〓 | デザイン思考とは、外観や機能のデザインのことではない。それを利用する人間が心地よくあるかどうかを考えることでもある。物から事へ転換でもある。ホテルや旅館なんかも建物の良し悪しや、食事の優劣だけではなく、利用する人たちが家を出て帰ってくるまでの間、いい体験を得られるかどうかまで考えるのがデザイン思考だ。デザイナーが一人で考えるのではなく、いろいろな分野の人間が集団で築き上げられるものでもある。考え過ぎず、プロトタイプは早く作れと言う。それによって早く方向転換したり、新しいアイデアが生まれるからだという。面白かったのは、インドのアラビアント眼科病院の医師はマクドナルドの効率性を手本として、白内障の患者を次々と治療できるようにしたこと。 |
〓 | クリスティー文庫、63冊目。ポアロ物。ノーマ・レスタリックはサードガールであった。ルームシェアする三番目の人物。<主になる娘がまず家具つきのマンションを借りて、それから何人かの仲間で家具を分担する。セカンドガール(二番目)はたいてい友だちね。サードガールは心あたりがなければ広告をだして探すわけ>。そのノーマ、ちょっと足りないんじゃないの、と思われている。殺人をやった気になってポアロを訪ねた時、ポアロを見て<お年寄りすぎるから、ほんとにすみません>といって帰ってしまった。本作でポアロも年寄扱いにされてしまった。ポアロ物もあと3作品となった。久々のクリスティー、面白かった。お馴染みのアリアドニ・オリヴァも登場する。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズ7冊目。時は1999年、Mr,キュリーこと沖野春彦も理学部3年生で、家庭教師のアルバイトをしている。相手は中学3年生の信希。信希は好きな女の子の為に、炎色反応を利用して、<環水平アーク>に似せた水平でまっすぐな虹をつくってみせた。<赤はリチウム、橙はカルシウム、黄色はナトリウム、緑はバリウム、水色は銅、青はリン、紫はカリウム>。時は過ぎて2003年、Mr.キュリーも博士課程に進む頃、信希は大学に合格し、沖野に報告に行く。北海道に行った女の子からの手紙の謎を沖野に解いてもらうことになる。その他、赤チンは水銀が含まれているので、最近はあまれ使われない。不安定で<水や空気と接触した瞬間に激しく燃え上がってしまう>カリウム。黄色いナトリウムランプ。緑色のラン藻。色の吸収には共役二重結合が重要になる等。 |
〓 | 著者のジム・トンプソンは、スタンレー・キューブリック監督の映画『突撃』、『現金に体を張れ』の脚本家で、サム・ペキンパー監督の『ゲッタウェイ』の原作者・脚本家である。映画にしたいようなクライムミステリーというところ。本書『グリフターズ(詐欺師たち)』も製作マーティン・スコセッシ、監督スティーブン・フリアーズ、脚本ドナルド・E・ウェストレイクで映画化されている。本書の主人公はロイ・ディロン、そして14歳年上の母親リリィ・ディロン、バツイチで年上の愛人モイラ・ラングトリ。3人とも詐欺師だ。年の近い母親リリィと愛人モイラは、見た目が似ている。それがこの物語のキーになっている。ぎりぎりで生きている詐欺師たちの孤独さがハードに描かれている。 |
〓 | で、その宗教とは、<データ教>という<テクノ宗教>であるという。生物の活動が全てアルゴリズムであるとしたら。。。人間の活動もアルゴリズムであり、自分のことは全てデータで表され、自分より自分のことをよく知っているコンピューターがあらわれる。そうするとコンピューターが最適解を用意してくれるので、それに任せておけば良い。ということになる。全ての物、電化製品から、犬や猫、はたまた雲の状態や風向きまでもがネットでつながれたら。。人類は単なるそのデータの1つに成り下がる。はたしてそれで面白いか?という疑問がわき起こる。他人の言われたとおりにしたくない、とか。あえて違うことをしたいという欲求は満たしてくれそうにない。そういう気分的なことまでアルゴリズムであり、その気分に合わせた最適解を用意されるのかもしれないが。人類を含めた生物は全てアルゴリズムであるか?というところがやっぱり疑問やな。 |
