1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025

05.12.31
勝っても負けても  池田晶子
新潮社

 週間新潮の連載コラム「死に方上手」が「人間自身」となってそれを集めたもの。『41歳からの哲学』の続編となる。「自分になる」とはどういうことか。先ず自分になってから始まる、と著者は言う。それが賢者への道となる。親父さんと同じく、池田晶子の追っかけが楽しみ。



05.12.31
41歳からの哲学  池田晶子
新潮社

 週間新潮の連載コラム「死に方上手」を集めたもの。世間のあれやこれやについて、池田晶子が語る。考えてみればあたりまえの結論なんであるが、その切り口がブレてないので良くわかる。久々に池田晶子を読んだが、垢が落ちて清々しい気分になった。



05.12.25
ポアロのクリスマス  アガサ・クリスティー 
新潮文庫

 シメオン・リー氏の住むゴーストン館に、クリスマスということで次々と家族が集まって来た。殺されるのはこのシメオン・リーだ。金儲けに長け、女ぐせの悪い老人で、誰からも恨まれそうな男だ。殺されても当然、てな人物だけに動機がある人間は多い。ポアロはいつものように殺された老人の性格、また真犯人の性格から入っていく。動機があっても、殺人ということができる人物であるかどうかだ。家族のようで家族でない人物。また家族でないようで実は家族であった人物が入り乱れる。それにしてもシメオン・リー、家族つくり過ぎ。



05.12.25
ボッコちゃん  星新一
新潮文庫

 星新一の自薦短編集なので、著者の思い入れの強い作品が掲載されている。どれもが濃厚で面白いが、特になんでも金で済ます時代を描いた『マネー・エイジ』は笑えるし、『ゆきとどいた生活』の人間を無視した全自動の生活や、光がなくても見ることができる進化した?子供が登場する『闇の眼』にはゾッとした。筒井康隆の解説も読み応え満点。



05.12.11
ポセイドンの涙  安東能明 
幻冬舎

 青函トンネルには現在新幹線は通っていないが、平成27年には(エピローグによると)開通しているらしい。今から10年後だ。これも楽しみだが、青函トンネルは昭和21年に予算がついたというから、その歴史は長く、それだけでも壮大な物語だ。それに加えて全く違う「ブランド」という大ネタを安東氏は引っ付けた。それぞれで充分1つの物語になりそうなのに勿体無い、と思うのは、わたしだけ?本書で青函トンネルの歴史とブランド創設の困難さがよくわかった。この辺りの知識が得られるも安東作品ならではだ。ラストもいつものように非常にアクティブで面白い。そして、未来形のエピローグが素晴らしい。竜飛(ああ、津軽海峡冬景色〜♪)と吉岡にある海底駅、一度は行ってみたい。



05.12.3
雪国  川端康成 
新潮文庫

 『雪国』と言えば、吉幾三。ではなく川端康成だ。ノーベル文学賞受賞作のこの小説、冒頭の<国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。>というのはあまりにも有名。金持ちで遊んで暮らす男・島村と芸者・駒子の恋愛物語だ。駒子は師匠の息子の為に芸者にでているが、その男は死に瀕している。その看病をする葉子という女。2人ともその男を愛している訳ではない。島村にはそれらが「徒労」と感じる。報われないが、精一杯の生活する女たち。そして全く違う境遇の島村とが惹かれ合い、2人の女は牽制し合う。頬が赤く快活な駒子と声が綺麗で<刺すように美しい>葉子が、雪の国に映える。



05.11.20
生協の白石さん  白石昌則 東京農工大学の学生の皆さん
講談社

 インターネットで話題になった「生協の白石さん」が本になって、それをインターネットに乗せるというのもぐるぐる回っとるわけで。生協の白石さんが「ひとことカード」なるものに回答している内容が味わい深い。無理難題をさらりとかわして商品の宣伝にスリ変える辺りは只者ではない。目線が同じで、共に泣き笑いしようという態度が人気の秘訣なんやろな。



05.11.19
あの頃ぼくらはアホでした  東野圭吾
集英社文庫

 著者の東野圭吾とは同じに年に同じ大阪で生まれ、おまけに一浪して予備校も同じだ。あたりまえだが、話が合う。受験した大学も同じのがある。あのTV番組「ウルトラQ」の話(やっぱケムール人の走りは凄いな)があったり、怪獣映画の話があったり(『サンダ対ガイラ』は観たぞ)、給食の脱脂粉乳の話があったりで、なつかしいさ一杯だ。しかし、巻末の特別対談を読んでいたら<僕は'58年だけど、2月生まれなので…>とあるではないか。なんや学年ではイッコ上なんや。なつかしさが途端に半分になった。



