「わぁ〜大変!ママ、どうして起こしてくれなかったの?」
「あら、お母さんを起こすのはパパの役目でしょう?」
「パパはお母さんがママと出張するのが淋しいんじゃない?」
「だからわざと起こさなかったんでしょ?パパ?」
「そんな事ないよ。起こしたけど起きなかっただけだよ」
「パパの意地悪。起きるまで起こしてくれたらいいのに」
「お前のパパじゃないって言ってるだろ?」
「じゃぁ、あんたって言うよ」
「いいよ、パパでも。早くしないと遅れるぞ」
「いってらっしゃい。ちゃんとお留守番してるから、お土産忘れないでね」
子供達の影響で、母はママ、俺はパパと呼ばれているが、嫌ではない。
むしろ嬉しい響きだ。
あいつは、相変わらず秘書をやっていて、家の事はHさんが引き受けてくれている。
今朝は、わざと起こさなかった。
結婚してから初めての、たった二泊三日の出張だが、一日たりとも離れていたくない。
眠れない夜が続きそうだ・・。
お前と一緒になってから、俺には秘密がどんどん増えていく。
もちろん、俺しか知らないお前の秘密が。
お前が“愛夢”だという事も。
『初めての恋』『愛夢の場合』『あなたへ』が三部作ではなく、ソンジェが撮ったドラマを入れると四部作、いや、『わたしに』を入れると五部作だという事も。
『あなたへ』を書き終えてから、H.Pを更新していないという事も知っている。
つまり『わたしに』は、俺しか知らない。
お前が、俺の事で一喜一憂し、やきもち焼きだという事も知ったが、俺がお前よりももっと、やきもち焼きだという事も知った。
お前が、俺の腕の中でないと眠れない事も。
俺を誰よりも愛してくれている事も知っている。
(もうそろそろ電話してくる頃だな)
「ママが寝てるから、手短に言うね。眠れないからユウヒの腕を写メで送って」
腕と肩の傷の写メを送った。
返信写メは、髪と・・・それは、秘密。
それからそれが、お互いの出張の時のお守りになった。
眠れるか、余計眠れなくなるかは別にして・・・。