季節が変わり始めた頃、立て続けにパーティの招待状が舞い込み、スケジュール調整に頭を悩ませていた。
「えっちゃんと行って来るわ。裕の特訓を試すいい機会だし・・」
「えっ、まだ無理だろう?おまけにいきなり一週間はきついだろ?」
「そんな事言ってたら、いつまで立っても行けないじゃないの」
「でもなぁ・・」
「心配なの?それとも離れるのが淋しいとか?」
「冗談言うなよ。じゃぁ、代理で出席してきてくれ」
「えっ、一週間会長と出張?」
「そう。特訓の成果を試すいい機会でしょう?」
「でも・・まだ無理じゃないかと・・」
「そんな事言ってたらいつまでも行けないでしょう?“当たって砕けろ”の精神で行かなきゃ。いいわね、何事も経験、勉強よ」
「解かりました。頑張ります」
「もしもし、あっ奥様?連絡が無いので心配してたんですよ。どうですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。2〜3日忙しくて、夜が遅かったものだから・・。えっちゃんが完璧にこなしてくれて、大助かりよ。やっぱり私の目に狂いは無かったわ。そっちは?変わりない?」
「ええ。お坊ちゃんも“夕”に寄って帰って来られる位で・・」
「鬼の居ぬ間に夜遊びに行ってるかと思ったのに」
「いいえ。私にも“夕”の焼きおにぎりを、お土産に買って来て下さったりして」
「裕も変わったわねぇ」
「そうそう、さっき“夕”のマスターからお電話があって。お坊ちゃん、奥様達がお出かけになってからずっと、“夕”に行ってらっしゃるらしいのですが、マスターが“このまま、ほっておいていいんですよね?”って。私から奥様に一度聞いてみてくれないかと」
「どういうこと?」
「お坊ちゃん、ずっとふさぎ込んでいらしたらしいんですけど、今夜は途中から、上機嫌になられて帰られたらしいんです。どうやら、えっちゃんから電話が掛かったみたいで・・。マスターが“裕はいい奴だという事は良く解かっています。でも裕は、言ってもミムラの社長。えっちゃんは、ああ見えてとてもいい子です。えっちゃんが泣くような事になるのなら、今のうちに・・。だから一度お母さんに聞いてもらいたい”とおっしゃって」
「マスターに電話して“ほっておいてやって下さい。でもこれは、裕が自分で解決しないといけない事だから、見守る程度でお願いします。心配して下さってありがとう”って伝えておいてね」
「えっちゃんがお風呂から上がってきたから切るわね」
「お坊ちゃんも上がって来られました」
「あの二人って、似た者同士なのかしらね」
「ほんとですね。奥様も無理なさらないように」