05.11.10
整体的生活術  三枝誠
ちくま文庫

 「整体的…」なので、整体のやり方の本ではない。身体そのものについても説かれているが、「衣・食・住」全般に書かれた本で、なかなか実用的だ。面白いと思ったのは、ぼやっとした善人のポジティブ・ローテンション(睡穴)より、嫌われるのを覚悟したネガティブ・ハイテンション(汚穴)を薦めていること。一番いいのは、ポジティブ・ハイテンション(互穴)で、最悪はネガティブ・ローテンション(閉穴)ということだ。自分のやって欲しいことを他人にするのは落とし穴があること。守るべきは他人との約束より自分自身との約束、無理な感謝は身体に悪い!など。食事・住居についてもまるごと身体的な解説で、面白い本だった。



05.11.2
魔術の殺人  アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 ミス・マープルもの。今回はジェーン・マープルの個性があまり感じられなかった。その他に強烈な個性も見あたらない。ちょこちょこ読んだので、イマイチ調子にのれんかった。多くの人が騙されて、変なやつと思われている人(本書の主人公)が一番マトモ、ということもあるっちゅう話。



05.10.16
ベン・ハー キリストの物語 ルー・ウォレス
ハヤカワ文庫

 小説の副題には「キリストの物語」というのが付く。映画『ベン・ハー』で感心したのは、チャールトン・ヘストン演じるベン・ハーが戦車競争でメッサラと対決するシーン。セットの大きさと人数の多さ。人と金をふんだんにかけた超大作。アカデミー賞なんてのも11部門も独占だ。大作と言えば、この映画。生涯ナンバー1の映画と言ってもいい。本書でもその雄大さはある。しかし、もう1つのテーマ、というか本当はこっちが主題なのかもしれんが、それがナザレの人、イエス・キリストだ。映画でもボロボロの衣服で髪の毛伸び放題、身体は傷つけられ、ヨタヨタ歩いているシーンがあった。その時は、ああこれがキリストか、という感じだけであったが、本書でキリストの凄さが伝わってくる。己が思いを言葉少ないがしっかりと喋る。身体がズタズタになろうが意に介さず。死へ向かっていく時もその信念に揺らぎはない。肉体の人ではなく正に精神の人だ。新約聖書の中のかつての偉人、イエス・キリストではなく、今ここにいるキリストを直に見た思いがした。「ユダの王」(=キリスト)を探す三人の賢者からこの小説が始まる。ローマ人メッサラへの復讐に燃えるユダヤ人ベン・ハー。そしてベン・ハーのキリストへの帰依。映画とは別の面白さがあった。



05.10.12
ドクター・ノオ イアン・フレミング
ハヤカワ文庫

 いや〜、ボンドってやっぱり肉体派だなあ、とつくづく思った。脱出する為に、高温になった金属管の中をはいずり回って大やけどをし、巨大イカと対決して身体は吸盤の痕だらけとなる。映画の中ではもっとスマートな感じやがなあ。小説の中のボンドの方が泥臭い。でも感心したのが、敵地に乗り込む前に充分なトレーニングを積むところ。拳銃もワルサーPPKで決まり、と思っていたが、直前までベレッタを愛用していて、今回メインで使ったのが、スミス・アンド・ウエッソンだった。ジャマイカで鳥の糞でできるその名も鳥糞石(グアノ)に目をつけて金儲けを考え、権力に固執するドクター・ノオは変人であったが、あっけなく死に、虫、蛇とともに生活していたハニー・ライダーは野性味たっぷりで魅力的であった。



05.9.25
死との約束 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 冒頭のストレートな会話も強烈だが、途中の金持ちで独占欲の強いポイントン夫人の言葉、<わたしは決して忘れませんよ―どんな行為も、どんな名前も、どんな顔も>、というのもインパクトがある。実はこの言葉が事件解決のキーになる。最後はトンビに油あげされわれた状態であるが、まあなんとかOK。恋愛物語としても面白いが、やはり男は頼りなく、女が強い。



