〓 | Mr.キュリーシリーズの10冊目。初の長編で読み応えがあってよかった。マイセン国の王子ユリヤが、護衛の女性・多華子とともに四宮大学を訪れる。ユリヤ王子は、七瀬舞衣に結婚を申し込み、沖野にマイセン国での王立科学研究所を任せたいと申し出た。並行して進むのが、沖野の東理大時代の仲間・袖崎が四宮大学の学生・入江を砂漠緑化計画という怪しげなことに巻き込んでいるという事件。実際は大麻に代わる新しい薬物の合成であった。王子の護衛・多華子は七瀬への対抗意識を抑えきれない。また沖野の七瀬への思いが見え隠れして面白い。長編の方が人物描写も深まっていいと思う。多幸感を覚えるなどの作用がある向神経薬の<テトラヒドロカンナビノール>は実際に存在するようだが、<イワケビラゴケ>は実在するのかな? |
〓 | クリスティー文庫、65冊目。4話からなるポアロ物の短編集。『厩舎街の殺人』、この時代のイギリスの女性たち、ゴルフは身近なスポーツかな。ショーロック・ホームズの名前も出てくる。『バスカヴィル家の犬』?のことにも触れているのが面白い。『謎の盗難事件』、盗まれた設計図の行方。黒幕の女性と政治家の信念。ポアロの最後の言葉は、非難ではなく賞賛か。。黒幕の女性のメイドがかわいい。『死人の鏡』、探偵小説らしく、ポアロが一人一人に事情徴収する。ぶっ飛んだゴア夫人は面白い。母娘の愛情物語でもあるが、娘はなにも知らない。最後の言葉が切ない。『砂にかかれた三角形』、ポアロが言う一番怖ろしい女性は、一見地味だが実は頭の切れる人物。事件には直接関係しない<冷血極まる悪魔>。 |
〓 | 生涯独身であった偉人たちの生き様を紹介。カサノヴァ、モーパッサン、ココ・シャネル、アンデルセン、立原道造、コルベ神父、マザー・テレサ、エラスムス、ニュートン、カント、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ゴッホ、ナイティンゲール、津田梅子、エリザベス1世、上杉謙信、ジェイン・オースティン、小津安二郎ら。カサノヴァのようにモテすぎて生涯独身や、作品が子供であり、社会秩序からの自由も求めた芸術家たち、自己犠牲的な聖職者、エラスムスの説く<「正しい戦争」よりも「妥協の平和」>も心に響く。自分の決めた秩序ある生活を好んだカント、ふられ続けたゴッホ、国政安定の為、恋愛をはぐらかすエリザベス1世等、みなが必死に生きた結果がただ独身であったということだ。 |
〓 | 星新一、12冊目。イソップ物語を星新一流にアレンジした短編他。特に印象に残ったのが『不在の日』。作者が不在の中、登場人物が勝手に動きだすという不思議な話。登場人物はほったらかしにされ、どのように動いたらいいのか、作者の考えそうなことを考えたり、わけのわからない人物が登場して、物語の展開に悩んだりしているところが面白い。現実の生活も実はどこかの作者によって踊らされているだけかもしれないという結論も不気味さがあっていい。『ある夜の物語』、サンタクロースが登場し、なんでも願いをかなえてやると言われるが、よくよく考えて、「もっと困っている人のところに行ってください」と辞退する連鎖が続く話。心が洗われる。 |
〓 | カーネマン『ファスト&スロー』の下巻は、上巻のプロの直感はどこまで有用なのか?というところから始まる。プロの直感が信頼できるものである条件とは、スキル習得の際に<十分な予見可能な規則性を備えた環境であること>と<長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること>としている。<質の高いフィードバック>と<練習し、実践する機会>だ。そしてそのスキルの限界を知ってないと、自信過剰の根拠の薄い判断をすることになる。その他、覚えておきたいことがいろいろ。ベストケース・シナリオで計画を立てがち。不都合な要因の過小評価する。対応策の1つは死亡前死因分析を行う。利益を得る場合は手堅くいきたいが、損失の場合はギャンブルをしてでも食い止めたい。損失回避の強い欲求。ゴルフのバーディーとボギーの違い。めったに起こらないことの過大評価。事故、災害の確率等。サンクコスト。フレームを広げると、合理的な決定を下せる。並列評価。参照点を変更して、問題をフレーミングし直す。<経験する自己>と<記憶する自己>の違い。焦点錯覚によるしあわせの感じ方等。 |
