〓 | これもまた濃密な小説だ。拳銃を拾った主人公。拳銃を持つとどうなるのか。持ったことはないが、この小説にあるようにしげしげと眺め、カッコイイと思うんだろうな。皮の袋にいれたり、時々持ち歩いたりして。そして次第にエスカレートいていく。その物は何の為にあるのか、ということを考え始める。ラストは本当に凄い。今年の収穫。面白い作家が見つかった。もう1つの小説『火』も収録されている。女が淡々と過去の犯罪を語る。こちらは、桃井かおりが主演する映画が決定したようです。 |
〓 | 濃密な小説だ。掏摸をする時の描写が細かく、臨場感に溢れる。それだけでも面白い。物語は昔のスリ仲間とともに強盗の計画に参加する。その首領のキャラが飛びぬけている。<この人生において最も美しい生き方は、苦痛と喜びを使い分けることだ。…(中略)もだえ苦しむ女を見ながら、笑うのではつまらない。…(中略)気の毒に思い、可哀そうに思い、…(中略)同情の涙を流しながら、もっと苦痛を与えるんだ>。てなことを言う男だ。心を大きく揺さぶることで快楽を得る男。そんな男から次の仕事を頼まれる。しかし、仕事をやり遂げたあとで、理不尽にも殺されそうになる。こんなことで死にたくないと思い、必死で生きようとする。大江健三郎賞受賞作。 |
〓 | ビブリア古書堂の事件手帖も第6巻まできた。前巻までの事件が重なり、栞子さんと大輔の関係も深まり、お互いの家族の秘密も徐々に明かされなど、内容も深みがでてきた。栞子さんに怪我をさせた例の田中敏夫と五浦大輔の挌闘まである。題材は太宰治一色。今まで登場した『晩年』、『走れメロス』に加え、『駆込み訴へ』、別のペンネームで発表した探偵小説『断崖の錯覚』等。このシリーズも次か、その次辺りで終りになるそうです。 |
〓 | ヒーローは登場しない。内容は地味であるが、面白い。作者の安東さんが、警察機構など充分に調べていて興味深いし、主人公の人間臭さがさもありなん、て感じである。裏切り、復讐、裏金等どろどろした内容でもあるが、主人公は警察官としての道を真面目に歩いているところが好感が持てる。 |
〓 | ミス・マープル物。<バートラムホテルにはじめての人だったら、まずびっくりする―もはや消滅した世界へ逆戻りしたのではないかと思う。時があともどりしている。まるでエドワード王朝時代の英国なのである>。そんなホテルが今回の舞台となる。女流冒険家のべス・セジウィックとその娘、エルヴァイラ・ブレイク。ホテル自体の秘密も大がかりで、母娘の物語も感動的であるが、母親べス・セジウィックの最後は壮絶過ぎる。 |
〓 | 第153回芥川賞受賞作。要介護老人とその孫との物語。まさに現在の物語。祖父は要介護状態で、週に3日、デイサービスに通う。「死にたい」が口癖の祖父。孫の健斗は、どうしたら苦しまずに死ねるかを本気で考える。使わない機能は劣ってくるので、母は祖母にできるだけ自分で体を動かせようとするが、健斗は逆に日常生活をできるだけ補佐することによって機能を衰えさせようとする。一体どちらが苦しまずに死ねることができるんであろうか。どちらも真剣だ。健斗自身はと言えば、できるだけ苦しい思いをしながら体を鍛え始める。ある日風呂場で溺れかけた祖父を健斗が助ける。その時祖父は「死ぬとこだった」と健斗に感謝する。祖父は死にたいとは、全然思っていなかったことに気付く。難解な感じはなく、芥川賞らしくなく?読みやすい。体も心も怠けずに、今できることをやろうという気になる小説であった。 |
〓 | 『月の下の子供』。赤子の思い出は、タオルに包まれ、見上げれば月が出ていたこと。『ゴミ屋敷』。妻が死んで、動かなくなった兄貴。女性ヘルパーに兄貴の面倒を見てもらうことにする。安部公房的やなあと思っていたら、安部公房の名前が出てきた。『戦争日和』。カラッとした不条理。『夜のざわめき』。主人公はずっと喉が渇いていたそうな。自動販売機で冷たいコーヒーを買うとした時から始まり、変な居酒屋(この場面は面白い)に行くが、なかなか飲み物を口にできない。『世界の果て』。5つの話で構成。犬を自転車で捨てに行く話に始まり、途中タイムスリップしたような別の話が3話。そしてまた、犬を自転車に乗せているところに戻ってくる。久々に前衛的というか、抽象的というか、感性的で、予定調和でない不条理小説を読んで面白かった。もう少し中村文則を読んでみたくなった。 |
〓 | この世に生まれるのが自分ではなく、別の人物であったら。世界はどのように変わったのだろうか。というパラレルワールドを題材にした小説。それが、自分の生きている世界よりもよりいいものであったら。家族はもっと幸せで、長生きしていたら。自分が存在することで、回りがと不幸になっている。ということは、自分がボトルネックになっている?ということを見せつけられる、イヤーな小説。ではあるが面白い。 |
