〓 | いったん終了したこのシリーズ、本書はその後、2018年のビブリア古書堂を描いたという。栞子と大輔の間にも子供が出来、その名を扉子という。栞子さんが娘の扉子に本の話を聞かせるという形式で、これまでの事件の中では語られなかった話も出てくる。題材は、北原白秋+与田準一編『からたちの花 北原白秋童謡集』、佐々木丸美『雪の断章』、内田百閨w王様の背中』。そしてちょっと変わったタイトルの『俺と母さんの思い出の本』というのは、珍しいゲーム関係の本となる。ゲームの本も古書として価値のあるものがあるようだ。扉子も本好きの元気な子で、大輔も今までと違い、なんか落ち着いた雰囲気で登場する。別で書きたかった話がまだあるようなんで、そのままこのシリーズを続けたら、と思うが。 |
〓 | 核兵器から逃れるため、他国へ脱出中に飛行機が墜落し、少年たちが無人島に取り残された。最初は隊長を決めたり、発言のルールを決めるなどうまくやっていたが、次第に仲間割れ状態となる。救助される為に草木を燃やし、煙を上げ続けることを主張するラルフ、豚を殺して肉を得ることを主張するジャックの対決となる。ジャック率いる狩猟隊はエスカレートし、仲間を殺してしまう。それが彼らの残酷に火をつけたようだ。自分たちだけで生きていかねならないというプレッシャーと、闇に潜んでいる<獣>に対する恐怖から、自分を正当化する為に余計に残酷になっていくようだ。 最後はお互いわかりあい、一丸となって生き延びていく物語になるのかと思いきや、彼らの残酷さは止まらなかった。「蟻の王」と言えばハンター×ハンターのキメラアント編に登場するメルエムであるが、この物語の「蠅の王」とは、食用で少年たちに殺された豚の頭を串刺しにして、そこに蠅が群がったもの。そこに悪の神が宿る。 |
〓 | 主人公の草薙素子が他の知的生命体と融合し、公安9課から離れて4年5ヶ月弱後の出来事。荒巻素子と名乗り、デコットと呼ばれる荒巻素子の分身ロボットがいろんな場所で活躍する。ラストはデカントケイルと呼ばれるスーパーコンピューターの中に入っていく。元の?自分自身、草薙素子とも遭遇。そして高度知的生命体へとステップアップしていったのかな??2001年に発行された。素子の裸の絵の多さに圧倒させられる。 |
〓 | 1991年に発行された近未来漫画で、2017年にハリウッドで映画化もされた。世の中にはロボットが溢れかえり、AIを使った全身義体のロボットから、主人公の草薙素子のように、脳以外の全身が義体の者もいる。また脳はネットワークにつながり、他人の脳に潜入することができる。草薙素子はめちゃめちゃ強く、荒巻が率いる公安9課とともに国際的な悪と戦う。ラストは主人公が他の知的生命体と融合するというとてつもないものだ。本書の中でも主人公は<ロボットの人類消去計画に手を貸す事にならないって保障ある?>と憂うが、著者はそんなロボットは<低知能の変種>と呼んで、そういうイメージは論理的ではないとしている。義体化とAIロボット、そいてネットワークが発達した未来のこの物語は非常に興味深い。以前に読んだ『サピエンス全史』の人類の未来よりも救いはありそう。 |
〓 | この人も「朝まで生テレビ」に出演していて見つけた面白そうな人だ。そして本書は、いろんな示唆に満ち溢れている。日本再興のキーワードはロボット、自動運転、そしてブロックチェーン。<これからの日本はすべてをブロックチェーンにして、あらゆるものはトークンエコノミーであるという考え方にしていかないといけない>そうだ。<ビットコインに代表される仮想通貨にかかわる技術>にブロックチェーンというテクノロジーが使われている。トークンエコノミーとは法定貨幣ではなく、TUTAYAポイントのように価値交換ができるもの。これは中央集権的でないので、かかわりを持つ人たちだけで運営できる。日本に向いている地方自治的であるという。仮想通貨の分野では、ICOという方法で上場もできるそうだ。そしてグーグルやアップルからの搾取から脱却する方法だという。ロボット化は人口減少にマッチする、機械化自衛軍で日本を自衛する、自動運転により能動的に時間を使える。というのも面白いと思った。士農工商という身分制度を肯定し、現在の「商」に価値を置き過ぎている状態を批判する等、久しぶりに読んだ、日本の明るい未来が伝わる本だった。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズの6冊目で初めての長編。