「もしもし」
「あ、おはようございます。Wです。すみません、朝から・・。夕べ絵美さんが帰って来なかったんですけど・・。あなたと一緒ならいいんですが・・」
「あ、すみません。夜中にWさんを起こすのも悪いと思って・・。彼女ならここにいます」
「良かった・・。何度電話しても出ないし、心配で・・彼女起きてます?」
「いえ、まだ寝てますけど」
「やっぱり・・すぐ起こしてもらえます?朝から打ち合わせだって言っておいたのに・・」
電話の声で目を覚ましたのか、時計を見て飛び起き
「何で起こしてくれなかったの?わぁ大変だ。キャリーは?」
「ある訳ないだろ?ここは、お前の部屋じゃない。覚えてないのか?」
「わぁ、大変。Wさんに電話して、荷物持って来てもらって」
「聞こえました?すみませんが、荷物持って来てやってもらえますか?」
「ここに置きますからね。朝から打ち合わせだって言ったでしょ、ほんとに・・。朝が苦手なのは解かりますけど、もう少しゆとりを持てませんか?朝ご飯も食べなきゃいけないし」
「朝ご飯なんていらない。時間もないし」
「それは駄目です。ちゃんと食べないと身体が持ちませんよ」
「だったら先に行って、適当に注文しておいて。Wさん、先に食べてていいから」
「解かりました。とにかく急いで支度してくださいね」
「すみませんが、先に行ってますので、出来るだけ早く来る様に言って頂けますか?」
「はい。こちらこそ申し訳ありませんでした」
Wさんには申し訳なかったが、あの時チャイムを鳴らしていたら、Wさんの目をあんなに腫らさずに済んだかも知れない。
だが、この幸せも永遠になかったに違いない。
「大変だ」を連発しながら身支度を整え、
「じゃぁ」と駆け出し、
「忘れ物」と戻って、
「サランヘ」と俺にキスを残し、
「いってきます」と出て行った。
「それじゃ逆だろ?」
俺は、朝ご飯を一緒に食べたくなって、後を追いかけ、エレベーターの中でお返しをした。
今日の打ち合わせは、なぜか緊張していない。
許しを得て、彼が側についてくれている。
「昨日は、気が付かなかったけど、裕久さんといる愛夢さんって、えりかにも、愛にも由にも見えるんだけど・・。裕久さんも真珠や晋やソンジェとダブって見えるのは、僕達の気のせい?」
もうすぐ、家のリフォームが終わる。
俺は、待ちどうしくて仕方ない。
完成したら、お前と娘たちが越して来る。
俺の経験した事のない生活が始まる。