〓 | 1902年に神戸の貿易商の息子として生まれ、ケンブリッジ大学へ入学、帰国後新聞記者、商社マン、そして日本水産の取締役になる。商談でイギリスに行くことも多く、当時イギリス大使であった吉田茂と懇意になる。第2次世界大戦の翌年、一線を退いて農業にいそしむようになる。敗戦後は吉田首相に乞われて、側近として活躍した。吉田首相とともにサンフランシスコ講和会議にも出席し、連合軍から与えられた日本国憲法の和訳も手伝っている。天皇の「象徴」というのは、白洲が辞書で調べた「シンボル」の和訳ということだ。占領下にあった時に、アメリカ人に対しても物おじしなかった。西洋人と日本人の違いも良くわかり、<残念ながら我々日本人の日常はプリンシプル不在の言動の連続であるように思われる>と嘆くのも、若いころにイギリスで過ごしたことや、商社マンとして西洋人と交渉していたことが大きく影響していると思う。白Tシャツとジーパンの姿や、80歳までポルシェを乗り回す伊達男のイメージが強いが、本当のかっこ良さは、相手に媚びず、感情論に傾くのではなくプリンシプル(原則)を大事にした言動である。 |
〓 | 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観るまでは、鎌倉時代に北条義時がこれほど活躍しているとは知らなかった。立ち寄ったホロホロ堂書店で北条義時のコーナーがあって、これと集英社の漫画があり、迷ったがこちらにした。大河ドラマのこれまでの復習と予習になる。ドラマでは、畠山が討たれところで、今後義時と政子の2頭政治が始まる。頼家の子、善哉(のち公暁)が実朝を斬ったことや、後鳥羽上皇との戦い(承久の乱)をどう三谷幸喜がどう表現するのか楽しみだ。鎌倉時代も天災や疫病があり、異常気象<6月に降雪、11月に桜の開花>、台風、冷夏、地震などでおこる飢饉、そして頼家、実朝は天然痘で苦しんだという。 |
〓 | コナン・ドイルの第2短編集。『白銀号事件』、馬を怒らすと怖いぞ。『黄色い顔』、隣に引っ越してきたのは妻の秘密の。。ラストは感動的。『株式仲買店員』、悪党兄弟の絆。『グロリア・スコット号』、カレッジ時代、親友トリヴァの父親の過去に犯した事件。探偵を仕事とする機縁となった。『マスグレーブ家の儀式』、名家の執事、隠された宝物のありかを見つけるが。。『背の曲がった男』、死んだと思っていた男に出会った夫婦の衝撃。『入院患者』、入院患者として身を隠すことにした男。ある医者に投資をして開業させるところまでやるとは。『ギリシャ語通訳』、ホームズの7つ上の兄、マイクロフトが登場。才能はホームズ以上であるが、行動はホームズに劣る。2人で道行く人の人となりを分析しあうのは面白い。『海軍条約文書事件』、ワトスンの友の為、海軍の秘密条約文書をホームズが体をはって取り戻す。『最後の事件』、ホームズの最大の敵、モリアティがついに登場。この男と戦うホームズの覚悟も凄まじい。最後は両者取っ組み合って、滝壺の中へ。。 |
〓 | 暗号資産等で使われているブロックチェーンというセキュリティ技術。管理者がいなく、常に皆で情報を持ち、正しいアウトプットしか受け付けない。相互不信を前提につくられたものである。このシステムの中で重要なのがハッシュ値。ハッシュ関数は暗号と違って、ハッシュ値を作ると、ハッシュ値からは元のデータはわからないが、元データが同じであれば、必ず同じハッシュ値が得られるというもの。面白いのは、たった1文字でも、本1冊分の文字数でもハッシュ値の長さは同じであるというところ。ビットコイン等は、新しいブロックを作ると報酬が得られるので、それを目当てにマインニング作業を行うが、これが途轍もない計算作業であり、これによる電力消費量がアイルランドの消費量に匹敵するという(2018年)。管理者が不在でブロックが作られ、植物のようにどんどん伸びていくが、伸びないブロックは無効になる。ビットコインも上限発行量が決まっているので、無限には続かない。インターネット以来と言われているこの技術、どうように使われていくんだろう。 |