〓 | 『サピエンス全史』の続編とも言うべき内容で、人類の未来について語る。自由度のある協力関係を築くことのできる人類が、生物の頂点に立ちった。そして、医学・科学の発展により、疫病、飢饉などを克服してきた。いずれなんでも科学で解決できるという錯覚にも陥る。人間の協力関係をつくる為にも、宗教的な物語(虚構)は必要であるが、目標や基準にするべきではない、虚構により苦しむとしたら本末転倒だ。<私たちは物語がただの虚構であることを忘れたら、現実を見失ってしまう>。とした上で著者は、いままでにない宗教の登場を予言する。<バイオテクノロジーとコンピューターアルゴリズムの助けを借り、私たちの生活を絶え間なく支配するだけでなく、私たちの体や脳や心を形作ったり、天国も地獄も備わったバーチャル世界をそっくり創造したりすることもできるようになるだろう>と言う。その宗教とはどんなものか。ということで下巻に続く。 |
〓 | 『鋼鉄都市』の続編で新しく翻訳された。主人公も前回と同じ地球に住む刑事、イライジャ・ペイリ。パートナーも前回と同じオーロラに住む、ロボット・ダニール・オリヴォ―。惑星ソラリスで殺人事件が起き、2人で調査に出かける。1956年に雑誌に連載されたというから、今から63年も前のことだ。その時代にアシモフが想像した未来が面白い。ソラリス人は、人と直接会うことはほんとんでない。3D映像で対話する。周りにいるのは数多くのロボットたち。子供を生むのも限定されたものとなる。その分長生きなんであるが。ソラリスを調査したペイリは言う。<彼らの弱みはですね。彼らのロボット、低人口、長命です。…ソラリス人は、人類が何百年も持ちつづけてきたあるものを放擲してしまったんです。…部族というものですよ。人間同士の協力関係です>。その時の地球も太陽を見ることがない、鋼鉄の中に閉じ込められていた。そして地球の未来をソラリスのようにならないようにとペイリは立ち上がるところで終わる。 |
〓 | 導入部から面白く、一気に読める。<安全地区>に指定されたところに<平和警察>が取り締まる。取り締まられるのが危険人物。犯罪を未然に防ごうと、危険と目された人物は逮捕され、公開処刑されるという鳥肌もの。ちくったもん勝ちの恐ろしい、魔女狩りの世界となる。それに対抗する正義の味方?も登場。真壁鴻一郎のキャラがイカス。舞台は伊坂作品お馴染みの仙台。そして、何故か乃木坂文庫。 |
〓 | <現代の魔法使い>というのも凄い比喩な落合陽一郎。父親はあの落合信彦。やっぱり生きていく上で優先されるべきは自分の好きなことをする、ということなんやな、と。その報酬はお金だけではない、と意識することが大事かもしれない。どんな分野でもニッチなところはあるので、誰もがそのトップになれる意識を持つこと。そして頭で考え巡らせる為にも、肉体の健康が第一だ。 |
〓 | ノーベル賞をとりそうな作家だった安部公房。1993年、68歳で亡くなったのが惜しい。前衛的な作風で、はまった作家の一人。その安部公房に師事し、愛人として死ぬまで彼につきそった。本妻や娘との確執などもある中で、愛人関係を続けた。山口果林と言えば、NHKの連続テレビ小説で『繭子ひとり』のヒロインであった。タイトルだけ覚えている。「果林」というユニークな名前をつけたのも安部公房だ。安部公房の死後、その関係がなかったことのように扱われたことに憤りを感じた。そして20年後の2013年、66歳の時、本書を出版した。<透明人間にされた自分の人生を再確認できれば…>として。 |
〓 | 1953年に連載された小説。鋼鉄で覆われ、窓がない町に未来の地球人は住んでいる。そして、宇宙人とは、過去の地球人が地球を飛び出し、他の惑星に移住した者やその末裔たち。いやーどんだけ未来なんや、って感じ。そして当然のようにロボットが登場。地球人と宇宙人とロボット。で宇宙人が殺されるという事件が起きた。<SFミステリの金字塔!>と裏表紙に書かれている。未来のことなんで、なんでもありであるが、巨匠アシモフの考える未来社会の描写は興味深いし、ミステリ小説としてダブルで楽しめる。でも、ほとんど人間と変わらないダニーのようなロボットができるのはいつの日か? |
〓 | 樹木希林も亡くなってから凄い人やったんやなあ、と思う。本のタイトル通り、あるがままを受け入れる。物に執着しない、俯瞰して見る、統計を信じない、若くなりたいなんて思わない。楽しむのではなく、面白がる。キレイなんて一過性。そして「人は死ぬ」と実感できれば、しっかり生きられる等。時々読んで心を補正したいと思わせる本。心のゼロトレ。 |
