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中枢神経の系統

中枢神経の系統は生理学で詳しく習うと思いますので、ここでは簡単に紹介だけしておきます。

序列系:大脳と脊髄を結ぶ神経経路で、有髄の太い神経によって随意運動の指令や知覚刺激の伝達に関与します。

放散系:無髄の細い神経線維が分岐してネットワークを作り、食欲や情動などに関与します。

局所調節系:部分的な情報伝達の調節を行う系で、主に抑制の働きをします。

薬理学における末梢神経との違いは、多くの神経伝達物質が関与していることです。

主なものだけでもノルアドレナリン・アセチルコリン・ドパミン・セロトニン・ガンマーアミノ酪酸(GABA)・ヒスタミン・グリシン・グルタミン酸・アスパラギン酸などあります。

もちろん、それぞれの受容体が存在しますし、担う作用も違いますので、中枢神経の複雑な働きの根幹を成しています。

興味深いことに、これらの神経伝達物質の多くはアミノ酸そのものであったり、アミノ酸を原料として作られています。

  • フェニルアラニン・チロシン → ノルアドレナリン・ドパミン
  • トリプトファン → セロトニン
  • ヒスチジン → ヒスタミン
  • グルタミン酸 → ガンマーアミノ酪酸
  • グリシン・グルタミン酸・アスパラギン酸 → そのまま

麻酔薬

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末梢の感覚神経を麻痺させる薬が局所麻酔薬でしたが、麻酔薬とは中枢神経を麻痺させて全身に麻酔をもたらす薬のことです。

麻酔深度

麻酔は中枢神経のどの範囲にまで麻痺が及ぶのかによって、大きく4段階に区分されます。

  • 第1期(無痛期):大脳皮質の麻痺で、痛覚はほぼ消失しますが意識は残存しており、随意運動は可能です。無痛分娩や小手術などが行われます。
  • 第2期(興奮期):意識が消失し、抑制性神経が麻痺することによって、抑制症状ではなく呼吸の乱れ・筋緊張亢進・血圧上昇・頻脈などの興奮症状が現れます。手術には適さない時期です。
  • 第3期(外科的麻酔期):呼吸安定・筋緊張低下・血圧下降や反射機能が抑制されます。第1~4相に細分され、第1~3相が手術に適した時期とされます。
  • 第4期(延髄麻痺期):延髄にまで麻痺が及び、呼吸停止や血圧の著明下降によって死に至る危険がある時期です。

麻酔前投薬

全身麻酔をかける前に投与する薬の総称で、下記の目的で使用されます。

  • 眠気を催して麻酔導入を早める
  • 手術に伴う不安を軽減する
  • 手術に伴う痛みを軽減する
  • 唾液および気道分泌の亢進を抑制する
  • 迷走神経の興奮を抑制する

ベンゾジアゼピン系抗不安薬・オピオイド系鎮痛薬・抗コリン薬・抗ヒスタミン薬などを組み合わせて、麻酔開始の1時間ほど前に注射にて投与します。(手術は胃腸内を空の状態で実施しますので、内服で投与することはしません)

また、麻酔前投薬には該当しませんが、手術前日には、腸管残留物を除くために下剤を使用したり、不安や緊張による不眠を防ぐために睡眠導入剤を使用することがあります。

吸入麻酔薬

気体の状態で使用する麻酔薬で、肺から吸入します。

呼気から速やかに排泄されますので、麻酔深度の調節がしやすく、肝臓や腎臓の機能による影響を受けないという利点があります。

しかし、特殊な専用機器を必要としますし、完全密閉方式でない場合は、薬漏れにより手術スタッフに影響が及ぶ可能性があります。

理想的な吸入麻酔薬としては、効果が強い・効果発現が速い・鼻や呼吸器粘膜に刺激性がない・引火性がない・筋弛緩作用がある・随伴する有害作用がない、というものですが、全てを満たすものはありません。

亜酸化窒素は笑気とも呼ばれる薬で、効果発現が速く刺激は弱く鎮痛作用があるのですが、100%濃度で使用しても十分な麻酔深度に達せず筋弛緩作用も極めて弱いです。吸入麻酔薬は酸素と併用して使用しますので、高濃度で使用すると低酸素症の危険があり、単独使用ではなく他の麻酔薬と組み合わせて使用します。

