液凝固を起こす場合があります。

輸液そのものの浸透圧も重要で、低い浸透圧の液を血管に入れると、赤血球に水分が移動して溶血を起こします。

通常の点滴は末梢静脈を使用しますが、栄養補給の輸液は高浸透圧のものが多く、中心静脈を使用しないと血管炎を起こします。

体液組成と輸液の関係

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体液の構成

体の中の水分の分布は、およそ図のような割合です。

血漿やリンパ液に含まれる水分は体重の5%程度に過ぎません。

それと細胞の外に存在する間質液(組織間液)を合わせて細胞外液と言い、合計で体重の20%程度です。

細胞の内に存在する水分は体重の40%程度あり、総計で体重の60%程度が水分です。(図右側の外液は体液の誤記です)

細胞外液の水分が不足すれば細胞内液から補充され、細胞外液で水分が過剰になれば細胞内液へ移動します。

よって、組成比率が大きく変わることはありません。

輸液成分の移動

輸液は一般的に静脈から投与しますので、まずは血液(血漿)部分に入ることになります。

血漿と間質液の間には、毛細血管壁が存在していますが、高分子化合物以外は比較的自由に通過できますので、血漿から間質液の方へ移動して、細胞外液全体に行き渡ります。

細胞の外と内の間には細胞膜が存在しており、この間の移動には制限がありますので、細胞内液にまで届かせるためにはどのような輸液でも良いというわけではありません。

トランスポーターを介した能動輸送を除けば、体内での物質の移動は単純拡散で行われています。

今までにも浸透圧効果という現象が出てきましたが、単純拡散とは浸透圧効果の結果です。

復習しておきますと、半透膜を境として濃度の違う溶液を接すると、濃度の低い溶液から濃度の高い溶液へ水が移動する現象で、この移動は双方の濃度=浸透圧が等しくなるまで続きます。

細胞膜も一種の半透膜で、浸透圧が細胞内液と等しい輸液では、細胞の内にまで移動できません。

細胞内液にまで届けたい場合には、浸透圧の低い輸液を使用しなければならないわけです。

ただし、単なる水のような著しく浸透圧の低い液では、赤血球内に水が移動して血管内溶血を起こしてしまいます。

逆に、毛細血管壁を通過できない高分子化合物を多く含み、少し浸透圧が高い輸液であれば、間質液へ入ることができずに血管内に留まることになります。

大量出血などで循環血液量を確保したい場合には、このような血漿増量剤を使用します。

ただし、あまりに浸透圧が高いと細胞内液を引き込むことになってしまいます。(この原理を利用したのが浸透圧利尿で、浮腫による脳圧亢進の改善などで使用します)

以上をまとめますと、血管内に輸液成分を留めておきたい場合は血漿増量剤を、細胞外液に行き渡らせたい場合は等張性輸液を、体液全体に行き渡らせたい場合は低張性輸液を選択します。

輸液の関する計算

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表はハイカリック液という輸液の成分表です。

あまり見かけない単位で表記されていますが、これらの意味が分からないと輸液を使いこなすことはできません。

gやmgは小学校で習った重さの単位で皆が分かると思いますが、mEqやμmolは見たことがない人も多いでしょう。

物質量の計算

mol(モル)は「薬理学を学ぶ前に」で紹介していますので、先にそちらを参照してください。

molは物質量を表す単位で、原子の場合は質量(g)÷原子量で、分子の場合は質量(g)÷分子量で求めます。

逆に、molが分かっていれば、原子量(あるいは分子量)を掛けることで質量を算定することもできます。

頭に付くμ(マイクロ)は、1/1000のさらに1/1000を意味する単位の接頭語で、表中の10μmolは0.00001molのことです。


例題1:9gのブドウ糖の物質量は?

ブドウ糖の分子量は180ですので、X=9÷180=0.05molです。

9gを9000mgとして計算すれば、9000÷180=50mmolでも正解です。

例題2:1molの食塩は何gか?

食塩(NaCl)の分子量は58.5ですから、1=X÷58.5より、X=58.5gです。


電解質量の計算

mEq(メック)は電解質量を表す単位で、Na+やCl-のように右肩に+やーが付くイオンがどれだけあるのかを示しています。

計算は簡単で、物質量に電荷数を掛けるだけです。(電荷数とは、+やーの個数で、-2の場合は2、+3の場合は3です)

注意してもらいたいのは、mEqの頭に付いているm(ミリ)は単位の接頭語で、1/1000を意味しています。

つまり、mEqを求める場合に使う物質量は、単位を合わせてmmolでなければなりません。(molで計算した場合はEqを求めたことになります)

電解質量(mEq)=物質量(mmol)×電荷数 (=質量(mg)÷原子量×電荷数)


例題3:生理食塩液1L中の電解質量は?

