〓 | 先に読んだ『史上最強の哲学入門』は、西洋哲学の歴史とその解説であったが、本書は東洋哲学。ヤージュニャヴァルキヤ、釈迦、龍樹という流れのインド哲学、孔子、墨子、孟子、荀子、韓非子、老子、荘子という流れの中国哲学。親鸞、栄西、道元という流れの日本哲学。その歴史と解説となる。本書も1つの物語と読めて非常に面白い。<最強の哲学入門>というのも嘘ではない。西洋哲学は、一段一段積み上げていって真理に到達しようしているのに対して、東洋哲学は最初から真理を語っている。その大きな違いが面白い。日本で育ったせいか、東洋哲学の方に親近感が湧く。その時代の生きた哲学者の息吹が感じられ。これだけ面白く読ませる哲学書はないのではないか。<飲茶>という、ふざけたペンネームと思っていたが、その意味を知って、なるほどと思った。 |
〓 | 両親に猛反対されるが、海外に出てみたいという思いは抑えきれなかったロビンソン・クルーソーは、友達の誘いで船に乗り込む。嵐に会い反省するも、嵐が止めばまた元気になる。そしてハリケーンに出会い船は解体するが、クルーソーは島に打ち上げられ命は助かった。そこから28年もの間、その島で暮らすことになる。船に残った物質で生き延び、家を建て、畑をつくり、ヤギの飼ったりしながら生活していくところは慎重で、我慢強い。その心の支えになったのはキリスト教であった。無人島で生活を安定させたクルーソーであるが、人の足跡を見つけた時は恐怖であった。そしてその島にやってきたのが人食い人種だ。捕まえた捕虜をその島に連れ込み、食ってしまう。そいつらとの戦いが山場となる。捕虜の一人を助けたことにより、仲間を増やし、ついには島を脱出することに成功する。その後クルーソーは、またも冒険に乗り出したそうだ。28年もの間無人島で過ごしたのに、もうコリゴリとはならなかった。 |
〓 | 西洋哲学史をバトル風に仕上げた本。先の哲学者のマウントをとろうと後の哲学者が襲いかかる。このように語ることで、哲学がどのように発展してきたのかがよくわかる。難しげな哲学用語はほとんど使わず、何故そう考えるかというところを書いてくれているので、面白く読めた。著者の熱い思いが伝わってくる。<第一ラウンド真理の『真理』>、<第二ラウンド 国家の真理>、<第三ラウンド 神様の『真理』>、<第四ラウンド 国家の真理>という4部構成からなり、31名の哲学者が登場する。なかでもアウグスティヌスとルソーは、同タイトルの『告白』のなかで、自らの性的禁欲を抑えることができない、というようなことを言うことができる、人間味溢れる素敵なやつだと思った。 |
〓 | 大沢在昌の新宿鮫シリーズの第5弾。このシリーズ、2013年以降読んでいなかったが、久々に読むことができた。こういうぐいぐい読めるものが欲しくなる時がある。主人公鮫島と恋人の晶、そして今回は植物防疫官の甲屋とタッグを組む。アジア人の多く集まる街から、中南米人が集まる街になった新宿の犯罪を描く。アルゼンチン女性が持ち込んだと思われる害虫「フラメウス・プーパ(炎の蛹)」。日本の稲作を壊滅させる危機から救う為に奔走する甲屋。かたや、イラン人と台湾人の抗争を追う鮫島。そこにラブホテルを爆破する異常犯が絡む。本書がカッパノベルズとなったのが1995年なのでその頃の話だ。2021年コロナ禍の新宿はどうなってるんでしょうね。 |
〓 | <人生は総じて「ローリスク・ハイリターン」である。人はなかなか死なないし、国家は滅多に崩壊しないし、人類滅亡もまだまだ先だろう。何とかならないことは、ほとんどない。少なくとも。そう思って行動したほうが、人生はずっと楽になる>。というのが古市氏の言う楽観論だ。悲観論よりもずっといい。ケ・セラ・セラよりも前向きだ。週刊新潮に連載されたもので、1テーマ3ページの構成で読み易い。面白かったのは、<「属性」ではなく「状態」>。仕事ができる、できないも「属性」ではなく、「状態」。それだけでなく、ほとんどのことが「属性」ではなく、「状態」であると考えることができる。国籍や性別さえも。確かに変えることができないと思い込んでいることが多いのではないか、と思う。今はこの「状態」であるが、変われると思うほうがいい気持ではないか。楽観論でも言っているが、それで<腹をくくる>ことが大事かもしれない。 |