読んだ充実感は長編の方があるかな。今回の主人公はアメリカからの留学生エリー。16歳で大学に入学した天才。神から才能を与えられし<ギフデッド>と呼ばれる。彼女が挑むのが<全合成>。全合成とはなんじゃ?Mr.キュリー曰く<自然界で作られる物質のことを、『天然物』と呼ぶ。全合成というのは、それを人の手で一から合成することだ。…『入手可能な試薬から目的物に至るまでの合成ルートを確立する』という研究だ>ってことです。エリーを受け入れ担当は当然七瀬舞衣。エリーが研究するに至った経緯である、二見雄介との話。天才と天才でない化学者としての在り方などが語られて面白かった。 |
〓 | トム・リプリーシリーズ、第4弾。パリで悠々自適に過ごしていたトムのところに家出少年フランクが現れた。フランクは、父親を殺してしまったと言う。そしてトムの事を知り、トムに救いを求めてやってきた。フランクはアメリカの大富豪の息子で、その行方不明を捜索する探偵や、フランクを誘拐し、身代金を要求する犯人たちとの戦いにトムが体をはって挑む。その間のトムとフランクの濃密な生活は面白い。フランクはリプリーに憧れのようなものを持っていたようだが、日本語タイトルにある『リプリーをまねた…』ということでもない。そして結末は相当ショックな終わり方であった。何故作者はそれを選んだのだろうか。 |
〓 | これもまた、ぐさっとくる一冊だ。コンビニの商品で生活する人の話かと思ったら、違った。コンビニ側の人間。コンビニで働く人間であった。人生をコンビニの為にささげる。コンビニに行くために食事を摂り(「特に味はいらない」と本人は言う)、コンビニで働く為に睡眠をとる。周囲から「普通の生活」というプレッシャーにもめげず、というか意に介せず、コンビニ店員であり続ける主人公・恵子。コンビニにアルバイトとしてきた男と偽装結婚のようなことをしてみたりするが、自分の生きる道ではないと感じる。<コンビニ店員という動物である私にとっては、あなたはまったく必要ないんです>と言い切った。人間的であるとかなんとか関係ない生き方。それがかえって人間的なような気もする。第155回芥川賞受賞作。 |
〓 | 松岡正剛の365冊の中の1冊。これはとんでもない本だ。船に乗って座礁し、アフリカの原住民に捕まった乗客たち。身代金を要求する原住民の王タルー。身代金が届くまでの間、乗客やタルーの家族たちで、いろいろな芸を披露することになるのだが、これが凄い、というかありえないようなことばかり。銃撃で、半熟卵の白身だけ取り除き、薄皮につつまれた黄身だけを残す奴。ミミズを調教して、チターという楽器を弾かせる奴。1人で4つの歌を同時に歌う者(口を1/4づつ開く)。自動絵画装置をつくる者。花火で写真のような映像を作る者。その他、現地の動物や植物の習性を活かしたり、自分の心臓を止めてみたりと、命がけの芸ばかりだ。後半は、王国の歴史や、それらの芸を習得するまでのいきさつが語られる。この奇想天外な物語、再読したがまだ消化不良気味だ。 |
〓 | ブログの方で、同じ本をみんなで読みましょう、って提案したくれた方がいて、この本を買った。でもスターツ出版文庫ってのが、書店のどの辺りにあるのかわからなく、見つからんからしゃあないと思っていたらなんとコミックやDVDのコーナーに置いてあった。探していた本が見つかるとうれしい。しかもバリバリの青春物で、新鮮でこころが洗われた。一番ぐっときたのは、主人公間宮すずが同級生の須賀の体に触れた時の須賀の言葉とそれに答えるすず。<「間宮の手って熱いな」…「人間の体温って熱いから、魚を素手でさわると火傷するんだよ」。「……須賀は魚なの?」>ってところ。 |
〓 | NHKの朝ドラが終わると、次に「アサイチ」でイノッチとともに、キャスター有働由美子を観るのが常であった。しかし、紅白の司会も務め、NHKの顔であり、王道を歩んでいるような有働さんがNHKを退社した。親しみ易いアナウンサーというのが印象に残る。49歳独身で、このまま変わらずに続けていくことはやはり難しいのかも。そこは逆に、変えていかなければ続けられない、ということだろうとも思う。仕事のこと、結婚のこと、両親のことが語られる。なかでも「私の個性、私が思う個性」のところで<素が、いろんなものを兼ね備えたそのままの自分だとしたら、人に見せる個性は、そのごくごく一部だと、わたしは思っている>というところは納得だ。そしてジルに撮ってもらった写真というのは、なかなかカッコイイ。 |