〓 | 子供の学校でのイジメをテーマにした短編が4篇。大人のイジメ?が1篇。女子グループで、ゲーム感覚で行われるイジメ。ともに背が小さい親子。子供と一緒にイジメと闘う親父。生きることはつらくて、楽しい。天気のいい日にはキャッチボールして優しい気持ちになろう。転校生のエビスくんにいじめられたひろし。大人になりエビスくんと会いたいと思う。教育熱心な水原先生。元教師の母親は何かと気に食わない。圧力をかけられた水原先生はやめることに。つらいことが多いけど、それぞれが精いっぱい生きている感じが伝わってくる。 |
〓 | Mr.キュリー、その2。今回はテルミット反応。過酸化水素水で色白になれる?青酸カリはアーモンドのような香ばしいにおいはせず、実は無臭である。生分解性プラスチックのPBS、それを石油からではなく糖類の発酵から作り出そうというバイオプラスチックの研究。光る工芸品のウランガラス製品等々。化学の豆知識満載で面白い。もちろん、庶務課の七瀬舞衣と沖野春彦准教授のコンビも活躍する。 |
〓 | 星新一8冊目。『終末の日』。きょうが世の終りだったら、どうような行動をとるのであろうか。将来をうらなうことはなく、今やるべきことをやる。迷子の子供をさがす、それが大人のつとめであるから。犬は猫を追いかける。それは犬の役目だから?そして今まで楽しんできたことをそのままやり続ける。そういう時が迫ってきたら、やっぱり、そうなるだろうな、と思う。『妖精配給会社』。妖精の本当の目的は、人類褒め殺し計画? |
〓 | ワードワークを強いる会社に勤めている主人公の青山は、かなり疲れていた。電車に飛び込みそうになったところを「ヤマモト」と名乗る男に救われる。同級生だというが思い出せない。何故か気にかけてくれて、頻繁につきあうようになる。そして彼の一言で、会社を辞める決心をする。本当に大切にしたいものは何か、を気づかせてくれたのが「ヤマモト」だ。自分が幸せにならない仕事を辞めることは、いいことだ。というのが今の日本にもっと浸透してもいいかもしれない。 |
〓 | 軽いタッチのミステリ。なんか『ビブリア古書堂の事件手帖』と雰囲気は似てる。主人公は大学の化学の准教授、沖野晴彦。そして大学庶務課の新人職員、七瀬舞衣。周辺で起きる事件を化学で解決する。全5話。それぞれ、元素周期表、ホメオパシー、レメディ、粉末ABC消火器、ニトロセルロース、HIV、クロロホルム、指紋スタンプのことが、ちょっとわかる。 |
〓 | <知性とは、規則を与える能力である>。そして、自然の現象に規則を与えたのは人間だということである。<わたしたちが自然と名づけている現象には、秩序と規則正しさがそなわっているようにみえるが、それはわたしたちが自然のうちに持ち込んだものなのである>。ということ。変な感じもするが、考えてみたらあたりまえ、と思える。自然から本当はこうである、という訳はないし、人間がこうであろうと決めた事に他ならない。自然の中に真理があって、それを究明するというよりも、われわれがどれだけ詳細に、自然現象に規則を与えることができるか、というほうがいいのかもしれない。そして、誰もが同じ答えとなる客観性を持てるかどうかが鍵になる。 |
〓 | 最初のバカさ加減にも笑っちゃうが、何ちゅう素直な子であることか、と思った。これも母親(ああちゃん)のなせる業。決して怒らず、ほめて育てる。否定されたことない子は、素直で強いなあ、と思った。学習歴史漫画を読みたくなった。 |
〓 | 主人公の名前は村上景(きょう)という。戦うために生まれてきたような娘だ。この個性も強烈だが、それよりも大阪は泉州の海賊、真鍋七五三兵衛の活躍ぶりが光る。織田信長と大阪本願寺の闘いの助っ人として敵対する村上海賊と泉州の真鍋海賊。私の地元、泉州地区の昔の様子がわかってうれしい。現在の町名としてだが、今住んでいるところの町名も出てくる。これは『プリンセス・トヨトミ』の南海電車、浜寺公園駅以来の快挙だ。真鍋海賊の泉州人ぶりが、これまたそやそや、って感じで面白い。アホはアホなんであるが、その中に<俳味>があると著者は語っている。ちょっとおかしいことでも、「まあ、ええやないか」と受け入れてしまう大きな心?、それが<俳味>だ。戦いの場面の描写も良く、クライマックスの景と七五三兵衛の戦い、これは凄いぞ。 |