〓 | 人間はなんと不合理な選択をしているのか、という本。しかもそれはあるパターンにはまっており、予想できるものであるのだ。規則正しく失敗する。人々は金銭面だけでなく、その他の<感情、相対性、社会規範など>を優先してるということだ。まだ自覚を持って優先すべきことを選択している場合はいいが、五感による錯覚により、不合理な選択をすることもある。そして、それを利用し、商売を企む場合もある。招待を受けてご馳走してもらった事に、お金を払っていけない。感謝されたくてやっていたことに対して、金銭をもらうと労働意欲が下がる。逆に、今流行りのオンラインサロン等は、お金を払って労働している。飲酒状態や、性的興奮にある時は、普段やらないことも許容してしまう。一度所有したものにつける価値は高い。選択肢を多くしようとするあまり、肝心な事を達成できない。現金から一歩離れた途端に、不正をしてしまう、等々。人の一見腑に落ちない行動をデータで実証した。 |
〓 | 読んでいて辛くなる。知能が低く、養護学校に通っていたチャーリイが脳の手術を受けることになった。手術は成功し、知能は高まり、多言語を習得し、医学の論文も読み、書くことができた。そして手術をした教授たちよりも凄い存在になった。同時に手術を受けたねずみのアルジャーノンも知能が上がっていったが、ピークを過ぎると逆に知能低下が始まり、異常行動をとり始め、やがて死んでしまう。その様子を見たチャーリイは自分もそうなることがわかっていた。やがて、以前出来ていたことが出来なくなっていく。自分が書いた論文の意味がわからない。覚えたことがわからなくなり、以前の幼児のような知能に戻っていくのだ。自分は元の養護学校に戻るので、あの、ねずみのアルジャーノンの墓に花束を、と願うのであった。知能が低下いていく過程は読んでいて辛くなるが、愛した女性と本当に一体になれたことは幸せであったと思う。それにしても、ねずみと人間を同時に実験を行うというのは、どうなんかなとは思う。 |
〓 | アプラのTSUTAYA書店がオープンした。目に留まったのが、森村誠一の本。ペラペラめくってみると、現在88歳とあった。ああ、元気でやってんだなあと思った。角川映画になった『人間の証明』、そして薬師丸ひろ子と高倉健の『野生の証明』が思い出される。『青春の証明』は映画になったんかな?『高層の死角』も面白かった。老人性うつ病にもなったようであるが、今は写真俳句などで人生を謳歌している。60代になったら人生の<続編や、エピローグのつもりではなく、「新章」にすればいい>というのはいいですね。 |
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『変身』。ある日起きると虫になっていた、グレゴール・ザムザ。虫になった後も、献身的に兄の世話をしていた妹であったが、さすがに疲れた。虫になる前は兄が一家を支えてくれていたいのに、虫になったからは、父と母、妹で生活費を稼いでいたのだ。そしてついに妹は、父と母に<この怪物の前じゃ、お兄さんの名前、口にしないことにする。だから、はっきり言うけど、お払い箱にしなきゃ。わたしたち人間としてできることはやってきたでしょ>と言った。グレゴール自身も消えなければならないと思いつつ、衰弱死してしまう。残った父、母、娘はグレゴールが選んで住んでいた、その家を出て行った。その様子は前向きで明るいものであった。 『掟の前で』。<掟の前に門番が立っていた>。田舎から出てきた男は、掟の中に入ろうとするが、門番に入れてもらえない。男はついに命が尽きる前に門番に尋ねた。何故自分しかこの門に来ないのかと。門番は言った。<この入口はおまえ専用のだったからだ>。 『判決 ある物語 Fのために』。ゲオルグは、父の商売を引き継いで成功する。ロシアに逃げた友人に自分が婚約したことを手紙に書く。妻を失い、年老いた父はそんな息子を全く信用していない。<だから、よく聞け。これから判決をくだしてやる。おぼれて死ぬのだ!>と父に言われたゲオルグは、部屋から出て、橋の欄干を飛び越え川に落ちて行った。 『アカデミーで報告する』。人間になった猿がアカデミーで報告する。<どうして僕が人間になれたのか。かたくなに自分の生まれや若いころの記憶にこだわろうとしなかったからでしょう。自分にたいするらゆるこだわりを捨てること。それこそが自分に課した至上命令だった>。 |
