「もしもし、三村さん?あなたがいらしてる事を言おうとしてたのに、彼女ったら“ちょっと海を見て来る”って出て行ってしまったんです。こんな時間だし止めたんですけど・・一応お伝えしておこうと思って」

 「Wさん、わざわざありがとう。僕が行きますので、ご心配なく」


 「もしもし、俺だ。今どこだ?」
 「どこって?今は海の見えるホテルの部屋よ」
 「そうか。ミルクの事は心配するな。ちゃんと見送ったから」
 「行ってやってくれたの?ありがとう。あなたがいてくれて良かった」
 「あの子達だけで見送らせるのは、可愛そうだろ?」

 (あっ、居た)

 「私は、大丈夫。動物はいつまでも想ってると、成仏出来ないって言うから」
 「今夜くらい、ミルクの事を想ってやっても成仏出来るさ」

 「えっ?どうしてここに?ミルクの事で落ち込んでると思って来てくれたの?」
 「そんな訳ないだろ。急な仕事が入ってな」
 「そうだよね」
 「でも俺ので良かったら、胸、貸してやってもいいぞ」
 「・・・今夜だけ、貸してくれる?」そう言って顔をうずめた。

 (一人で泣くつもりだったのか?今までもそうやって一人で泣いてきたのか?)



 ミルクはね、15年前の冬、家に来た時、少し汚れていてね、シャンプーしてやるとペシャンコになって、ドライヤーすると、真っ白のふわふわのぬいぐるみみたいになった。

 キャッチボールが好きでね、猫がキャッチボールって変でしょ。

 でもね、ティッシュで作ったボールを、本当に上手に口や手で受け取ったり、拾ってきたりして、また、持って来るのね。
 投げてくれって。“もういいでしょ?”って言っても何度も持って来るから、ボールを隠すのに、また探し出してくるのね。

 猫のくせにミルクアレルギーで、下痢ばかりしててね。
 いくら獣医さんでお薬もらって飲ませても治らないから、聞いてみたら、怒られてね。
 洋猫はミルクアレルギーが多いんだって。
 ミルクやフレッシュを止めたら、下痢も治ってしまって。

 人に抱かれるのが大嫌いで、そのくせいつも側で寝てるのね。
 コタツも嫌いだったな、変わってるでしょ。


 ミルクの思い出を話しながら、疲れたのか眠ってしまった。

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