05.8.16
ナイルに死す アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 映画は昔観たが、内容はてんで忘れていた。これで二度楽しめる。美人で大金持ちのリネット・リッジウェイは、親友のジャクリーン・ド・ベルフォールの婚約者であったサイモン・ドイルと結婚し、エジプトへハネムーン旅行。いろんな人物がその旅行に合流し、そして殺人事件。登場人物も多いので少々ややこしいが、犯人はやっぱりそうか、と納得のいくものだ。いつものことだが、ポアロは殺人の動機と殺人犯の性格をジックリ検討する。キャラが立った人物はジャクリーン・ド・ベルフォール、作家オッタボーンの娘ロザリー、金持ちスカイラーのいとこのコーネリアってところで、男どもはてんでダメ。ラストのポアロ、今回は非情。



05.7.31
強奪箱根駅伝 安東能明
新潮社

 先ずこの強烈なタイトルに惹きつけられた。好き嫌いはあろうかと思うが、私はこのベタでインパクトのあるタイトルが好きだ。中味はこれまた凄い。著者の取材の徹底ぶりには感心させられるし、物語は感動ものだ。そんじょ、そこいらの小説とは大違い。箱根駅伝の面白さ、それをテレビ中継する大変さ、電波の凄さと危うさ、そして青春へのノスタルジーが加わった大小説だ。いつも見事なラストだが、特にこの『強奪箱根駅伝』は異常に盛り上がる。思わず「そら行け〜!」って叫んでしまいまっせ。そして犯人を万事休すさせたのが、必殺電波返し。読んでる自分も青ざめた。これも映画化したら面白いやろうなあ。



05.6.29
宇宙消失 グレッグ・イーガン
創元SF文庫

 今いる自分は何かを選択した後の自分である。その直前に選択肢が無数にあるなら、未来に無数の自分が存在する。それは拡散した自分だ。常に未来の自分は拡散しているのだ。現在の自分は、収縮した自分だ。本書では現在の自分が拡散した世界を見せてくれる。そして思うように収縮することを試みる。そのコツは強く念じることではない。それがあたりまえに思えることだ。また、ナノテクで自分の神経を自由にあやつることが日常である世界も見せてくれる。スターウォーズの傷だらけの乗り物のように。金ぴかでないのが、未来の日常っぽい。タイトルは宇宙消失であるが、実は夜空から星が消えるのである。結構ハードなSFであるが、トリップできる。



05.6.11
15秒 安東能明
幻冬舎

 <セシウム。…1秒の間にきっかり九十一億九千二百六十三万一千七百七十回震える。…誤差は30万年に1秒>という。ムチャクチャ正確だ。絶対時計を持ち、時間を操る男。実はその男は知っているのだ。時間は相対的なものであり、人工的であることを。そしてそのシステムの中で現代人は生活している。だからこそ操つれると思った。時間を操るのは、アレだろうな、と思っていたら、やはりアレだった。このネタでは初めて読んだので面白かった。ラストの盛り上がりもSFチックでいいぞ。



05.6.11
悪魔のいる天国 星新一
新潮文庫

 天国には悪魔がいる。星新一のショート・ショートにも悪魔がいる。涙は不要。いいこともあれば悪いこともある。ぐずぐず悩んでいないことが登場人物すべてに共通する。いい意味であきらめが良い。だから疲れた心にも、スッと入り込んでくるのだ。



05.5.29
鬼子母神 安東能明
幻冬舎文庫

 児童虐待をテーマにしたミステリー。虐待にもいろいろある。ストレス発散の虐待。愛するが故の虐待。この後者が性質が悪い。罪の意識がないからだ。子供を可愛がってもいいが、独占してはいけない。愛と執着。紙一重であるが、はっきりと境があるわけではない。流れていくのだ。それが自然な流れのようでもある。元看護婦というのがまた恐ろしい。医学的知識を持ち、腕力に頼らない暴力が可能だからだ。医師、あるいは看護婦が狂うと恐ろしい。本書でその恐ろしさが充分堪能(したくはないが)できる。ラストの盛り上がりもいい。「急げ!」と思わず口に出そうになるのだ。



05.5.22
桂三枝という生き方 桂三枝
ぴあ

 息の長い芸人というか、ず〜っとテレビに出続けている芸人の代表、桂三枝。誰にでもある程度ウケるネタをやる。決してマニア向けのネタはやらない。ということは、まあ、たいして面白くない、ということだ。これが秘訣。毒がない分、飽きが来ない。相手のよいところを引き出してやる、アントニオ猪木のような男だ。能ある鷹は爪を隠す。演者というより、企画者。演じてもこれほど嫌味のない男はほとんどいない。本人曰く、「アホになり切れない男」であるらしい。イチ、ニッ、サン、シー、ゴ苦労サン。ロク、ヒチ、ハッキリ、クッキリ、東芝さん。オヨヨ。



