〓 | 週間新潮に連載された『人間自身』をまとめたものの3冊目。頭をリセットできる本。最近のニュースを池田流にぶった切っていく。世の中のお祭り騒ぎに参加したいというのは自分で考えることからの回避ではないか、と思う。アンチエイジングもその1つだ。本質は1つ。自分で自分の人生を引き受けること。 |
〓 | メアリ・ウェストマコットの名で発表された作品。何の心配もなく育てられてシーリアは、ダーモットとの結婚後、心のすれ違いに参っていく。支えであった母親の死でさらに孤独となる。さらっと言ってしまえばなんでもない話であるかもしれないが、幼少時代から伝記的に描かれていて、すっかりシーリアの身内になった気分になる。微妙な心の動きが良く伝わり、まさにクリスティー自身のことではないか、と思わせる。人生には、いわゆるガッツってやつが必要なんじゃ。 |
〓 | 上海と言えば、今世界で一番活気のある街ではないだろうか。浦東国際空港から上海の街に行く高速道路から眺めると、やたら高層マンションが建設中で、それも中途半端な高さではない。大きな地震が来たら大変なことになりそうだが、大陸だから地震はないのかもしれない。巨大なネオンサイン、地面では背広を着て肉体労働をし、自転車が車の間をすり抜けていく。クラクションと排気ガスの街で、「蠢いている」という言葉がピッタリくる。裏社会も当然のようにある。黄(売春)、毒(麻薬)、賭(賭博)、蛇(密航)、槍(銃器の密売)陀(取立て)、拐(誘拐)と呼ばれる黒社会の連中だ。彼らはそれが職業ではなく、正業を別に持つ。この『上海迷宮』も黒社会に関係を持つ人間との抗争である。 |
〓 | 42編のショートショート。心温まるのは『愛の鍵』。短くて単純な話やけど、ええ話や。ショートショートにしてはちと長いのが、『処刑』。そして『殉教』。どちらも「人は何故生きているのか?」、あるいは「生きていけるのか?」という示唆に飛んだ深い話である。 |
〓 | 期待以上に面白かった。受けネライだけのギャク満載の話ではない。哀しく心温まる話だ。かと言って退屈な話ではない。読む者を前へ前へと引っ張っていく。それぞれの話が絡み合って1つの世界を作ったのもお見事。 |
〓 | 「攻撃の角度」。人それぞれ問題に対処する時の方法。同じことでも自分で感じた内容で、自分のやり方で行う。それが自分の「攻撃の角度」なのだ。フィアンセが逮捕され、その濡れ衣を晴らさんとばかりに活躍するエミリー・トレファシス。彼女が大切にするのがこの「攻撃の角度」ってやつだ。なかなか面白いではないか。クリスティー小説の女闘士、ここにもいた。そしてお供の新聞記者チャールズ・エンタビーも活躍。 |
〓 | ものわかりのいい、いい人になるな。厄介者と思われろ。とまあこんな調子で説かれる「快適生活」。というよりもわがまま生活かもしれん。しかし、そうするには自分を変えることに億劫がるな、とか、自分の行動に責任を持て、というような前向な努力は必要なんである。わがままに、且つ快適に生活するには、怠惰ではダメなんじゃ。 |
〓 | 久しぶりのポアロ物。クリスティーの良さは読みやすさ、そして終わりの良さだ(『春にして君を離れ』は除く)。今回も締めくくりがいい。ポアロもそういうところは物分りが非常にいいのだ。それと主人公のエリノア・キャサリーン・カーライルは今までにないタイプだ。詳しくは言えないが。 |
〓 | 角川oneテーマ21の一冊。坂田信弘と斎藤孝の生い立ちも語られているのでなかなか興味深かった。貧乏で中学の頃から肉体労働に励んだ坂田と、自信満々で東大を受験したものの落っこち、大学を卒業してからもマトモに稼げるようになるまでの葛藤があった斎藤。両者が口をそろえて言うのは、社会は簡単には金をくれない、ということだ。これからは入試に合格する為の教育ではなく、働くための力をつける教育が必要だという。一人で生きていける力を与えるのが愛情なのだ。 |
〓 | 本書もいわゆるミステリーではない。しかし解説の栗本薫も書いているように、ある意味哀しく、恐ろしい本である。理想的な家族を築いていると思っている主人公のジョーン・カスダモア。しかし内実は、夫も子供たちも心は彼女から離れていた。旅行に行って環境が変わり、そういうことに気づき始めて改心しようとした。しかし。。。ラストもハッピーエンドでは終わらない。実際に人殺しがあるわけではないが、精神的な人殺しとも言える。心が開かれないのは、やはり哀しい。 |