最初に生理食塩液1L中に含まれる食塩の質量を求めます。

生理食塩液は0.9%ですので、1L中にはNaClが9g含まれています。

次に、9gのNaClの物質量を求めます。

NaClの分子量は58.5なので、9÷58.5=0.153846(mol)=153.846(mmol)

NaClは溶液中でNa+とCl-に解離しており、電荷数はどちらも1ですので、Na+が153.846mEq・Cl-が153.846mEqです。

NaやClの質量を別々に求め、それぞれの原子量で割って計算する方法もありますが、物質量から求める方が簡単です。


溶質数(浸透圧)の計算

輸液において、もう一つ重要な単位に溶質数(mOsm、モスム)があります。

溶液中におけるイオンや分子の数を示したもので、1L中の溶質数は浸透圧を意味します。(mOsmの頭に付くmもミリで、1/1000のことです)

これも物質量で計測しますので、物質の大小に関係しませんが、イオン化する物質ではイオン数が重要になります。

溶質数(mOsm)=物質量(mmol)×イオン数 (=質量(mg)÷分子量×イオン数)

例えば、ブドウ糖は溶液中でイオン化しませんのでイオン数は1ですが、NaClはNa+とCl-に解離しますのでイオン数は2で、CaCl2ではCa2+と2つのCl-に解離しますのでイオン数は3になります。

1Lの輸液に含まれる全成分の溶質数を足し合わせたものが、その輸液の浸透圧です。

ちなみに、血漿浸透圧は285±15mOsm/Lです。


例題4:生理食塩液の浸透圧は?

生理食塩液は1L中に9gのNaClを含み、分子量は58.5でイオン数2です。

単位を合わせるために9g=9000mgとして式に代入すると、9000÷58.5×2=307.7mOsm/L

例題5:5%ブドウ糖液の浸透圧は?

1L中に50gのブドウ糖を含み、分子量は180でイオン数1です。

こちらも単位を合わせて、50000÷180×1=277.78mOsm/L


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点滴速度の計算

点滴には機械による自動注入装置を使用するケースも増えていますが、図のような点滴セットを使用するケースもまだまだ多いです。

点滴セットには成人用と小児用の2種があります。

点滴筒で滴下を確認できるようになっており、成人用では20滴で1ml・小児用は60滴で1mlになるように設定されています。

(規格では、成人用は水色・小児用はピンク色と定められていますが、他の色をしたセットもあるようなので、成人用・小児用は包装表示で確認しましょう)

1分間あたりの滴下数が分かれば、流量が分かります。

成人用では、1分間の滴数÷20=流量(ml/min)

小児用では、1分間の滴数÷60=流量(ml/min)

逆算すれば、目的とする流量から1分間の滴数を求めることができます。

輸液量(ml)÷所要時間(min)=流量(ml/min)ですから、これに20または60を掛けたものが1分間の滴数です。

クランプのローラーを上下することで流量を変更できますので、点滴筒の滴下数が算定した滴数になるように調整します。


例題6:成人用輸液セットを用いて500mlの輸液を6時間かけて点滴静注する場合、1分間何滴に調整すればよいか?

6時間は360minなので、流速=500÷360=1.389ml/min

成人型輸液セットは1mlが20滴なので、1.389×20=27.78≒28滴

(27滴だと少し余ることになるので、通常は少数点で切り上げることが多い)


機械式の自動注入装置は数値を入力しますが、単位はml/minであるとは限りません。

ml/hという単位の場合は、1時間あたりの注入量ですので、ml/minの60倍の数値になります。

各種輸液製剤

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電解質輸液

ミネラルなどの電解質を主成分とする輸液で、電解質の補給やpH是正の働きがあります。

等張性と低張性があり、等張性は細胞外液である血漿や組織間液の補充に、低張性は細胞内液の補充に使用されます。

生理食塩液

水に0.9%の濃度となるようNaClを溶かした液で、ほぼ体液と同じ浸透圧の等張性電解質輸液です。低Na血症のようなケースにはそのまま投与されることもありますが、注射薬の溶解希釈に使用されることが多いです。また、刺激が少ないので、傷部の洗浄や噴霧吸入して喀痰排泄促進などにも使われます。

リンゲル液

生理食塩液のNaClを少し減らし、KCl(塩化カリウム)とCaCl2(塩化カルシウム)を添加した等張性電解質輸液です。生理食塩液には心筋活動に必要なKとCaが含まれていませんので、細胞外液の補充にはこちらの方が適しています。ただし、Clの濃度が高いために多量に使用すると、高Cl性アシドーシスを起こす場合があります。(アルカローシスの是正には適しています)

乳酸リンゲル液

ハルトマン液とも呼ばれ、リンゲル液に乳酸を加えた等張性電解質輸液です。乳酸は体内で代謝を受けて重炭酸イオンとなりますので、アシドーシスを是正する効果があります。同様な目的で酢酸を添加した酢酸リンゲル液もあります。

重炭酸リンゲル液

リンゲル液に炭酸水素ナトリウムを加えたもので、乳酸のように代謝を受けることなく重炭酸イオンを作りますので、アシドーシス是正の効果は早く現れます。しかし、液がややアルカリ性となりますし、炭酸ガスを発生する可能性があります。また、塩化マグネシウムを含有しますので、高Mg血症にも注意が必要です。