〓 | 1956年に発表されたハインラインの代表作の1つ。物語は1970年、エンジニアの主人公ダニエル・デイヴィスは、友人マイルズと有能な女性ベルでロボットの会社を立ち上げるが、彼らに裏切られ、失意の中冷凍睡眠に入る。そして30年後の2000年に目覚める。マイルズとベルに復讐を考えるが、変わり果てたベルに会い、復讐の気持ちは失せる。1人信じていた女性フレデリカも結婚をしていた。その後、ダニエルはタイムマシンに乗って、1970年に戻り、フレデリカと堅い約束をし、ともに冷凍睡眠で2001年に行く。そしてフレデリカと結婚し、めでたしとなる。動きのある話で、愛猫ピートも要所要所で活躍する。ハインラインの考える2000年の未来の描写(今では22年も過去だが)が面白い。タイムマシンに乗るまでもドタバタしていて面白い。 |
〓 | 新宿鮫シリーズの第7弾。鮫島が牧場の檻に入れられているところから始まる。記憶を辿る鮫島。自殺した同僚の宮本の七回忌の法事に九州に来ていたのだ。宮本の友人・古山とその妹・栞、麻取の寺澤、地元の2つのヤクザ組織、地元の悪徳警察官、北の工作員がからむ。新宿を離れた余所の地でも、組織よりも友情に体を張る、鮫島の活躍は変わらない。今回は、麻薬のみならず、<新ココム>と言われている<ワッセナー協定>違反となる北朝鮮への製品の輸出にかかわる話でもある。ラストはけっこう無茶苦茶なことになる。BMWは出てこないが、ポルシェ、GTO、レガシィ、セルシオ、ベンツ等が登場。宮本から託されている手紙の秘密は明かされない。 |
〓 | <ふつうに生きていたら転落する>、<常識やルールの「裏をかく」>というけっこう煽り系な感じではあるが、今までの通りやっていくだけではダメである、というのは同感。<ハッカーとは、常識やルールを無視して。ふつうの奴らの上を行く」者たちのことなのだ。>そして、恋愛をハックする者、金融市場をハックする者、脳をハックする者(報酬系をハックされてされて依存症になる)、自分をハックする者、そして世界をハック者たちのこれまでの実践してきたことを紹介している。中でも<現実をゲームのように修復する>というのは面白いと思った。FIREで引退するのではなく、ずっとBOBOS、経済的に恵まれているスペシャリストで、<最先端のハイテクに囲まれながら、自然で素朴なものに最高の価値を見出す>生活は憧れだ。 |
〓 | 発注をもらってそれに応える。いわゆる企業案件ってやつだ。自分で好きなテーマで自由に書くことだけをよしとするのではない。いろんな制約の中で自由に表現することで小説家の腕前を発揮する。芸術家ではない、プロの小説家としてなせる技でもある。これはいろんなことに当てはまると思う。自由すぎると何をやっていいのかわからなくなる。意外と制約があった方が、動きやすくなることがある。この本の中の『介護の日 年金の日』もこのようなテーマで書かれている。どのテーマもうまく書いているなあ、と思う。そしてまた、端々に面白い表現をする人であると感心した。最後(から2番目)の『贋作』もよかった。 |
〓 | 直感による速い思考と論理的にじっくり考える遅い思考の対比を軸に、意思決定にどういうバイアスが含まれているかを解説してくれる本。4日間のゴルフの試合。1日目スコアのいい選手は、2日目は悪くなる。1日目は調子の良さ、幸運などがあり、2日目は平均の法則から実力通りになったに過ぎない。面白くはないがこれが平均の法則であり、予測する時はその確率が高い。人生に成功したように見える人も、運よくそうなったにすぎない場合が多い。そこに何かを因果関係を求めたくなるのが人間の性か。難しい問題も、ヒューリスティックな考えのもと、簡単な問題に置き換えて、つじつまが合うとそれで満足する。全体を表す統計から個別を考えることが苦手。プロの直感よりもアルゴリズムの結果が正しい場合が多い。後半はプロの直感はどこまで有用化なのか話が続く。 |