〓 | 星新一、10冊目。表題作『妄想銀行』は人間の妄想を売り買いするというもの。けっこう需要がありそうだ。その他、32個のショートショート集。中でも特に印象の強いのが、『味ラジオ』だ。普通の水もコーヒーの味がしたり、オレンジジュースの味がしたりするのだ。食べ物でもそうだ。何の味もないパンのようなものを食べても肉の味がしたり、サラダの味がしたりする。それらはテレビやラジオのように放送されるのだ。歯に埋め込まれたチップにより受信すれば、その感覚が得られるというもの。それはSFの世界であるが、近々そんなことはできそうに思える。『鍵』は拾った鍵から、逆に錠前を作るという発想が面白い。 |
〓 | MoMA(ニューヨーク近代美術館)を舞台に、そこで働く人々、画家、そしてその作品に関連した短編集。主人公は架空の人だが、登場する画家と作品は本物だ。『中断された展覧会の記憶』では、アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナ世界」が紹介される。思わずググってみたが、いい絵だと思う。『私の好きなマシン』では、MoMAが機械の部品を芸術作品として展示したことが紹介される。その他ピカソとマチスは同世代の人物であり、お互い張り合っていたことがわかる。ニューヨークだけでなく、日本の東北地方も物語の舞台となり、「2001.9.11」の同時多発テロや、「2011.3.11」の東日本大震災を絡めて、けっこう濃密な短編集となっている。 |
〓 | プロゴルファー横峯さくらは、小柄ながら独特なスイングでかっ飛ばす。日本で賞金王になり、現在アメリカツアーに参戦中だ。その横峯さくらが日本で絶頂の時、日曜日試合が終わると家に帰り、直行していたのが新宿2丁目だったとは驚きだ。有名になるにつれ注目されゴルフが嫌いになったようである。結婚を機に引退をしようとしていたらしい。ところが結婚をした後(結婚相手はメンタルトレーナー)、海外嫌いが主戦場を海外に移し、ゴルフが好きになり、積極的に自分を出すようになったという。リラックスできる相手であれば、1人の時間も必要なくなったそうだ。犬を飼ったことも生活にメリハリができたと言う。アメリカツアーはハードであるが、ずっと続けていつか優勝してほしいと思う。 |
〓 | この有名なタイトルの著者もガストン・ルルーだったのだ。オペラ座の歌姫、クリスチーヌ・ダーエと彼女の幼馴染で恋人のラウル・ド・シャニイ子爵。そこに「OのF」ことオペラ座の怪人、エリックが絡む。エリックもクリスチーヌに思いを寄せるが、醜く生まれ、仮面をつけなければ人前に出られない。巨大なオペラ座、そしてその奈落がもう1つの舞台となる。美しい声を持ち、腹話術の名人であり、首を絞めて仕留める<パンジャブの輪差>の名人、そして引田天功のようなトリック名人でもあるエリックはまさにオペラ座の奈落に住む怪物であった。最後はクリスチーヌを監禁し、オペラ座全体を爆発させるほどの大量の爆薬を仕掛ける。謎のペルシア人ダロガとシャニイ子爵がその径人に挑む。オペラ座を舞台としたミステリー&冒険活劇であり、悲しくも恐ろしい物語であった。劇団四季の「オペラ座の怪人」も観てみるかな。 |
〓 | で、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』だ。確かに面白い。どんどん読み進められる。設定のややこしさもそれほどでもなく、事件は単純明快だ。そして主人公の新聞記者で探偵役のルールタビーユが魅力的だ。<ことさら目をひくのがその頭の形で、ビリヤードとかルーレットの玉のように丸っこいのだ。そんな頭の形をした少年がまだ新米記者としてあちこちうろうろしていたので、roule-tabille「転がせ、お前の、玉」というあだ名ついたわけだ>。彼が事件の全豹を明らかにするのだが、常に心がけているのが<論理の輪>の中に入るかどうかだ。見かけの証拠にとらわれず、論理的に説明がつくかどうかを重視する。最後の法廷の場面も盛り上がる。<裁判長を相手に、まるで友達と待ち合わせの時間を決めるように(犯人の名前を言う)時間の約束をしているのも面白く>、法廷全体が<なにやら愉快な気分になっていた>のである。ライバル?というべきラルサンもいい。密室殺人の古典とされており、それもあり?って感じがしなくもないが、論理は破綻していない。とにかく面白く最後まで読める。読む価値ありだ。 |
