
薬が嫌うもの
多くの薬は極めて純度を高めた物質で、中には最新の製薬技術を駆使して作られた微細で緻密な物質もあります。
安定性を高めるように様々な工夫がされていますが、他のものに比べると非常に不安定です。
包装もせず容器にも入れないで放置しておけば、数日を経ずに分解してしまうものも少なくありません。
包装や容器にしても分解を完全に防げるわけではありませんので、少しでも長く品質を保つためには保管環境が大切になります。
薬の安定性に影響を及ぼす要因は数多くありますが、特に問題になるのは水分・温度・光の3つです。
化学の世界では、水はかなり極性の高い溶媒で、化学反応(=分解)の素地になります。
薬には空気中の湿気程度でも影響を受けるものが多く、湿度の高い地域では注意してもらいたい第一要因です。
温度は高ければ高いほど化学反応(=分解)が早く進みます。
とは言いましても、低すぎる温度も問題で、目薬やシロップなどの液状をした薬では、温度の低下によって配合成分が沈殿を生じることがあります。
凍結させてしまった場合や沈殿を生じた場合は、再び溶かしたとしても成分が不均質になっている可能性が高く、使うことができません。
逆の例で、坐薬は一度溶けてしまうと、再び固まらせても使用できません。
保管温度に指定がある薬はそれに従って、特に指定がない薬は4~25℃が適温です。
ただし、この範囲内であっても、急激に上下変動する場所は保管に適しません。
最近の冷蔵庫は開閉に伴う温度変化が少なくなりましたが、皆さんが思っているよりも大きく温度が変化します。
冷所保存が必要な薬は仕方がないですが、通常の薬の保管に適した場所ではありません。
光がエネルギーを持っていると実感することは少ないと思いますが、微細な分子の世界では大きな力を発揮します。
一般に、分子構造が複雑な薬ほど不安定で、日光程度のエネルギーで分解してしまいます。
湿気の影響が少なく、涼しくて温度変化が大きくなく、光が当たらない場所を探して保管しましょう。
使用期限の意味
薬に記載されている使用期限とは、「未開封で、理想的な保管状態にあった場合に、効果の低下を問題としなくてもよい期限」という意味です。
開封した後の品質や、どのような保管状態でも効果を保証しますという期限ではありません。
医薬品の製造・流通・販売には、それぞれに許認可が必要で、品質保持にも注意が払われています。
よほどの事故でもない限りは、皆さんのお手元に渡るまでに、品質に悪影響を与えるような環境に置かれることはないと思います。
環境が大きく変化するのは開封時、すなわち外気に触れた段階です。
開封後は一気に劣化が早くなります。
保管状況によって違いはありますが、理想的な保管状況にあったとしても、開封後は半年程度が使用できる期間と思ったほうが良いと思います.
目薬やシロップ剤のような液状の薬はもっと早く、持ち運ぶ場合は長くて一カ月が限度でしょう。
医療用の目薬には、開封後一週間しか品質保持しないものもあります。
1包ずつパックされた薬や、1回使い切りタイプの目薬などでは、外箱を開封しても薬そのものが外気に触れませんので、保管環境が良ければ有効期限まで使用が可能です。
病院から処方される薬の場合は、頓服のような種類を除いて、保管しておいて随時に使用する薬ではありません。
中には極めて短期間しか品質を保てない薬もありますので、処方された期間に限って使用できると考えた方が安全です。
その他の注意
◎他の容器に入れ替えない。
入れ替えた人以外が使うこともあり、誤使用の危険がありますので厳禁です。
◎添付文書は捨てずに薬といっしょに保管する。
使用前に目を通すことが原則です。捨ててしまうと思い込みで使う危険があり、問題が発生した場合も確認ができなくなってしまいます。
◎瓶類に入っているビニールやスポンジなどを戻さない。
これらは輸送時のクッションとして入っているもので、保管には不要ですし、一度取り出したものを戻すと汚染の原因となる場合もあります。