〓 | 各名著の専門家と古市氏の対談による本の紹介。『神曲』、ダンテは最後に神と出会う。『源氏物語』、紫式部はハッピーエンドにしない。プルースト『失われた時を求めて』、この長編、まったりと読んでみたい。『相対性理論』、アインシュタインは量子論を認めなかった。最近は宇宙をつくれるという論文もあるという。ルソー『社会契約論』、自分たちで自分たちを統治する。ニーチェ『ツァラトゥストラ』、超人は生きる価値を自らつくる。『わが闘争』、この本の印税でヒトラーは暮らしていた。カミュ『ペスト』、孤独な人間同士の連帯。『古事記』、『日本書紀』だけでは楽しめないのをカバーしている。マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』、出版直前に、パンジー・オハラからスカーレット・オハラに変更した。アダム・スミス『国富論』、個人の創意工夫によって、社会を切り拓く。『道徳感情論』も必要。マルクス『資本論』、機械の導入は、労働者を搾取するし、また解放する。<私はマルクス主義者じゃない!>とマルクスは言う。 |
〓 | SFの巨匠ハインラインの代表作。時は2076年、月は流刑地であった。重力、空気、水等、環境の違いによる厳しさは、地球の比ではない。<無料の昼飯などというものはない>という意味の<タンスターフル>が合言葉である。主人公のプログラマーのマヌエル。コンピューター・マイクは自意識を持ち、自ら人間の顔と体の映像を作りだし、実在する人物のようである。まとめ役のデ・ラ・パス教授。女性活動家・ワイオミング・ノット。彼らを中心に月の独立戦争が始まる。月に住む支配者をやっつけ、命がけで地球に交渉に行くも、ついに月からの攻撃が開始される。射出機で岩石を地球に落下させるというものだ。百トンの岩石が地球に落下する時には、2キロトンの原爆に等しくなるという。地球からの反撃にもめげず、なるべく人のいない世界各地に落とし続け、岩石がつきる寸前でついに地球に負けを認めさせた。それを達成した時、老教授は死に、コンピューター・マイクの人格は消えてしまった。 月での家族形態、夫と妻は多対多だ。大家族だ。そして政府は、法律は、どうあるべきかという彼らの議論は深い。<常に人間というものは他の連中のやっていることを憎悪して、いつも駄目と言うものなんだ。“かれら自身のためになることだから”そんなことはやめさせろーそれを言い出す者自身がそのことで害を加えられるというんじゃないのにだ>。 |
〓 | シャーロック・ホームズ物語の第1短編集。ワトスンは結婚したので、久々にホームズと会う。ホームズは、この事件に登場するアイリーン・アドラーという女性うまくやられてしまう『ボヘミアの醜聞』。赤髪であることで組合をつくる。それは事件を覆い隠すものでしかなかった『赤髪組合』。花婿、そんなものは存在しなかったのだ『花婿失踪事件』。金塊護送車を襲った者と襲われた者、その後の結末『ボスコム谷の惨劇』。K.K.K(キュー・クラックス・クラン)は種を5つ送り、殺人予告をする『オレンジの種五つ』。変装の名人が乞食に化ける『唇の捩れた男』。鵞鳥の中に宝石を隠す『青いガーネット』。(昔読んでいて正体はわかっていたが、牛乳で飼いならせるの?『まだらの紐』。<愚かな君主や失政だらけ大臣から解放されて、世界的に大きな一大国家の市民となる>と信じるホームズが面白い。金持ちのアメリカ人の娘に逃げられた男は可哀そう『花嫁失踪事件』。家庭教師に雇われた女性は、身代わりだった『椈屋敷』。 |
〓 | 大沢在昌の新宿鮫シリーズの第6弾。前半はいろんな話が語られるので少々とまどうが、後半からいっきに伏線回収され、面白さが高まり、最後まで盛り上がりを見せる。今回も中毒になるような面白さである。警察とやくざ、政治家、CIAがからむ。やっかいなのが警察内部、そして警察OBとの戦い。いつものように鮫島は組織をこえて自由に活躍するが、ある舞台女優に恋してしまう。恋人の晶を差し置いて。この女性が今回の事件に大きく関わっていくことになる。主人公・鮫島とキャリア組の同期・香田も登場。途中までやはりいけ好かない奴であったが、後半はけっこう骨っぽい活躍をする。 |