〓 | 名探偵ポアロ物。作中でポアロがガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』を絶賛していた。<これこそまさに古典だよ!初めから終わりまで文句のつけようがない。…>。これは読まずにはいられない。ってことで、さっそく買って読み始めた。で、本書の『複数の時計』であるが、久々にクリスティーを堪能した。盲目の教師ペプマージュ婦人の家で、一人の男が殺された。秘密情報部員のコリン・ラムが活躍。彼の父親の友人がポアロというわけだ。アパートの窓から観察していたゼルラディンもかわいい。ところでポアロが友人のヘイスティングズを懐かしむ場面もあるのだが、今後登場してくるのかな。 |
〓 | 化学探偵キュリーを読んでいるうちに、もっと化学を知りたくなった。というか化学は暗記項目が多いので敬遠していたが、面白さを味わいたいと思うようになった。この本はそんなに化学式も出てこないので、読み物のように読めた。ちょっと前にやっと読み終わった『マンガ+要点整理+演習問題でわかる 高分子化学』と同じ著者であったことも良かったのかもしれないが。もうちょっと齋藤さんの他の本も読んでみよう。 |
〓 | , シリーズ5冊目。『化学探偵と無上の甘味』、ニトログリセリンは甘い、というのは置いといて、ミラクルフルーツ登場。なんと次に食べたものを甘く感じさせるというから驚きだ。『化学探偵と痩躯の代償』、タバコはビタミンCを破壊する。『化学探偵と襲い来る者』、PCRという手法を使えば、DNAを何万倍にも増やせる。『化学探偵と未来への対話』は若者に対するエールだ。『化学探偵と冷暗の密室』、七瀬舞衣最大の危機。 |
〓 | 中村文則の『世界の果て』に続く2冊目の短編集。2007年〜2014年に書かれたもので、実験的な小説が多い。『糸杉』はあのゴッホの絵を題材としたもの。女の後をつける。『嘔吐』、ドアの郵便受けから白いものが来る。『三つの車両』乗客の一人の男が膨らんでいく。『セールス・マン』、憂鬱を売りにセールスマンが来る。『体操座り』、三つ子のおっさんが登場。『妖怪の村』、鳥危険度レベル5。『三つのボール』は主人公がボールで、なんと人間は登場しない。『舵』、老人が裸の女をモデルに絵を描く。『信者たち』、小さな礼拝堂で性行為。『晩餐は続く』、犬の肉。『A』は戦時中の話。『B』も戦時中の話。『二年前のこと』、本当のこと? |
〓 | ジョバンニが友人カムパネルラとともに鉄道に乗って銀河を旅する。鳥を捕る男。追いかけてくるインデアン。煌びやかな情景とともに、不思議な出来事がおきる。また鉄道の中で出会った幼い子供たちは、天国へと旅立つ為に乗車していた。子供たちはサザンクロスで降車し、十字架のもとに行った。子供たちと話した蠍の火の話。ジョバンニは言った。<僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。…けれどもほんとうのさいわいは一体なんだろう>。病気の母親のために牛乳をとりに行く途中で草むらで寝てしまったジョバンニの夢の旅。表題作他7篇の短編集。それぞれが星に因んだ物語。 |
〓 | 土屋賢二のユーモアエッセイ。世の中のこと、というか日常のあれやこれやがどーでもよくなる本。いい意味で。全てのことが言いようによっては、なんとでも言えるからだ。というわけで気分がお落ち込んでいる時に読むと効果を発揮できそうだ。中でも稀代の聖人ツチヤのおことば、<危険は必要だ!>は、なかなか感慨深い。そしてなんと、著者紹介の欄までもうどーでもいい、って感じなんである。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズ、4冊目。今までの登場人物もいっぱい出てきて、だんだん厚みを感じられるようになってきた。トリック等にはいつも化学ネタがある。今回面白かったのは、MOFと呼ばれる金属有機構造体だ。<金属と有機構造体が相互作用して作られる、ネットワーク構造を持つ物質>だそうで、この物質の凄いのが、<枠の中に、水や金属、気体なんかを取り込んだり、逆に放出したりできる>ということだ。Yahoo!で調べてみたが本当にある。その他、塩化カルシウムは凝固点を下げるので、雪をとかすために使われたりするそうだ。 |