〓 | 「不思議な…」とあるが、実は不思議でもなんでもない。あんな奴いるいる集だ。上司編と部下編に分かれる。調子のいいやつ、勘違いしているやつがやはりどこにでもいる。<コンピューターを仕事と選んだ以上、あれもこれもいじくってみて、時に壊したりなんかしながら、それを楽しむことです。…そうしたことをおもしろがって、どこまで好奇心を維持できるか、それがある意味では技術者としての賞味期限ともいえるのです>。これは技術者だけに当てはまるものではない。つまらん、と思ったら何かを変えてみよう。それがすべての基本だ。 |
〓 | 007の原点。シリーズ第1作である。ここには、華やかなジェームス・ボンドはいない。敵に捕らえられ、素っ裸にされて電気ショックをかけられて気絶したり、女の相棒に結婚を申し込もうとしたり(これが最後に悲劇となる)、人間臭いボンドがいる。メインの話もル・シッフルとのカードの大勝負とそれに続く拷問、そして病院での描写とヴェスパー・リンドと過ごす休日で、最近の映画のような派手なアクションはないが、中身があり読ませる。ジタバタして汗を流すボンドはなかなか良い奴だ。 |
〓 | クリスティー最大の長編小説である本書は、ポアロもマープルも出てこない。主人公であるヴァーノン・ディアの子供の頃から青年になるまでの大河小説である。原題は『巨人の糧』という。創造者は、全てを捨てることを要求される。天才音楽家であったヴァーノンはそういう人であった。それを取り巻く奔放な従妹のジョー、実務家でやり手のセバスチャン、真の芸術家ともいえるジェーン、そして彼らのような才能はなく、ごく普通の美少女のネル。そこで彼らは刺激し合い、求め合う。本当に誰を求めているのかはその状況で変化していく。人を求めることと芸術の糧とされることが実生活が両立することはなかった。黒か白かを突きつけられるギリギリの場面が随所に表現され、その時の心の動きが良くわかり、非常に面白い小説であった。 |
〓 | 副題が『社員を「やる気」にさせる20のシンプルしかけ』である。面白いのは、会議に出てはいけない上司、ってことで次の4つを挙げている。1.後ろ向きな上司。2.自分を天才だと思っている上司。3.人の意見を聞かない上司。4.なんでも一番でないと気がすまない上司。この上司のことを「ぼけた凡人」のことで「ぼけぼん」という。また「なんで〜、なの?」とは言ってはいけない。ということは欽ちゃんは上司に向かん。階段を一歩進ませる要素がいっぱい詰った本じゃ。 |
〓 | ポアロも、ミス・マープルも出てこない、クリスティーの代表作。インディアン島に集まった10人が順番に死んでいく。本編では謎の事件で終わるが、エピローグで全てが明らかになる。必要十分、過度の装飾がなく、読みやすい。間違いなく面白いから、皆さんもどうぞ。 |
〓 | 会社再建の手法を物語とともに解説した本。会社の改革には、8つのステップがある。1.成り行きのシナリオを描く。2.切迫感を抱く。3.原因を分析する。4.改革のシナリオを作る。5.戦略の意思決定する。6.現場へ落とし込む。7.改革を実行する。8.成果を認知する。これらを順番にキッチリ&一挙にやることが大事なんである。言いっぱなしではなく、戦略を考えた者が実行すること。そしてリーダーはしつこくフォローしていくこと。なるほど、と思った。実際、言いっぱなしが多いんじゃがな。 |
〓 | ハーリ・クィン、これまた不思議な探偵だ。突然フット現れて、暗示的な言葉を残し、スッと消えていく。実態があるのかないのかわからない。そこで、なんやかやをするのは、62歳のしなびた男、サタースウェイト氏だ。他人の生活に興味津々、上流階級の人間や芸術家の友人も多い。クィン氏の示唆を受けて、サタースウェイト氏が行動する。事件を振り返りこの2人は言う、<人間の身に起こりうることで、死は最大の不幸でしょうか?…いいえ、たぶん死は最大の不幸ではありません>。ハーリ・クィン=道化師。ハーレクインロマンスと関係ありやなきや。 |
〓 | 続いて江原啓之の本。この人の説明は気に入った。天職と適職とは別物であり、そのバランスが大事。占いが当たるのは、宿命のままなんの努力もしていないなら。逃げの転職ならば止めろ等。いろんな場面で使えそうだ。物質よりもスピリチュアルな世界へ考えを持っていくことによって、救われることは多いと思う。 |