エーテルは筋弛緩作用は強いのですが、粘膜刺激や引火性があります。電気メスのような熱を伴う機器が使用できないために、今では使用されません。

ハロタンは粘膜刺激や引火性がなく、強さ・早さ・筋弛緩のバランスが比較的良い薬で、一時期は主流でした。しかし、肝障害や心筋感受性亢進という有害作用があり、緊急時にアドレナリンなどの昇圧剤使用が難しいことと、重篤な副作用である悪性高熱症の発症率が高いことで敬遠されるようになりました。今では動物用として使用されるくらいです。

イソフルラン・セボフルランは現在汎用されている薬です。粘膜刺激は若干ありますが引火性はなく、強さ・早さ・筋弛緩作用ともハロタンより優れています。しかし、ハロタンと同じくハロゲン系の吸入麻酔薬であり、悪性高熱症が起こる可能性はあります。


悪性高熱症

筋肉硬直・体温上昇・頻脈・血圧変動などを伴い、死亡率が高い副作用です。

ハロゲン系の吸入麻酔薬を使用した場合に起こり、遺伝的な要因が関係しているとされています。(家族歴などの問診が防止に重要です)

治療にはダントロレンを使用しますが、詳しい作用機序が解明されているわけではありません。

セロトニン作動薬の副作用に悪性症候群があり、同様な症状であるために同じ病態ではないかと疑われています。


静脈内麻酔薬

静脈内に投与することで麻酔を起こす薬で、特殊な器具を必要とせず、効果発現が速いという利点があります。

しかし、麻酔深度や作用時間の微調節が難しく、どうしても多めに使用してしまう傾向があります。

また、筋弛緩作用が弱いので、単独使用での大手術には適しません。

チオペンタールはバルビツール酸系の麻酔薬で、投与して直ぐに第3期に入る速効性があります。呼吸中枢と交感神経の抑制が起こるので気管支喘息には禁忌で、動脈への刺激が強いので動脈に穿刺しないように注意が必要です。

ミダゾラムはベンゾジアゼピン系の麻酔薬で、注射剤は水溶性ですが血管内に入ると脂溶性に変化して中枢へ移行します。(注射剤のphを高くすると脂溶性に変わって沈殿を生じますので、混注する時には注意が必要です)他の薬と比べて有害作用や注意点が少なく、使用頻度が増えている薬です。

プロポフォールはGABA受容体作動薬で、麻酔の導入や維持に優れ、覚醒も早いので現在の主流となっている麻酔薬です。気管支拡張作用があるので喘息患者にも使用できますが、血管痛および術中覚醒を起こすことがあります。

ケタミンはグルタミン酸受容体拮抗薬で、鎮痛作用もある麻酔薬です。大脳皮質を抑制しますが辺縁系を賦活するために、呼吸抑制は起こしにくいのですが血圧上昇や頻脈などの興奮作用が起こります。覚醒時反応として頭痛や吐気なども起こしやすい薬です。オピオイド系ではないのですが、乱用防止のために麻薬の指定を受けています。

レミフェンタニルはオピオイド系鎮痛薬で、中枢神経抑制作用により麻酔薬としても使用されます。昔はモルヒネが使用され、その後は鎮痛作用の強いフェンタニルに移り、最近では速効があって残留しにくいレミフェンタニルが主に使用されます。いずれも麻薬指定を受けています。単独で使用するよりも、他剤と組み合わせて全静脈麻酔やバランス麻酔として使することが多い薬です。大量使用すると急性耐性が起こることがあります。

デクスメデトミジンは最近登場したα2受容体作動薬で、青斑核に作用して鎮静作用と鎮痛作用を発揮します。

上で紹介した薬は、いずれも麻酔前投薬や吸入麻酔薬との併用でも使用されます。

バランス麻酔・全静脈麻酔

手術中の鎮静・鎮痛・筋弛緩という麻酔の3要素を満たすだけでなく、十分な効果を持つ鎮痛薬を併用することによって、術中の患者ストレスを最小限にする麻酔法をバランス麻酔と言います。