〓 | シャーロック・ホームズ物語における最大の長編であり、名作の誉れ高いのがこの『バスカヴィル家の犬』。西部イングランドのバスカヴィル家の当主の死。そしてその家に伝わる、眼が光り、火を吹く怪物犬の伝説。加えてその周辺には沼沢地が広がるという、気味の悪い事件。バスカヴィル家を引き継ぐ新しい当主とともに先ずはワトソンが乗り込み、その近隣の調査することになる。周辺の沼沢地というのがくせもので、野生の馬でさえも引き込まれ、ズブズブと沈んでしまうのを目撃することになり、恐怖感が掻き立てられる。ホームズもなかなか現場に現れず、不安な状況であった。本書の残り1/4くらいでホームズが現れ、事件が整理されていく。新しい当主を狙う者との対決、そして怪物犬の登場シーンは迫力があり、引き込まれる。ホームズがワトソンには秘密に現場に来ていたのをサポートしていたのが、いつものカートライト少年であった。 |
〓 | 人生を成功させる。その為には理性よりも感性を高めることが必要。武道に必須のものでもある。それが日本文化であり、世界平和にもつながるという。<「価値感の多様化」はかえって自己実現への道を誤る>と諌めている。そして武道的感性を高める各種トレーニング方法を伝授。呼吸を止めている時間を長くする方法。<見の目弱く、観の目強く>する方法。音に意識を集中する方法等。それら感性を高めた上で、人生の目標に近づく。道を志すのであれば、<意としての目的意識>ではなく、<心としての目的意識>を持てという。作り上げたものではなく、既に持っていたものの気づきである、というのが東洋的。手本として宮本武蔵の兵法九箇条を上げている。法華経、そして摩訶止観との関係も解説している。 |
〓 | ご存じシャーロック・ホームズの第1の事件。シャーロック・ホームズとワトソンの出会い、そしてベーカー街に一緒に住む経緯が描かれていて面白い。この年でホームズ物を読むと少年物を読んだ時とは違い、ホームズが年下の若者である、というところが感慨深い。解剖学の造詣が深く、化学者としても一流のホームズであるが、ワトソンはホームズについて、<彼は驚くべき物知りであると同時に、一面いちじるしく無知であった。当代の文学哲学政治に関する彼の知識はほとんど皆無らしかった。…彼が地動説や太陽系組織をまったく知っていないのを発見したとき、私の驚きは頂点に達した>。これに対してホームズは、<なんでもかまわずに詰め込んでいると、いまに、なにか一つ新しいことを覚えるごとに、前から知っていたことをなにかしら忘れることになるにちがいない。だから役にもたたぬ知識のために、有用のやつがおし出されないように心掛けることがきわめて大切になってくる>。と言い張る。そしてこの物語であるが、本書の前半の第1部でホームズが殺人犯人を捕まえる。そして第2部がその犯人の長い物語となる。それを読むと、よくやったと犯人を応援したくなる内容であった。 |
〓 | ご存じシャーロック・ホームズの第2の事件。テレビ映画でやっていて、異形の登場人物が強烈な印象に残ったので原作を読んでみた。この異形な人物(トンガという名)は、身長の低い種族の人間で、人食い人種であった。身軽で吹き矢を得意とする。ワトソン曰く、<その顔を見ただけで、見るものをぞっとさすほど気味が悪かった。私はあんな残忍な、野獣性をもった人間は見たことはない。小さな眼をぎょろりと気味わるく光らせ、厚い唇をむいて歯を見せ、半ば動物的な激怒を浮かべて、私たちにいがみかかるのだった>。タイトルの『四つの署名』は、後半にじっくりと犯人(トンガを相棒とした木の義足の男)から語られる。ちなみに、助手のワトソンはこの物語でモースタン嬢と結婚(第1回目の)をすることになった。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズの9冊目。若者を救うつもりで混入した、アルコールの代謝を阻害するというシアナミド(第一話)。地盤の軟弱さ、そして産業廃棄物を自室にためんだ為の地盤沈下が体調不良の原因であった(第二話)。麻薬常習犯をあぶりだすための、麻薬検査の回避薬という嘘(第三話)。スニーカーへの防水スプレーによって肺の炎症が起きていた(第四話)。解熱鎮痛剤の服用による喘息症状。明晰夢を見る為に認知症の薬を盗む(第五話)。おせっかいを自認する七瀬舞衣と徐々に七瀬を頼り始めた沖野春彦の関係も面白くなってきている。 |