〓 | 文庫本になったのを見つけ、早速購入した。東京藝大は、「美校」と呼ばれる美術学部と、「音校」と呼ばれる音楽学部に分かれる。「音校」の連中の練習量には圧倒される。「美校」の連中は、何かをつくらなければならないという衝動を抑えることができない、という感じだ。好きでやっている、というものを超えている。病気だ。<アーティストとしてやっていけるのは、ほんの一握り、いやほんの一つまみだよね>ということらしい。で、卒業生の半分くらいが<行方不明>だそうだ。サマセット・モームの『月と六ペンス』の主人公そのものではないか。東大工学部で建築をび、社会人経験を経て藝大の作曲科に入った人の言葉というのが印象深い。<最初は、社会の役に立たなければいけないということに捉われていました。でも東大で先生が言ってたんですね。『全ての建築は個人的な欲求からスタートする』と。依頼主のためとか、社会のためじゃなくて、個人的にやりたいことがあってこそ、だそうです。他社のニーズとは後からすり合わせていけばいいと。なるほど、と思いまして。やりたいことをやっていたほうが、周りの人も見ていて楽しいじゃないですか。それこそが結局は、社会のためになるかなと>。この考え方が好きですね。あとルーブル美術館にある「サモトラケのニケ」は一度見てみたい。 |
〓 | この本は2004年春にBSで放送されたものを再構成したらしい。インタビューアーが糸井重里というのも面白いと思った。2003年はイチローメジャーリーグで212本の安打を放ち。翌年の2004年には262本を放ち、メジャーの年間安打記録を塗り替えた。そんな頃。イチローは小学校に野球部がなかったので、自分で練習した。<毎日、投げて打って、ノックを受けて、夜バッティングセンター行って>。で、漫画の『キャプテン』みたいな練習をしたそうだ(『キャプテン』が気になる)。そして宿題をちゃんとやる。いやなことをやると野球をやりたくなる。やりたいと思って練習をやると、<いろんなことが、こう、うまくまわってくるんですよ>という。そして意外というか、へえと思ったのが、イチローがお金について語るところ。<ぼくは、ものすごく小さい家で育っているんですよね。それが、ぼくのすごいコンプレックスだったんですよ>。そうだったのか、と思った。 |
〓 | 古市憲寿が世界の戦争博物館をめぐり、戦争とはなんだったのかを探る。現在世界の戦争が全て終わったわけではないので、主に第2次世界大戦時の展示となるところが多い。戦勝国アメリカの博物館は、<「爽やか」で「勝利」を祝う「楽しい」場所である>のに対して、敗戦国ドイツの博物館は、<お化け屋敷よりも怖い>と表現している。日本が一番長く戦争をしてきた中国では、<日本軍が行った残虐行為を執拗に記述する一方で、最後は日中友好と世界平和、その重要性を謳って終わることが多い>と言う。徴兵制のある韓国では、お得意のソフトパワーでエンタメ性に富む。現在の韓国の商売相手は、日本よりも中国に目を向けているという。で、日本の博物館はというと、印象はあまり良くなく、<僕たちはまだ、戦争の加害者にも被害者にもなれずにいる>という。関ヶ原にある<ノーモア関ヶ原>には笑ったが。博物館も集客を期待するのであれば、ダークな面も含めてのエンタメ性を重要ポイントの1つに上げる。戦争というと悲惨な話ばかりではなく、楽しかった戦争という面もあったということもキチンと書いている。世界の博物館と今の人々の様子も語り、非常に面白かった。最後のももクロとの対談も愉快。 |
〓 | NHKの『ニッポンのジレンマ』で観て以来、この人のフラットでフワッとしているところが心地いい。最近はすっかりバラエティに出てる人の印象が強いが、『朝生』にも三浦瑠璃や落合陽一とともに、若手論者として登場してるし、『平成くんさようなら』という小説も出した。本書は『週刊新潮』に連載したものをまとめたもので、1つにつき3ページくらいなんで読み易いし、どれをとっても飽きずに面白く読める。世の中の正論、正義の圧力に負けそうになったら本書を読んでみよう。今後も世の中をチクリチクリやりつづけて欲しい。名エッセイストになりそうな予感。ところで、『人狼ゲーム』って面白いのかな? |
〓 | スティーヴン・キングの長編第3弾。これも『キャリー』同様20年以上もほったらかしにしていた本。やっと読めた。いわくつきホテル、オーバールック(景観荘)の管理人としてきたジャックと妻のウェンディ、そして息子のダニー。雪に閉じ込められたホテルで、ジャックはホテルの怨霊にのみこまれてしまう。<輝き>という特殊能力を持つ息子のダニーにはいろんなことが見えてしまう。同じ<輝き>を持つコックのディック・ハローランに助けを求める。ハローランはそれを感じ、助けに行くとろこでこの物語はグッと盛り上がる。最後のジャックと妻ウェンディ、そしてハローランとの血みどろの戦いは凄まじい。読み応えがあって面白かった。ジャック・ニコルソンが主演のキューブリックの映画も観てみよう。 |