〓 | 家族という人間関係だからこそ、難しいことがある。距離が近すぎることでの摩擦は起きるし、甘えもある。家族といえども少し距離を置くほうがいい。心配をかけたくない、ということで親は子供のことを、子供は親のことを実はよくわかっていない、というのが本当のところかもしれない。父の思いも、母の好みも、彼らが弱ってくるまでは、知らんかった。家族であっても、そうでなくても、わかりあえることができたならば、それは幸せであろうと思う。家族というものは自慢したり、期待したりするものではない。一番近くにいて、思いやることができる存在なんやろうな。 |
〓 | 以前に読んだ野田俊作のアドラー心理学が、けっこう面白かったのが記憶に残っていた。豊橋の精文館書店の入ってすぐにアドラーの本を見つけたので、また読んでみようと思った。<性格は今この瞬間に変えられる>というのは覚えていたが、今回なるほど、と思ったのは<叱ってはいけない、ほめてもいけない>、<あらゆる悩みは対人関係に行き着く>、<他人の課題を背負ってはいけない>というところ。人生で一番困難な課題は、「仕事の課題」よりも、「交友の課題」よりも、「愛の課題」である。「愛の課題」とは、異性とのつきあいや夫婦関係のことで、これが解決できれば深いやすらぎが訪れるだろう、とか、自分の課題ではないのに、他人の課題を勝手に背負いこんで苦しんでいないか、とかが面白かった。 |
〓 | ビブリア古書堂シリーズ、5冊目。篠川栞子さんと五浦大輔との仲が急接近する。そして栞子と母・智恵子、せどり屋の志田との関係が徐々に明らかになっていく。また栞子に怪我をさせた田中敏夫も絡んでくる。本ネタは、リチャード・ブローディガン『愛のゆくえ』、古書の専門誌『彷書月刊』、寺山修司『われに五月を』、手塚治虫の漫画家としての転機ともなった『ブラック・ジャック』等。 |
〓 | 『ニッポンのジレンマ』に登場した2人の哲学者が、22冊の古典について対話形式で語る。哲学の入門書としてもいいが、2人の意見が違うのが面白く、「その考えはおかしい」とはっきり言うところがいい。しかし、違うといっても結構互いに歩み寄る場面もあり、考えの方向性の違いという感じもする。人物描写も活き活きとして、歴史的な位置づけもよくわかる。クロード・レビィ=ストロースの『悲しき熱帯』を読みたくなった。 |
〓 | エルキュール・ポアロもの。今回も個性豊かなメンバーが登場する。その最たるものがルーシー・アンカテルだ。ホロー荘のホスト役ではあるが、子供のような天真爛漫さに皆が翻弄される。ヘンリエッタ・サヴァナクは芸術家であり、車好きの行動家。2人の男から求愛されるが、とらえどころがなく不思議な存在。そしてなにより、エドワード・アンカテルとミッジ・ハードカースルの恋愛物語は、これだけでも一冊の本になるくらい、ぐっと迫ってくるものがあった。 |
〓 | ええ話やなあ。親父とお袋と兄ちゃんと妹と犬との生活。みんななにやらちょっと変な奴らなんであるが、愛に溢れている。兄ちゃんは、男前で学校スター超人気者。妹は性格は変わっているが超美人。お袋は元美人で親父はちょっと大人しめ。サクラという雌犬は、ひかえめだったが、この家に飼われるようになってから元気になってきた。いろんな事件が起こるんであるが、家族の一致団結感がすばらしく、表現も豊かなので、読むのが楽しい小説であった。 |
〓 | 数年前の本であるが、意外とまともな本であると思った。著者の本の中では一番スッと入ってきた。見た目は過激そうだが、なかなか真っ当な意見であるとおもう。著者も言うように1人で社会全体を語っているのがいい。今までの<終わりなき日常を生きろ>も成程だが、それよりもずっと先に進める感じがした。<本当にスゴイ奴に利己的な輩はいない>は名言だと思う。 |
〓 | ミス・マープルもの。甥のレイモンドの計らいで、西インド諸島に療養にでかけることになった。故郷のセント・メアリ・ミードと違う世界に最初はとまどっていたが、事件が起こると急に元気になった。今回は、一見鼻持ちならない金持ちの男、ラフィールといいコンビになる。 |
〓 | <50%はすでに知っている状況だけど、残りの50%が未知の領域、というシチュエーションが最もやる気が引き出されます>。これは「発達の最近接領域」という理論に基づくらしい。なるほど、と思った。その50%を確実に「すでに知っておく」ことにする為には(本題はここから)睡眠が大切だということだ。そのポイントは、起床から4時間以内に光を見る、起床から6時間後(眠くなるピーク8時間後の前)に目を閉じて睡眠負債を減らしておく。起床から11時間後(深部体温のピーク)に姿勢をよくする(体温を上げる)というもの。深部体温とのリズムを合わせると良い睡眠が得られる。また寝る前の頭(前頭葉と頭頂葉)の使い方も面白い。実戦で使えそうなことがいろいろ。 |