単一の麻酔薬を使用するよりも、鎮痛・鎮静・筋弛緩および有害作用抑制を複数の薬で達成します。

吸入麻酔薬と静脈内麻酔薬を併用する方法も、一種のバランス麻酔です。

静脈内投与する薬によって、麻酔状態を維持する方法を全静脈麻酔と言います。

バランス麻酔の考えに基づき、鎮痛・鎮静・筋弛緩などの各要素を担う薬を併用することで実施します。

静脈内麻酔薬+筋弛緩薬を出発点として、改良進化しています。

現在よく使われるのは、プロポフォール+オピオイド系鎮痛薬(レミフェンタニルなど)や、ドロペリドール+フェンタニル+ケタミンなどの組合せです。

ニューロレプト麻酔

神経遮断薬と鎮痛薬を静脈内投与する方法で、神経遮断性無痛法(NLA法)とも呼ばれます。

患者の意識は保たれ、循環動態も安定しているので、患者と応答しながらの手術も可能です。

必要に応じて吸入麻酔薬と併用して意識を消失させ、脳外科手術を行うこともあります。(この場合、本法は麻酔前投薬の役割をすることになります)

NLA原法はドロペリドール+フェンタニルの組合せですが、ドロペリドールには有害作用が多く・フェンタニルは麻薬であることから、ジアゼパム+ペンタゾシンのNLA変法を使用する方が多くなっています。

催眠薬(睡眠導入薬)・抗不安薬

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最初に理想的な催眠剤についての条件を考えてみましょう。

  • 睡眠周期(レム睡眠・ノンレム睡眠)や深度が自然睡眠と同じ
  • 作用発現が速く、適度な持続性があり、覚醒時に残存しない
  • 経口投与が可能で、大量使用しても致死量に達しない
  • 連用しても習慣性や依存性がなく、退薬症状もない