〓 | <そしてわたしは、『論語』をもっともキズがないものだと思ったから、『論語』の教訓を目安として、一生商売をやってみようと決心した。それは明治六(1873)年の五月のことであった>。渋沢栄一、33歳の時である。尊敬する徳川家康の言葉もまた論語からの引用が多いという。道徳を重んじ、商売での金儲けだけに走らず、数々の会社の設立に関わり、「日本資本主義の父」と称せられた。自分を磨くことを最も大事なこととしていた渋沢は、実業家として成功を収めるも、執着はなかったのかもしれない。そして、<成功や失敗などはとはレベルの違う、価値のある生涯を送ることができる。成功など、人として為すべきことを果たした結果生まれるカスにすぎない以上、気にする必要などまったくないのである>という境地に至った。孔子は、キリストと違って、奇跡がないから良い。というのも実業家らしくて面白い。 |
〓 | 菅原道真は、平安王朝前期の文官政治家であり、時の最高官僚の位にのぼったが、藤原時平によって太宰府に左遷させられた。しかし後に「学問の神様」とされ、全国の天満宮に祭られた。父は菅原是善、そして義父となった島田忠臣は学問の師でもある。本書は道真が政治の世界で活躍する前の話である。生まれた時には産声も上げられなく周囲を心配させた。反対に同じ日に同じ屋敷で生まれた子(道中是善が身重の女性を助けて屋敷に入れた)が大きな産声で泣き出したのであった。その後の道真はやんちゃな子となりすくすくと成長するが、是善に助けられた女は生まれたての子と共に失踪した。平安時代の政治は足の引っ張り合いが激しく、無念のうちに失脚させられる者も多かった。大きな火事などがあれば、誰かの怨念ではではないかと噂になる。道真のまわりでも不思議な事が次々と起こる。その不思議の正体を解明しようと道真と島田忠臣が動く。ラストでその正体(ゾクゾクする技を持っている)が暴かれていくのが面白い。ひょっとして、同じ日に生まれた子が入れ替わった?なんてことも匂わすが、その真相は定かではない。 |
〓 | カフカは1883年、プラハでユダヤ商人の息子として生まれた。大学で法律を学び、労働者障害保健教会に勤めながら、小説を書いた。34歳の時、喀血して退職。40歳の時、結核で亡くなった。本書は恋人や父に宛てた手紙や日記、メモ書きに対して、頭木さんが解説を加えたもの。内容はネガティブのオンパレード。自分の心の弱さに、親に、学校に、仕事に、夢に、結婚に、子供を作ることに、人づきあいに、真実に、食べることに、不眠に…、ほぼ全てのことに絶望する。しかし、病気になって、仕事や結婚などをしなくてもいいという理由ができ、気持ちは上向く。この気持ちはわかるなあ。死後、『変身』、『城』、『訴訟(審判)』等の作品で、20世紀最高の小説家とも評されているが、カフカ自身は常に絶望の中であった。そして、絶望をエネルギーとして小説を書いたが、小説の出来に満足できず、全て焼き捨てるように言い残す。だが、友人ブロートはその遺言を守らなかった。本を読むことについて、カフカはこう言っている。<必要な本とは、このうえなく苦しくつらい不幸のように、自分より愛していた人の死のように、すべての人から引き離されて森に追放されたときのように、自殺のように、ぼくらに作用する本のことだ。本とは、ぼくらの内の氷結した海を砕く斧でなければならない>。 |
〓 | 1997年に出版された本。途中まで読んで、ほったらかしにしていたやつ。岡田斗司夫のYouTubeを観ていて、面白かったので、そういやこの本があったと、再度手に取った。岡田斗司夫が東大で行なった「オタク学」の講義をまとめたもの。全部で13講座。ゲーム、漫画、アニメ、オカルト、現代アート、ゴミ漁り、やおい、日本核武装論、変態、ゴーマニズムと幅広い。ゲストのメンバーも強烈だ。今読んでよかったのは、「攻殻機動隊」を読んでいたり、「エヴァンゲリオン」を観ていたり、村上隆という現代アートの人物の名前だけでも知っていたりしたことかな。村上隆の作品を垣間見れたし、彼の言うアートの条件みたいなのも知ることができたのは収穫。作品の見た目ではなく、その文脈が大事であると言うこと。一番強烈なゲストは、なんと言ってもゴミ漁りの回の村崎百郎だな。共通するのは、追求する姿勢にある。。 |
〓 | 表紙の絵とタイトル、そして帯にある「コロナ時代に、とんでもないヒーローがあらわれた」に魅かれて購入した。コロナ時代をどう書いていくのか、興味津々であった。本書で描かれているのは、移動の制限のあること、店が潰れたり、プロジェクトが中止となって損をする者が出てくるという風に、現在の社会を反映していた。物語は、主人公の神尾真世の父・英一が殺されたことから始まる。元教師の父は教え子達に慕われていた。同窓会をやろうと父・英一が誘われていた中での出来事であった。疑われるのは、教え子たち。そして、元マジシャンの叔父・神尾武史が登場し、探偵役として大活躍する。この叔父がぶっ飛んでいて、振り回される真世とのやりとりが楽しい。『化学探偵Mr.キュリー』の七瀬舞衣と沖野春彦のようでもある。物語のテーマとなっているのが、創作し続ける者の苦労。アイデアを出し続けるのも大変やな、と思う。。 |