05.5.22
100億稼ぐ仕事術 堀江貴文
SB文庫

 メールを一日5000通読んでいる男、それがホリエモンだ。彼が仕事で使用しているツールで、特徴的なのが、このメールだ。届いたメールを送信別に分けることはもちろん、自分が日々こなす業務もメールを使う。自分にメールを送るのだ。そしてこなしたらドンドン削除していく。それで一日を終える。シンプルに考える。仕事を明確にし、細かく分けてこなす、そしてコスト交渉は徹底的に。コスト削減のテクニックは常に進化している。これらが彼から学べるところだ。



05.5.15
予告殺人 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 ミス・パープルもの。チッピング・クレグホーンという村のすべての家に配達される新聞紙《ギャゼット》に殺人予告が掲載された。リトル・パドックス邸には、何の用事もないのに、というかなんか用事があったフリをしてゾロゾロ人が集まった。そらまあ、場所と時間を指定しての殺人。そしてそれを村のみんなが知っている。当然暇な人たちは集まってくる、という訳だ。今回の事件解決の糸口は、順番によく思い出すこと。ああ、あそこにあの人が。。。



05.5.4
マスクを脱いだデストロイヤー ザ・デストロイヤー
ベースボールマガジン社

 「白覆面の魔王」と言えば、知る人ぞ知る、名プロレスラーだ。プロレスがゴールデンタイムで放送されてた頃、数々の外人レスラーを見た。「鉄の爪」フリッツ・フォン・エリック、「黒い魔神」ボボ・ブラジル、「吸血鬼」フレッド・ブラッシー等々。その中でもこの「白覆面の魔王」デストロイヤーはカッコ良かった。覆面の神秘性に加えて、すばやい身のこなし(寝転がった姿勢からヒョイっと起き上がるところは、中学の体育教師が「ほら、デストロイヤーみたいやろ」といってやって見せた)、そして「四の字固め」という決め技を持っていたからだ。当時プロレスごっこと言えば、この四の字固めか、コブラツイストが人気だった。自ら「”インテリジェント・センセーショナル”ザ・デストロイヤー」と名乗るところもカッコ良かった。本書ではマスクを着けていない写真も多く載せている。それを見ると結構小柄で普通の人だ。今年で74才。息子もプロレスラーになったらしい。現在は水泳のコーチやら、FFC(フィギャー・フォー・クラブ)というNPOで頑張っている。いつまでも元気でいて欲しい。



05.4.5
もの言えぬ証人 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 依頼者エミリイ・アランデルはすでに死んでいた。しかし、ポアロはこの死んだ依頼者の為に行動を起こす。報酬は犬一匹。ボブだったが。。。今回もポアロは、犯人の性格から推測される行動パターンに注目する。ポアロの言葉で感心したのは<しかし、かえってわたしに話してしまわれたら、あなたはもう安全です!秘密が口をついて出れば、事実が自動的にあなたを保護することになるんです>というところ。この「自動的に」というのがいい。〜It's automatic〜♪。犯人には心底恐ろしい、と思ったが、死んだ依頼者の古い友人・キャロライン・ピーポディでホットする。お馴染みのヘイスティングス氏も登場だ。



05.4.3
わが青春無頼帖 柴田錬三郎
中公文庫

 今東光の友人でもあった、柴田錬三郎。ご存知『眠狂四郎』の産みの親、シバレンだ。戦地で体験した船の沈没。大海原に浮かんで救助を待つ時に浮かんだ虚無の思想。それ故に体力を消耗させることなく、生き延びることができたという。それをシバレンは<レールモントフやメリメやリダランが、私の生命を支えてくれた…>という。けっして優等生ではないシバレンの、学生時代から作家生活。口は「へ」の字に曲がっているが、その中身は単なる虚無思想ではなかったのだ。



05.3.21
動く指 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 ミス・マープルもの。だけどこのおばちゃん、今回なかなか登場しません。最後の方でささっと出て、しゅしゅっと終わる。そこんとこは一寸不満が残る。本書の面白さはそこではない。ミーガン・ハンター、彼女の個性につきる。先夫の娘というまあ恵まれない立場におかれ、みんなから無視されているが、そこは「ボロは着てても心は錦」なんだな。