現状では、これら全ての条件を充足する薬はありません。

昔に比べれば改良が進み、少しずつ理想に近づいてはいますが、まだ道半ばにも達していません。

現在使用されている薬の多くは、次のようなレベルです。

約1.5時間の周期で繰り返すレム睡眠・ノンレム睡眠に影響し、自然睡眠のパターンとは異なった眠りになるために、爽やかな目覚め感は得られません。

睡眠の障害には入眠障害・熟眠障害・途中覚醒・早朝覚醒があり、適する作用発現の早さや持続性が異なるために、1種で全てに対応することは不可能です。

中枢抑制作用によって効果を発現する種類が多く、麻酔薬のように延髄まで麻痺する可能性は低いものの、過量に服用すれば麻酔→昏睡→死亡というケースもあります。

長期連用によって精神依存・身体依存を起こす可能性があり、急に中止すると反跳性不眠を起こしたり悪夢を見ることもあります。

もちろん、薬の種類によって微妙な差異はあります。

バルビツール酸誘導体

脳幹網様体に作用して覚醒機構を抑制する薬ですが、GABA受容体を増強する薬と覚えた方が理解しやすいです。

催眠作用の他に抗痙攣作用もあり、麻酔前投薬や抗てんかん薬としても使用されます。

レム睡眠を短縮し、依存性があり、過量服用で呼吸や循環系が抑制されて死亡する場合もあります。

昔、自殺に使用されることのあった睡眠薬はこの種類で、酸性の薬なので中毒時には尿をアルカリ化して排泄促進を行います。

また、薬物代謝酵素へ影響を及ぼし、相互作用が問題となる薬が多いので、併用薬には注意が必要です。

様々な欠点がある薬なので、今では催眠薬として使用することはほとんどなく、緊急時の鎮静や他剤で無効の痙攣に使用される程度です。

向精神薬の指定を受けています。

ベンゾジアゼピン系薬

ベンゾジアゼピン受容体に結合して覚醒中枢への刺激を抑制する薬で、こちらもGABA受容体を間接的に増強します。

情動中枢に選択的で、脳全体に作用が及ばないために比較的安全な薬です。

この薬を過量に服用しても死亡するケースはほとんどなく、中毒時の対応としては選択的拮抗薬のフルマゼニルがありますので、バルビツール酸系よりも対応がしやすい薬です。

催眠作用の他に、抗不安作用・筋弛緩作用・抗痙攣作用もあり、緊張緩和や肩こり軽減などにも使用されます。

レム睡眠への影響が少なく、比較的自然睡眠に近い睡眠パターンを示すことから、催眠剤の主流となっています。

しかし、抗コリン作用があるために急性狭隅角緑内障や重症筋無力症には禁忌ですし、最近になってベンゾジアゼピン眼症(瞼痙攣・羞明・眼痛)という副作用報告がありました。

また、連用によって依存を起こす可能性はあり、一過性前向性健忘(薬が効いている時に起こされても記憶がない)が犯罪に使われるという問題があります。

こちらも向精神薬の指定を受けている薬が大部分です。

構造が少し違う非ベンゾジアゼピン系の薬もありますが、特徴は同じです。

新規の催眠薬

ラメルテオン:メラトニン受容体作動薬で、睡眠周期に関与するオータコイドに作用し、時差ボケや昼夜逆転による睡眠不調を回復します。

また、メラトニンそのものを、小児の神経発達症に伴う睡眠障害(入眠障害)に内服する顆粒剤も登場しています。

スボレキサント:オレキシン受容体拮抗薬で、ウトウト状態から覚醒するするオレキシンという物質の作用を抑制し、まどろむが眠入れないという状態を睡眠に導きます。

これらの薬は、鎮静によらずに睡眠を誘発しますので、従来の催眠薬とは全く性質が異なります。(ラメルテオンは、向精神薬の指定や習慣性の指定もありません)

安全性が高い薬であり、最初に使用する催眠薬として試行するには適していますが、ベンゾジアゼピン系などの従来薬からの切り替えでは効果が実感できないケースが大部分です。

旧来の催眠薬

ブロムワレリル尿素:バルビツール酸以前に使用されていた催眠薬で、排泄が遅く連用で中毒やブロマイド疹を起こすために、現在ではほとんど使われません。(ウットという市販の鎮静剤に少量が配合されています)

抱水クロラール:甘い液状の薬で、小児の睡眠に使用されていた時があります。今では催眠には使用せず、小児の痙攣に注腸投与で使用することがあります。

ジフェンヒドラミン:抗ヒスタミン薬で、ドリエルなどの市販の睡眠導入薬の成分です。風邪薬の服用で眠くなるという現象を応用したものですが、効果としてはかなり穏やかです。

抗不安薬

ベンゾジアゼピン系薬は抗不安作用も持っていますので、抗不安薬としても使用されます。(昔は精神安定剤という表現をしていました)

ただし、催眠作用が強いものを使用すると寝てしまうので、抗不安作用が強く催眠作用が弱い種類を使用します。(催眠作用や筋弛緩作用を無くすことはできないので、ある程度の眠気や脱力感は出ます)

ジアゼパムはベンゾジアゼピン系の標準薬で、今では使用されるケースは減りましたが、比較対象としてよく登場します。

エチゾラムが最も汎用されているベンゾジアゼピン系薬です。NA再取込阻害による抗うつ作用も持っています。

セロトニンの作用を強める薬も抗不安薬として使用されます。

フルボキサミンやパロキセチンなどのSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)は抗うつ薬として汎用される薬ですが、パニック障害・強迫性障害・社会不安障害・外傷後ストレス障害などにも適応を持っています

抗精神病薬

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非常にアバウトな表現をした分類名で分かりにくいのですが、統合失調症の治療に使用する薬のことです。

統合失調症がなぜ発症するのかは未だに不明で、脳内のドパミンとセロトニンのバランスが崩れることが有力視されています。

ドパミンの過剰刺激によって妄想や幻覚などの陽性症状が出現し、セロトニンの過剰刺激によって感情の平坦化や意欲欠如などの陰性症状が出現すると考えられています。

脳内ではドパミンの分泌をセロトニンが抑制するという一種のシーソー関係にあり、陽性症状と陰性症状が同時に出現しないことも説明が付きます。

この仮説に基づいた薬を使用すると効果がある点も、信憑性を高めています。

定型抗精神病薬

ドパミンD2受容体に拮抗作用を示す薬のことで、陽性症状への効果に優れますが陰性症状にはあまり効果がありません。

ドパミンが関与する他の部位にも作用しますので、錐体外路系の有害作用として薬剤誘発性パーキンソン症候群や、下垂体系の有害作用として女性化乳房や月経異常などを誘発することがあります。

