食堂の椅子が一つ空き、淋しくなったと思ったのもつかの間、“産休まで働く”と、共働きの二人は、「Hさん追加お願い」としょっちゅう夕食を食べに寄り、椅子を追加した。
産休に入ってからは、二人で家に帰って来て、そのまま引っ越して同居してしまった。
“育休が明けたら仕事に復帰したい”という願いに、母が「私とHさんで家の事はするから、任せなさい」と言い、会長を引退してしまった。
孫が出来て、パパ・ママは娘に取られ、俺はお父さんに、母は大きいママが縮まってオオマと呼ばれている。
時と共に呼び方が変わっていくのも悪い気分ではない。
孫が喋り出したら、今度はどう呼ばれるのか楽しみだ。
会長が引退し、お前は今、俺の秘書をやっている。
もちろん、会社では“お仕事モード”。
ちゃんとプライベートとは区別している。
二人きりの時は、時々“お仕事モード”を忘れ、怒られる時もあるが、お前がそれを嫌がってない事も解かっている。
「お母さん早く起きないと遅れるわよ。あら?もう起きてたの?」
「だってお父さんに早く起こされたもの」
「お父さん、嬉しいんでしょう?お母さんと一週間も二人で出張だもんね〜」
「仕事だよ、仕事」
お前が秘書をやるようになってから初めての出張。
嬉しくないはずがない。
今日からは、お守りのいらない出張だから・・・。