何度も断ったが、一度だけという事で、顔合わせと打ち合わせに参加する羽目になってしまった。
 主役を務めて下さる俳優さんたちや、監督、脚本家の方々に囲まれ、緊張の連続で倒れそうだった。

 「すみません、電話が・・」
 「もしもし。どうしたの?えっミルクが・・?ミルクしっかりして。お母さんが帰るまで頑張って」
 「もう頑張らせるのは可愛そうだからって、先生が言われてるんだけど。どうしよう・・」
 「そんなの駄目よ。ミルク!・・・ミルク・・・もうお母さんを待たなくていいよ。お母さんが優しくないって、よく知ってるでしょ?お母さんは帰れない、帰らないから、待ってても無駄よ。もう頑張らなくていいよ。そしたら楽になれるから・・・ね」


 「ミルクの事頼むね。お花いっぱい入れてやってね。おやつもいっぱい入れてやってね。それから、いつまでも想ってたら、ミルクが天国へ行けないって言うから、解かった?じゃぁ頼むね」


 「どうかしましたか?愛夢さん?大丈夫ですか?」
 「休憩にしましょうか?」
 「いいえ。大丈夫です。ご心配なく」


 「絵美さん、大丈夫?聞き忘れた事があるって言ってらっしゃるんだけど、ロビーまで降りて来られる?」


 「あの?失礼ですけど、村川絵美さんのお友達?」
 「ええ、まぁ。あなたは?」
 「僕は、三村裕久です。ミルクの事で気になって・・。村川さんとは・・」
 「ああ・・彼氏ね。打ち合わせがあるから、ここでしばらく待っていましょう」

 「打ち合わせ?」

 「いいですよ、とぼけなくても。彼氏なら、彼女が何故ここに来てるのかご存知でしょう?私は、愛夢さんの担当のWです。よろしく。今日は、ミルクの事で、彼女大変だったのよ。“もう頑張らなくてもいいから、そしたら楽になれるから”って言ってね。それを聞いてミルクは死んだの。打ち合わせの最中で、さぞ辛かったでしょうに、最後まで頑張ったのよ」


 「・・・・・(愛夢?あの愛夢さん?あいつが愛夢さん?いったいどういう事だ?あいつが愛夢さん?)」

 「心配して来て下さって良かった。慰めてあげて下さいね。・・・三村さん?」

 「あっ、失礼。僕がいたらお邪魔でしょうから、終わったら電話して頂けますか?」
 番号を渡して部屋に戻った。

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