〓 | TV番組『オーラの泉』で三輪明宏とともに大活躍の江原啓之。スピリチュアル・カウンセラーである。ゲストのオーラを観たり、前世を観て、その人のあり方を示唆していく。前世がわかるという辺りは何か胡散臭い(というか、面白いがついていけない)が、本書を読んでみると、かなりいい。何の為に仕事をし、何の為に結婚をし、何の為に生きているのか。それは精神を磨く為なのだ。それで本書は一貫している。宿命を受け入れ、運命を変える。文句を言うなら心を磨け。人生は修行なのだ。そして部屋には観葉植物。 |
〓 | 山田太一と言えば『ふぞろいの林檎たち』、そして『男たちの旅路』。どちらも夢中でTVを観た。本書もドラマで有名になったもので、『岸辺のアルバム』なんて穏やかなタイトルと、洪水で家が流されていくシーンがミスマッチで、どんな話なのかと思った。仕事一筋で、会社の倒産を阻止しようと頑張る田島謙作。浮気をする妻・規子。外人にレイプされる女子大生・律子。高校3年で受験を控えた息子・繁。この中で大活躍するのが、この繁だ。母親の浮気の現場を追いかけ、姉を裏切った外人をぶちのめしに行き、父親の怪しげな仕事を見に行く。一人気を吐くが、家族でぶつかり合わないのが気に食わない。しかし、解説にもあったが、それぞれの言い分が十分描かれ、それが山田節なんだなと思った。面白くて、一気に読んでしまった。 |
〓 | 男性機能を失った老人の癒し。裸で眠らされた若い娘とともに一夜を過ごす。眠らされた娘は絶対に眼を覚ますことはない。主人公の江口老人は、若い娘に触れて、過去の女性を思い出す。この秘密の遊びの最中に死んだ老人がいた。そして事を隠蔽する為に、死んだ老人は近くの温泉宿に運び込まれる。ある時、江口老人が2人の娘と添い寝した時、一人の娘が死ぬ(『眠れる美女』)。2作目の『片腕』。これは完全にSFだ。彼女の片腕を貸してもらう男。本当の彼女の肩から外した片腕なのだ。こういう小説も書くことに驚いた。3作目の『散りぬるを』は、娘のような存在だった女性2人が、寝ている時に襲われ、殺された過去を振り返る。その殺人犯人の??な調書を読み、彼の心の中に入っていく。3作とも面白く読めた。 |
〓 | 読む順番を間違えてしまった。『秘密機関』の次はこの『おしどり探偵』を読むべきであった。ああ、それなのに『NかMか』を先に読んでしまった。『NかMか』では、2人は結婚して大きな子供までいたのだ。しかし『おしどり探偵』では、結婚して6年目。子供はいない。やっぱ彼らの成長とともに読むのが良い。ま、そんなところで、今回の『おしどり探偵』、2人のおっちょこちょいぶりも健在だ。長官カーターからの依頼は、壊滅状態になっている探偵事務所を建て直すこと。トミーは、所長シオドア・ブラントになりすましてタペンスと共に「国際探偵事務所」を開業。しかも、こいつら探偵小説はくさるほど読んでいるので、事件によっていろんな探偵になりきるのだ(ポアロも登場するぞ)。客が来れば、タイプをガンガン打ち始め、いかにも流行ってます状態にする。タペンスとの息もぴったりだぜ。おっと、助手のアルバートも忘れちゃいけねえ。全15篇からなる(お笑い)短篇集なのだ。 |
〓 | 『ザ・ゴール』、『ザ・ゴール2』に続く第3弾が本書である。BGソフト社というソフト開発企業とその関連会社、そしてその大手顧客のピエルコ社の面々が本書の主人公となる。新しいコンピューターシステムを導入したのに、何故か利益が上がらない。それはシステムを導入しただけで、それ以外はそのままのルールで行っていたからだ。効率よく製品を作り過ぎて在庫が多くなる。これは在庫の基準を以前のままで固定していたから。場所を変え、担当を変えた。結構大胆だと思ったのが、A社の製品はB社に売られ、B社はまたその次のC社に売ったりするのだが、エンドユーザーに渡った時点でA社もB社もC社もやっと利益が得られるというもの。サプライチェーン全体で動いて初めてうまくいく。ここまでいけば凄いぞ。 |
