表はハイカリック液という輸液の成分表です。
あまり見かけない単位で表記されていますが、これらの意味が分からないと輸液を使いこなすことはできません。
gやmgは小学校で習った重さの単位で皆が分かると思いますが、mEqやμmolは見たことがない人も多いでしょう。
物質量の計算
mol(モル)は「薬理学を学ぶ前に」で紹介していますので、先にそちらを参照してください。
molは物質量を表す単位で、原子の場合は質量(g)÷原子量で、分子の場合は質量(g)÷分子量で求めます。
逆に、molが分かっていれば、原子量(あるいは分子量)を掛けることで質量を算定することもできます。
頭に付くμ(マイクロ)は、1/1000のさらに1/1000を意味する単位の接頭語で、表中の10μmolは0.00001molのことです。
例題1:9gのブドウ糖の物質量は?
ブドウ糖の分子量は180ですので、X=9÷180=0.05molです。
9gを9000mgとして計算すれば、9000÷180=50mmolでも正解です。
例題2:1molの食塩は何gか?
食塩(NaCl)の分子量は58.5ですから、1=X÷58.5より、X=58.5gです。
電解質量の計算
mEq(メック)は電解質量を表す単位で、Na+やCl-のように右肩に+やーが付くイオンがどれだけあるのかを示しています。
計算は簡単で、物質量に電荷数を掛けるだけです。(電荷数とは、+やーの個数で、-2の場合は2、+3の場合は3です)
注意してもらいたいのは、mEqの頭に付いているm(ミリ)は単位の接頭語で、1/1000を意味しています。
つまり、mEqを求める場合に使う物質量は、単位を合わせてmmolでなければなりません。(molで計算した場合はEqを求めたことになります)
電解質量(mEq)=物質量(mmol)×電荷数 (=質量(mg)÷原子量×電荷数)
例題3:生理食塩液1L中の電解質量は?
最初に生理食塩液1L中に含まれる食塩の質量を求めます。
生理食塩液は0.9%ですので、1L中にはNaClが9g含まれています。
次に、9gのNaClの物質量を求めます。
NaClの分子量は58.5なので、9÷58.5=0.153846(mol)=153.846(mmol)
NaClは溶液中でNa+とCl-に解離しており、電荷数はどちらも1ですので、Na+が153.846mEq・Cl-が153.846mEqです。
NaやClの質量を別々に求め、それぞれの原子量で割って計算する方法もありますが、物質量から求める方が簡単です。
溶質数(浸透圧)の計算
輸液において、もう一つ重要な単位に溶質数(mOsm、モスム)があります。
溶液中におけるイオンや分子の数を示したもので、1L中の溶質数は浸透圧を意味します。(mOsmの頭に付くmもミリで、1/1000のことです)
これも物質量で計測しますので、物質の大小に関係しませんが、イオン化する物質ではイオン数が重要になります。
溶質数(mOsm)=物質量(mmol)×イオン数 (=質量(mg)÷分子量×イオン数)
例えば、ブドウ糖は溶液中でイオン化しませんのでイオン数は1ですが、NaClはNa+とCl-に解離しますのでイオン数は2で、CaCl2ではCa2+と2つのCl-に解離しますのでイオン数は3になります。
1Lの輸液に含まれる全成分の溶質数を足し合わせたものが、その輸液の浸透圧です。
ちなみに、血漿浸透圧は285±15mOsm/Lです。
例題4:生理食塩液の浸透圧は?
生理食塩液は1L中に9gのNaClを含み、分子量は58.5でイオン数2です。
単位を合わせるために9g=9000mgとして式に代入すると、9000÷58.5×2=307.7mOsm/L
例題5:5%ブドウ糖液の浸透圧は?
1L中に50gのブドウ糖を含み、分子量は180でイオン数1です。
こちらも単位を合わせて、50000÷180×1=277.78mOsm/L
点滴速度の計算
点滴には機械による自動注入装置を使用するケースも増えていますが、図のような点滴セットを使用するケースもまだまだ多いです。
点滴セットには成人用と小児用の2種があります。
点滴筒で滴下を確認できるようになっており、成人用では20滴で1ml・小児用は60滴で1mlになるように設定されています。
(規格では、成人用は水色・小児用はピンク色と定められていますが、他の色をしたセットもあるようなので、成人用・小児用は包装表示で確認しましょう)
1分間あたりの滴下数が分かれば、流量が分かります。
成人用では、1分間の滴数÷20=流量(ml/min)
小児用では、1分間の滴数÷60=流量(ml/min)
逆算すれば、目的とする流量から1分間の滴数を求めることができます。
輸液量(ml)÷所要時間(min)=流量(ml/min)ですから、これに20または60を掛けたものが1分間の滴数です。
クランプのローラーを上下することで流量を変更できますので、点滴筒の滴下数が算定した滴数になるように調整します。
例題6:成人用輸液セットを用いて500mlの輸液を6時間かけて点滴静注する場合、1分間何滴に調整すればよいか?
6時間は360minなので、流速=500÷360=1.389ml/min
成人型輸液セットは1mlが20滴なので、1.389×20=27.78≒28滴
(27滴だと少し余ることになるので、通常は少数点で切り上げることが多い)
機械式の自動注入装置は数値を入力しますが、単位はml/minであるとは限りません。
ml/hという単位の場合は、1時間あたりの注入量ですので、ml/minの60倍の数値になります。