05.2.28
現代語訳 義経記 高木卓訳
河出文庫

 面白い。兄頼朝とともに源氏再興を企てようとした義経だが、逆に頼朝から狙われ、弁慶らとともに逃亡の旅。そして最後は自害。淡々と語られるが、中身は凄まじい。NHKの大河ドラマではどこまでやるかな。見てないけど。父は源義朝(左馬頭と呼ばれた)。その三男が頼朝(「鎌倉どの」と呼ばれる)で、九男が義経。兄弟のうち一番末の弟であった牛若。遮那王と名前を変え、そして後に自ら「佐馬九郎(さまのくろう)義経」と名乗る。本書では義経の華々しいところはあまりなく、ほとんどが逃げの隠れの旅だ。義経を先に行かせ、敵を待ち受けた左藤忠信の最後は特に凄かった。武蔵坊弁慶は最後までかっこよい。この時代、殺すか、殺されるかなんてのは日常のことだ。その分、緊張感に満ちている。どのように死ぬかを男女問わず、常に考えておるのだ。



05.2.15
ひらいたトランプ アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 そのままで外見が悪魔にそっくりなシャイタナが殺された。犯人はシャイタナが開いたパーティーの招待客で、ブリッジをしていた4人のうちの一人。同じ招待客にポアロ、諜報局員のレイス大佐、彫刻のような顔をしたバトル警視、そしてクリスティー自身とも思われる、ちょいとおっちょこちょいの探偵作家、アリアドニ・オリヴァ夫人がいた。この4人が真犯人を探す。例によってポアロは、4人の性格、人柄を重視して進めていく。そして最後の切り札を。。。。なんであるが、よくポアロが使うのがダメ押しの偽の証言。これで犯人が観念するのだ。ちょいとズルイが非常に有効だ。



05.2.7
メソポタミアの殺人 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 この物語は、看護婦のエイミー・レザランの手記である。レザランが起きたことをありのまま書いたことになっていて、本書の1/3まで殺人事件は起こらない。いつものように最後でポアロが全員を集合させて真犯人を言い当てるのだが、一から解説するのでやけに長い。その分盛り上がり効果は抜群だ。推理の経緯がそれまでわからないのも、手記を書いたレザラン自身がその場で初めて聞いたからだ。集合した者全員が疑われ、一喜一憂する様も面白い。クリスティーは、オリエント急行でバグダッドまで行き、メソポタミアの発掘現場を見学して本書の構想を得たが、ポアロは逆にこの事件のあと「オリエント急行」の事件に巻き込まれることになる。



05.1.30
ABC殺人事件 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 面白い。おもわず読み返してしまった。この事件、一旦解決したかに見えた。しかし、ポアロにとっては終わっていなかったのだ。<わたしは何も知りませんー何一つ知らないままなのです!なぜもなんのためにもわからないのです>。ポアロの納得いく殺人者の動機がなく、人格のイメージが違っていたのであった。最初に手紙を受け取った時の違和感。そこに立ち戻って再考をした。それは直感ではない、今までの知識と経験からくるものなのだ。(ポアロはこの点を強調する。「直感」という言い方は良くないと)。旧友ヘイスティングズ氏も今回は出まくりで(南アメリカにある農場からロンドンに出てきたのだ。妻は農場運営のために残る)、普通の人ぶりを発揮。ポアロ自身納得いくまで終わらん、という凄まじい執念を見せつける。ラストの盛り上がりも良く、今まで読んだクリスティーものの中での最高傑作。



05.1.16
雲をつかむ死 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 クリスティーにはめずらしい飛行機の中での殺人事件。もっとも飛行機自体が、クリスティーの時代ではデカイものはなく、本書の「プロメテウス号」も21人乗り、となっている。今回面白いと思ったのは、ポアロが語る職業と人生の関係について。<口ではどんなことをいっても、たいていの人は、内心ひそかに望んでいる職業を選ぶものなのです。…“ぼくは探検がやってみたい、遠い国で荒っぽい暮らしがしてみたい”…その人は、そんなことの書いてある小説を読むのが好きなのであって、実際には、事務所の椅子に座って安全で生ぬるく気楽な人生を送るほうが好きなのです>。なるほどね。(ヘイスティングズ氏、今回も出てきません)。



05.1.5
三幕の殺人 アガサ・クリスティー
クリスティー文庫

 今年も行くぜ、クリスティー。ってことでこの『三幕の殺人』では元役者チャールズ・カートライトが主人公となる。またもや役者の登場であるが、今回は探偵役になる。ポアロはその手助けをするという形で物語は進む。事件の陰に女あり。今回の犯人の殺人動機は非常に切ない。ところで最近ヘイスティングズ氏が登場しないのはなんでかな?