〓 | 優勝するチームには2種類あると著者は言う。「優勝するべくして優勝する」チームと「優勝するにふさわしい」チームだ。前者は誰もが認める大本命である。後者はというと、優勝すると「なるほど」と思えるチームである。言い換えれば、優勝する為にやるべきことをしっかりやっているチームである。それが著者の目指すチームなのだ。巨人のV9時代を理想とする著者が川上監督から学んだことは、「人間教育」であった。それが無形の力となり、伝統と呼べるものになるのだ。川上監督に学び、王、長島をライバルとし、常にアンチ巨人としてきた野村監督、楽天で頑張ってほしいのだ。 |
〓 | いきなり殺人事件で始まる。それを目撃したのが、マープルの友人マギリカディ。始まりも強烈だが、それより強烈なのがスーパー家政婦、ルーシー・アイルズバロウだ。オックスフォード大学の数学科を出た秀才であるが、学問の世界には行かず、金を得るために、深刻な不足は何かと考えた。それが家事労働の世界であったのだ。そして家政婦のプロとして誰もが認める人物となった。ミス・マープルは、今回の事件解決にこのアイルズバロウを起用する。料理もうまく、人扱いもうまいアイルズバロウは、思惑通りの大活躍だし、ミス・マープルも負けてはいない。最後にちょっとした演技を見せ、見事に決める。ところでアイルズバロウは勤め先の庭を探索するのに、ゴルフの練習をするというのを口実にするのだが、家政婦がゴルフの練習てのも日本じゃ?だ。なんかいいよな。 |
〓 | 結局、著者の言う「クオリア」とは、量ではなく、質のことである。となれば考えてしまうのが、量と質の関係である。本書のテーマからはチト外れるが、量が変われば、質も変わる、ということ。一定量を超えると質も変わるのだ。面の凹凸も大きければうねりとなるし、小さければザラザラとなる。もっと小さければ滑らかということになる。ということは、量と質の間には相関があって、感覚が鋭くなれば、少しの量の変化でも質の違いとして感じられる。そこには個人差があるにしても、共通に感じられると思われることがあるのが面白い。本書の仮想のテーマで言えば、実際に起こった過去を思うのと、実際に起こってはいないが、小説などを読んで体験するのは、<仮想>ということで同列に語られているのは面白い。そしてその体験したこと(フィクションも含めて)を思い、未来を思う<仮想>が現実の生活に潤いと力を与えるのだ。また、<思い出せない記憶>の考察も面白い。人には思い出せない記憶の方が多く存在する。生まれる前の記憶も含めて、なんらかの共通感覚がある理由は、記憶というよりもOSのイメージ近い。 |
〓 | こりゃ、おもろい。詐欺師・伊沢修が大活躍。時は、明治の終わり。辛亥革命の少し前のお話。上海の刑務所に服役していた伊沢が、中国革命同盟の幹部・関虎飛に誘われ、武器の調達(騙し取る)の為日本に戻ってくる。物語の背景には、中国における打倒清王朝、日本陸軍内部の出世争い、満州国の独立化構想などがあり、それらをうまく絡ませてある。実在の人物もバンバン登場するが、正直、蒋介石には驚いた。ラストのタタミかける展開も気持ちがいい。元気の出る1冊だ。 |
〓 | スポーツ感覚で結婚した『秘密機関』のトミーとタペンス。なんと中年のおっさんとおばはんになっていた。子供も2人。デリクとデボラ。今回は仕事がなくて嘆いていたところに、スパイを突き止める仕事が舞い込み、トミーは「無憂荘」へ。盗み聞きしていたタペンスも黙っちゃいない。即行動だ。今回は何といってもベティー・スプロケットのキャラがいい。と言っても幼児である。舌足らずの口調で皆の注目の的だ。そして絶対絶命。おしどり探偵今回も大活躍。 |
〓 | 最初の夫とは死別。2人目の夫(明石家さんま)とは離婚。3人目の同居人(野田秀樹)とも別れ、現在子供2人と暮らす。バラエティにも出演し、芸の幅を広げる大竹しのぶは、天性の役者だ。しかし、普通の人間であろうとする。そのことが、かわいいと思う。前向きでエネルギッシュ。かなりお惚けでもあるが、最後はやはり自分一人、自分の為に生きたい、と正直に言うのが、かわいいと思う。大竹しのぶは、清楚でかわいい女なんである。 |
〓 | ミス・マープルもの。今回のキャラでは、しっかり者の家政婦メアリー・ダブがなかなか良くて、彼女はどういう結末になるんだろうか、と気になった。やはり一癖あるヤツだった。そして何よりも、小間使いのグラディス・マーティンがマープル宛てに書いた手紙。これには泣かされた。この無邪気な手紙を最後に持ってきたクリスティーの演出が光る。 |