〓 | クリスティー文庫、64冊目。資産家の女性レイチェルが殺された。彼女には子供がいなく、5人の養子を持ったが、皆が曰く付きの子供達であった。その中の一番タチの悪いジャッコという男に殺された。彼は獄中で死んでしまったのだが、2年後に彼のアリバイを証明する男が現れたのだ。本当の犯人は誰なのか、その一家に訪れた迷惑な不安。お互いを疑いの目で見るようになる。ジャッコを除く4人の養子、殺されたレイチェルの夫、秘書、家政婦達だ。ジャッコのアリバイを証明するアーサー・キャルガリが事件の謎を解く。この設定だけでも面白いが、この一家のそれぞれのキャラクターが立っている。特に養子の1人で、何事にも自信のないヘスターという娘はかわいい。彼女は言った。<わたしは何者でもなかったわ。液体だった。そう、そのことばがぴったりする>。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズ8冊目。今回特に印象が残ったのは、第4話の『化学探偵と心の枷』。四宮大学の庶務課の七瀬舞衣に恋愛相談に来た女子大生。同じ大学の彼が忙し過ぎて会う時間がとれない、というもの。その彼は、土日の休みもなく実験をやりつづけているが、思うような成果が上がらなく、体調も悪くなり、精神的に追い詰められていたことがわかった。こころの病に侵された学生。その病の原因の1つが、実は、新しく導入した設備から発生する低周波であった。他の人には聞き取れない低周波が聞き取れ、それによってストレスを感じ、体調不良に至ることはままあるようだ。その他意図せず覚醒剤をつくってしまった学生の話。未成熟なライチにヒポグリシンという毒性の物質が含まれていること。ナトリウムは、他の原子と結合すると安定しているが、単独の状態では水と激しく反応するので危険であること。街路樹に使われるキョウチクトウには、心臓に対する強い毒性がること等。 |
〓 | 攻殻機動隊1、2はけっこうぶっ飛んだ話であったが、この1.5は公安9課の日常を描いたそうだ。荒巻部長、バトー、トグサ、サイトーらが活躍する。草薙素子は登場は少なく、自ら「クロマ」と名乗っている。悪(政治犯)と戦う公安9課というのは変わらない。日常と言っても、未来の日常であり、遠隔操作される人間や、他のサイボーグ人間が見ているものを同時に見ていたり、素子(クロマ)は体がボロボロにヤラレても、他人を脳ジャックして動き回ったりしているので、未来感は充分ある。本書の半分は、テレビシリーズ用のシナリオ、タチコマの設定、荒巻部長や草薙素子、フチコマのゲームソフト用の絵コンテ&キャラクター設定、カラーカットや告知イラストが掲載されている。原作者のテレビシリーズに対する感想(ボヤキ)は興味深い。 |
〓 | 空気の重さを測り、水の約1/400であることを知ったのは、ガリレオ・ガリレイであった。その後、弟子のトリチェリ―が発展させた。そしてパスカルが続く。そしてボイルが圧力と体積の関係を実験で確かめた。ボイルはまた、<元素という考えを、はじめて、私たちがいまもちいているような意味にまでみちびいた>。燃える元素(フロギストン)があると考えたシュタールの説は間違っていた。ブラックは、空気の中に二酸化炭素があることを発見した。その時、二酸化炭素は<固まる空気>呼ばれた。次にラザフォードが窒素を発見し、<毒のある空気>と名付けられた。酸素を発見したのはプリーストリで、<フロギストンのない空気>と呼んだ。シェーレも同時期に酸素を発見し、<火の空気>と名付けた。ラヴォアジェは、<はじめて、はっきりとした定量的な研究方法をみちびき>、<化学の父>と呼ばれた。人嫌いのキャバンディッシュは、空気の割合が、酸素21%、窒素79%であることを発見した。多くの化学者の名前が登場する。ゲーリュサック、ドールトン、アヴォガドロ等。<どんな方法によっても、ほかの元素と化合しない>Ar(アルゴン)は、ギリシャ語で、<なまけもの>という意味だそうだ。<オゾンによって、適当によわめられた太陽の紫外線は、私たちの健康のためには、なくてはならないもの>。その他、有機物、無機物の話など、覚えておきたいことがてんこ盛りだ。 |