低張性電解質輸液は、1号~4号に大別されます。

基本的な組成は生理食塩液と5%ブドウ糖液を混合したもので、号数が大きくなる程にブドウ糖液の割合が高くなっています。

生理食塩液も5%ブドウ糖液も、浸透圧は血漿浸透圧に近い液ですので、両者を混合しても低張にはならないのではないかと思う人も多いと思います。

これにはブドウ糖が大きく関係しており、血液中に入ったブドウ糖は循環している間にエネルギー源として消費されますので、物質量が次第に減少することになります。

つまり、投与してから経時的に浸透圧が低下し、体内でどんどん低張化していくわけです。

電解質や水分の補給に便利な輸液ですから、非常によく使用されます。

1号液(開始液)

ほぼ生理食塩液と5%ブドウ糖液を等量混合した液です。Kを含んでいませんので、心不全や高K血症にも使用が可能で、患者さんの状態が詳しく分からない場合に使用されることが多いです。継続使用せずに、状態が判明したら、状態に適した輸液に変更するのが一般的です。

2号液(脱水補給液)

Na・Cl・ブドウ糖の他に、K・Mgなどの細胞内電解質を含んでいます。Pや乳糖を含有する製品も多いです。

3号液(維持液)

健常人の電解質組成に近い成分を含有しており、最もよく使われる輸液です。

4号液(術後回復液)

5%ブドウ糖液の配合割合が高く、水分補給に優れます。腎機能が低下しやすい手術後や、新生児・高齢者に適した輸液です。乳糖も含みますが、Kは含まない製品が多いです。

栄養輸液

糖・脂質・アミノ酸という栄養素を主成分とした輸液です。

糖質輸液の代表はブドウ糖液で、各種濃度のものを目的に合わせて使用します。

最も汎用されるのは、浸透圧が血漿浸透圧に近い5%ブドウ糖液で、注射薬の溶解液として多用され、静脈確保や細胞内液の補給にも使用されます。

濃度の高い10%や50%ブドウ糖液は、低血糖の回復や糖質補給はもちろんですが、高K血症の対応にも使用されます。

しかし、糖尿病や腎不全には注意が必要で、点滴速度はブドウ糖換算で0.5g/kg/時以下にしなければなりません。

また、水分補給に優れる反面、電解質濃度が低下している低張性脱水症には禁忌です。

インスリン分泌を刺激しないインスリン非依存性糖液として、ソルビトール液・マルトース液・キシリトール液などもあります。(ソルビトール液は遺伝性果糖不耐症に使用すると、肝障害や腎障害を起こします)


糖質輸液とKの関係

ブドウ糖の投与でインスリンが分泌され、細胞内への糖の取り込みが促進します。

細胞内へは糖と同時にKも取込まれるために高K血症が是正されます。

しかし、低K血症は逆に悪化することになります。


脂肪は3大栄養素の中で最も熱量が高い成分で、エネルギー補給に適しますが、水に溶けにくいために乳化剤を加えて脂肪乳剤として投与します。

必須脂肪酸の補給にも使用されます。

アミノ酸が長期間不足すると蛋白質の合成が十分にできず、傷の修復が遅れて褥瘡を起こしたり、アルブミンの減少で浮腫を起こしたりします。

1日の必要アミノ酸量は、体重1kgあたり0.7~1.0gで、アミノ酸製剤で補充します。

肝臓障害時には、体内で芳香族アミノ酸が増加し、神経伝達物質の前駆体であることから肝性脳症を誘発する原因にもなります。

肝・腎障害に伴う窒素バランスを改善する目的で、ロイシン・イソロイシン・バリンなどの分岐鎖アミノ酸を投与します。

総合栄養輸液は高カロリー輸液とも呼ばれ、製品によって成分は異なりますが、糖・電解質・アミノ酸・ビタミン・ミネラル・脂肪を配合し、食事の代用となる輸液です。

中心静脈用と末梢静脈用があり、両者の浸透圧は全く違いますので、間違えてはいけません。

また、ビタミンB1が不足するとTCA回路がうまく働かずに解糖系が亢進し、ピルビン酸から乳酸が作られてアシドーシスを起こすので、ビタミンB1を併用するのが一般的です。

輸液ではありませんが、経腸栄養剤は経口摂取が可能な場合に使われるもので、胃瘻チューブや経鼻チューブから投与される場合も少なくありません。

腸管での消化を必要としない成分栄養剤・消化態栄養剤と、腸管での消化を必要とする半消化態栄養剤があります。

糖尿病用や肝臓疾患用などの病態別製剤も登場しています。

ただし、完全栄養ではありませんので、長期に使用する場合はビタミンやミネラルの不足に注意する必要があります。

血漿増量剤はデキストランなどの毛細血管を通過できない成分を配合した輸液で、急性出血の緊急対応や手術時の輸液低減に使用され、体外循環還流液にも使用されます。

血液量や血漿浸透圧が増すことになりますので、うっ血性心不全には禁忌であり、腎機能障害や脱水がある場合にも注意が必要です。

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