クロルプロマジンが代表的薬剤で、自律神経遮断作用も強いために脳以外への影響にも注意が必要です。

ハロペリドールは効果・有害作用ともにクロルプロマジンよりも強い薬です。同成分を徐放性製剤にしたネオペリドールもあります。

スルピリドは中~高用量で抗精神病作用がありますが作用は強くありません。

非定型抗精神病薬

ドパミンD2受容体拮抗作用とセロトニン5HT2受容体拮抗作用を併せ持つ薬で、陽性症状にも陰性症状にも効果を発揮します。(SDA:セロトニン・ドパミン拮抗薬とも呼ばれます)

シーソー関係にあると紹介しましたように、セロトニンの作用が抑制されることからドパミン分泌の抑制が外れ、ドパミンの分泌が促進されます。

これによって、ドパミンの過剰抑制で起こる錐体外路や脳下垂体の有害作用は起こりにくいのですが、陽性症状に対する効果は定型よりも弱くなります。

リスペリドンは最初に登場した薬で、SDAの代表薬とされます。リスペリドンの活性代謝物であるハリペリドンもよく使用されます。

オランザピンはD2・5HT2受容体だけでなくα1・M・H1受容体にも拮抗作用がある薬です。H1受容体拮抗で食欲が増し、代謝抑制で消費エネルギーが減少するために糖尿病には禁忌とされます。

アリピプラゾールはドパミン受容体部分作動+セロトニン受容体拮抗の作用を持つ薬です。部分作動の特徴で、亢進時は抑制し・停滞時は刺激します。


定型・非定型ともに、稀ですが注意すべき有害作用があります。

悪性症候群:高熱・筋固縮・昏睡・呼吸困難などを伴う重篤な副作用です。

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群:低Na血症から意識障害や痙攣を誘発します。

また、強弱の差はありますが、α1受容体にも拮抗作用を持っていますので、アドレナリンを併用するとβが優位(=血管拡張)となって低血圧が起こります。

よって、アドレナリンとの併用は禁忌です。

抗うつ薬・抗躁薬

うつや躁は気分障害による症状で、正式な病名は次のとおりです。

  • 反応性うつ病・大うつ病:うつ状態のみの症状
  • 双極性障害:うつ状態と躁状態が併発
  • 単極性躁病:躁状態のみの症状

これらの疾患も発症機序は正確には解明されておらず、アミン仮説(脳内のノルアドレナリン・セロトニンの減少でうつとなり、増加で躁となる)が有力視されています。

よって、使用される薬も脳内伝達物質に関連するもので、症状の緩和はできますが病因を解消するとは言い難く、対症療法のレベルです。

抗うつ薬

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多くは、中枢神経のシナプス間隙において、モノアミンの再取込を阻害することで刺激伝達を亢進する薬です。

モノアミンとはMAO阻害薬の説明でも紹介した体内物質で、図のものが該当します。

アミン仮説で登場したノルアドレナリンとセロトニンもモノアミン類です。

再取込阻害以外の作用で中枢のノルアドレナリンやセロトニンを刺激する薬も抗うつ薬に分類されます。

双極性障害に使用すると、躁転と呼ぶ躁状態が出現することがありますので、一般にはうつ病にしか使用しません。

三環系抗うつ薬

ノルアドレナリン・セロトニンの再取込を阻害して作用を高める薬で、うつ症状の改善に昔から使われている薬です。

末梢ではムスカリン受容体を遮断する作用があり、抗コリン薬が禁忌とされる疾患に対しては同じく禁忌ですし、便秘や口渇などにも注意が必要です。

ヒスタミンH1受容体遮断作用もありますが、これによって問題となる眠気は、中枢の5HT2受容体刺激による睡眠障害の方が強く現れ、むしろ不眠が問題になるケースの方が多いようです。

