「裕、今夜はどうしたんだ?女の人に、それも初対面なのに、あんな事言って。いつものお前らしくないぞ。何かあったのか?」
 「いや別に・・。ただ、解からないけど、あいつを見てたら何故か、つい言ってしまったんだ」

 「でもあれはやっぱり言い過ぎだよ。彼女、村川絵美(むらかわえみ)さんって言うんだけど、今夜は世話したくても子供達もいないんだ」

 「遊びに行っちゃったのか?」
 「いや。彼女、本当にバツイチで、今夜は別れた父方の法事で行っちゃったんだって。“たかが紙切れ、されど紙切れ”別れても父であり、祖母であり、いとこ達であり。親戚が集まる度に、赤の他人は自分だけだったといつも思い知らされるらしい」

 「別れても父親は父親だろ?」
 「それは良く解かってるんだよ。だから、行くなとも言わないし、気持ち良く送り出してやってるんだけど、何となく淋しいんだろ。解かるような気がするよ」

 「なんであいつと?」
 「えっちゃんと知り合ったのは、三ヶ月位前かな?勤めてた会社が倒産して、それを期に、こっちへ越して来たらしいんだけど・・。子供達の下宿代の節約も兼ねて。幸いな事に団地が当たり、三人で暮らせるって喜んでた矢先に、階段から落ちて、骨折、入院」

 「ドジな奴!」
 「たまたま見舞いに行ってて知り合ったんだけど、自分も大変なのに人の世話焼いたり、笑わせたり・・家がこの近くで、退院してから時々、子供達とも来てくれるんだ。子供達もとってもいい子達だよ。彼女、仕事探してるんだけど、今日も駄目だったって言ってたし、落ち込んでる時に、お前がひどい事言うから・・いつもは、明るくていい子なのに」

 「あの最低女が?」
 「お前もおかしいよ。まるで、好きな子をいじめてる小学生みたいだ。あれ?まさかお前、惚れた?」

 「冗談止めてくれよ。なんで俺があんな奴に?俺は女に不自由はしてないぞ。不自由してたってあいつは御免だ」
 「まぁいいさ」

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