〓 | 西野亮廣が『新世界』の中で、<嘘をつかない人>に挙げていたのが、堀江貴文、落合陽一、そして箕輪厚介だ。箕輪厚介ってどんな人かと気になっていたところ、名古屋のエスカのツタヤ書店で目に飛び込んできた。で即買い。気になることはすぐにやってみるという、行動力抜群の幻冬舎の編集者であった。堀江貴文の『多動力』をプロデュースしたのも彼だ。圧倒的なスピードで、失敗したら次に行く。彼は「自然消滅」といって引きずらない。そして圧倒的な量をこなす。このスピードと量であれば、何とかなると思わせる。もちろん自分のやりたいことだけだ。西野同様、オンラインサロンで仲間を集める。集まる仲間は本当にやりたいので、金を払って仕事をやるのだ。オンラインサロンで収益を上げているが、編集者という一番勉強になる仕事(本人いわく)をベースにしているのがいいところだと思う。 |
〓 | キングコングの西野は、絵を描いているだけではなかった。多くの先輩芸人の歩んできた道を行くのではなく、今まで誰もやったことのない、独自路線で行くと決心した。そしてクラウドファウンディングやオンラインサロンを活用して成果をあげている。その彼が一番大事であると主張するのが<信用>だ。そして、バッシングされても本当のことを言うという姿勢だ。落合陽一の言うニッチなところをついた成功例かもしれない。西野亮廣も落合陽一のことを、本当の事言う人のグラフに入れているのが面白い。ということは西野亮廣と同じことをしてもダメかもしれないが、人と同じことをやらない、という姿勢は学びたい。 |
〓 | スティーヴン・キングの処女長編。以前少し読みかけたまま、何年もベットの枕元に立てかけたままになっていた本。何年前に買ったのかも忘れた。何かオドロオドロしい内容かなと、読む気が失せたのかもしれない。最初の1/4を読んだらあとはだんだん面白くなってきた。キャリーのすなおにかわいい一面も見える。キャリーの潜在的念動能力(TK)は凄まじく、町全体を炎につつんだが、本当に悲しい話であった。事件前後の様子がドキュメンタリータッチで描かれているので、本当にあった話のような気さえしてくる。次は、これもいつ買ったかわからない『シャイニング』にいくか、キングの書いた順で『呪われた町』にいくか。 |
〓 | 仁徳天皇の息子、允恭大王と彼の愛した衣通姫(そとおりひめ)のお話。その美しさ故、衣を通しても光輝くというのが名前の由来だ。允恭大王は、仁徳、履中、反生に続く天皇で、第19代となる。彼は兄弟の中でも出来が悪いと言われたが、逆に伸び伸びと育ったようだ。衣通姫と言えば、允恭大王の皇后・大中姫の妹であり、近江の里ですくすくと育った。允恭大王は衣通姫を気に入り、小さな別邸に住まわすが、皇后の激しい嫉妬に悩まされる。衣通姫との間に一男一女ができ、息子・木梨軽皇子は允恭大王の跡継ぎとされたが、皇后が反撃。兄妹は追われる身となり伊予の国に逃れたが、生活を満喫して夫婦愛以上のものになっていったという。その後の衣通姫の消息は定かではないが、<きっと肩書のない、ただのおばあさんとして、紀伊の村で畑を耕しながら老後を送っていたのではないでしょうか>と著者の松田さんは言っている。衣通姫が住んでいたという和泉の国、日根野の当時の様子がわかり興味深かった。中国大陸からの帰化人も多く、機織りや製鉄の技術が育っていったそうな。本書も当時の大阪を知る貴重な一冊だ。 |
〓 | 安土桃山時代、波有手(ぼうで)の里(現在の大阪府阪南市鳥取)、後藤六兵衛興善義に2人の娘がいた。姉をお梅、妹をお菊という。妹のお菊は、実は豊臣秀次と側室小督の局の間に生まれた娘であったのだ。秀次が高野山に追放された時、家来の益田将監がお菊を泉州の後藤家に預けたのだった。二十歳となったお菊は、紀州の山口兵内と結婚する。しかし輿入れ5日目で、夫・兵内は徳川に対抗すべく、大阪城へ行くことになり、その時に離縁状を渡される。お菊も黙ってはおられず、大阪城に密書を渡す役目を自ら引き受ける。道中自分の髪を切り、着物を脱ぎ、女であることを隠して進む。途中で、密書は一旦は味方に渡すことが出来たが、あっけなく徳川勢に襲われ、敵陣に渡ってしまう。国元に帰るも徳川勢に追ってきた。後藤の親は長女のお梅を差し出すが、お梅の子供の泣き声で、お菊がそれに気づく。そして自ら名乗りを上げ、助命の道を誘導されたが、お菊は殉死を選んだ。現在でもお菊は偲ばれ、黒髪を切って埋めたという山は、「お菊山」と言われているという。 |