第一世代のイミプラミン・アミトリプチリン等と、第二世代のアモキサピン・ロフェプラミン等があり、第二世代は抗コリン作用が若干弱くなっています。

四環系抗うつ薬

三環系と同じ作用機序を持つ薬ですが、抗コリン作用や5HT2受容体刺激作用は弱いので、三環系が使用できない場合に選択されることが多いです。

ただし、主作用も弱いために、第一選択されるケースはほとんどありません。

代表薬はマプロチニンで、構造的にはセチプチリン・ミアンセリンもこの系統なのですが、作用機序から後で紹介するα2受容体阻害薬に分類されます。

SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)

セロトニンに選択的に作用し、他のモノアミンに対する作用は非常に弱く、この薬の登場によってうつ病治療が大きく前進したと言われています。

禁忌とする疾患や重篤な副作用がなく、三環系抗うつ薬よりも使いやすい薬です。

セロトニンは消化管に作用するオータコイドでもありますので、投与初期に刺激作用が強く現れ、吐気や下痢を起こすことがあります。(一週間程度で収まります)

他には、ギャンブルに執着するという報告と、自殺企図が多いという報告があります。(自殺企図はうつ病患者に共通する事象で、SSRIに特有ではないと考えられています)

SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)

セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用し、他への作用は弱い薬です。

SSRIと同様に禁忌疾患や重篤な副作用がなく、アミン仮説から考えても理想的な薬ですが、効果はSSRIよりも若干穏やかです。

近年、神経障害性疼痛を対象に使用されることが多くなりました。

NaSSA(選択的セロトニン・ノルアドレナリン作動薬)

α2受容体と5HT2・5HT3受容体を選択的に阻害する薬です。

阻害薬なのに作動薬と名付けられているのは、α2受容体の阻害によってノルアドレナリンの遊離が促進されることと、5HT2・5HT3受容体の阻害によって相対的に5HT1受容体が刺激されるためです。

今まで紹介した再取込阻害とは作用が違いますので、他の薬が使用できない場合や効果がない場合に選択されます。

また、5HT2受容体を阻害しますので、睡眠障害がある者に適しています。

α2受容体阻害薬

ノルアドレナリンの遊離を止めるように働くα2受容体を阻害することで、ノルアドレナリンの放出を促進する薬です。

構造的には四環系抗うつ薬にも分類されますので、全くセロトニンに作用しないわけではありません。

抗うつ薬は、程度差はありますがセロトニンの作用を強める作用を持っています。

これらの薬を高用量あるいは併用して使用する場合に、セロトニン症候群というセロトニンの作用が過剰に発現する副作用に注意が必要です。

具体的な症状は、緊張・吐気・下痢・頭痛・振戦などです。

紹介した薬が登場する以前には、アンフェタミンやカフェインなどの中枢刺激薬や、MAO阻害薬が使用されていました。

いずれも副作用が強く、今ではうつ病の治療に使用されることはありません。

MAO阻害薬は大部分の抗うつ薬と併用禁忌です。

抗躁薬(気分安定薬)

炭酸リチウムはノルアドレナリンα1受容体の刺激を抑えて抗躁作用を発現するのではないかと思われていますが、未だに作用機序は解明されていません。

一定の血中濃度を維持することで症状発現を抑える薬で、予防的に使用します。

神経毒性や心毒性・腎毒性があり、過量でリチウム中毒を起こす場合もありますので、TDM(薬物血中濃度モニタリング)の対象薬剤になっています。

リチウム中毒では、意識障害・発語障害・知覚障害・血圧低下・不整脈・嘔吐・下痢などが起こり、重症では急性腎不全を誘発します。

甲状腺ホルモン分泌障害や腎性尿崩症の誘発も報告されており、しっかりとした経過観察が必要な薬です。

他には、バルブロ酸ナトリウム・カルバマセピン・ラモトリギンという抗てんかん薬や、アリピプラゾール・オランザピンという非定型抗精神病薬も使用されます。

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